僕のもふもふ異世界生活(仮)

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僕達の最終決戦①

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 僕の前に聳え立つ巨大な塔、それはここが剣と魔法の不思議な異世界である事を忘れさせられそうになるほど大きく巨大な建築物だった。実際建築基準法とかどうなってんだろう? とか思うけど、もしこれが魔法で建てられたものだとしたらそんなものはそもそも存在しないのだろうし、何か不具合が出てもきっと簡単に魔法で直してしまうのだろう。

「シロさん、重くない?」
「何がだ?」
「何がって、僕が」
「スバルはとても軽いぞ、風でも吹けば飛んで行ってしまいそうで捕まえていないと心配で仕方がない」

 そう言ってシロさんは片腕で抱き上げた僕を抱く腕に力を込めた。
 僕達、一度は離れ離れに引き離されてるしね、シロさんはこの腕を離したらまた僕がどこか遠くへ行ってしまうかもしれないと思っているみたいだ。だけどもうそんな事はさせないけどね、僕は何度でも帰って来る、だってここが僕の居場所だから。
 シロさんは他の大型種の獣人に比べると少し小さい。だけど、僕達人間に比べればとても大きくて、一歩の歩幅がとても大きい。歩く速度も勿論全然違っていて、今までは僕の歩く速度に合わせてくれていたんだなって、今になって初めて気付いた。
 他の獣人さん達の歩幅はシロさんより更に大きい、シロさんも少し速足に歩いていて僕達人間は到底彼らのスピードには付いていけない。だから北斗は獣人コタの肩の上に乗っているし、大樹さんも別の大きな獣人さんに肩車されるようにして頭に引っ付いている。
 北斗と大樹さんは獣人さん達がいつでも戦闘態勢に入れるように獣人さんの両手を開けているのに、僕だけ完全にシロさんの片腕を塞いでいる状態だから、ちょっと駄目なんじゃないかと思うんだけど、シロさんは僕を他の獣人さんに預けるという考えはないみたいで、僕の頬に頬を摺り寄せた。

「シロさん、くすぐったいよ」
「さっきよりスバルの顔色が良くなってほっとした」
「僕、そんなに酷い顔してた?」

 僕の言葉にシロさんは頷く。確かに澪を攫われて完全に血の気が引いてたのは間違いないけど、自分ではそこまでのつもりではなかったので、また心配かけてたんだなと申し訳ない気持ちになった。

「もう大丈夫だよ。魔力回復のアイテムも貰ったし、これもなんかレベルアップしたし」

 そう言って僕は僕の腕に嵌った腕輪を撫でる。実はずっと付けっぱなしだったビットさんに貰った金色の腕輪、それは魔力を制御する呪いのマジックアイテムで魔術を使うたびに多量の魔力を放出してしまう僕の為にビットさんがくれた物だった。
 僕はこれのお陰で無駄に魔力の消費をしなくなったと思ってたんだけど、実のところそれは事実と違っていて、僕が魔法を使うたびにこの腕輪に魔力吸収されてただけっぽいんだよね。確かに無駄に放出する事もなくなってたんだけど、その無駄分は腕輪に蓄積されていたみたいでさ、さっき北斗の足元に魔力を打ち込んだ後、妙にきらきらし始めて模様が変わったんだ。それで、変だな? と思って分かりそうな人に尋ねたら、どうも腕輪の呪いが解けて新たな魔道具に変わったらしいんだよね、これ。
 で、その変化内容が魔力消費制御の機能はそのままに、魔力効果の増大、使用者の魔力量増加って、これゲームでいう所の最終最強アイテムなんじゃないの? ってレベルの上がり方で、今の僕にはうってつけの魔道具に変化を遂げてくれたんだよ。やったね。

「さて、いよいよもってこの先だな。この先は一定以上の免状を持っていないと入れないエリアだ、人の居住区にもなっていて警戒も厳重になっている、気を付けろよ」

 塔の周りは大きな壁に囲まれている、その壁の内側と塔の中がどうやらこの世界の人の暮らす場所であるらしい。そういえばこの場所見た事あるな、確か北斗のお守り袋に入ってた写真に写ってた場所だ。僕達が生まれる前、うちの両親もここに来た事があるのか……なんかちょっと感慨深いな。
 壁には大きな門が幾つかあり、そこを通らなければ中に入る事は出来ない。けれど警備が立っている訳でもなく、そこにどっしりと門が構えているだけで厳重に警備されているようにはあまり見えないんだよね。だってそこには門番みたいな人すら立ってないんだよ? おかしくない?
 まずは順番に免状持ちの獣人達が門を潜る、もちろん当然だけど何事も起こらない。
 コタに乗った北斗もそのまま通過、だけど大きな狼獣人とそれに乗った大樹さんが通ろうとした時、その異変は起きた。突然行く手を阻むように目の前に柵がおりる、大樹さんと獣人さんはあわあわとしていて、そこにしゅるりとたぶん転移魔法で現れたのだろう屈強な獣人が立ちはだかった。なんか腕に鱗とか見えるんだけど爬虫類系の獣人さんかな?

「ここは資格のない者は通れない、資格なき者は去れ!」
「オレはちゃんと資格を持っているぞ、見ろ! 妻を連れての里帰りだ、何か文句があるのか?」

 獣人は大樹さんを頭からおろして片腕で抱き上げると、目の前の獣人に見せつけるようにして反対側の腕を差し出す。すると差し出した腕からぽわっと浮かび上がった紋様に相手の獣人は瞳を細めた。

「ふむ、確かに資格はちゃんと整っていると見える、何故だ? 誤作動か?」
「確認ができたのなら通してもらうぞ、妻が怯えている」
「分かった、通れ」

 わりとあっさりと二人は門を通り抜け、向こう側へと抜けて行った。続いて仲間が門をくぐろうとすると、またしても目の前に柵がおりた。

「む? これはどういう事だ?」

 警備の獣人も立て続けに柵がおりるので少々困惑した様子で、次の獣人を見やる。

「言っておくが、俺も免状は持っているぞ」

 そう言って差し出した腕からはやはり紋様がほわりと浮かび上がり警備員は「むむむ」と唸る。

「なんだ? どういう事だ? 門が壊れたのか?」
「どうでもいいが早くしてくれ、後ろがつかえているんだ」
「あ、ああ……うむ、いいぞ、通れ」

 警備員は門のシステムが故障したとでも思ったのだろう、目視で免状を確認すると並んでいる者達を次々と中へ入れてくれて僕達もすんなり門を通る事ができた。まぁ、僕達の免状は実のところ偽造したモノだから門のシステムは正常に作動してたんだけどね。
 免状ってある一定の資格を持った者がそれ以下の免状しか持ってない者にその資質有りって判断すると与えられるものなんだけど、仲間の中には魔導士も武闘士も剣闘士もいるからね、それぞれに素養なしだって分かっていながら免状を出したんだよ。
 それがどの程度効力のある物なのかは誰にも分からなかったんだけど、なんとか獣人さんの目は誤魔化せたみたい。門のシステム的にはアウトだったみたいだけど、中に入っちゃえばこっちのものだ。

「どうにか全員通り抜けたな」

 北斗はそう言って皆を見回す。
 門を抜けた先、そこは外の世界とは少し違っていて右を見ても左を見てもどこか煌びやかな都会の街だった。僕が見たことのある街はノースラッドと狼の集落だけだけど、何かが違う、その何かが何なのか分からなくて周りを見回し僕は気付く。
 そもそも立ち並んでいる店の種類が違うのだ、今まで僕が見てきた街の風景は食料品や生活雑貨なんかを売っている生活に根差したお店が多かったのに対して、ここにあるお店は服やアクセサリーなんかの装飾品のお店が圧倒的に多い。しかもそれは煌びやかではあるのだが機能性には乏しそうな物ばかりで、生活臭のようなものが一切感じられないのだ。

「なんか派手だね」
「まぁ、そうだな。でも、この辺の飾りはスバルに似合いそうだ」

 そう言ってシロさんが指さすのは女物の髪飾りで、この世界は男女の区別も曖昧だし、付けても問題はないのだろうけど、僕は少しだけ苦笑した。

「スバルはこういう物は嫌いか?」
「別に嫌いじゃないけど、僕には似合わないよ」
「そんな事はないと思うが……」
「おい、そこの馬鹿夫婦、今日は観光に来てんじゃない、よそ見してんな」

 北斗に怒られ僕達は慌てる。確かに僕達はここに遊びに来た訳じゃない、だけど中央の門の中は外の世界が侵食されているなんてそんな不穏な空気は一切なく、道行く人達は楽し気にウィンドウショッピングを楽しみ、カフェでは呑気にお茶を飲んでいる。そこにはなんの変哲もない日常が繰り広げられていて、まるで僕達の方が場違いに感じるくらいだ。
 人と獣人の数の比率も大体同じくらいかな? まるでデートでもしてるみたいに獣人と人が腕を組んで楽し気に歩いていくのとすれ違った。今まで外で人に会った事もなかったのに、本当にここにはたくさんの『人』がいてびっくりだよ。

「やっぱり、あそこの塔の中だな」

 大樹さんが僕のスマホを操作しながら画面と塔を見比べている。美鈴のスマホの位置情報、そこは街の真ん中に聳え立つ塔の内部を指しているらしい。

「中央管理棟……か」
「あそこは具体的に何の建物なの? 偉い人達が働いてる所?」
「いや、その手の建物は更に奥だ、中央管理棟はその名前の通り管理してるんだよ」
「管理? 何の管理?」

 管理棟と言うからには何かを管理する建物だって事は僕にだって分かるよ。だけどこの世界を管理している偉い人達が働いている場所じゃないって言うなら一体何を管理されているというのか……

「結婚だよ、結婚! あそこは番斡旋所だ」
「番……斡旋所?」

 北斗の言葉に僕は驚く。いや、でも確かに獣人達はここ中央に嫁を娶りに来るわけで、そんな施設があっても不思議ではないけど、それが一番目立つ建物なのってどうなの? でも、ここに来る目的が大体それだと思えば不思議じゃないのかな?

「人の大半もあの塔の中で暮らしてる、人は完璧に管理されているんだよ、だから管理棟だ」
「…………」

 なんだろう、ものすごい違和感。まるで人工繁殖させられている家畜みたいな響きに僕は眉をひそめた。でもこの世界の仕組みが元々そうなのだから、仕方がないのかな。
 「行くぞ」と言われて僕達はその『中央管理棟』へと足を向ける。そこには見た事もない数の人間がひしめき行きかっていた。
 まだ小さな子供も駆けまわっていて、そこが結婚の斡旋だけではなく、普通に人の暮らす『家』である事は見ただけで何となく理解できた。なんだろう、大きなタワーマンションみたいな感じかな?
 建物の最下層はまるでショッピングモールで、そこで生活雑貨は大体調達できるようになっているみたい、だから建物の外には生活感のないお店ばかり並んでいたんだね。納得。
 基本的にはこの建物の中で人の生活は完結できるみたいで、僕みたいな人間には引きこもり待ったなしな環境だと思うんだけど、皆そんな風にはならないのかな?

「あなた達、番相手を探しにきたの?」

 僕達の前を歩いていた仲間が若い女の子に声をかけられた。

「どんな子がタイプ? 可愛い子? 大人しい子? それとも私みたいなタイプはどう?」
「え……いや、どうと言われても……」

 仲間は戸惑った様子を見せるのだが、その少女はぐいぐいと押しの強いタイプなのだろう仲間の腕を撫でて「ふわふわ~」と可愛らしい笑みを浮かべた。
 なんだろうこれ? ナンパ? いわゆる逆ナンってやつ?
 気付けば他の仲間達も男女問わず人に囲まれ困ったような、まんざらでもないような表情を浮かべていて、これってもしかしてハニートラップっていうやつなんじゃと僕は苦笑した。
 それにしても……と僕は思う。美鈴の言う通りだ。ここにはたくさんの人がいる、だけど容姿はまるで兄弟姉妹のように似ている者達が多い。と言うか顔立ちが整っているからどうしても似ちゃうのかな? パターンは何パターンかありそうだし、髪型やら服装でまた見た目も変わる。性格は各々違っているみたいだし別人なんだろうけど、獣人の皆は違和感を持たないのかな? 
 僕がそんな事を考えていると、僕を抱いているシロさんが一人の少女をじっと凝視しているのに気が付いた。まるで食い入るように凝視しているその瞳が気に入らない僕は、シロさんの顔を掴んで僕の方に向けた。

「なに? タイプの子でもいたの?」
「え……いや、そうじゃない。あそこの人の顔立ちがどうにも母によく似ていてな……」

 シロさんが指をさす先、綺麗な長髪の少し控え目な態度の少女はシロさんのお母さんに似てるんだ、ふうん、なんかちょっとシロさんにも似てるかも。

「シロさんって、意外とちゃんと人の顔の区別付いてるよね、他の皆はあんまり気にしてなさそうなのに」
「? それはそうだろう? 誰が誰だか分からなかったら不便だろう?」
「うん、そうなんだけど、ごめん、僕も獣人さん達の顔ってあんまり区別できないんだよね。たぶんそのうち慣れると思うんだけど、今現在シロさん以外の獣人さん、誰が誰だかほとんど分からない」

 「そんなものか?」とシロさんは小首を傾げるんだけど、母さんも言ってたんだよね獣人さん達は人の美醜をさほど気にしない、というかたぶん分かってないってさ。パパは異世界からやって来た母さんが物珍しくて母さんと番になったんだって。「失礼な奴だ」と母さんはぷりぷり怒っていたよ。
 その点シロさんはちゃんと僕を僕だと認識して好いてくれたんだから凄いよね。まぁ、最初は北斗に似てたから好いてくれただけかもだけど。

「北斗が乗ってるのはノースラッドで僕達に絡んできたコタだよね?」
「あぁ、そうだな」
「で、大樹さんを頭に乗せてるのがシロさんと一緒に南の砦まで来てくれた内の一人なんだろうなってのは分かるんだけど」
「あれはロウヤだな、で、そこにいるのがグレイとバジル、向こうに居るのは私の父親ジロウ」
「あれ? 一人足りなくない? 確かシロさんの友達もう一人いたよね? えっと……確か、ウルさん?」

 仲間の中には狼の獣人が四人いる。数的に合っていたから全員あの時のメンバーかと思っていたら、一人はシロさんのお父さんだったんだ。僕、お父さんに全然挨拶とかしてないけど、いいのかな?
 そんでもって、僕の問いかけにシロさんが少しだけ苦い表情を見せるの何でなのかな?

「ウルはヨセフの側についた、ここにはいない」
「え?」
「私がシルス遺跡で捕まったのはウルが私をお前の父親の関係者として密告したからだ、幼い頃に魔物に両親を殺されたウルは魔王の使いと呼ばれた大賢者クロームを憎んでいる。この世界に魔物を呼び込んでいるのがクロームだと信じているんだよ」
「そうなんだ。なんかごめん」
「何故スバルが謝る?」
「だって、やっぱりパパは全く無関係って訳じゃないから。パパは切り捨てる時には平気で他人を切り捨てられる人だよ、あっちとこっちを行き来して魔物を呼び込んでたのも間違いじゃない、だから……」
「だがそれはあの方自身が負う罪で、スバルが負う罪ではないだろう?」

 確かにそれはそうなのだろうけど、それでもやっぱり大賢者クロームは僕の父親なのだ、僕はそれに責任を感じずにはいられない。

「スバルは何も気にしなくていい」

 「うん」と頷いたものの、やはり僕の心は沈んでしまう。パパと僕とは親子と言うだけでパパのした事は僕の預かり知らぬ事ではある。だけどパパの身勝手さで不幸になった人がいるのなら、僕はそれを自分には関係ないと言い切る事はできないんだ。

「おい、お前ら、いつまでも遊んでんじゃねぇよ。あと大樹、方角はこっちで合ってるのか?」
「あぁ、合ってる……というか、もう着いてる。場所はこの辺で間違いない、とするとここの上か下か」
「まぁ、そんなこったろうと思っていたよ、上は人の居住区だ、許可がなければ上がれない。さて、どうするか」

 北斗がそう言って天井を見上げた時、北斗の背後から一人の子供が歩いてきた。年の頃は五歳か六歳、僕はその子供に見覚えがある。背筋にぞっと悪寒が走った。

「北斗、後ろ!」
「え……?」
「よく来たね、待っていたよ」

 あどけない姿の少年はにこりと笑った。けれど僕はもう知っている、目の前のそいつは少年なんかじゃない、醜悪なただの化け物だ。
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