童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第四章

しょっぱいドライフルーツ

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 僕達が出会った少年の名前は蓮見小太郎はすみこたろう、改めて尋ねたのだけどやはり年齢は14歳。小太郎君がこちらの世界へやって来てから三年の月日が経っているはずと言ってみても相変らず彼はキョトンとしていた。

「ボク、一応こちらに来てから日数を数えてましたけど、絶対まだ一ヵ月は超えてないです! えっと、今日で15日目!」

 などと言われてしまっては、彼の言葉を信じない訳にはいかなくて、今度は僕達の方が首を傾げた。一応こちらの日付の数え方は僕達の世界とほぼ同じでひと月が30日、それが12か月で構成されている。だから数えて15日目という事は間違いなく半月だ。
 こんな不思議な事があっていいのか? と、思うのだが、小太郎が嘘を吐いているようには見えないし、そもそもそんな嘘を吐いたところで彼には何のメリットもない。
 そんな中「それについては、考えられる仮説がひとつだけあります」と、ルーファウス。

「仮説?」
「彼はその呪われた剣に逃げたいと願った、そして逃げたいと願ったら外に居た、これは明らかに転移魔法です。それが何かしらの魔剣なのだと仮定して、時空魔法はレベル10になると時を越えられるようになると言われているのですよ。その事から導かれる答えとしては、その剣には相当強い時空魔法の術式が施されている、という事になる訳です。まぁ、触れませんので確認は出来ませんけれど」

 なんと! 時空魔法は極めると時間まで超越するのか、凄いな!! 現在の僕の時空魔法のレベルは1、まだまだその域に達するまで先は長そうだ。

「ちなみにルーファウスの時空魔法のレベルって今幾つなんですか?」
「私は現在レベル8ですね」

 レベルの段階は1~10まで、5以上の数字になると熟練度が高い達人と呼ばれる域に到達する。やはりルーファウスの時空魔法は熟練者のそれだったな。
 まぁ、僕だって四属性魔法だけだったら現在レベル10だけどね!

「あの、時空魔法って……?」

 おずおずと小太郎が問うてくるのに、僕はこの世界の魔法について一から教えていく。僕も最初はこうやってアランやルーファウスに色々教えて貰ったよなぁ。そんな事を思いながら、小太郎に説明を続けていると、不意にその場にぐぅぅと間抜けな音が響いた。

「え?」
「あ……」

 小太郎が、少し恥ずかしそうに腹を撫でる。そういえば彼はこちらに来てからはずっと逃亡生活で、あまりまともに食事をとっていないのかも?

「もしかして、お腹空いた?」
「うう、すみません」
「いいよ、いいよ、育ち盛りだもんね。とりあえず、話はご飯の後にしようか」

 僕達はまずは腹ごしらえからと、本日の宿泊の準備を始める。手分けして竈の準備と食事の準備。明日には街に着く事だし、今日は備蓄を放出しても大丈夫だろうと、僕は多めにマジックバッグから食材を取り出した。
 薪の周りを石で囲い簡単な竈作り。鉄板と鍋はちゃんと持ち歩いている。今日の肉はコカトリスのもも肉とホーンラビットのむね肉だ。
 野菜も多めに準備して、ざくざくと乱切りに僕は鍋の中に放りこんでいく。

「あの、なんかその鞄の中、めっちゃ色々入ってるんですね。野菜はともかく肉まで丸ごと入ってるって、その中一体どうなってんですか? 鉄板なんて明らかにそのバックより大きかったですよね?」
「ああ、これマジックバッグって言って一種の魔道具なんだよ」

 小太郎は感心しきりで僕の鞄を眺め回している。まぁ、今の彼には見るもの聞くこと全部が物珍しいよね。

『主、酒は?』
「あるよ~ちょっと待っててね」

 オロチが僕に声をかけてきた事に驚いた様子の小太郎はビクッと僕の背に隠れる。まぁ、見た目は普通と違う異形の亜人だから驚くのも分かる。

「ああ、大丈夫だよ。オロチは何もしないから」
『あんな魔剣の所有者がこんなヘタレだとは俺様も予想外だ。ちょっかいをかける意味もない』

 なんて、オロチもオロチで小太郎には関心がない様子なので脅えなくてもいいのに小太郎は僕から離れない。

「あの、なんか……あの人の声だけ変な感じに聞こえるんですけど、これ何なんですか?」
「あれ? もしかしてオロチの声聞こえてる?」
「頭の中に直接響くみたいで気持ち悪いんですけど聞こえてます」

 おっと、これはもしかしなくても小太郎君も僕と同じで自動翻訳機能が搭載されているって事かな?

「ライム、ちょっと出ておいで~」

 僕が声をかけるとローブの中で大人しくしていたライムが『なぁに? タケル』と顔を出す。

「今日から仲間になった小太郎君です、ご挨拶して」
『コタロー? ボクの名前はライム! これでもキングスライムなんだよ、えっへん』

 胸を張るようにして小太郎に挨拶をするライム、小太郎は「キングスライム……」とあっけに取られたようにライムを見やる。

「今のライムの声、聞こえた?」
「え、はい、聞こえました」
「それじゃあ、君にも従魔師の素質があるんじゃないかな。僕達異世界人はこっちの世界の言葉が自動翻訳されるみたいでね、普通の人達にはこの声は聞こえないみたいだよ」

 「そうなんだ」と、小太郎はぼんやりとライムを見やって「よろしくね」とライムの頭を撫でた。

『なんだ、こ奴は俺様の声が聞こえるのか? 主以外にドラゴン語を解する者がいるとは意外だな』
「まぁ、彼も異世界の住人だからね」
『異世界、ねぇ……』

 オロチはそう言って小太郎を上から下まで眺め回していたのだが、そのうち興味が失せたのか、ふいっとそっぽを向いた。

「あの、ボク、この人に何か嫌われるような事しましたかね?」
「ああ、大丈夫だよ。オロチはこれが通常運転だから。ちなみに君を咥えてここまで連れて来たのがこのオロチで、今は亜人の姿だけど本体はドラゴンだよ」
「ドラゴン……って、あのドラゴンですか!? ゲームなんかでよく見かける!?」
「そう、世間一般でいうあのドラゴン」

 今度は逆にまじまじとオロチを見やる小太郎にオロチは居心地が悪そうだ。

「格好いいですねぇ、ドラゴンを従魔にしてるなんて、鈴木さんこそ勇者なんじゃないんですか?」
「あはは、ないない。あと、この世界では苗字は王族と貴族にしかないらしいから僕のことはタケルでよろしく」

 そんな他愛のない事を話しながら晩御飯の準備は進んでいく。辺りに美味しそうな匂いが漂ってきた頃には小太郎の腹の虫はぐうぐうと止まる気配もない。

「小太郎君、相当お腹が空いていたんだね」
「それはそうですよ、ボク、この二週間ろくに食事もしてないんですよ」

 何だか、これ以上待たせるのも可哀想になって、僕はとりあえずおやつ代わりに常備していたドライフルーツを彼に手渡す。

「煮込むのにもう少しかかりそうだから、とりあえずそれ食べて待ってて」

 小太郎はドライフルーツの入った袋を素直に受け取り、まずは恐る恐る一口食べてみて、それが美味しいと分かったのか、パクパクと口の中に放り込み始めた。

「それ、おやつだから食べ過ぎちゃダメだよ、晩御飯入らなくなるからね!」
「分かってるよ、母さ……ん」

 勢いのまま言ってしまったのだろう言葉に、瞬間小太郎の顔が朱に染まって僕は思わず笑ってしまう。あるよね、あるよね、学校でも先生のこと、つい「お母さん」って呼んじゃって、笑われる事。
 きっと彼は家でもこうやって晩御飯前におやつを食べて母親に叱られてたりしてたんだろうな。平和で穏やかな家庭が垣間見えるようだよ。

「ボク、もう家には帰れないんですかね……」

 顔を真っ赤に染めながらもドライフルーツを食べる手が止まらない小太郎がぽつりとこぼした。

「僕の向こうでの身体はもう死んじゃってるみたいだから、僕が向こうに帰るのは不可能だと思ってる。だけど小太郎君は僕とは違う条件でこっちの世界へ来てるみたいだから、諦めるのは早いと思う」

 こんな事を言っても気休めにしかならないのかもしれない、だけど絶対無理なんて言って、これ以上彼を傷付けるのも何か違うと思うんだよね。

「そう、ですよね……まだ、希望はありますよね……っっ、これ、美味し過ぎて涙止まんないです……」

 小太郎は涙をボロボロ零しながらドライフルーツを食み続ける。そんな彼の姿を見て、きっと精神的にも相当参っているのだろう事は僕にも簡単に想像ができた。
 まだ呪われたナイフの事や、詳しい勇者召喚の話も全然聞けていないけれど、今日の所はお腹いっぱい食べさせて、温かい寝床でゆっくり寝かせてあげようと僕は思った。




 
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