榊原さんちの家庭の事情

矢の字

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βだって愛されたい!①

俺って意外と愛されてた!

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「こんなに青痣を作って、どれだけ俺を心配させる気だ!」
「それ、俺のせいじゃないしっ」

 これは樹の発情に惑わされたαのしでかした事で、俺には一ミリも非はないはずなのに何で俺が責められなきゃいけないんだろう?

「俺は常々気を付けろと言っていたのに」
「それ、樹にだろ?」
「俺はいつでも『2人とも』と言ってたはずだが?」

 あれ? そうだっけ?

「でもさ、だけど今まで俺の事は兄ちゃん放りっぱなしだったじゃんか、樹が入学したから最近は車で駅まで送ってくれるようになったけど、今まで何もしてくれなかった!」
「1年の時は双葉と三葉がいたからな、2年になってからは何度か声をかけたぞ? その都度いらないと言ったのはお前の方だ」

 えぇ……全然覚えてないんだけど……

「樹が入学してからは樹はそれを当たり前としてるから四季も一緒にって形になったが、別に俺は樹を特別扱いしていた訳じゃない!」

 そうだっけ? そうなのか……? もしかして俺ってば勝手に勘違いして勝手に拗ねてただけ?

「でも兄ちゃん、今までそんな事は一言も……俺に彼女が出来た時だって『お前は子供だ』って言っただけで別に反対もしなかったじゃないか」

 俺の言葉に兄が少しだけ息を吐き、俺の身体を抱き締める。

「どう頑張った所で俺とお前は兄弟だ、そんな事……言える訳がないだろう? 父さんと母さんはそれでも腹違いで半分しか血は繋がっていないが、俺達は正真正銘100%混じりっ気なしの兄弟だ。しかもお前は男でΩですらない、そんな事言い出せる訳がないだろう?」

 確かに、告白するにはちょっとハードルが高すぎるかな。双葉兄ちゃん三葉兄ちゃんみたいな例もあるから一概には言えないけど。
 俺の顔を覗き込んでくる兄ちゃんが、まるで何かを吹っ切ったかのようにもう一度「好きだ」と俺の耳元に囁いた。

「逃げるなら今逃げろ、そして忘れろ」

 兄の大きな手が肌を撫でる。今逃げれば俺達は何もなかったただの兄弟に戻れるの? 忘れろって言われて忘れられると思うのか?
 『兄弟でも結婚出来たらいいのに』という樹の言葉に悶々と悩んでいたのは、俺にはその資格すらないからだ。俺は兄ちゃん(アルファ)に愛される資格すら持ち合わせていない。なのに今、兄ちゃんは俺を選ぶとそう言うのか? αに愛される事を運命づけられたΩではなくただのモブでしかない俺を? でも、もしそれが本気だと言うのなら……

「逃げたくない、忘れたくない」
「四季!」

 感極まったように兄に抱きしめられ性急に服を捲り上げられる。嬉しそうだなって見れば分かるし、そう思ってくれるの嬉しいけど、だけど待って!
 近付いてくる顔を思わず両手で防御して「ストップ!」と声をあげると、少しだけ兄は不満顔。

「兄ちゃんの事、嫌いじゃない。ううん、たぶんむしろ好きなんだけど、でもそれ全部今決めなきゃ駄目なのかな? 兄ちゃんは俺に考える時間もくれないの? このまま流されて兄ちゃんに抱かれたら、俺はそれが自分の意志だったのかどうかさえ分からなくなっちゃうよ!」

 兄ちゃんはずっとその想いを隠し続けて、ようやく両想いって感じなのかもしれないけど、俺の心はまだそんな一足飛びの行動には付いていけない。なんにも心の整理が付いてない。

「俺は普通の恋愛だって結局上手くいかなくて、経験だってまったくないんだよ、そこの所、少しは手順を踏んでくれてもいいと思うんだけど……」
「手順?」
「うん、告白して即Hみたいな即物的なの俺嫌い。それってまるで身体目的みたいじゃないか。それとも兄ちゃんは俺の身体だけが目的なの?」

 バース性の人間の恋愛が身体から始まる事はよくある話。それは言ってしまえば本能からの行動で種の保存を図るという意味では間違った行動ではない。だけど、俺はβで、しかも男で、そんな種の保存的な本能で男に抱かれるなんて、そんな感覚持ち合わせていない。
 ましてや兄に抱かれようと言うのなら、それ相応の覚悟だっている。それを全部勢いに任せて飲み込んで、今ここで抱かれてしまえば俺はきっといつか後悔する。

「もし本当に俺の事が大事なら、そのくらいの事できるよね?」
「四季は俺に何を望む?」

 少しだけ身を離して兄が顔を覗き込んできた。とても深刻そうな顔だけど、別に俺はそこまで難しい事を望んでいる訳じゃない。俺はすいと両腕を伸ばして「抱っこ」とそう告げた。

「……ん?」

 何やらハトが豆鉄砲を喰らったような顔で兄ちゃんが首を傾げる。

「ぎゅってして? 小さい頃からずっと我慢してたんだよ? 下に樹が産まれて、俺はお兄ちゃんなんだから、もう甘えちゃ駄目なんだってそう思ってた」

 俺の言葉に更に驚いた表情で、その後顔を赤くした兄に「可愛いが過ぎるだろ……」と抱きしめられた。



「ぬけがけだ……」

 発情期ヒートの終わった樹は少しばかりやつれた表情で、こちらにじっとりとした視線を投げて寄越す。

「僕が発情期で苦しんでる間になんでそんな事になってんの!?」

 現在俺は一縷兄ちゃんの膝の上、何故だかここ数日俺の定位置はこの場所で、上げ膳据え膳は当たり前、大した怪我でもないのに完全看護。『抱っこして』とおねだりしたのは俺だけど、さすがにやり過ぎなんじゃと思わなくもない。

「ぬけがけしないって、あれほど約束してたのに! 一兄の嘘吐き!!」
「これは四季が選んだ事だ、あくまで四季の意思は尊重すると、それも約束していたはずだろう?」
「そうだけど! でも、何で!? 最近ずっと四季兄は一兄の事避けてたじゃん!」
「その辺の誤解はもう綺麗に解けた。なぁ、四季?」
「え……えっと、まぁ……」

 俺は一縷兄ちゃんは樹の事が好きなのだとばかり思っていた、それが弟を逸脱したものなのかどうかまでは考えていなかったけど、そうではなかったと言葉にしてもらって納得して、好きだと告げられこの現状。ちなみにまだ清い仲。

「ねぇ、四季兄、本当に一兄でいいの? そもそも四季兄ってそっちだった?」
「ん? そっち?」
「だって四季兄ちょっと前まで彼女いたじゃん! せっかく頑張って別れさせるのに成功したのに……あっ……」

 しまったという顔で樹が口元を抑える。別れさせるってどういう事だ? ってか、そっちって何?

「樹、そういえばお前、四季が彼女と別れたの知ってて俺に黙ってたな?」
「別に隠してた訳じゃないよ、僕だって四季兄からは聞いてないもん」
「でも知ってたんだろう?」

 なんか雲行き怪しいし会話は見えないし、どういう事だ? 樹は俺が彼女にフラれた事を知っていた? というかむしろ何かした?

「別に小耳に挟んだだけだよ、四季兄の元カノって僕の中学時代のクラスメイトの姉ちゃんだったからさ」
「本当にそれだけか?」
「言っとくけど別れさせたって言っても僕は特別何もしてないよ、クラスメイトにちょっと姉ちゃんのスケジュール聞いて、それにぶち当てて四季兄とデートしてただけだもん!」

 俺が彼女にフラれた理由。それは彼女が樹と比べられるのを嫌がったからで、そう言われてみるとあの日の樹はいつも以上に俺にべたべたしていた気もする。もしかして樹はあの日彼女にわざと俺達が仲良い所を見せつけた……?

「なんでそんな事を……?」
「だって四季兄を女に取られるのヤだったんだもん! 僕の方が絶対あの人より可愛いし、絶対僕の方が四季兄の事好きだもん!!」

 ………………え?

「なのに、ぬけがけするなんて、一兄の馬鹿ぁぁぁぁ!!!」

 樹がべそべそと泣き出した。俺はどうしていいのか分からずに狼狽える。

「あぁ~あ、泣かせた」
「だから四季はやめとけって言っただろ?」

 俺達の様子を遠目ににやにや観察していた双子の兄ちゃん達が現れて、代わる代わる樹の頭を撫でて慰める。

「元々勝ち目のない勝負だったんだよ」
「そうそう、兄ちゃんのあからさまな贔屓に気付いてないのなんか本人だけだ」
「俺達だって、こんなに理想的な恋人いないと思ったもんなぁ?」
「ホントそれ、ちゃんと俺達を見分けてくれて、俺達のこの生活を受け入れてくれる貴重な人材だったのに」
「まぁでも、兄ちゃんが嫌になったらいつでも俺達の所に来ればいいよ?」
「「俺達いつでもウェルカムだから」」

 双子の兄ちゃんS’の流れるようなセリフの応酬、最後には声を揃えて両側から頬にキスをされた。

「双葉! 三葉! 四季に触るな!」

 俺をぎゅっと抱き込んで一縷兄ちゃんが2人を威嚇する。
 あれ? 俺ってば意外と皆に愛されてた? この家の中では俺だけが異質で、俺だけがその他大勢のモブの1人なのだと思っていたのに、これはちょっと予想外だぞ?

「僕もまだ諦めないから!」

 樹が涙を拭ってきっとこちらを睨む、俺をというよりは俺の背後の一縷兄ちゃんをだな。
この2人は仲が良いと思ってたんだけどな?

「全ては四季が決める事だ」

 そう言いながらも兄ちゃんの俺を抱く腕は緩まない。なんだか可笑しいの、一縷兄ちゃんってば言ってる事とやってる事がばらばらなんじゃないのかな?
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