俺の未来はここからで

葵桜

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2回目の人生はここからで

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本日の空模様は晴れである。
白一つない青が空一面に広がっている。紛う方無き晴天だ。
暖かく爽やかな花の香がするそよ風なんかも頬を撫でるように流れ気分も上がる。
可愛らしい鳥のさえずりや、蝶々なんかも飛んでいるため、つい時間も忘れて日向ぼっこをしたくなるような本当に良い天気だ。




















 しかし、それをただ感じ取ることしかできていない俺の心はどんより雨模様だった。

 理由は簡単だ俺の周りをこの"学園一のモテ男"こそこの男
西条サイジョウ カケル
が、うろちょろしているからだ。

 普段から落ち着きがなく、『みんな友達!! 』意識も高い。
 鈍感で周りの女、男からの好意に全く気づいていない。
 好意といっても、恋愛以外にも尊敬など様々あるようにも見えるがほとんどが恋愛感情である。しかし、その巻き込まれでひどい目に合う人も居るという事実を忘れないでいただきたい。
 これ以上嫌な思いは結構だから保身のために言い訳めいた前置きをさせていただくが、なかなか不可思議な性格なだけであって何かしらの障害があるわけではないようで、まあ言うならば甘やかされすぎて世間知らずなだけかもしれない。

 ついでにこの学園は共学だ。
 個人の意見で言えば愛があるならば性別など気には止めないのでさほど気にしていないが、周りの女は西条が男にもモテていることが気にくわないらしい。というか女がと言うよりは、西条が自分以外の性別関係なくモテている事がすっごーーーーく鬱陶しいらしい。
 確かに好きなやつが他にも好かれていたら気が気じゃないかもしれない、だけど付き合っていないどころか認識されているかどうかも分からない状況下で、そこまで非常識になれるかどうかは、俺には分からない。いや、理解しがたい。

 毎日何十人もの、下手したら百人以上の男女の取り巻き―うち何十人かは息をするようにストーカー―と共に行動している"学園一のモテ男西条"が現在俺の隣にいるんだ。

 そりゃあこんな気持ちになるだろ?

 見えない聞こえない存在だと思いたいだろう…?きっとこれも現実逃避の一環だ…。
 そしてなぜか今日は朝からずっと西条に付きまとわれている。

 今は昼だ。なので、ちょうど昼休みなんだけどな…。

 あぁ…。それで一人で行動していたのがいけなかったのだろうか?
 今なぜか取り巻きのいる中、"学園一のモテ男西条"に告白されている。そう、どっちにしろ西条がいたら友人はもちろんのこと誰一人寄っては来ないんだけど。

 もーきっと幻聴だ。幻覚だ。現実逃避のしすぎで疲れたんだきっと。
 しかもあれだ。めっちゃ取り巻きにフレヨコノヤロウと片言の口パクを送ってくるし、全員の背後に紫色のオーラを纏った般若が見える。

 とりあえず周りも怖いし恋愛感情も持ち合わせていないし、"学園一のモテ男西条"には邪険にするようで悪いが、お断りをさせて頂こう。
というか俺からすればただただ厄介なだけだ、しつこいようだけど何度でも言おう。

 俺は恋をした事がないとはいえこいつの性格キャラも見た目もタイプじゃない。もし男に好意を抱くなら、もっとハリウッド俳優とか思わず惚れちゃうほど男らしい容姿で、欲張るなら性格も見惚れるような紳士的な方がいい。
俺は恋愛としてどちらもいけると思うんだ。色々な恋愛物語を見ていて思う。相手がどちらでも要望を叶えたし、好みの人が良い。まあでも手っ取り早く可能性を知りたいなら、性的考えが手っ取り早い気もするが、思うだけで経験なんてないから想像で終わってしまうんだけど…。
 とりあえず西条の取り巻きのような、トキメク乙女からかけ離れた媚びてくる子はパスだ。やっぱり一緒にいてほのぼのできたり、心穏やかにできて、時々情熱的にドキドキするような相手がいい。



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 現実逃避から戻るが今はさっき言っていた昼だ。そして俺は人気の無いあまり使われない階段がある廊下に連れて行かれた。

と言いたいが視線と殺気…、終いには西条を避けるので養った気配察知で周囲に人多数だ。今日ばかりは人気はこれ以上に無いほどある。

「俺、君のことが好きだなんだ。
付き合って下さい!」
「ありがとう。でもごめんなさい…」

 その途端不穏な空気が重くなった気がした。ちょ! お断りしろって言ったのはそっちだよな?!
 俺が混乱している間に、西条は一瞬微笑んだあと、悲しい顔をしながら走ってどっかへ行ってしまった。
 俺がどこかに行くから、ここに俺をおいていくのはやめてくれ…。涙が出そうだ。



「ねーぇちょっとぉっ! ふってんじゃないわよ!」
「何悲しませてるの!」
「聞いてるのっ?!」

 二人の女の子が代表したかのようにずっと責めてくる。もう慣れたくないけど慣れちゃったそれは気にならないんだけど、後ろの率いている人数だろ…。
そのうち珍百景にでもエントリーされんじゃないか?むしろしてやろうか…。漫画みたいな光景が見えれるって。

 言い返すと悪化するのも分かっているし、そもそも言い返せるほどの隙間もなく、結局ボーっと突っ立ってハーレム隊員の言い分を適当に相槌を打ちながら一応聞いていると、いきなり身体をドンっと押される。


 ボーッとしていたのも相まって、え?っと思った時には遅かった。
 階段の所に来ていたのを忘れていたのか、それとも分かっていて押したのか…。
自分から落ちたわけでもなく、足を滑らせたわけでもなく、突き落とされる格好となっている。

 とっさに手すりに捕まることもできず、まるでスロー再生に押してきた女の子の顔が見えていた。

 一応腕で頭を抱えてみたものの、勢いを殺すことができた訳ではなくこれは…、俺死んだんじゃ?とよぎったその瞬間。
 ドッドッと音が響くのを他人事のように聞き、遅れて頭をそして全身を打った余波の激痛がくる。

 ダダダと落ちる音と振動が背中から頭に響く。そのまま背中と頭を打ち付けながら下階まで落ちてゆく。きっとお見事な階段落ちを見せただろう。

 意識があるというより走馬灯なのか魂が身体から離れたのか、どこか他人事のようにそんな音を聞いていた。

 そのまま眠るように意識を失った。











 あ、あれ?
さっき意識失った気がするんだけど、俺意識ある?でも、痛いところない。病院?
どうしたら良いんだろう、救急車呼んでくれたのかな。これって起き上がっていいのか…?


「おはようございます。望月モチヅキ 幸音ユキネ君。
あなたは亡くなる直前に私が保護をしました。
まあその様子ですと、動揺もあまりないようなので細かい説明ははぶきますね。
もともと目をつけていたのですが、ちょうど瀕死だったのでつい、ちょっとお願いがあって呼びました」


「……いや、動揺どころかむしろ理解しがたくて思考が停止してるんだけど。つい、ってなに?そもそもどなた?」


「すみません。

私はあなた方が言うところの神のような存在でしょう。
名前は特に無いのでカミとかシンとでも呼んでくれれば結構です」



「あっそう。

で? 頼みたいっていうのは?」


「随分と…興味がなさそうですね。

――まあ良いでしょう。
あなたには今までいた世界と異なる世界に行ってもらいたいのです。
近頃勇者が召喚されます。
ちなみに確証はないですけが、勇者は学園一のモテ男で知られている、西条君だと予想しています。

まあ私は自分が管理している世界が荒れなければ、誰が来ようとどうでも良いのですが…。

召喚というものは、相手がいなければ行けないのです。しかし、王道の相手、魔王が面倒くさがって封印の解除をしないで、精神だけ飛ばして国探検してるんですよ。
しかも自分を封印した国を。と言ってもむか~し昔ですが。

放っていても良いのですが、封印されたまま勇者召喚をされてしまうと世界の理というかバランスが崩れてしまいまして…、という訳であなたには魔王側についてもらおうかと思っています。



前に魔王がここまで精神飛ばして来やがったので、勝手に盗み見をした幸音の写真をまじタイプって言ってたことだし、送ったら速攻解いてくれるでしょう…」


「最後聞こえなかったんだけど…」

「お気になさらず」


「……。
さいですか。

しっかし随分好き勝手だな神様っつーのは。あーでも面白そうだし、西条には悪いけど取り巻きに恨みがあるので、やらせていただきますよ。

俺にとって西条はトラブルといじめの大本だし不得意なタイプなのには変わりはない」


 なんかあいつ気味が悪いな…。さっきのボソボソ何…神様って神々しい見た目だけまとって中身は陰気であんなんがデフォルトなわけ?
いや、気にしてるとますます不気味だから忘れよう。


「そうですか。ありがとうございます。

では飛ばされたら、魔王の封印を解くことから始めてくださいね。

一応こっちがお願いしている見ですから、極力願いは聞き入れましょう。もちろん能力は過多なほど授けましょう。


ああ、ちなみに何か欲しい能力はあったりします?一応そちらの世界の物語は読んでみたものの、しかしあなたラノベというものを読まないようですし」


「がっつり魔王くらい強くして下さい。
ついでに時間削減に知識は必須」


頼まれごとなんだ、御修行も御勉強も勇者でもいい子ちゃんでもあるまいし、俺は面倒くさいことは極力スッキプしたって何ら問題ないだろう。



「良いでしょう。それでは適当に授けますよ。

そうだ、魔王がタイプだったら好き合っちゃって結構ですので好きなようにしてください。
魔王と同じ寿命授けときます。

幸音が死んだあと、私が気に入れば天界の住人又はまた転生させちゃうかもですけど。それは後でいいでしょう。


魔王の封印を解いたら魔王側につけば何しても良いですよ。
勇者召喚される王都行っても良し、学校通っても良し、魔王とラブラブいちゃいちゃライフおくっても良し、好きなようにしてくださいね」


「はあ。ありがとうございます?」

 なんて大雑把やつなんだ…。

「まあ適当に過ごしていたら、勇者召喚された時こっちにも情報くると思うし、そしたら偵察という名でちゃっかり今までの続きをしたいし、青春ライフが送れるって言うなら学校通ってみると思うけど。

それよりあんた俺と魔王のイチャイチャライフをだんだん露骨に激推するけど。

なに?ああいいや期待しとくから。
期待以下だったら貸しをさらに増やすことになるぞ」


「ええ、問題なんてありませんよ。

そういえば、能力授けるの忘れていましたね」


そんな適当野郎は俺の額に触れるか触れないかくらい手を近づけて、熱を測るときの仕草に似た動きだった。
きっと授かったんだろう。その証拠なのか手と額の間が綺麗な光に包まれたが、一瞬で消えさった。


「はい、終わりましたよ。
後は魔王の封印されてる目の前に送るだけですね。

封印の解き方はあえて教えませんね」


 なんなんだこいつ…。
教えてくれないって…。
解けだのなんだの言ってるくせに、封印の解き方は教えてくれずに人任せかよ。

 あーーー。だけどなぁ!ここまで来たし少しの細かい事はもうどうでも良いかぁ…。


「幸音、何ぶつぶつ言っているんですか?気味が悪いですね。

まあいいです。送っちゃいますよ?良いですか?

良いですよね。よろしくお願いしますね」


「はぁ?!ちょっ。お前のほうが不気味だわ!

あーもう良いや諦めよ。

出来ればしばらく会いたくねーよ。サヨウナラ!」
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