榊原さんちの家庭の事情

矢の字

文字の大きさ
20 / 31
強気なΩは好きですか?②

相変らずな僕ら

しおりを挟む


 その日は朝から僕は機嫌が悪かった。何故なら長兄の一縷と同じく僕の一番大好きな四番目の兄の四季が遂に一線を越えた事をその匂いで察知してしまったからだ。
 βである四季兄だけは戸惑ったような表情をしていたけれど、一線を越えたαは自分の番であるΩにこれでもかと匂い付けをするのでとても分かりやすい。それは牽制でもあり、目に見えない所有の印でもあるからだ。
 四季兄はΩではないけれど、そんな四季兄からは一兄の匂いがぷんぷんしている。Ωではないからより念入りに匂い付けをした事がすぐに察せられて、もうこれ間違いなくやったなってすぐに分かった。
 四季兄はβだし、男だし、何だかんだで付き合うとは言ってもそういう事はしないのかと思っていたのに、ぽんやりと朝食のトーストを齧る四季兄からは妙な色気が漂って、完全に望みは絶たれたのだと僕は絶望する。
 それでも最後の抵抗とばかりに僕も匂い付けしてきたけど、もうきっと一兄に上書きされちゃってんだろうな……

「榊原君、今日はずいぶん機嫌が悪いみたいね? 可愛い顔が台無しよ?」
「だって……だって、大好きな人が寝取られたぁぁぁ……」

 机に突っ伏すように泣き真似をすると「え? 篠木先輩浮気でもしたの?」と心配そうに声をかけられたのだけど、違うし! むしろそっちは少しよそ向いてくれても良いくらいだよっ!
 
「あの人は関係ない……」
「関係ないって、彼氏でしょ?」
「まだ! 彼氏じゃないって!! 言ってるのに!!!」

 彼女は「はいはい、そうでしたね」とおざなりに返事を返して寄こすのだけど、全然信じてないだろう!? ホントに本気で僕達まだ全然付き合ってないのにっ!
 そりゃ最近は昼休みに迎えに来るから一緒に屋上でお弁当食べたりしてるけどさ、帰りも時々一緒に帰ったりしてるけど! それだけで付き合ってるとかなくない?

「でも。私聞いたわよ? 昼休み屋上で人目も憚らずいちゃついてるんでしょ? なのにそんな事言われても……」
「そんな事してない!」

 僕の言葉に彼女はぼそりと「膝枕……」と返して寄こして、僕は一瞬言葉に詰まる。

「そ……れは……」
「ほっぺにキス」
「何で知ってるの!?」

 膝枕は最近時々要求されて、仕方がないなと付き合う事はあったのだけど、ほっぺにキスは一度だけで、あの時は授業が始まってたから誰にも見られてなかったはずなのに……

「だってすごく噂になってたもの。榊原君の耳に入れるのアレかと思って今まで言わなかったんだけど、篠木先輩ってすごくよくモテるじゃない? 去年まではわりと彼女取っかえ引っかえで結構チャラい部類の人だったらしいのよね。それが最近すっかりなりを潜めて、1人のΩに夢中らしい……なんて噂にならない訳ないじゃない?」
「……チャラい……?」
 
 一体それは誰の話だ? 篠木先輩とイメージが重ならなくて僕は首を傾げる。だって少なくとも僕の前では先輩はとても紳士的だし、変に手を出された事だってないのだ。
 確かに多少振り回されてはいるけれど、そんな女癖が悪いようにはまるで見えない、というか女の子に囲まれても振り切って僕のとこに来てくれるし……
 はっ! 来てくれるって何さ! 別に来なくてもいいんだけどさっ!

「全然分からないって顔ね、それだけ榊原君が特別扱いされてるって事なんだろうけど、陰で女の子達から恨みも買ってるみたいよ?」
「う……怖い事言わないでよ!」
「噂をすれば、ほら。相変わらず大人気」

 窓際の席からグラウンドを見やれば、朝練を終えて教室に向かっている先輩達を女の子が取り囲んでいる。でも仕方ないよね、普段はちょっとアレだけどサッカーしてる先輩は飛びぬけて格好いいもん。その辺は僕だって分かってるよ。
 窓からその光景を眺めていたら不意に顔を上げた篠木先輩と目が合った。もう! なんでこの距離で気付くかな? 先輩は嬉しそうにまたこちらに手を振るけど、他の女子の視線が痛いよ。僕は慌てて机の上に突っ伏し身を隠す。

「榊原君も手、振り返してあげればいいのに、あんまりつれなくしてるとその内捨てられるわよ?」
「捨てられるも何も付き合ってないって何度も言ってる」
「周りはそんな風には思ってないって私も言ってるの」

 友人の大きな溜息と共に始業のチャイムが鳴り響く。僕がもう一度窓の外を眺めると、グラウンドの人影は既に消えていた。

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

氷の公爵様と身代わりパティシエ~「味覚なし」の旦那様が、僕のお菓子でトロトロに溶かされています!?~

水凪しおん
BL
【2月14日はバレンタインデー】 「お前の菓子だけが、私の心を溶かすのだ」 実家で「魔力なしの役立たず」と虐げられてきたオメガのリウ。 義弟の身代わりとして、北の果てに住む恐ろしい「氷血公爵」ジークハルトのもとへ嫁ぐことになる。 冷酷無慈悲と噂される公爵だったが、リウが作ったカカオのお菓子を食べた途端、その態度は激変!? リウの持つ「祝福のパティシエ」の力が、公爵の凍りついた呪いを溶かしていき――。 拾ったもふもふ聖獣と一緒に、甘いお菓子で冷たい旦那様を餌付け(?)する、身代わり花嫁のシンデレラストーリー!

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

記憶を無くしたら家族に愛されました

レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない… 家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…

早く惚れてよ、怖がりナツ

ぱんなこった。
BL
幼少期のトラウマのせいで男性が怖くて苦手な男子高校生1年の那月(なつ)16歳。女友達はいるものの、男子と上手く話す事すらできず、ずっと周りに煙たがられていた。 このままではダメだと、高校でこそ克服しようと思いつつも何度も玉砕してしまう。 そしてある日、そんな那月をからかってきた同級生達に襲われそうになった時、偶然3年生の彩世(いろせ)がやってくる。 一見、真面目で大人しそうな彩世は、那月を助けてくれて… 那月は初めて、男子…それも先輩とまともに言葉を交わす。 ツンデレ溺愛先輩×男が怖い年下後輩 《表紙はフリーイラスト@oekakimikasuke様のものをお借りしました》

運命の息吹

梅川 ノン
BL
ルシアは、国王とオメガの番の間に生まれるが、オメガのため王子とは認められず、密やかに育つ。 美しく育ったルシアは、父王亡きあと国王になった兄王の番になる。 兄王に溺愛されたルシアは、兄王の庇護のもと穏やかに暮らしていたが、運命のアルファと出会う。 ルシアの運命のアルファとは……。 西洋の中世を想定とした、オメガバースですが、かなりの独自視点、想定が入ります。あくまでも私独自の創作オメガバースと思ってください。楽しんでいただければ幸いです。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ぽて と むーちゃんの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

処理中です...