刃のまにまに

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子狐コン太

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 子狐コン太がやって来てからの生活は少しばかり賑やかになった。なにせこいつが暴れん坊で手が付けられない。
 御堂がいる時はまだいいのだが、俺と二人になった途端にわがまま放題暴れ出すコン太を俺は追いかける。

「お前、一体俺のなにが気に入らないって言うんだっ!」
『おいらにコン太なんて変な名前付けたのがそもそも気に入らないんだぞっ』

 『もっと格好いい名前が良かった!』そう言ってコン太はぷいっとそっぽを向く。

「格好いいって、どんなんだよ?」
『おいら霊験あらたかな妖狐の末裔だぞ? 大昔のご先祖様は妲己だっきとか阿紫あしとか狐仙こせんとかカッコいい名前で呼ばれてるのに、なんでおいらはコン太なんだよっ! ダサすぎだろっ!!』
「そんな事言われてもな……」

 急に名前を決めろと言われて、小さな狐だったし単純に見た目でコン太と命名してしまったのはまずかったか。

「だったら自分で格好いい名前考えればいいだろ? 別に俺はコン太って名前にこだわったりしてねぇし」
『制約で縛られてるからもう変えられないよっ! ホント最っ低!』
「制約?」
『なに? あんた制約も知らないの? あの御堂とかいう人間が俺の名前をコン太で縛ったんだ、しかもあんたの守護役とかやる気起きな~い』

 なんだこいつ? 最初は物々しい喋り方してたくせに中身は本当に見かけ通りのガキなんだな。マジ腹立つ。
 ぴーぴー泣いてたから同情して連れ帰ってやったのに、こんな事ならあの時御堂の言う通り祓っとけばよかった。

「はん、お前みたいなガキ、どうせ守護って言ったって大した事できないんだろ」
『あ? おいらを馬鹿にすんのか? おいらは霊験あらたかな妖狐の末裔だって言ってんだろ! 見てろよ!』

 言うが早いかコン太の身体がぶわりと膨れて掌サイズからむくむくと大きくなっていく、そしてそれはいつしか姿形を変え人の姿へと変わった。
 そこに現れたのは俺と同年代くらいの美少女で俺はぽかんとしてしまう。しかもその格好はどこのアイドルだ? というようなぴらぴらフリルの付いたワンピース姿で、かなり浮世離れしている。
 あれか? テレビの歌番組でも参考にして化けたのか?

「どうだ! 驚いたかっ!」
「おまえ、女だったの……?」
「おいらオスだけど、昔から狐は美女に化けるもんだっ!」

 えへん! と胸を張るコン太。そうか、女じゃないのか、それは残念。

「で、その姿で何してくれんの?」
「え?」
「お前、俺の護衛だろ? 俺の事守ってくれるんだろ?」
「………………」

 長い沈黙「まさか、それだけ?」と、俺が笑うとコン太はまたまた拗ねたような表情で「おいらが化ければ皆ビックリするもん! あそこの病院でも皆逃げてったもん!!」と騒ぎ立てた。
 はは、マジか……ビックリするくらい役に立たねぇ。それでよく御堂にたてついたな、はったりもいいところじゃねぇか。

「お前、今絶対おいらの事馬鹿にしてんだろっ! おいらだってこんな首輪なかったらお前の喉笛嚙み切って殺す事だってできるんだからなっ!」

 美少女の姿から今度は巨大な狐の姿になったコン太が片腕をあげて脅すように俺の顔を睨み付ける。

「それもどうせはったりだろ、でかくて邪魔」
『むぅぅ、お前なんか嫌いだぁぁぁ!』

 ぽんっとコン太の姿が元の掌サイズに戻った。うん、まだこの方が可愛げがあるな。

「まぁ、どのみちお前の家が見付かるまでだ、我慢しろ」

 俺がぽんっと頭を撫でると何故かコン太がビックリ眼でこっちを見やる。

『おうち、探してくれるの!?』
「元からそのつもりだけど? どっかの稲荷なんだろ? 一朝一夕には見付からないかもしれないけど……って、お前なにっ!」

 コン太が何故か全力で俺に突進してきてそのまま俺の頭の上にちょこんと乗っかった。

『おいら、頑張る』
「は?」
『だからちゃんと仕事するって言ってんの、おいらお前の事ちゃんと守るから、お前も早くおいらのうち探せ』
「現金な奴だな……」

 俺は苦笑して頭の上に乗っかるコン太を撫でた。その毛並みは驚くくらいモフモフのふわふわで気持ちが良かった。
 施設ではもちろんペットなど飼う事はできない、実は犬や猫を飼うのは憧れだったんだよな……と、俺はついモフモフとその毛並みを撫でまわしてしまう。

『さあや、くすぐったいんだぞっ!』
「俺の名前は優斗だ」
『御堂がさあやだって言った!』
「まぁ、どっちでもいいけどな」

 そんなこんなで俺とコン太の利害関係は一致した。とはいえ役に立ちそうにもない護衛だけれどいないよりはマシだろう。なにせ霊験あらたかな妖狐の末裔らしいからな(笑)

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