童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第三章

僕だけの秘密の部屋

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「うわぁぁ!」

 不思議な魔法陣に触れた瞬間、魔法陣の光が僕を包み込み、僕の身体は強制的に何処かへ転移させられてしまったようで、不意打ちで空中に放り出された僕はしたたかに腰を打ちつけた。

「いったぁ……」

 打ちつけた腰をさすりながら僕は周りを見渡す、そこは12畳程の広さの誰かの居住空間だった。何故僕がそこを居住空間だと思ったかというと、そこにはベッドがあり、台所があり、山と積まれた本があったからだ。ついでに部屋の隅には小さいながらも猫足のバスタブまである、これは明らかに誰かが住んでいるとしか思えない。
 ちなみに部屋には窓などは一切なく四方が壁の完全なる密室だ。傍から見れば牢獄と考えても不思議ではない部屋だが、その部屋には不思議と閉塞感はなかった。
 光が入る隙などない密閉空間、それなのに室内はほんのり明るく照れされている、これは恐らく何かしらの魔術がこの部屋に施されているからなのだろう。
 それにしても、ここはダンジョンの中である、しかもほとんどの冒険者が到達できないはずの48階層で生活を送る人物なんてどう考えても普通じゃない。
 僕はキョロキョロと室内を見回す。どうやら僕は一人でこの部屋へとやって来てしまったようで、近くにロイドの姿はない。

「これはもしや、僕は何かをやらかしてしまったか……」

 あそこにあった魔法陣はこの部屋へと続く転移魔法陣だったのだろう。でも困った、来たはいいがどう戻ればいいのかが分からない。
 僕は改めて部屋の中をぐるりと見回す。この密室から脱出するための手がかりを見付けない事には僕はここから出られない。こんな誰にも見付けられないような場所で餓死とか絶対嫌だ。
 それにしてもあの魔法陣がこの場所へと続く転移魔法陣だとして、ロイドが僕を追いかけてこないのはなんだかおかしい。僕が魔法陣に触れて姿を消したと分かっているロイドなら、後先考えずに僕を追いかけてくるという確信が僕にはある、それは相手がルーファウスだったとしても同じ。
 それにも関わらず僕を追いかけてこないという事は、何か追いかけてこられないような事があったという事だ。
 怪しいのはやはりあの『魔法陣』だけど、僕は魔術の勉強はしていても、まだ陣の勉強まではしていないのだよなぁ……
 魔法陣とは術式をその場に刻み込む事で術を発動させる高等魔術だ、だからこそあらゆる術式をマスターしていないと陣を組む事ができない。
 けれど魔法陣と一口で言ってもその用途は様々だ、例えば竈に火の魔石を組み込んだ魔法陣を組んで簡単に竈に火を起こしてみたり、水道に水の魔石と魔法陣を組み合わせて水を浄化したりなんて使われ方もしていたりする。
 こういった生活に根差した魔法陣は至る所で見る事ができるし術式自体も然程難しくはないらしい。けれどその中でも空間を歪めて人を運ぶという転移魔法陣は特別で、よほど高位の魔術師でなければ施す事は難しいのだそうだ。
 そんな転移魔法陣の術式をさらっと書けちゃうルーファウスはやはり特別で、凄い人なんだよな。
 僕は何処かに外へ出るための転移魔法陣がないかと部屋の中を見て回る。けれどぱっと見ただけではすぐには見付けられない。
 この部屋に住んでた人はもしかしてこの部屋に監禁でもされていたのだろうか? もしそうなのだとしたら、部屋の中には入れても外に出られる仕掛けがない理由にも納得がいく。でもその場合、僕も外には出られなくなってしまう訳で、それは困る。大変困る!
 部屋の中にはたくさんの本が積まれてはいるが然程荒れているようには見えない、埃も積もってはいないし、まるでつい最近まで人が住んでいたような生活感さえ漂っている。その様子を見ると、監禁されているというのは少し違って、どちらかと言えばこの部屋の主は敢えて引き籠っていたという気がしてならない。
 僕が何とはなしに本のタイトルを眺めていくと、その本のほとんどが魔術関係の書籍であると気付く。この部屋に籠っていた人物は恐らく魔術師なのだろう。
 ふと、僕は机の上に置かれた一枚の紙に気付く。そこには誰かに当てたメッセージが残されていた。

『この部屋へ辿り着いた君へ』

 メッセージはそんな文言から始まっていた。

『この部屋へ辿り着いた君へ

 はじめまして、私はこの部屋の主です。唐突ですが、この部屋を君に譲渡します。どうぞ自由に使ってください』
「へ?」

 あまりに唐突な書き出しに、僕の口からは思わず間抜けな声が漏れる。何だかよく分からないのだが、唐突に部屋を譲渡されてしまった。

『君は突然何が起こっているのかと混乱しているかもしれませんが、安心してください、全ては決められた通りに動き、君がここへ辿り着くのは必然だったのです』

 必然? 必然ってどういう事さ!? 
 この部屋の主と名乗る人物からの手紙はまるで自分は何もかも分かっているというような書き方をしていて、僕がここへ来ることもあらかじめ知っていたような口ぶりがとても気味悪い。

『ちなみに、この部屋は君だけの秘密の部屋です。他の誰も立ち入る事はできません。この部屋の物を君が持ち出すのは自由です、この部屋の物は全て君の物だから、大いに活用してくれる事を願っています』

 僕だけの秘密の部屋……他の誰にも立ち入れないってどういう事だ? まるで僕がこの部屋を見付けだすのが分かっていたかのように、僕の為に用意されてたって事? 滅茶苦茶怖い!
 ん、でも待てよ……こんな何もかもお見通しみたいな事する人物は僕の知る限りとても限られているのでは?

「これってもしかして、創造神様?」

 僕がこの世界にやって来た時に一度会っただけの神様からのコンタクトは今まで皆無と言っていい。唯一、エリシア様が神様のお告げで僕を迎えに来たと言った事があったくらいで、それ以外は完全放置だったけど、こんな事できる人物は他に考えられない。
 でも何で今になってこんな部屋を用意する必要があるのだろうか? 部屋どころか身ひとつの無一文で僕を放り出した神様が今更僕に部屋をくれてもどうしていいか分からないよ。
 まぁ、貰えるものは貰っておくけど。

『君はこれから多くの選択をする事になると思う、悩む事もあると思うけど、君の思うがままに進んでいけば未来は必ず開けるはずだから、どうか挫けないで前を向いていきましょう』

 これは予言か? この先の未来も何かしら起こるって暗示なのかな? 僕は平和で呑気に暮らしたいだけなのに、そうは問屋が卸さないぞって、神様もしかして楽しんでます!? だとしたらすごく意地悪だ!
 僕をこの世界へと導いた神様は、僕には選ばれたとしか言わなかったけど、もしかしてこの世界で僕に何かやらせたい事でもあるのだろうか?

『ここへと通じる転移魔法陣の描き方は、ここにある本を読み込めば描けるようになるはずです、頑張ってください、君ならできる』

 それはここにある本全部読み込めって事ですか!? 結構な量がありますけど!? でもその魔法陣を描けるようにならなければ、ここへ来るために毎回ダンジョンに潜らなくてはならなくなる訳で……はい、分かりました。ちゃんと勉強しますよ、頑張ります! 僕はそういうの嫌いじゃないからね!

『最後に、帰還の転移魔法陣はベッドの下に仕込んであります』

 どうりで探しても見付からない訳だよ! この手紙が無かったら確実に見付けられなかった可能性、危ない危ない。きっと、この部屋の持ち主はそれを見越してこの手紙を書いてくれたのだろうな。
 これで帰り方は分かったので、僕は部屋に置いてあるたくさんの本をマジックバックの中へと収納していく。だって、ここに置いておいたら勉強できないし、勉強できなければ魔法陣の描き方を学べない。この部屋を自由に使っていいと手紙の主は言うけれど、自由に使うまでの難易度が高すぎるとは思わなかったのだろうか?
 どちらにしてもしばらくはこの部屋には戻ってくる事は出来ないだろうと思い、僕は詰め込めるものは全て詰め込んだ。ついでに猫足のバスタブも詰め込んだ。何故って? 欲しかったから。
 だってこの世界お風呂文化が本当に希薄なんだよ! メイズの宿屋には確かに公共浴場があったけど、それはどちらかと言えばスパだったし、僕の知ってる風呂ではなかった。
 いずれバスタブを買って自分用の風呂を作るつもりでいたのだけど、バスタブ製作は完全に受注生産、まだそこまで稼げていない僕には高嶺の花だったのだ。だけど、くれるというのならこれは遠慮なく貰っていこうと思う。
 僕のマジックバッグが大容量で本当に良かった。帰ったらさっそく部屋に設置しよう。
 部屋の中のモノをあらかたバックに詰め込んで、僕はがらんとした部屋の中を見渡した。忘れ物はないか最終チェックをして、その下に魔法陣が仕込まれているというベッドの上に乗る。その時に枕元にもう一冊、表紙にタイトルの書かれていない少し厚みのある本が置いてあることに気が付いた。
 これは何だろうかと手に取って、めくって見ようと思ったら本の表紙が開かない。分かりやすく鍵が付いている訳ではないのだが、何かしらの魔術の封が施されているみたいだ。
 表紙を眺め、裏表紙を眺め、上から横から眺めてみるが原理はまるで分からない。

「まぁ、いっか。とりあえず持っていこう」

 僕はそれを片腕に抱えて、ベッドにもう一方の手をついて魔力を流す。すると身体がすうっと浮き上がる感覚と共に、僕は元の場所へと戻っていた。

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