95 / 222
第三章
人生とはままならぬもので
しおりを挟む
子供達と和解し別れを告げて、僕達は再び従魔師ギルドへと足を向ける。
『子供というのは魔物も人も変わらぬな、浅はかではあるが素直で憎めない』
「うん、そうだね」
『俺様も古老のように人の言葉を学んでみるべきか……』
少しばかり神妙な顔でオロチがそんな事を言い出したので「その気があるなら教えるよ」と僕は頷いた。
従魔師ギルドは冒険者ギルド程賑わってはいないのだが、僕達がギルドに足を踏み入れた瞬間、冒険者ギルドで感じた視線とはまた違う視線が僕に注がれるのを感じる。いや、僕にというよりは僕の傍らにいるオロチに、だろうか。
「あ~!!! スライムキング君だ!!」
唐突な大声に僕が瞬間ビクッと身を竦ませると、受付の向こう側からギルド職員が一人にこやかに駆けてきた。
その人は僕達の家に来訪した際、周りが皆オロチを観察をする中、一人だけライムをぷにっていた女性だ。年の頃はまだ十代後半か二十代前半くらいでずいぶん若く見える。
「今日は、どのようなご用件で!? 君が来訪の際にはすぐに呼ぶようにと言われているので、支部長呼んできますね!」
「え、あ、そんな、すぐに帰りますから!」
僕はオロチの従魔登録のための提出書類が欲しかっただけなので、その歓待ぶりに慌ててしまう。
「君が噂のスライムキング? 後ろにいる亜人はスライムには見えないけど」
職員さんが駆けて行ってしまうと、今度はギルドに居たお客さんが僕に声をかけてきた。その人は30代前半くらいの女性で、ボンキュッボンのたいそう魅力的なスタイルをした美女だった。まさかこんな所で、こんな美女から声をかけられるなんて思っていなかった僕は少し緊張する。だって、彼女の見た目は確実に僕のストライクゾーンなのだ。
それにしてもまさかと思うが、僕の『スライムキング』の通り名は従魔師の間で広く知れ渡っているのか!? なんだか少し恥ずかしいぞ!
「噂のスライムはこちらです、ライム」
僕はローブの内ポケットで大人しくしていたライムを掌に乗せて見せると、その女性は「特別なスライムには見えないけれど」とライムのぷにぷにボディを指で突いた。ライムを見た人、皆一度はこれやるよね。やりたくなる気持ちは分からなくもないけれど。
「でも、この王冠は噂通りだな。何処で見付けたスライム?」
「あ、シュルクの街の近くの草原です」
「ああ、あそこか」と、彼女は頷き「でも、そんな特殊個体が生息しているなんて聞いた事もないのに」と首を傾げた。
「それで、そんなスライムキングが連れているその後ろの子は? ずいぶん立派な姿をした亜人だけど、やっぱり特殊個体なのかな?」
「どうなんでしょう、特殊と言えば特殊ですけど……」
「タケル君、よく来たね! 待ってたよ!! ああ、マチルダも来ていたんだ!」
駆けつけた従魔師ギルドのルマンド支部長は遠慮もなく僕と彼女の間に割って入ってくる。
まぁ、恐らく彼が待っていたのは僕ではなく、オロチの方だと思うけど。その証拠に僕に声をかけながらも視線はオロチから離れないし。
そんな興奮気味のルマンドさんは置いておいて、彼女の名前はマチルダというのかと僕は心のメモ帳にその名を刻む。
「ルマンドさん、こんにちは。今日はオロチの従魔登録に冒険者ギルドへ行ったら、書類不備ですと追い返されてしまったので、提出書類を作ってもらおうと思って来ましたよ」
「え、書類不備?」
「はい、大型魔物の登録をするには従魔師ギルドの証明書が必要だとか言って、職員さんに追い返されてしまいました」
「その時、従魔師ギルドの職員証見せました?」
「え、見せてませんけど……」
「そういえば言ってなかったか、申し訳ない! その書類、職員証を提示すれば提出しなくても登録できるよ」
なんてこった! そんな話は聞いてないぞ!(二回目) これではとんだ無駄足じゃないか!
けれどルマンドさんが僕に平謝りするものだから、僕は怒りの矛先を向ける場所がなく溜息を吐くしかない。
「せっかく従魔師ギルドまで来ましたし、後学のために本来はどんな書類が必要なのか教えてもらってもいいですか?」
「はい、いいですよ。こちらへどうぞ。あ、良かったらマチルダも来るかい?」
「いいのかい?」
ちらりとマチルダさんが僕を見やる。僕は一向に構わなかったので、どうぞと頷くと、彼女は僕達に付いて来た。
僕がルマンドさんに連れて行かれたのは、相変らずたくさんの檻が積まれたギルド裏の建物。大小さまざまな檻が置けるようにだろう、スペースはかなり広く取られているその場所で「それでは失礼しますね」と、ルマンドさんはオロチの身長を測り始めた。
『あ、なんだ? 何をする?』
戸惑い顔のオロチだったが、ルマンドさんの手際はとてもてきぱきとしていて、身長の次はメジャー片手に手足などの各部位の採寸をしてメモしていく。
ルマンドさんは一通り亜人姿のオロチの採寸を終えると、次に「では元の姿に戻ってもらっていいですか?」と、にこりと笑みを浮かべた。
「お、いよいよ本体のお出ましか」
僕達に付いて来てオロチの採寸を見守っていたマチルダさんが興味深そうにオロチを見やる。彼女も恐らく従魔師なのだろう、やはり魔物の事となると気になってしまうのだろうな。
そんな興味本位の視線に晒されながら、身体のあちこちを勝手に採寸されたオロチは少し機嫌が悪そうな表情を見せていたのだが、渋々といった感じで元の姿に戻って見せた。
オロチがドラゴンの姿に戻るとルマンドさんは瞳を輝かせたのだが、マチルダさんはぽかんと口を開けたまま固まってしまう。
「なぁ、私は夢でも見ているのかな?」
「夢じゃないですよ! 凄いでしょう! 彼はタケル君の従魔なのです。ああ、何度見ても素晴らしいです。この爪の艶といい太さといい立派ですよねぇ、この逞しい腕に黒光りする鱗も堪りません!」
全く興奮を隠せない様子のルマンドさん、それに対してマチルダさんは「私は聞いていないぞ」と、困惑顔だ。
「驚かせようと思って黙っていましたので当然ですね」
全く悪びれる様子もないルマンドは「はい、では測っていきますよ~」とドラゴン姿のオロチの採寸を嬉々として行っていく。
「君、ドラゴンなんて何処で……」
「あ、その扉の向こうですよ」
「君自身が選ばれたのか!」
「選ばれたというか、成り行きですね。彼のお爺さんに彼を預けられたというか、頼まれごとの見返りに期限付きで従って貰う事になっただけなので」
僕がマチルダさんに事の次第を説明すると、彼女は「君はとんでもないな」と複雑そうな表情で「私も特殊生体保護職員をやって久しいが、君みたいなのは初めてだ」とそう言った。
「マチルダさんも特殊生体保護職員なんですね!」
「まぁね、私は昔から魔物に好かれやすい体質でね、この職業は天職だと思っている。だけど、君みたいに本当に特殊な魔物を保護した事はないよ。私はせいぜい少し珍しい魔物を保護して楽園に送り込む程度だ」
「はは、謙遜謙遜。マチルダは凄いんだよ、彼女が一番最初に従えたのは、あの神獣フェンリルだからね」
「フェンリル!?」
僕が言葉を発するより先に声を上げたのは僕の後ろで控え目に立っていたロイドだった。
「フェンリルって、そんなに凄いの?」
「当たり前だろ、空の覇者がドラゴンで、水の覇者がリヴァイアサンなら、大地の覇者はフェンリルって言われるくらいの魔物だぞ。気位が高くてむやみに人を襲ったりしないから神様みたいに祀っている所だってあるくらいだ」
ああ、それで神獣なんて呼ばれているのか。まだ見た事はないけれど、とても興味深いし見てみたい。そんなフェンリルを従えるなんてマチルダさんって凄いな!
僕が尊敬の眼差しを彼女に向けると、マチルダさんは苦笑して「その辺は少し誤解があるんだ」と、そう言った。
「私はフェンリルを従えていた訳じゃない、フェンリルは私の親で兄弟なんだ」
「? 親で兄弟? フェンリルが……?」
僕が小首を傾げるとマチルダさんは笑みを浮かべて「私はフェンリルに育てられたのだよ」と、そう言った。
曰く、彼女はフェンリルの暮らす聖なる森に捨てられていた捨て子だったらしい、親の顔も覚えていない赤子の頃に捨てられて、そんな彼女をフェンリルは我が子のように育てたのだそうだ。
「ちょうど母フェンリルが子を産んだばかりだったみたいでね、そのついでに育てられた、だから彼等は私の従魔じゃなくて家族なんだ」
ああ、いいな。そういうの何だか素敵だな。
僕も今までライムを家族だと言い張ってきたけれど、そんな僕を生温い瞳で見る人は多かった。魔物は魔物で害でしかなく、従魔師はそんな魔物を従えるという点では僕と感覚は近いけれど、金勘定をしたり研究対象であったり、そういう興味でしか彼等を見ていないのだなと思う事は多々あった。
けれど彼女は彼等を家族と呼ぶのだ、それは僕の感覚ととても近い。
「僕もライムの事は家族の一員だと思っています、同じですね!」
「うん、そうだな。君にはやはり素質がある、ルマンドが気に入る訳だ」
「だろぉ! 僕の見る目はいつだって確かだよ!」
「はは、間違いないな。さすが私の見込んだ旦那様だ」
ん?
「僕の見る目があるのは君を見出した時に既に証明されているからね、奥さん」
んんん?? 旦那様に奥さん……?
「あの、もしかしてお二人って……」
「ああ、そうだった。紹介が遅れたね、彼女は僕の妻のマチルダ、ついでに受付に居たのは僕達の娘だよ」
まさかの支部長の奥さん!! ってか、従魔師ギルドは家族経営か! いや、他にもスタッフは居たような気がするけれど……それにしても、マチルダさんは人妻か……
「そういえば、うちの娘が君のスライムをずいぶん気に入っていてね、良かったらこれからも仲良くしてやって」
「え、ああ、そうなんですね」
確かに彼女はオロチになんて目もくれずライムをぷにっていたものな。ライムが愛されるのは嬉しいけど、何やら複雑だ。
「どうだい少年、なんならうちの娘と付き合ってみるかい?」
マチルダさんが僕の肩を抱いて、少し嬉し気に耳打ちしてきた。ってか、肩! 胸が当たってる!
「えっと……」
「娘は君より年上だろうけど、二つ三つくらい気にならないだろう?」
まぁ、確かに! 僕が見た目通りの年齢だったらね! 彼女は恐らくまだ十代後半くらいか、だけど僕のストライクゾーンにドンピシャだったのは娘さんよりお母さまだったよ!
「タケルはああいう子が好みなのか?」
平静を装いつつも、少しだけ声に不機嫌を滲ませたロイドがぼそりと呟いた。いや、僕の好みは娘さんよりお母さま(以下略)だけど、そんな事を真っ正直に言ったら修羅場待ったなしだよ、絶対に言えない!
「僕はまだまだ未熟者で、誰かとお付き合いするには早すぎると思うので!」
僕はマチルダさんの腕から逃げ出して叫んだ。世の中は色々とままならないよな、とほほ。
『子供というのは魔物も人も変わらぬな、浅はかではあるが素直で憎めない』
「うん、そうだね」
『俺様も古老のように人の言葉を学んでみるべきか……』
少しばかり神妙な顔でオロチがそんな事を言い出したので「その気があるなら教えるよ」と僕は頷いた。
従魔師ギルドは冒険者ギルド程賑わってはいないのだが、僕達がギルドに足を踏み入れた瞬間、冒険者ギルドで感じた視線とはまた違う視線が僕に注がれるのを感じる。いや、僕にというよりは僕の傍らにいるオロチに、だろうか。
「あ~!!! スライムキング君だ!!」
唐突な大声に僕が瞬間ビクッと身を竦ませると、受付の向こう側からギルド職員が一人にこやかに駆けてきた。
その人は僕達の家に来訪した際、周りが皆オロチを観察をする中、一人だけライムをぷにっていた女性だ。年の頃はまだ十代後半か二十代前半くらいでずいぶん若く見える。
「今日は、どのようなご用件で!? 君が来訪の際にはすぐに呼ぶようにと言われているので、支部長呼んできますね!」
「え、あ、そんな、すぐに帰りますから!」
僕はオロチの従魔登録のための提出書類が欲しかっただけなので、その歓待ぶりに慌ててしまう。
「君が噂のスライムキング? 後ろにいる亜人はスライムには見えないけど」
職員さんが駆けて行ってしまうと、今度はギルドに居たお客さんが僕に声をかけてきた。その人は30代前半くらいの女性で、ボンキュッボンのたいそう魅力的なスタイルをした美女だった。まさかこんな所で、こんな美女から声をかけられるなんて思っていなかった僕は少し緊張する。だって、彼女の見た目は確実に僕のストライクゾーンなのだ。
それにしてもまさかと思うが、僕の『スライムキング』の通り名は従魔師の間で広く知れ渡っているのか!? なんだか少し恥ずかしいぞ!
「噂のスライムはこちらです、ライム」
僕はローブの内ポケットで大人しくしていたライムを掌に乗せて見せると、その女性は「特別なスライムには見えないけれど」とライムのぷにぷにボディを指で突いた。ライムを見た人、皆一度はこれやるよね。やりたくなる気持ちは分からなくもないけれど。
「でも、この王冠は噂通りだな。何処で見付けたスライム?」
「あ、シュルクの街の近くの草原です」
「ああ、あそこか」と、彼女は頷き「でも、そんな特殊個体が生息しているなんて聞いた事もないのに」と首を傾げた。
「それで、そんなスライムキングが連れているその後ろの子は? ずいぶん立派な姿をした亜人だけど、やっぱり特殊個体なのかな?」
「どうなんでしょう、特殊と言えば特殊ですけど……」
「タケル君、よく来たね! 待ってたよ!! ああ、マチルダも来ていたんだ!」
駆けつけた従魔師ギルドのルマンド支部長は遠慮もなく僕と彼女の間に割って入ってくる。
まぁ、恐らく彼が待っていたのは僕ではなく、オロチの方だと思うけど。その証拠に僕に声をかけながらも視線はオロチから離れないし。
そんな興奮気味のルマンドさんは置いておいて、彼女の名前はマチルダというのかと僕は心のメモ帳にその名を刻む。
「ルマンドさん、こんにちは。今日はオロチの従魔登録に冒険者ギルドへ行ったら、書類不備ですと追い返されてしまったので、提出書類を作ってもらおうと思って来ましたよ」
「え、書類不備?」
「はい、大型魔物の登録をするには従魔師ギルドの証明書が必要だとか言って、職員さんに追い返されてしまいました」
「その時、従魔師ギルドの職員証見せました?」
「え、見せてませんけど……」
「そういえば言ってなかったか、申し訳ない! その書類、職員証を提示すれば提出しなくても登録できるよ」
なんてこった! そんな話は聞いてないぞ!(二回目) これではとんだ無駄足じゃないか!
けれどルマンドさんが僕に平謝りするものだから、僕は怒りの矛先を向ける場所がなく溜息を吐くしかない。
「せっかく従魔師ギルドまで来ましたし、後学のために本来はどんな書類が必要なのか教えてもらってもいいですか?」
「はい、いいですよ。こちらへどうぞ。あ、良かったらマチルダも来るかい?」
「いいのかい?」
ちらりとマチルダさんが僕を見やる。僕は一向に構わなかったので、どうぞと頷くと、彼女は僕達に付いて来た。
僕がルマンドさんに連れて行かれたのは、相変らずたくさんの檻が積まれたギルド裏の建物。大小さまざまな檻が置けるようにだろう、スペースはかなり広く取られているその場所で「それでは失礼しますね」と、ルマンドさんはオロチの身長を測り始めた。
『あ、なんだ? 何をする?』
戸惑い顔のオロチだったが、ルマンドさんの手際はとてもてきぱきとしていて、身長の次はメジャー片手に手足などの各部位の採寸をしてメモしていく。
ルマンドさんは一通り亜人姿のオロチの採寸を終えると、次に「では元の姿に戻ってもらっていいですか?」と、にこりと笑みを浮かべた。
「お、いよいよ本体のお出ましか」
僕達に付いて来てオロチの採寸を見守っていたマチルダさんが興味深そうにオロチを見やる。彼女も恐らく従魔師なのだろう、やはり魔物の事となると気になってしまうのだろうな。
そんな興味本位の視線に晒されながら、身体のあちこちを勝手に採寸されたオロチは少し機嫌が悪そうな表情を見せていたのだが、渋々といった感じで元の姿に戻って見せた。
オロチがドラゴンの姿に戻るとルマンドさんは瞳を輝かせたのだが、マチルダさんはぽかんと口を開けたまま固まってしまう。
「なぁ、私は夢でも見ているのかな?」
「夢じゃないですよ! 凄いでしょう! 彼はタケル君の従魔なのです。ああ、何度見ても素晴らしいです。この爪の艶といい太さといい立派ですよねぇ、この逞しい腕に黒光りする鱗も堪りません!」
全く興奮を隠せない様子のルマンドさん、それに対してマチルダさんは「私は聞いていないぞ」と、困惑顔だ。
「驚かせようと思って黙っていましたので当然ですね」
全く悪びれる様子もないルマンドは「はい、では測っていきますよ~」とドラゴン姿のオロチの採寸を嬉々として行っていく。
「君、ドラゴンなんて何処で……」
「あ、その扉の向こうですよ」
「君自身が選ばれたのか!」
「選ばれたというか、成り行きですね。彼のお爺さんに彼を預けられたというか、頼まれごとの見返りに期限付きで従って貰う事になっただけなので」
僕がマチルダさんに事の次第を説明すると、彼女は「君はとんでもないな」と複雑そうな表情で「私も特殊生体保護職員をやって久しいが、君みたいなのは初めてだ」とそう言った。
「マチルダさんも特殊生体保護職員なんですね!」
「まぁね、私は昔から魔物に好かれやすい体質でね、この職業は天職だと思っている。だけど、君みたいに本当に特殊な魔物を保護した事はないよ。私はせいぜい少し珍しい魔物を保護して楽園に送り込む程度だ」
「はは、謙遜謙遜。マチルダは凄いんだよ、彼女が一番最初に従えたのは、あの神獣フェンリルだからね」
「フェンリル!?」
僕が言葉を発するより先に声を上げたのは僕の後ろで控え目に立っていたロイドだった。
「フェンリルって、そんなに凄いの?」
「当たり前だろ、空の覇者がドラゴンで、水の覇者がリヴァイアサンなら、大地の覇者はフェンリルって言われるくらいの魔物だぞ。気位が高くてむやみに人を襲ったりしないから神様みたいに祀っている所だってあるくらいだ」
ああ、それで神獣なんて呼ばれているのか。まだ見た事はないけれど、とても興味深いし見てみたい。そんなフェンリルを従えるなんてマチルダさんって凄いな!
僕が尊敬の眼差しを彼女に向けると、マチルダさんは苦笑して「その辺は少し誤解があるんだ」と、そう言った。
「私はフェンリルを従えていた訳じゃない、フェンリルは私の親で兄弟なんだ」
「? 親で兄弟? フェンリルが……?」
僕が小首を傾げるとマチルダさんは笑みを浮かべて「私はフェンリルに育てられたのだよ」と、そう言った。
曰く、彼女はフェンリルの暮らす聖なる森に捨てられていた捨て子だったらしい、親の顔も覚えていない赤子の頃に捨てられて、そんな彼女をフェンリルは我が子のように育てたのだそうだ。
「ちょうど母フェンリルが子を産んだばかりだったみたいでね、そのついでに育てられた、だから彼等は私の従魔じゃなくて家族なんだ」
ああ、いいな。そういうの何だか素敵だな。
僕も今までライムを家族だと言い張ってきたけれど、そんな僕を生温い瞳で見る人は多かった。魔物は魔物で害でしかなく、従魔師はそんな魔物を従えるという点では僕と感覚は近いけれど、金勘定をしたり研究対象であったり、そういう興味でしか彼等を見ていないのだなと思う事は多々あった。
けれど彼女は彼等を家族と呼ぶのだ、それは僕の感覚ととても近い。
「僕もライムの事は家族の一員だと思っています、同じですね!」
「うん、そうだな。君にはやはり素質がある、ルマンドが気に入る訳だ」
「だろぉ! 僕の見る目はいつだって確かだよ!」
「はは、間違いないな。さすが私の見込んだ旦那様だ」
ん?
「僕の見る目があるのは君を見出した時に既に証明されているからね、奥さん」
んんん?? 旦那様に奥さん……?
「あの、もしかしてお二人って……」
「ああ、そうだった。紹介が遅れたね、彼女は僕の妻のマチルダ、ついでに受付に居たのは僕達の娘だよ」
まさかの支部長の奥さん!! ってか、従魔師ギルドは家族経営か! いや、他にもスタッフは居たような気がするけれど……それにしても、マチルダさんは人妻か……
「そういえば、うちの娘が君のスライムをずいぶん気に入っていてね、良かったらこれからも仲良くしてやって」
「え、ああ、そうなんですね」
確かに彼女はオロチになんて目もくれずライムをぷにっていたものな。ライムが愛されるのは嬉しいけど、何やら複雑だ。
「どうだい少年、なんならうちの娘と付き合ってみるかい?」
マチルダさんが僕の肩を抱いて、少し嬉し気に耳打ちしてきた。ってか、肩! 胸が当たってる!
「えっと……」
「娘は君より年上だろうけど、二つ三つくらい気にならないだろう?」
まぁ、確かに! 僕が見た目通りの年齢だったらね! 彼女は恐らくまだ十代後半くらいか、だけど僕のストライクゾーンにドンピシャだったのは娘さんよりお母さまだったよ!
「タケルはああいう子が好みなのか?」
平静を装いつつも、少しだけ声に不機嫌を滲ませたロイドがぼそりと呟いた。いや、僕の好みは娘さんよりお母さま(以下略)だけど、そんな事を真っ正直に言ったら修羅場待ったなしだよ、絶対に言えない!
「僕はまだまだ未熟者で、誰かとお付き合いするには早すぎると思うので!」
僕はマチルダさんの腕から逃げ出して叫んだ。世の中は色々とままならないよな、とほほ。
24
あなたにおすすめの小説
穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜
春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、
癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!?
トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。
彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!?
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて――
運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない!
恋愛感情もまだわからない!
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。
個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!?
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする
愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ!
月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新)
基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる