童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第一章

夫婦喧嘩は犬も食わない

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 教会で自分のステータスを確認し、続けて僕は身分証の再発行を修道女シスターさんにお願いした。
 あのステータスを教えてくれた水晶に一体どんな機能が備わっているのかよく分からないのだが、本来であれば誰もが持っているはずの身分証、それを検索にかけて再発行してくれるらしい。
 ただ僕はそれを紛失した訳ではなく元々持っていなかった訳で、そんな状態で再発行してもらう事は可能なのかとドキドキしていたのだけれど普通に発行された。一体どういう仕組みなのかが分からない。まぁ、ちゃんと発行できたのだから良しとする。
 手渡された身分証は名前と年齢・種族・職業が書かれただけの名刺のようなものなのだが職業『迷子』はどうかと思ったけどな。
 教会で無事に身分証を再発行してもらった僕達は今度は連れ立って冒険者ギルドへと向かう事になった。
 冒険者登録の試験をするにも手続きが必要だし、実は冒険者であったらしい二人が依頼を終えた報告をしなければいけないと言ったのもある。それにギルドには魔術や体術の修練場もあるという事で、どうせ練習するのであればそこでという事で話はすぐに纏まった。
 道すがら冒険者についてアランとルーファウスに尋ねると、冒険者には階級ランクというモノがあるらしい。ある意味それは定番設定だからその辺は僕もすぐに理解した。
 階級は10段階あって上からSSS・SS・S・その下にA~G まである。ちなみに二人の階級はアランが『B』ルーファウスが『A』で、かなりレベルが高い冒険者だった事が分かって僕は驚いた。二人とも若いのに凄いな。
 ちなみにS以上の階級は言うなれば名誉階級のようなもので何かしらの功績をあげた冒険者に与えられる特別階級なのだそうだ、なので普通に冒険者をしているだけならばAランクが最上ランクになるらしい。
 階級を上げるには依頼をこなすほかにそれぞれの階級に応じてこれまた試験があったりもするらしい。まぁ、その辺は僕にはまだまだ先の話だからどうでもいいけどね。
 冒険者ギルドでは階級別、職業別に仕事を斡旋してくれるらしい。難易度の高い依頼に関してはパーティでの依頼もある。アランとルーファウスは階級と年齢が近い事とそれぞれ近接戦・遠距離戦特化のため戦闘でのバランスが良いとの事で二人で組む事が多いのだそうだ。
 現在受けている依頼より更に難易度が高い依頼を受ける場合には他の冒険者とパーティを組む事もあるらしいが、この辺の簡単な仕事なら二人で充分だと笑っていた。

「この辺は凶悪な魔物も少ないし、わりと平和だからなぁ」
「そうそう、紛争地帯もないし田舎だからね。冒険者としては退屈な土地だと言う者もいるけど、私はこの穏やかな土地が好きなんだ」
「俺はこの土地でもう少し稼いだら北にあるダンジョンに挑戦しようと思っているけどな!」

 ダンジョン! あるんだっ!
 ダンジョンという言葉に反応して顔を上げた僕にアランはにっと笑みを見せた。

「お? タケルはダンジョンに興味があるのか? ルーファウスはそういうのに全然興味なさそうでつまらないんだよなぁ。Aランク冒険者のくせに冒険する気が全然ないんだぜ」
「やりたい事は既に一通りやり尽くしましたのでね」
「お爺ちゃんかよ!」
「人族の年齢で数えれば立派な年寄りだよ」
「あれ? もしかしてルーファウスさんって人族じゃないんですか?」

 僕がルーファウスに問いかけると、肩の辺りでゆるりと纏めた長い髪を持ち上げて彼は耳元を見せてくれた。

「私はハーフエルフだよ」

 そう言った彼の耳は確かに人と比べると形が少し尖って見える。それにしてもエルフ! 獣人に続いてエルフ!! アランに続いてこっちもファンタジーの住人だった!!
 やけにキラキラした美形だとは思っていたけれど納得だ、エルフは美形! これは絶対! お約束だもんな!

「ちなみに年齢を聞いても……?」
「んふふ、幾つだと思う?」

 そう言ってルーファウスは誤魔化すように笑みを浮かべた。あまり年齢は聞かれたくないのかな? アランと歳が近いと言っていたのは見た目年齢が近いってだけの意味だったのかもしれないな。
 そうこう喋っているうちに僕達は冒険者ギルドへと辿り着く。建物は民家に比べると何もかも作りが少し大きくて、中に入ると天井も予想よりも高くてまるでホテルのようだ。けれど、それが何故なのかギルドに入ってすぐに僕は気が付く、だってそこにいる冒険者の体格がそもそも皆大きいのだ。
 ギルドに居る冒険者たちの種族は様々で色々なタイプの人がいるけれど、一様に体格はがっしりしていて僕は少し気後れした。
 これ、僕ってば完全に場違いなんじゃないのかな?

「タケルはそこでちょっと待ってて」

 そう言ってアランとルーファウスがカウンターに行ってしまうと、僕はもうどうにも居たたまれない。冒険者たちの視線が僕に集まっているのが分かる。そうだよね、こんな所に子供が一体何の用だって思うよね! ごめんなさい、だけど虐めないで!

「おい、坊主!」

 突然大きな声で声をかけられ僕はびくりと身を竦ませた。声の方を向くとそこに居たのはいかにもな屈強な体躯の強面の男性とその隣にはやはり筋肉がとても美しい女戦士がいて僕をニヤニヤと眺めていた。
 二人はジョッキを手にしていてたぶんあれは酒だと思う。冒険者ギルドでは飲食もできるようだが、こんな昼間から飲んだくれている冒険者ってどうなのかって僕は思うよ!

「えっと、なんですか?」

 女戦士が笑みを浮かべて僕を手招く。正直お近づきにはなりたくない、だけど無視する勇気が僕にはない。僕が恐々二人に寄って行くと女戦士にがしっと腕を掴まれ「君幾つ?」と問われた。

「え、あ……10歳です」

 僕が女戦士の問に答えると今度は男性の方が「誰かの子か? まさか冒険者って事はないだろう?」と矢継ぎ早に問うてくる。
 それにしてもやっぱり飲んでいるのは酒みたいで息がとても酒臭い。自分は下戸で元々酒がほとんど飲めないので酒の匂いがとても苦手だ。それに怖い、正直逃げたい。

「えっと、僕はまだ冒険者じゃないですが登録をしに試験を受けに来ました」
「だから言ったろ!」
「いや、でもよぉ」

 女戦士が何故か男に勝ち誇ったような顔をしている、一方で男性の方は「うちのにはまだ早いって」と恐ろし気な顔面を歪めた。

「いいや、あの子はもう立派に冒険者として働ける! 私だってあの子の歳には冒険者として働いてた!」
「だけどよぉ、今の所そんな無理して働かせなくても俺達の稼ぎで養っていけるんだし、これからは学も必要だろう? 冒険者なんて明日も知れない職業より他にも……ひっ」

 男性が言い募っていると女戦士がだんっ! と、ジョッキを机に叩きつけた。その衝撃に僕も驚いたのだが一緒に吞んでいた男性も驚いたようで小さく悲鳴をあげる。どうやらこの二人組の主導権は女性側にあるようで、それにもしかしたら二人は夫婦……?

「男に学なんていらない! 頭でっかちのひょろひょろしたもやしみたいな男が私はこの世で一番嫌いなんだっ! 男は体力、筋力、そして度量! 頭なんてなくても生きられる!」
「いや、でもなぁ……」

 どうやら奥さんは子供を早く働かせたいみたいで、旦那さんはもっと勉強させたいみたいだな。なんだろう、逆のパターンはよく聞く気がするけど、このパターンは珍しいな。

「坊や、君は冒険者という職業は素晴らしいと思うだろう!」

 奥さんに凄みのある笑みを向けられ僕は困惑したものの頷いた。

「確かに冒険者という職に関して俺だって文句はない、だが今は冒険者だってやみくもに魔物を狩る依頼だけをこなす時代じゃないんだぞ。上を目指すのならばもう少し学ばせることもした方がいいと俺は思う」

 うんうん、確かに旦那さんの言う事にも一理ある。

「だけどうちの子はもう13だよ。この子はまだ10歳なのに冒険者だ。同世代に置いて行かれるあの子が可哀想だと思わないのかい!?」

 あ~そういうのもあるのか……確かに周りの同世代がどんどん階級上がってるのに、遅れて始めて追いかけるのは大変かもなぁ。でも冒険者って幾つからでも始められるらしいし、そこはあんまり気にしなくていい気もする。

「あの~、僕が意見を言うのはおこがましいかもしれませんが、そういうお話は本人を交えて、本人の意思を確認して決めた方がいいと思います。子供にとって親に勝手に将来を決められる事はあまり嬉しくないと思いますので」

 僕が小さく手を挙げてそう言うと夫婦は顔を見合わせ「それもそうだ」と頷いた。勘定を済ませて夫婦はギルドを後にする、去り際に「坊主、試験頑張れよ」と二人に頭を撫でられた。
 異世界だろうが何だろうが親は親で考える事に大差はないし子供の将来を案じる姿は向こうの世界と変わらない。怖そうな人達だと思ったけど意外に普通だったなと僕は拍子抜けした。
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