ある幸せな家庭ができるまで

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第三章:出産編

未来予知(さきよみ)

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 扉の奥は廊下になっている、ハインツはもうここへは何度も足を運んでいるので躊躇う事なく奥へと進む。薄暗い廊下の先に光が見えた。その光は垂れ幕越しに奥の部屋の光が漏れているのだ。目指すのはたぶんその部屋。暗闇の中の光、なんというか演出的にはばっちりだよな、なんとなく厳かな気持ちになる気がしなくもない。
 ハインツがその垂れ幕を捲り上げると部屋の奥の方に人影が見えた。その人は全身を長いローブで覆い隠しているがとても美しい男性だった。長い髪は陽の光にキラキラと反射する白銀色で、けれどそんな髪色をしているのにも関わらず容姿はとても若く美しい。
 ローブのせいで彼の肌はほとんど見る事が出来ないが肌も驚くくらいに白いのが分かる。天窓から零れる光が彼に集中するように設えられているのだろう、そんな光の中に佇む彼は神々しい神様のようにすら見えて俺は微かに息を呑んだ。

「ハインツさん、また、おいで下さったのですね」
「はい! 僕、I・B先生の大ファンなので!」

 なるほど、占いの結果もさる事ながら、どうやらハインツはこの占い師自身にも魅了されているのだろう、確かにこれだけ美しければ目を奪われるのも分からなくはない。

「そちらは?」
「友達を連れてきました! こいつ先生の占いに滅茶苦茶懐疑的なんで、なんか言ってやってくださいよ!」
「ふふふ、別に信じる信じないは人それぞれだもの私はそれを他人に強制するつもりはないよ。信じる人だけ信じてくれたらそれでいい、君のようにね」

 ふわりと微笑む占い師、その瞳は光の加減で紫にも赤にも見えてそれだけ取ってもとても神秘的だ。

「子供が、おいでなのですね」
「え!? ああ――」
「綺麗な色、でも……」

 急に占い師の顔色が陰る、「でも」なんだよ!? ってか綺麗な色ってそもそもなんだ! 思わせぶりなのやめろよな、いや、それがそもそもこの人の商売なんだろうけど!
 占い師が俺を椅子に座るようにと促した。そして腹にローブで隠れた手をかざす様にして何か考え込んでいる。

「あなた、もしかして過去にワームに襲われた事がありますか?」
「え? 何でそれを!」

 占い師の常套手段、最初にアンケートやら問診票やらを書かせておいてそれをさも知っていたかのように語りだす、待ち合いで待っている間に俺達はそういう問診票を書かされていて、そういうインチキ占い師だと頭から信じていたのに何故かピンポイントで書いてもいないワームの話を振られて俺は驚く。

「不安、不遇、恐怖、混乱」
「は!?」
「この子は残念ですが、生まれるべきではない」
「ちょっと!? あんた突然何を!」
「そうですよ、さすがに先生でもそれは酷い!!」

 突然の腹の子に対する完全否定、間もなく生まれるというのに何故そんな事を言われなければならないのか。占い師の信奉者であるはずのハインツですら眉を顰めて抗議する傍ら、占い師は困ったように眉根を寄せた。

「申し訳ないけれど、私は自分の視たものをそのまま語る事しかできないのだよ」
「視たって一体何を……」
「この子は強い、強いゆえに周りを不幸にしかしない。それは親であるあなたも例外ではない……あぁ、ダメだ――私を呼ぶな!」
「なに――」

 言った刹那、占い師のローブが大きく膨れ上がる、それは人の体裁を無視した形に。占い師は己の身体を掻き抱くようにして膝をつき、呻くように崩れ落ちる。

「先生!? ちょっと誰か! 誰か来て!!」

 ハインツが部屋の外へと駆け出していくのだけど、俺は機敏には動けなくて呆然と彼のその変容を見守るしかできない。長いローブ、その裾端から覗くもの、俺はそれに見覚えがある。それは、俺がこの世界にやって来た日、俺を襲ったあの忌々しい触手ワームそのもの。

「あんた、それ……」
「その子は私と同じ、幸福には絶対なれない。産むべきじゃない、産んでは、駄目だ……」

 占い師のただでさえ白い顔が蒼白に、彼は呻くように意識を失う。そしてそれと同時に彼の変容は止まり身体も元の大きさへと戻っていく。俺は恐る恐る彼のローブの端を捲った、けれどそこにあったのは普通の人間の身体で先程の触手のような物は見られない、けれどその彼の手の指が人というには長すぎて、俺は息を呑んだ。

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