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第三章
過ぎた力を手にするという事
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いつも冒険者達で賑わう冒険者ギルド、そこで注目の的になってしまった僕の目の前でにっこりと微笑む彼女、エリシア様は3年前から見た目はあまり変わっていないように見える。けれど、その微笑みが僕には何故だか恐ろしく見えて、僕を守るように前に立ちはだかってくれているロイドの服を思わず僕はぎゅっと掴んだ。
僕達の前に立つ厳しい表情の男性、この状況を鑑みれば彼はエリシア様の関係者である事は間違いないだろう。そんな彼と対峙するように僕とロイドの前に割り込んできたルーファウスはその厳つい男性の後ろで微笑むエリシア様に口を開いた。
「聖女様自ら足を運んでいただいて恐縮ですが、貴女は何か勘違いをしておられるのではありませんか? 私の弟子は貴女の求める聖者などではありません。そもそも何を血迷ってこんな子供にそんな世迷言を……」
エリシア様は僕を名前ではなく「聖者様」と呼んだ。僕はそんな呼称を認めた事は今まで一度もないのに当たり前のように僕をそう呼ぶのだ。
彼女は3年前から何も変わっていない。
「私、以前タケル様がスライムを従魔になさっていると聞いて動揺してしまった事もございました。ですが、アレはとんだ見当違いで失礼な事だったと反省いたしましたのよ。魔物にすら好かれるという事がどれ程素晴らしく奇跡的な事であるか私は失念しておりましたの。それに私、従者のマチルダから聞きましたのよ、タケル様はドラゴンを従魔になさったそうですわね?」
エリシア様の口から出た名前に僕は驚く、マチルダさんがエリシア様の従者だなんて聞いてない! だってマチルダさんは従魔師ギルドの職員で、僕と同じ特殊生体保護職員のはずじゃないか!
けれど、僕はそこではたと気付く、それで言うなら僕だって同じじゃないか、と。僕はギルドの職員証を貰ったけれどあくまで臨時、本職は冒険者なのだからマチルダさんにも別に職業があったとしても全く不思議ではない事なのだ。
それにマチルダさんは従魔師ギルドの支部長さんの奥さんでもあるのだし、そういう融通はいくらでもきくのだろう。
エリシア様の放った言葉に冒険者達からざわめきが起こる。
「そういえば俺、この間あの子達が亜人を連れているのを見たぞ。ずいぶん立派ななりをした亜人だと思ったが、ドラゴンだったのか?」
「うちの娘がつい最近、亜人に角を触らせて貰った、なんて話をしていたんだが、まさかな……」
想像以上にオロチはこの街で目立っていたようで、ざわめきがどんどん大きくなっていく。
「確かに彼はドラゴンを従魔としましたが、それが一体何だというのです? 貴女方には関係のないことですよ」
「ドラゴンは敵として現れれば討伐対象でしかありませんが、それを従えるとなれば話は別です。貴方はご存じないのかもしれませんが、かつて教会を立ち上げた聖者様はドラゴンを従える事ができたと聞きます。彼はまさにそれを体現しておられるのですから関係ないなんてあり得ませんわ。彼こそが正に初代聖者様の生まれ変わり――」
「うっせぇよ!!」
エリシア様が悦に入ったように語り続けるのを遮るように怒鳴ったのはロイドだった。
「タケルは違うって言ってるし、嫌だってずっと言ってんだろ! なのにしつこく付き纏って、それが聖女のやる事かよ!」
「な……」
「小僧、聖女様に向かってなんて口の利き方……」
聖職者と思われる厳つい男性がぎろりとロイドを睨み付けたが、ロイドの方も負けるかと言わんばかりにその男を睨み返し「俺は間違った事なんか言ってない! こんなに怖がって脅えてる奴を寄ってたかって晒し者にして、それがいい大人の、しかも聖職者のやる事かよ!」と、怒鳴りつけた。
「本当に彼の言う通りですよ、最近教会は執拗に信徒を募る勧誘行為を繰り返していると聞きます、一体どんな理由からそんな事をしているのか知りませんが信じる神は自分で決める、善良な一般市民を巻き込まないでください、迷惑です」
ルーファウスが珍しくロイドの言葉に同意して更に反撃の言葉を投げる。そんな彼の言葉を聞いたやじ馬たちが「そういえば最近教会からの勧誘がしつこいってうちのが言ってたな」「俺も聞いた」と、ヒソヒソと囁き合う声が聞こえる。
確かに僕もその話は従魔師ギルドのルマンドさんから聞いた気がする。王家との確執が深くなっている教会は人の壁を築くために信者の勧誘に精を出しているとか、そんな話だったはずだ。
「先程から取り巻き共がうるさいが、彼等の言っている言葉は君の考えだと思っていいのだろうか、少年」
不意に厳つい顔の男性が僕へ瞳を向けて問いかけてくる。そんな彼の表情はどこまでもしかめっ面で愛想の欠片もない、けれど一方的にまくし立ててくるわけではなく僕に意見を求めてくれたので「僕は聖者様ではないし神子にもならないとエリシア様には伝えたはずです」と僕は答える。
「そうか……」
男性はそう言ってしばらく黙りこみ「ならば」と言葉を続けた。
「君はドラゴンを従魔としてこれから何を成す?」
「え……何を、って」
「伝説の秘宝でも探しに旅に出るのか、それとも魔王を倒しに?」
「えっと……」
「その強大な力を君は何のために使う? 答えによって我々は君を世界の脅威とみなし討伐させてもらう事になるけれど?」
!? 一体何がどうしてそんな話になってんの!? 僕は呑気な平和主義者だよ、世界の脅威とか勘弁してくれ!
「それは脅しですか、枢機卿」
ルーファウスが男を睨む。
だけど、枢機卿? 枢機卿ってなんの役職だっけ? 確か聖職者の偉い人? 聖女様と一緒にいるくらいだし、ただの護衛って感じではないものな。
「分不相応な力を手にした者の扱いは難しい、ドラゴンを従えるという事はそういう事だ。ましてや彼はまだ子供で、彼を味方に付ければ世界だって牛耳れる、そんな強大な力を野放しになどできる訳がないだろう」
「あの、僕と従魔のドラゴンとの契約は一年契約ですし、契約した理由も他にいるはずのドラゴンの保護なので、世界の脅威とかそういうのはあり得ないというか……」
「一年契約? しかもドラゴンの保護?」
怪訝そうな表情の枢機卿、だけど嘘は吐いてない。
「オロチが良いと言えば契約更新もあるかもしれませんけど、彼はプライドが高いので契約更新はないと思うんですよ、だから……」
「ドラゴンの力をもってすれば一年で世界征服とてできるだろう」
ええええ……
まぁ、オロチのあの攻撃力を見たらそれもあながち間違いではないのも分かる。なにせオロチが少し暴れただけで地形だって変わるのだ、王都を吹き飛ばすのだって簡単だろうし、脅威だと思われるのも仕方がないのか。
でもさ、オロチだよ? 俺様口調だけど滅茶苦茶良い子だよ? 口答えはするものの逆らわれたことは一度もないし、僕の言うことには従ってくれている、そんな彼を脅威と言われても僕にはいまひとつピンとこないのだ。
「僕はそんな事を考えた事もないですし、彼にやらせるつもりもありません!」
「口先だけならば何とでも」
ああもう! ああ言えばこう言う! この人すごく面倒くさい!!
「だったら貴方はどうすれば納得するんですか!」
「君の教会への帰属だよ、その力を正しき用途で使うため――」
「却下」
枢機卿の言葉にルーファウスが無表情で一言告げる。
「あなたの言い分が正しいのであれば、教会への帰属なんて、ただの詭弁だという事が分かるでしょう? それこそ貴方は彼等の力を利用して何を成すおつもりですか? 王家への反乱ですか?」
「………………」
「貴方の言い分が正しいのであれば、彼は誰にも、何処にも帰属しないというのが正しい選択です。力のある組織が彼を取り込めば否応なく彼は政治の矢面に立たされる、彼はそんな事を望んではいない」
「だが、過ぎた力は争いを招く! しかもその力を持っているのがまだ分別も善悪も分かっていない子供なら尚更……」
ああ~……確かに僕の見た目はまだ中学生の年齢だし、そのくらいの年齢の子って危うい所があるの分かるけどさ、生憎僕の中身は結構なおじさんなんだよ。
それこそ枢機卿とさほど年齢変わらないと思うんだけど。
「枢機卿、私から見たら貴方とて分別の付かない子供と同じです」
「何を生意気な若造が知ったような口を!」
そんな枢機卿の台詞にルーファウスはふっと鼻で笑う。
「若造ですか、私を若造と? 貴方は人族でしたか? 全く持って視野が狭い、誰もかれもが見た目通りの人間だと思っているなら大きな間違いです。少なくともこの私は貴方の数十倍の長き生を生きている、その言葉そのままお返ししますよ!」
そう言って髪を掻き上げ、これ見よがしにエルフの特徴でもある長い耳を枢機卿に見せつけながら放ったルーファウスの言葉に、ぐうの音も出なかった様子の枢機卿は険しい表情でこちらを睨み付けると「だからエルフは嫌いなんだ」と、小さく舌打ちを打った。
エルフはとても長命だけど、長命ゆえに人口割合的にはとても少ない種でもあるのだと前にルーファウスが教えてくれた事がある。そう言われてみると、僕はこの世界にきてルーファウス以外のエルフにはまだ会った事がない。
エルフの里はとても閉鎖的で、そんな里が嫌で飛び出してきたとルーファウスは過去に語っていた事もあるくらいだ。恐らく里を出ているエルフ自体も珍しい可能性はあって、だからこそ枢機卿はエルフが長命である事を失念していたのだろう。
そういえばルーファウスはハーフエルフだと聞いた事がある気がするのだけど、ハーフでこれだけ長生きなのならば、生粋のエルフはきっともっと長生きなのだろうな。
「ホウエル枢機卿、そろそろ口を慎みなさいませ」
枢機卿の後ろに立っているだけだった聖女様が静かに口を開く。
「私の配下が大変失礼を致しました、確かに私共の言い分は一方的であったと反省いたします。ですが、私共にももはや時間は残されていないのです」
「? 時間?」
「ここからのお話はここでお話すべき事ではありません。どうぞ、私共に少しだけ説明のお時間をいただけませんでしょうか?」
聖女様が僕達に向かい頭を下げる。聖女というのは教会の中でも一番地位の高い女性である、その中でも最高位の聖女であるエリシア様が頭を下げるのだ、周りの動揺も凄まじい。
「貴女方の言葉に聞く価値など……」
「待って、ルーファウス」
一刀両断に切り捨てようとしたルーファウスに僕は待ったをかけた。
「僕は彼女の話を聞こうと思う」
「タケル、何故?」
僕はこの世界にやって来てすぐ、彼女に勝手な未来を押し付けられそうになって逃げ出した。せっかく新しい人生を歩き始めたばかりなのに何故僕の人生を縛るような事を言い出したのかと少し理不尽な気持ちも抱えていた。
けれどしばらくこの世界に暮らしてきて、彼女にも彼女の言い分があったのではないかと考える事もあったのだ。
僕は彼女の言い分を全て受け入れるつもりがある訳ではない、けれど全く話も聞かずに逃げ続けていたら、僕はいつまでも窮屈な生活を強いられたまま、それでは本末転倒だと僕は思ったのだ。
「話があるのなら僕は聞きます、けれど貴女の話を受け入れるかどうかは僕が決めます」
言い切った僕にルーファウスは少し不満そうな表情を見せたが、「タケルがそう言うのなら」と折れてくれる。聖女様は「ありがとうございます」と再び頭を下げた。
僕達の前に立つ厳しい表情の男性、この状況を鑑みれば彼はエリシア様の関係者である事は間違いないだろう。そんな彼と対峙するように僕とロイドの前に割り込んできたルーファウスはその厳つい男性の後ろで微笑むエリシア様に口を開いた。
「聖女様自ら足を運んでいただいて恐縮ですが、貴女は何か勘違いをしておられるのではありませんか? 私の弟子は貴女の求める聖者などではありません。そもそも何を血迷ってこんな子供にそんな世迷言を……」
エリシア様は僕を名前ではなく「聖者様」と呼んだ。僕はそんな呼称を認めた事は今まで一度もないのに当たり前のように僕をそう呼ぶのだ。
彼女は3年前から何も変わっていない。
「私、以前タケル様がスライムを従魔になさっていると聞いて動揺してしまった事もございました。ですが、アレはとんだ見当違いで失礼な事だったと反省いたしましたのよ。魔物にすら好かれるという事がどれ程素晴らしく奇跡的な事であるか私は失念しておりましたの。それに私、従者のマチルダから聞きましたのよ、タケル様はドラゴンを従魔になさったそうですわね?」
エリシア様の口から出た名前に僕は驚く、マチルダさんがエリシア様の従者だなんて聞いてない! だってマチルダさんは従魔師ギルドの職員で、僕と同じ特殊生体保護職員のはずじゃないか!
けれど、僕はそこではたと気付く、それで言うなら僕だって同じじゃないか、と。僕はギルドの職員証を貰ったけれどあくまで臨時、本職は冒険者なのだからマチルダさんにも別に職業があったとしても全く不思議ではない事なのだ。
それにマチルダさんは従魔師ギルドの支部長さんの奥さんでもあるのだし、そういう融通はいくらでもきくのだろう。
エリシア様の放った言葉に冒険者達からざわめきが起こる。
「そういえば俺、この間あの子達が亜人を連れているのを見たぞ。ずいぶん立派ななりをした亜人だと思ったが、ドラゴンだったのか?」
「うちの娘がつい最近、亜人に角を触らせて貰った、なんて話をしていたんだが、まさかな……」
想像以上にオロチはこの街で目立っていたようで、ざわめきがどんどん大きくなっていく。
「確かに彼はドラゴンを従魔としましたが、それが一体何だというのです? 貴女方には関係のないことですよ」
「ドラゴンは敵として現れれば討伐対象でしかありませんが、それを従えるとなれば話は別です。貴方はご存じないのかもしれませんが、かつて教会を立ち上げた聖者様はドラゴンを従える事ができたと聞きます。彼はまさにそれを体現しておられるのですから関係ないなんてあり得ませんわ。彼こそが正に初代聖者様の生まれ変わり――」
「うっせぇよ!!」
エリシア様が悦に入ったように語り続けるのを遮るように怒鳴ったのはロイドだった。
「タケルは違うって言ってるし、嫌だってずっと言ってんだろ! なのにしつこく付き纏って、それが聖女のやる事かよ!」
「な……」
「小僧、聖女様に向かってなんて口の利き方……」
聖職者と思われる厳つい男性がぎろりとロイドを睨み付けたが、ロイドの方も負けるかと言わんばかりにその男を睨み返し「俺は間違った事なんか言ってない! こんなに怖がって脅えてる奴を寄ってたかって晒し者にして、それがいい大人の、しかも聖職者のやる事かよ!」と、怒鳴りつけた。
「本当に彼の言う通りですよ、最近教会は執拗に信徒を募る勧誘行為を繰り返していると聞きます、一体どんな理由からそんな事をしているのか知りませんが信じる神は自分で決める、善良な一般市民を巻き込まないでください、迷惑です」
ルーファウスが珍しくロイドの言葉に同意して更に反撃の言葉を投げる。そんな彼の言葉を聞いたやじ馬たちが「そういえば最近教会からの勧誘がしつこいってうちのが言ってたな」「俺も聞いた」と、ヒソヒソと囁き合う声が聞こえる。
確かに僕もその話は従魔師ギルドのルマンドさんから聞いた気がする。王家との確執が深くなっている教会は人の壁を築くために信者の勧誘に精を出しているとか、そんな話だったはずだ。
「先程から取り巻き共がうるさいが、彼等の言っている言葉は君の考えだと思っていいのだろうか、少年」
不意に厳つい顔の男性が僕へ瞳を向けて問いかけてくる。そんな彼の表情はどこまでもしかめっ面で愛想の欠片もない、けれど一方的にまくし立ててくるわけではなく僕に意見を求めてくれたので「僕は聖者様ではないし神子にもならないとエリシア様には伝えたはずです」と僕は答える。
「そうか……」
男性はそう言ってしばらく黙りこみ「ならば」と言葉を続けた。
「君はドラゴンを従魔としてこれから何を成す?」
「え……何を、って」
「伝説の秘宝でも探しに旅に出るのか、それとも魔王を倒しに?」
「えっと……」
「その強大な力を君は何のために使う? 答えによって我々は君を世界の脅威とみなし討伐させてもらう事になるけれど?」
!? 一体何がどうしてそんな話になってんの!? 僕は呑気な平和主義者だよ、世界の脅威とか勘弁してくれ!
「それは脅しですか、枢機卿」
ルーファウスが男を睨む。
だけど、枢機卿? 枢機卿ってなんの役職だっけ? 確か聖職者の偉い人? 聖女様と一緒にいるくらいだし、ただの護衛って感じではないものな。
「分不相応な力を手にした者の扱いは難しい、ドラゴンを従えるという事はそういう事だ。ましてや彼はまだ子供で、彼を味方に付ければ世界だって牛耳れる、そんな強大な力を野放しになどできる訳がないだろう」
「あの、僕と従魔のドラゴンとの契約は一年契約ですし、契約した理由も他にいるはずのドラゴンの保護なので、世界の脅威とかそういうのはあり得ないというか……」
「一年契約? しかもドラゴンの保護?」
怪訝そうな表情の枢機卿、だけど嘘は吐いてない。
「オロチが良いと言えば契約更新もあるかもしれませんけど、彼はプライドが高いので契約更新はないと思うんですよ、だから……」
「ドラゴンの力をもってすれば一年で世界征服とてできるだろう」
ええええ……
まぁ、オロチのあの攻撃力を見たらそれもあながち間違いではないのも分かる。なにせオロチが少し暴れただけで地形だって変わるのだ、王都を吹き飛ばすのだって簡単だろうし、脅威だと思われるのも仕方がないのか。
でもさ、オロチだよ? 俺様口調だけど滅茶苦茶良い子だよ? 口答えはするものの逆らわれたことは一度もないし、僕の言うことには従ってくれている、そんな彼を脅威と言われても僕にはいまひとつピンとこないのだ。
「僕はそんな事を考えた事もないですし、彼にやらせるつもりもありません!」
「口先だけならば何とでも」
ああもう! ああ言えばこう言う! この人すごく面倒くさい!!
「だったら貴方はどうすれば納得するんですか!」
「君の教会への帰属だよ、その力を正しき用途で使うため――」
「却下」
枢機卿の言葉にルーファウスが無表情で一言告げる。
「あなたの言い分が正しいのであれば、教会への帰属なんて、ただの詭弁だという事が分かるでしょう? それこそ貴方は彼等の力を利用して何を成すおつもりですか? 王家への反乱ですか?」
「………………」
「貴方の言い分が正しいのであれば、彼は誰にも、何処にも帰属しないというのが正しい選択です。力のある組織が彼を取り込めば否応なく彼は政治の矢面に立たされる、彼はそんな事を望んではいない」
「だが、過ぎた力は争いを招く! しかもその力を持っているのがまだ分別も善悪も分かっていない子供なら尚更……」
ああ~……確かに僕の見た目はまだ中学生の年齢だし、そのくらいの年齢の子って危うい所があるの分かるけどさ、生憎僕の中身は結構なおじさんなんだよ。
それこそ枢機卿とさほど年齢変わらないと思うんだけど。
「枢機卿、私から見たら貴方とて分別の付かない子供と同じです」
「何を生意気な若造が知ったような口を!」
そんな枢機卿の台詞にルーファウスはふっと鼻で笑う。
「若造ですか、私を若造と? 貴方は人族でしたか? 全く持って視野が狭い、誰もかれもが見た目通りの人間だと思っているなら大きな間違いです。少なくともこの私は貴方の数十倍の長き生を生きている、その言葉そのままお返ししますよ!」
そう言って髪を掻き上げ、これ見よがしにエルフの特徴でもある長い耳を枢機卿に見せつけながら放ったルーファウスの言葉に、ぐうの音も出なかった様子の枢機卿は険しい表情でこちらを睨み付けると「だからエルフは嫌いなんだ」と、小さく舌打ちを打った。
エルフはとても長命だけど、長命ゆえに人口割合的にはとても少ない種でもあるのだと前にルーファウスが教えてくれた事がある。そう言われてみると、僕はこの世界にきてルーファウス以外のエルフにはまだ会った事がない。
エルフの里はとても閉鎖的で、そんな里が嫌で飛び出してきたとルーファウスは過去に語っていた事もあるくらいだ。恐らく里を出ているエルフ自体も珍しい可能性はあって、だからこそ枢機卿はエルフが長命である事を失念していたのだろう。
そういえばルーファウスはハーフエルフだと聞いた事がある気がするのだけど、ハーフでこれだけ長生きなのならば、生粋のエルフはきっともっと長生きなのだろうな。
「ホウエル枢機卿、そろそろ口を慎みなさいませ」
枢機卿の後ろに立っているだけだった聖女様が静かに口を開く。
「私の配下が大変失礼を致しました、確かに私共の言い分は一方的であったと反省いたします。ですが、私共にももはや時間は残されていないのです」
「? 時間?」
「ここからのお話はここでお話すべき事ではありません。どうぞ、私共に少しだけ説明のお時間をいただけませんでしょうか?」
聖女様が僕達に向かい頭を下げる。聖女というのは教会の中でも一番地位の高い女性である、その中でも最高位の聖女であるエリシア様が頭を下げるのだ、周りの動揺も凄まじい。
「貴女方の言葉に聞く価値など……」
「待って、ルーファウス」
一刀両断に切り捨てようとしたルーファウスに僕は待ったをかけた。
「僕は彼女の話を聞こうと思う」
「タケル、何故?」
僕はこの世界にやって来てすぐ、彼女に勝手な未来を押し付けられそうになって逃げ出した。せっかく新しい人生を歩き始めたばかりなのに何故僕の人生を縛るような事を言い出したのかと少し理不尽な気持ちも抱えていた。
けれどしばらくこの世界に暮らしてきて、彼女にも彼女の言い分があったのではないかと考える事もあったのだ。
僕は彼女の言い分を全て受け入れるつもりがある訳ではない、けれど全く話も聞かずに逃げ続けていたら、僕はいつまでも窮屈な生活を強いられたまま、それでは本末転倒だと僕は思ったのだ。
「話があるのなら僕は聞きます、けれど貴女の話を受け入れるかどうかは僕が決めます」
言い切った僕にルーファウスは少し不満そうな表情を見せたが、「タケルがそう言うのなら」と折れてくれる。聖女様は「ありがとうございます」と再び頭を下げた。
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