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いつ終わるのやらと思っていたこの関係は、途切れることなく続き、気がつけば季節は一つ、また一つと過ぎていった。
アインスとの関係も以前に比べ深まり、お互いの部屋を行き来するほどの仲になっていた。
たまたま僕のルームメイトのセフィラと、アインスのルームメイトのラウドが元々知り合いだったらしく、仲が深まるのは当然といえば当然だった。
そして、この学校で年に一度行われる一大イベントーープロムが開催されたとき、僕はアインスから告白された。
始めは冗談だと思い、と困惑して曖昧な返事をしてしまった。けれど、それが本気なのだと気づくまで、そう時間はかからなかった。
アインスは図書館以外でも、時間さえあれば僕と一緒に過ごすようになった。そして、別れ際には、毎回僕の手の甲にそっと口づけを落とす。
「愛してるよ、シューン。」
そんな甘い言葉を囁きながら。
ラウドもセフィラも、いつの間にかそれを受け入れていて、部屋に戻るたび、セフィラには決まってこう言われた。
「シューンは相変わらず鈍感すぎる......。」
正直なところ、僕はアインスを恋愛的に好きなのか、そうでないのか、自分でもよく分からなかった。セフィラやラウドからは「もっと楽に考えていいんじゃねーの?」と言われたけど、それではアインスに失礼な気がして、僕の気持ちが固まるまでアインスには答えを待ってもらうことにした。
今思えば、侯爵家の人間に返事を待たせるなんて、不敬罪にあたる気さえする。
それでもアインスは、眩しいほどの笑顔で嫌な顔一つせず、こう言った。
「シューンが俺のことを考えてくれるなら何年、何十年と待つよ。」
その眼差しを見て、本当に待ってくれそうだと思ってしまい、胸の中に申し訳なさが広がった。
ーーけれど、僕が答えを出すのに、そう時間はかからなかった。
ある日、広場でアインスが女の子と親し気に話しているのを見かけた瞬間、胸の奥がキュッと痛んだ。普段なら気にも留めないはずなのに、そのときのアインスは、僕に向けてくれるのと同じ笑顔を、その子にも向けていた。
「僕のこと好きなくせに......。」
心の中で、そんな黒い感情が渦巻いた。その日はアインスに会わず、部屋に戻ってセフィラに話すと、セフィラは嬉しそうな顔でこう言った。
「シューン。それ、嫉妬だぞ。」
そうか、これが嫉妬なんだ。アインスの笑顔を独り占めしたいと思ってしまった。もしかしたら、アインスもずっとこんな気持ちだったのかな。
僕は居ても立っても居られず、後日アインスを呼び出し、改めて想いを伝えた。
「......僕と付き合ってください。」
アインスは僕を抱き上げて「本当に!?本当にいいんだね!?」と喜びを隠しきれない様子だった。その姿がおかしくて、思わずくすくすと笑ってしまった。
「シューン、キスしてもいい?」
「......うん、いいよ。」
アインスと僕は、そっと唇を重ねた。これが僕のファーストキスだった。
キスをするだけで、こんなにも幸せな気持ちになるんだということを、このとき初めて知った。
王立学校を卒業後、アインスが王宮勤めになるのは確定事項だった。宰相の息子なのだから、これからは父親のもとで実務を学び、いずれは国を支える立派な宰相になるのだろう、と僕は考えていた。
けれど、そこで問題になってくるのは、”身分の差”だった。学生時代は、身分差を問わない校則に守られていたけど、それはあくまで学校の中だけの話だ。
ひとたび世間に出れば、身分の差はたちまち露呈してくる。王族と一般市民では到底釣り合わないし、批判を受けるのは目に見えていた。
だからアインスは、僕と早めに婚約して再び僕に爵位を授けるという強硬手段に出たのだ。アインス曰くーー
「シューンと俺の幸せな生活を邪魔するものは徹底的に叩かないとね」
とのことだった。アインスのお父様にはとても苦い表情をされたが、アインスが一度こうと決めたら聞かない性格だということは、すでに分かっていたようで半ば諦めたように「......好きにしなさい。」と言葉を零していた。
これからキール家の一員となるからには、多少のマナーや作法は身に着けていても、妃教育はきちんと受けなければならない。そう思い、僕からアインスに頼み込んで妃教育を受けさせてもらうことになった。
姿勢や所作、座学に加えて新しく覚えることは多く、正直大変だったけれど建国祭の披露までには、なんとか間に合わせることができた。
そして僕たちは、五年前の建国祭で結婚したことを公に発表した。
ハインリヒ王国は同性婚が認められている国だ。僕たちが結婚すること自体には異を唱える者はいなかった。
ーーけれど、身分差についての批判はやはりあった。
「王宮の仕事が平民に務まるわけがない!」
「今すぐ別の婿を迎えるべきだ」
そんな声がいくつも上がった。
それでも、僕はめげずに必死に公務を全うした。それからアインス自身の発言もあって、次第に批判の声は賛同の声へと変わっていった。
「学生時代からのお付き合いで、結婚までいくなんて素敵!!」
「アインス様とシューン様がいるなら、この国も安泰ね」
今では、そうした感激の声の方が多い。
身体の相性もアインスとは悪くなかった。自分が抱かれる側になるのだろう、ということも、なんとなく分かっていたし、学生時代に読んだ書物の中には、男性同士の行為の仕方について、詳しく記されている文献もあったから戸惑いは少なかった。
ただ、香油を使って自分の後ろをほぐす行為には、なんともいえない羞恥心と違和感があった。けれど、それも慣れてしまえば、次第に快感を拾い上げられるようになった。
アインスと身体を重ねるたび、愛おしそうに僕を見つめる瞳や、上ずった声で何度も「シューン」と名前を呼んでくれる瞬間に、たまらなく幸福感を感じ、心の中が満たされていった。
このまま順風満帆な結婚生活が続くーーそう思っていたのに。
アインスとの関係も以前に比べ深まり、お互いの部屋を行き来するほどの仲になっていた。
たまたま僕のルームメイトのセフィラと、アインスのルームメイトのラウドが元々知り合いだったらしく、仲が深まるのは当然といえば当然だった。
そして、この学校で年に一度行われる一大イベントーープロムが開催されたとき、僕はアインスから告白された。
始めは冗談だと思い、と困惑して曖昧な返事をしてしまった。けれど、それが本気なのだと気づくまで、そう時間はかからなかった。
アインスは図書館以外でも、時間さえあれば僕と一緒に過ごすようになった。そして、別れ際には、毎回僕の手の甲にそっと口づけを落とす。
「愛してるよ、シューン。」
そんな甘い言葉を囁きながら。
ラウドもセフィラも、いつの間にかそれを受け入れていて、部屋に戻るたび、セフィラには決まってこう言われた。
「シューンは相変わらず鈍感すぎる......。」
正直なところ、僕はアインスを恋愛的に好きなのか、そうでないのか、自分でもよく分からなかった。セフィラやラウドからは「もっと楽に考えていいんじゃねーの?」と言われたけど、それではアインスに失礼な気がして、僕の気持ちが固まるまでアインスには答えを待ってもらうことにした。
今思えば、侯爵家の人間に返事を待たせるなんて、不敬罪にあたる気さえする。
それでもアインスは、眩しいほどの笑顔で嫌な顔一つせず、こう言った。
「シューンが俺のことを考えてくれるなら何年、何十年と待つよ。」
その眼差しを見て、本当に待ってくれそうだと思ってしまい、胸の中に申し訳なさが広がった。
ーーけれど、僕が答えを出すのに、そう時間はかからなかった。
ある日、広場でアインスが女の子と親し気に話しているのを見かけた瞬間、胸の奥がキュッと痛んだ。普段なら気にも留めないはずなのに、そのときのアインスは、僕に向けてくれるのと同じ笑顔を、その子にも向けていた。
「僕のこと好きなくせに......。」
心の中で、そんな黒い感情が渦巻いた。その日はアインスに会わず、部屋に戻ってセフィラに話すと、セフィラは嬉しそうな顔でこう言った。
「シューン。それ、嫉妬だぞ。」
そうか、これが嫉妬なんだ。アインスの笑顔を独り占めしたいと思ってしまった。もしかしたら、アインスもずっとこんな気持ちだったのかな。
僕は居ても立っても居られず、後日アインスを呼び出し、改めて想いを伝えた。
「......僕と付き合ってください。」
アインスは僕を抱き上げて「本当に!?本当にいいんだね!?」と喜びを隠しきれない様子だった。その姿がおかしくて、思わずくすくすと笑ってしまった。
「シューン、キスしてもいい?」
「......うん、いいよ。」
アインスと僕は、そっと唇を重ねた。これが僕のファーストキスだった。
キスをするだけで、こんなにも幸せな気持ちになるんだということを、このとき初めて知った。
王立学校を卒業後、アインスが王宮勤めになるのは確定事項だった。宰相の息子なのだから、これからは父親のもとで実務を学び、いずれは国を支える立派な宰相になるのだろう、と僕は考えていた。
けれど、そこで問題になってくるのは、”身分の差”だった。学生時代は、身分差を問わない校則に守られていたけど、それはあくまで学校の中だけの話だ。
ひとたび世間に出れば、身分の差はたちまち露呈してくる。王族と一般市民では到底釣り合わないし、批判を受けるのは目に見えていた。
だからアインスは、僕と早めに婚約して再び僕に爵位を授けるという強硬手段に出たのだ。アインス曰くーー
「シューンと俺の幸せな生活を邪魔するものは徹底的に叩かないとね」
とのことだった。アインスのお父様にはとても苦い表情をされたが、アインスが一度こうと決めたら聞かない性格だということは、すでに分かっていたようで半ば諦めたように「......好きにしなさい。」と言葉を零していた。
これからキール家の一員となるからには、多少のマナーや作法は身に着けていても、妃教育はきちんと受けなければならない。そう思い、僕からアインスに頼み込んで妃教育を受けさせてもらうことになった。
姿勢や所作、座学に加えて新しく覚えることは多く、正直大変だったけれど建国祭の披露までには、なんとか間に合わせることができた。
そして僕たちは、五年前の建国祭で結婚したことを公に発表した。
ハインリヒ王国は同性婚が認められている国だ。僕たちが結婚すること自体には異を唱える者はいなかった。
ーーけれど、身分差についての批判はやはりあった。
「王宮の仕事が平民に務まるわけがない!」
「今すぐ別の婿を迎えるべきだ」
そんな声がいくつも上がった。
それでも、僕はめげずに必死に公務を全うした。それからアインス自身の発言もあって、次第に批判の声は賛同の声へと変わっていった。
「学生時代からのお付き合いで、結婚までいくなんて素敵!!」
「アインス様とシューン様がいるなら、この国も安泰ね」
今では、そうした感激の声の方が多い。
身体の相性もアインスとは悪くなかった。自分が抱かれる側になるのだろう、ということも、なんとなく分かっていたし、学生時代に読んだ書物の中には、男性同士の行為の仕方について、詳しく記されている文献もあったから戸惑いは少なかった。
ただ、香油を使って自分の後ろをほぐす行為には、なんともいえない羞恥心と違和感があった。けれど、それも慣れてしまえば、次第に快感を拾い上げられるようになった。
アインスと身体を重ねるたび、愛おしそうに僕を見つめる瞳や、上ずった声で何度も「シューン」と名前を呼んでくれる瞬間に、たまらなく幸福感を感じ、心の中が満たされていった。
このまま順風満帆な結婚生活が続くーーそう思っていたのに。
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