榊原さんちの家庭の事情

矢の字

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βだって愛されたい!①

俺の兄弟

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「四季兄何かあった? なんか一兄の声が聞こえたけど……」

 俺と末っ子の樹は同じ部屋。5人兄弟の中で個人で部屋を持っているのは一縷兄ちゃんだけだ。何故なら双子の双葉兄ちゃんと三葉兄ちゃんは仲が良すぎて最初から部屋を分ける気がなかったのと、物理的に部屋が足りないから。
 俺達の今使っている部屋に仕切りを付けて、分けてもいいと両親には言われているのだけれど、現在俺達は二段ベッド使用で、ある程度の部屋の広さを確保している。その部屋を分けてベッドをばらせば部屋が手狭になるのは当然で、それはどうかと俺達は今も部屋を分けずにいる。

「別に何でもない、それよか樹、お前もうすぐ発情期ヒートだろ?」
「え? あぁ、ホントだ」

 慌てたようにスマホの画面を確認して、樹は「嫌だなぁ」と溜息を零した。ってか、俺が指摘するまで忘れてるってどうなんだ? 迂闊にも程があるだろ?
 番相手のいないΩの発情期が始まってしまうと周りのαは問答無用で誘惑されてしまう。だから、その辺きっちり管理しておかないと危ない目に遭うのはお前なんだからな!
 この家の中ですら上3人の兄達は番相手がいない現状、兄弟だとかそんな事関係なく襲われる事だってあるかもしれない、俺はβだから関係ないけど、そういうの面倒くさいなって本気で思う。

「学校に慣れるまではあんまり休みたくないのに……」
「まぁ、それはもう仕方ないな。学校でヒートに突入しないようにくれぐれも気を付けろよ」

 樹は枕を抱えて「はぁい」と返事を返して寄こすが、わりとうっかりな所がある弟が俺は心配で仕方がないよ。
 「あぁ~あ、番相手がいればこんな煩わしさも軽減するのに!」なんて、ぼやく樹は「恋人欲し~い!」と枕を叩く。埃が舞うから止めろって!

「それにしても、そんな事言うわりに、お前誰とも付き合わないよな……」
「それはね? だって、やっぱり色々困る事も多いし、ちょっと好きだなと思っても、結婚したいかって考えたらそれは別だなって思うんだもん。兄ちゃん達と比べたら大概の奴はしょぼく見えるし、僕、目だけは肥えてるから」

 そう言って樹は笑う。
 まぁ、確かにな。優秀過ぎる兄達を見続けていると自然と求めるレベルは高くなる、かと言って俺は自分が誰かと比べられる事が嫌だから、そんな兄達と付き合う相手を比べようとは思わないけど、それでもやはり高望みはしてしまっている気がする。

「何処かに兄ちゃん達より格好良くて、優しくて、頼りがいのある人いないかな?」
「お前、さすがに高望みしすぎ」

 俺が苦笑するようにそう返すと「兄弟でも、結婚出来たらいいのにな」と樹はぽつりとそう零した。



 二段ベッドの下段が俺の寝床なのだが、上段の樹はもう寝入ってしまったのか微かな寝息が聞こえてくる。
 もう、寝る気満々でいたのだけど、何故か樹の言葉が心に残って寝られない。

『兄弟でも、結婚出来たらいいのにな』

 Ωの樹は男性体だけどαとの間になら子を成せる。兄弟で結婚はさすがに法律上難しいけれど、もしかして樹は一縷兄ちゃんが好きなのかな? 兄の中の誰とは言わなかったけれど、樹は一縷兄ちゃんに懐いている事が多い。
 でもまぁ兄弟だとかそういう話は置いておいて、お似合いだよな……とは思うのだ。
 樹は女の子と見紛うばかりに可愛いし、一縷兄ちゃんは言葉は多くないがとても優秀な人だ。そんな2人が並んで、その腕の中に小さな可愛い子供がいたら、そこにはお似合いのカップルが現れる。
 兄弟でそんな妄想をする事自体間違っていると思うのだけど、俺はいいなと思うのだ。
だって、どうやったってそこに俺は入り込めない。兄弟の誰の隣に立っても俺は不釣り合いで不格好なんだ、そんな事は知っていたけど、それでも少し悲しくなった。


「お前、目の下のクマが酷いぞ?」
「なになに、何か悩みでもあんの? 兄ちゃん達が聞いてやろうか?」

 何だかんだとぐるぐると考え込んでいたら結局上手に寝られなくて、朝、洗面所に向かったら双子の兄に絡まれた。
 双子の兄は本当によく似ている、けれど俺にはちゃんと分かってる。向かって右が双葉兄ちゃん、左側が三葉兄ちゃん。わずかな差異ではあるのだが、つむじの向きが逆だったり、首筋のほくろの位置が線対称だったり、そういう細かい見た目が違ってる。
 それに喋りでも何となく区別はつく。大体先に口火を切るのが双葉兄ちゃん、その後呑気に続くのが三葉兄ちゃん、生まれ順の通りに三葉兄ちゃんは少しだけ双葉兄ちゃんよりのんびりなのだ。

「別に何でもないよ。それにしても相変わらず兄ちゃん達仲良いね」

 洗面所にいる兄ちゃん達の現在の格好は双葉兄ちゃんがズボンだけを履いた上半身裸で、三葉兄ちゃんは上半身だけ寝間着を着ている状態。要は2人で一枚の寝間着を共有している形だ。いや、お揃いの服を着ている事も多い兄ちゃん達なので、もしかしたらそれぞれの寝間着なのかもしれないが、傍目にはそうとしか思えない。
 そしてそんな恰好で双葉兄ちゃんは三葉兄ちゃんの背後から抱きついて歯を磨いているのだから目のやり場に困る。もうほぼ毎日の光景なので見慣れてはいるけれど、それもどうなの? と思わなくもない。

「仲良いかな?」
「普通じゃね?」

 いや、それ絶対普通じゃないから!

「俺、いつも思うんだけど、もし兄ちゃん達のどっちかに恋人とか出来たらどうすんの?」

 昔からの素朴な疑問。モデルをしているだけあって、モテモテな兄達だが今まで恋人の話は聞いた事がない。けれど、そんな俺の疑問に「「え? もういるけど?」」と、2人の声が綺麗にハモる。

「うっそ! 俺聞いてない! え? どっち!? 2人とも?」
「まぁ、2人の恋人だし? 2人ともかな?」
「そうそう、俺達2人の可愛いΩちゃんだよ」

 え……
 俺が言葉を失くして絶句していると、2人はけらけらと笑いだす。

「いつだって俺達は2人でひとつ」
「だから恋人も半分こ」
「ちょ……それ、相手も納得してんの!?」

 「勿論だよ」と2人は頷き、またけらけらと笑う。

「2人とも愛せなきゃ駄目なんだ」
「それが俺達の恋人になる絶対条件だからね」

 我が兄ながらびっくりだ。2人はそんな俺を尻目にキスをしている。これも割と日常風景なんだけど、まさかそこまでだとは思ってなかったよ……驚いた。



 今朝も駅までの道のりは一縷兄ちゃんが車を出してくれたんだけど、俺の方を見ては何かを言いかけ、結局何も言わずに駅に俺達を置いて兄ちゃんは出勤して行った。
 一体何なんだろうな? 言いたい事があるならはっきり言えばいいのに。

「なんか今日の一兄ちょっと変じゃなかった?」
「ん? そうか?」

 首を傾げる樹にはそんな風に返したけれど、兄ちゃんの様子がおかしかったのは、間違いなく昨晩のやり取りのせいだと分かっている俺は口を噤む。でも、やっぱり何度考えてもあのタイミングで笑うのは失礼だと俺は思うんだ。

「それより樹、昨日も言ったけど発情期ヒートが近いんだからくれぐれも気を付けろよ、極力αには近寄らない事、万が一学校でヒートがきたら直ぐに俺の所に来ること、もしくは直ぐに連絡寄こす事! 分かったな」
「僕も発情期は初めてじゃないんだから、それくらい分かってる。四季兄心配しすぎ」
「当たり前だろ! 最近は抑制剤の普及のお陰でそこまで大事になる事はなくなったけど、Ωが発情期に襲われる事件は後を絶たないんだから、自衛は大事! そこはお前が一番気を付けなけりゃいけない所だろ!」
「はいは~い、分かってるってば」

 まるでうるさいと言わんばかりの口ぶりの樹、何かあったら傷付くのはお前の方なんだからな! αの方だってある程度の自衛はしている、それでもΩの発情期というのは特別で、それに逆らえないαがΩを襲う事件に対してはαに同情が集まる場合も多いのだ。そうなった時襲われたΩには味方は誰もいなくなる、そうならない為に俺は口を酸っぱくして言ってやってるのに危機感無さ過ぎ!
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