独り身オメガに幸せを

蒸しケーキ

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日常

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 お帰り......たった一言。当たり前の言葉なはずなのに胸の奥がじんわりと温かくなった。

「早くこれ言ってみたかったんだよね~。早く中入ろ??瑠夏が待ってるよ」

 蓮君に手を引かれながら九年ぶりに自分の家に帰る。そっと扉に手をかけて玄関の扉をゆっくりと開けた。

「...変わってない。」

 新しいインテリアが増えてたり、見覚えのない私物が多少置いてあったりはしているが、基本的には変わらないままの部屋が広がっていた。

「瑠~夏~!!ただいまぁ~!!」

「なに?もうまたうるさいんだけ.....ど。」

 蓮君が瑠夏のことを大声で呼ぶと、気怠そうにリビングからひょこっと顔をのぞかせた。俺と目が合った瞬間、瑠夏の目が大きく見開かれた。

「...母さん?」

 俺が瑠夏に「ただいま」と言う間もなく、瑠夏はタックルにも似たような勢いで、飛び込んできた。優しく抱きしめ返すと小さく肩が震えていた。

 言いたいことは山ほどあった。「一人にしてごめんね」「心配かけたね」「家を守ってくれてありがとう」

 ーーけれど、全部言葉として口に出る前に涙になった。

「っ...お帰り...母さん。」

「...うん。ただいま、瑠夏。」

 ひとしきり泣いた後、俺は瑠夏に抱き締められたままリビングのソファーに座らせられた。リビングや寝室を見ても、やっぱり当時のままーー九年前の姿で残っていた。

 特に、俺以外使ってない部屋なんかは、埃とか被っているかなと思っていたけれどそんなことはなく、反対に埃一つさえなく、きっちり整理整頓されていた。

 たぶん瑠夏がずっとキレイにしてくれたんだな...そう考えたら鼻の奥がツンとした。

「もう、病気は平気なの??」

「うん、一応ね。今は大丈夫かな」

 瑠夏が心配そうに隣に腰を下ろす。蓮君も隣に座っているので、俺は二人から挟まれるような形で座っていた。二人とも大きいからちょっと落ち着かなかった。

 聞いてみると、二人とも身長が百八十センチを超えているようで、この圧迫感の理由に納得がいった。俺も百七十センチはあるから小さくない方だと思うんだけどな...平均ぐらいだし。

「......そっか、よかった。」

 瑠夏が小さく息を吐いた。その横顔は九年前よりずっと大人びて見えた。だけど時折、高校生の時の瑠夏と記憶が重なるときがあった。

「ほんとはさ、母さんが起きたら、なんて言ってやろうかなってずっと考えてたんだよね。なんで俺に相談しないんだとか、蓮のことで余計なことしてごめんねとか......文句も説教も山ほど浮かんでたのに......」

 瑠夏はふふっ、と小さく笑った。

「実際、母さんと会ったらさ。文句も説教もどうでもよくなっちゃって、お帰り以外言葉が出てこなかったよ。」

 本当に申し訳ないことをしたな。俺は瑠夏の頭をそっと撫でた。髪がさらりと指の間を抜けていく。瑠夏は少し恥ずかしそうに俯いていた。

 身体はでかくなっても、やっぱり俺の可愛い子どもであるのには変わりないな。くすっと笑みが零れた。

「俺も、瑠夏からお帰りって言ってくれて嬉しかった。それに、この家そのままにしてくれてたんだね。てっきり母さんと住んでるかと思ったよ。」

「確かに、ばあちゃんと一緒に住むことも考えたけど、大学もここから通えなくはない距離だったし、母さんが帰る家をちゃんと守りたかったから。」

 その言葉にまた涙が込み上げそうになった。俺は今日何回泣きそうになれば気が済むんだろう。

「......ありがとう、瑠夏。」

 その隣で蓮君が静かに微笑んでいた。

「あ、そういえば瑠夏と蓮君って同じ大学なの?」

「うん!瑠夏も俺も同じところで、学部も一緒なんだ~。」

「学科は蓮とは別なんだけどね。」

「あと、二人して浪人したよね。」

「......それは別に言わなくて良かっただろ。」

 瑠夏と蓮君は、同じ大学の医学部に通っているらしい。瑠夏が医学部......なんて聞くと、親としてちょっと鼻が高くなる。

 でも、昔から勉強頑張ってたもんな。瑠夏の努力が報われてよかった。

 ただ、分野が異なるようで、瑠夏はカウンセラーを目指していて、蓮君は医者になる道を進んでいるとのことだった。

 大学卒業後も、瑠夏はすでに大学院に進学していて、蓮君はもともと六年制の課程だからまだすぐに就職はしないらしい。

 今は国家試験に向けての勉強を日々頑張っていると二人から伝えられた。

 なるほど、医学部だから高井先生とも仲が良かったのか、と話を聞いて納得した。
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