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強気なΩは好きですか?②
相変らずな僕ら
しおりを挟むその日は朝から僕は機嫌が悪かった。何故なら長兄の一縷と同じく僕の一番大好きな四番目の兄の四季が遂に一線を越えた事をその匂いで察知してしまったからだ。
βである四季兄だけは戸惑ったような表情をしていたけれど、一線を越えたαは自分の番であるΩにこれでもかと匂い付けをするのでとても分かりやすい。それは牽制でもあり、目に見えない所有の印でもあるからだ。
四季兄はΩではないけれど、そんな四季兄からは一兄の匂いがぷんぷんしている。Ωではないからより念入りに匂い付けをした事がすぐに察せられて、もうこれ間違いなくやったなってすぐに分かった。
四季兄はβだし、男だし、何だかんだで付き合うとは言ってもそういう事はしないのかと思っていたのに、ぽんやりと朝食のトーストを齧る四季兄からは妙な色気が漂って、完全に望みは絶たれたのだと僕は絶望する。
それでも最後の抵抗とばかりに僕も匂い付けしてきたけど、もうきっと一兄に上書きされちゃってんだろうな……
「榊原君、今日はずいぶん機嫌が悪いみたいね? 可愛い顔が台無しよ?」
「だって……だって、大好きな人が寝取られたぁぁぁ……」
机に突っ伏すように泣き真似をすると「え? 篠木先輩浮気でもしたの?」と心配そうに声をかけられたのだけど、違うし! むしろそっちは少しよそ向いてくれても良いくらいだよっ!
「あの人は関係ない……」
「関係ないって、彼氏でしょ?」
「まだ! 彼氏じゃないって!! 言ってるのに!!!」
彼女は「はいはい、そうでしたね」とおざなりに返事を返して寄こすのだけど、全然信じてないだろう!? ホントに本気で僕達まだ全然付き合ってないのにっ!
そりゃ最近は昼休みに迎えに来るから一緒に屋上でお弁当食べたりしてるけどさ、帰りも時々一緒に帰ったりしてるけど! それだけで付き合ってるとかなくない?
「でも。私聞いたわよ? 昼休み屋上で人目も憚らずいちゃついてるんでしょ? なのにそんな事言われても……」
「そんな事してない!」
僕の言葉に彼女はぼそりと「膝枕……」と返して寄こして、僕は一瞬言葉に詰まる。
「そ……れは……」
「ほっぺにキス」
「何で知ってるの!?」
膝枕は最近時々要求されて、仕方がないなと付き合う事はあったのだけど、ほっぺにキスは一度だけで、あの時は授業が始まってたから誰にも見られてなかったはずなのに……
「だってすごく噂になってたもの。榊原君の耳に入れるのアレかと思って今まで言わなかったんだけど、篠木先輩ってすごくよくモテるじゃない? 去年まではわりと彼女取っかえ引っかえで結構チャラい部類の人だったらしいのよね。それが最近すっかりなりを潜めて、1人のΩに夢中らしい……なんて噂にならない訳ないじゃない?」
「……チャラい……?」
一体それは誰の話だ? 篠木先輩とイメージが重ならなくて僕は首を傾げる。だって少なくとも僕の前では先輩はとても紳士的だし、変に手を出された事だってないのだ。
確かに多少振り回されてはいるけれど、そんな女癖が悪いようにはまるで見えない、というか女の子に囲まれても振り切って僕のとこに来てくれるし……
はっ! 来てくれるって何さ! 別に来なくてもいいんだけどさっ!
「全然分からないって顔ね、それだけ榊原君が特別扱いされてるって事なんだろうけど、陰で女の子達から恨みも買ってるみたいよ?」
「う……怖い事言わないでよ!」
「噂をすれば、ほら。相変わらず大人気」
窓際の席からグラウンドを見やれば、朝練を終えて教室に向かっている先輩達を女の子が取り囲んでいる。でも仕方ないよね、普段はちょっとアレだけどサッカーしてる先輩は飛びぬけて格好いいもん。その辺は僕だって分かってるよ。
窓からその光景を眺めていたら不意に顔を上げた篠木先輩と目が合った。もう! なんでこの距離で気付くかな? 先輩は嬉しそうにまたこちらに手を振るけど、他の女子の視線が痛いよ。僕は慌てて机の上に突っ伏し身を隠す。
「榊原君も手、振り返してあげればいいのに、あんまりつれなくしてるとその内捨てられるわよ?」
「捨てられるも何も付き合ってないって何度も言ってる」
「周りはそんな風には思ってないって私も言ってるの」
友人の大きな溜息と共に始業のチャイムが鳴り響く。僕がもう一度窓の外を眺めると、グラウンドの人影は既に消えていた。
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