童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

矢の字

文字の大きさ
128 / 222
第四章

謎の紋印

しおりを挟む
「小太郎君はさ、これからどうしたい? 何がしたい? やっぱり元の世界に帰りたい?」

 一通り小太郎のステータスを確認して僕は問う。そんな僕の問いかけに、小太郎は僅かに俯き「帰りたい……けど」と呟き、バスタブの中で膝を抱える。

「けど?」
「家には帰りたい、両親が心配してると思うし、だけど、どっちの世界でもあんまり変わらないんですよね……」
「? 変わらないって、何が?」
「ボク、性格こんななんで、よく学校でもいじめられてて、学校あんまり行けてなくて、正直どっちの世界にも居場所がないって言うか……」
「………………」

 小太郎がぽつりぽつりと語る事には、彼は元来の気の弱さから学校ではいじめを受けていたらしい。不登校一歩手前で保健室登校のような形で学校には通っていたらしいのだが、帰れば両親は安心するだろうけど居場所がない事には変わりないと小太郎は言った。
 小太郎の年齢は14歳、まだ中学2年生だ。社会は家と学校にしかなくて、その片方に居場所がないとなると悲観的になる気持ちは分からなくもない。

「ボク、どこに行っても本当に駄目で、緊張すると言葉も出てこないし、頭悪いし要領悪いし、容姿も運動神経も平凡で、良いとこなんて全然なくて、だから、勇者だなんて本当に意味が分からない。だけど、この世界ならこんなボクなんかでもまともに生きていけますかね?」
「自分のこと『ボクなんか』なんて言っちゃダメだよ。小太郎君には小太郎君の良い所があるし、魚だって上手に捌いてたじゃないか。あれだって充分凄い特技だからね!」
「そう、ですかね?」
「そうだよ! 小太郎君はもっと自分に自信を持って!」

 励ましの言葉をかける僕に小太郎は「頑張ってみます」と、遠慮がちに答えてよこしたけど、性格なんてそう簡単に変えられるものではない。これはゆっくりと自信を付けさせていくしかないかもな。

「それにしても、なんでボクが勇者なんですかね、ボクなんかより茉莉まつりちゃんの方がよっぽど勇者向きなのに」
「? まつりちゃん?」
「ボクと一緒にこっちの世界に来た囃子田茉莉はやしだまつりですよ、今は聖女様なんでしたっけ?」

 ああ! そうそう! ハヤシダさん! あれ? でも、まつりちゃん? もしかして二人って仲良いの?
 疑問に思って小太郎に問うてみたら、どうやら二人は保育園の頃からの幼馴染であるらしい。

「茉莉ちゃんはボクと真逆の性格で、ボクはいつも泣かされてばっかりだったんです。だから正直あまり彼女に関わりたくないんですけど、何故かずっとクラスが一緒で、出席番号が蓮見はすみ囃子田はやしだの並びで大体前後になっちゃうから関わらない訳にいかなくて……」

 ああ、なるほど。いわゆる腐れ縁的なやつか。僕にはそういう幼馴染はいなかったからちょっと羨ましいな。いや、でも関わりたくない相手との腐れ縁は歓迎できないものかもしれないけれど。 
 そんな事を思いながら、ふと小太郎の方を見やったら「さすがにもう逆上せそうなのであがりますね」と、小太郎がこちらに背を向け立ち上がった。その背中に僕はある物を見付けて瞳を凝らす。

「小太郎君、それって……」
「え? なんですか?」

 それは小太郎の背中、腰骨辺り、まるで描いたように赤い線で華のような柄が浮かび上がっている。

「それって、生まれつきの痣……?」
「え? 何がですか? ボクの背中に何かあるんですか!?」

 その痣はどうやら小太郎にも心当たりがないものだったようで、若干パニック気味の小太郎は、その痣のようなものを見ようと身体を捻った。けれどはっきりとは視認できないようで戸惑い脅える。
 それは恐らく僕の背中に刻まれた守護印と似たようなものであると思うのだが、何故そんな紋印が小太郎の背中に刻まれているのかが分からない。

「大丈夫! 大丈夫だから落ち着いて!」
「でも……」

 痣を消そうとでもするように小太郎がその紋印を掌で擦るが、当然ながらそんな事で紋印が消えるはずもなく、肌が赤くなっただけで紋印には何の反応も見られない。

「タケルさん! これ何ですか!?」
「それに関しては僕もまだ勉強中で詳しい事までは分からないけど悪いものではないと思う。僕にもあるんだ、ほら見て」

 僕は小太郎を安心させる為に髪を片側に寄せ、上着を半分脱ぐようにしてルーファウスに刻まれたうなじから背中に描かれた守護印を小太郎に見せる。

「これって、刺青……?」
「ううん、これは紋印って言って僕のこれは守護の紋印、魔法の力で僕を護ってくれてるんだ」
「守護の……じゃあ、ボクのこれも?」
「似たようなものだと思う」

 僕が断言するように言い切ると、ようやくホッとしたのか小太郎はもう一度バスタブに身を沈めた。

「僕のこれさ、ルーファウスが描いてくれた守護印なんだけど、小太郎君はそれを描いた人に心当たりはある?」
「そんなのある訳…………あ……」
「心当たりあるの?」
「はっきりとは断言できないですけど、こっちの世界に来た時、僕にあのナイフを渡した人がこの辺を撫でたんです。その時、ちょっと静電気みたいにパチッとして、しかも触り方が嫌らしかったから、嫌だなって思ったの思い出しました」
「その人って、どんな人?」
「えっと……髪の長いおじさんです。なんかこう耳が長くて、そういえばルーファウスさんに少し似てたかも。ボク、第一印象からルーファウスさんのこと怖いなって思ってたんですけど、もしかしたらそのせいかもしれないです」

 髪が長い……それは魔術師の特徴と言ってもいいだろう、そして耳が長いとなるとエルフの可能性は高い。
 エルフは長命な分、絶対数は少ないそうだし、もしかするとルーファウスの親類縁者の可能性もあるのか……? これはルーファウスに話を聞いた方が良いかもしれないな。

「あの、タケルさんのその守護印、触ってみてもいいですか?」
「? 別にいいけど」

 バスタブから顔を覗かせた小太郎が、興味深そうに僕の守護印を見ている。

「なんで色が違うんですかね? 何か意味があるのかな? タケルさんのそれ、白くて凄く綺れ、い……っ!?」
「っっ……!」

 小太郎が僕のその守護紋に触れた瞬間バチっとうなじに軽い痛みが走った。恐らくそれは小太郎も同じだったのだろう、慌てたように手を引っ込める。けれどそんな痛みから一分も経たない刹那、僕の目の前は真っ暗になっていた。
 一瞬何が起こっているのかまるで分からなかった、頭を強引に何かに押し付けられて息が詰まる。

「お前、タケルに何をした!!」
「ひっ!」

 響いた声はルーファウスのもの、僕はその声で自分は転移ですっ飛んできたルーファウスに抱き込まれているのだとようやく理解した。
 続いて上がる小太郎の悲鳴、完全に目隠し状態で何が起こっているのか分からないけど、確実に穏便な感じではない事だけは僕にも分かる。

「待って、待って待って! 僕は何もされてない!」
「そんな訳がない! 守護印に魔力の干渉がありました、それは即ち攻撃です!!」
「ないないない!! 一旦落ち着いて、ルーファウス!!」

 抱き込まれたまま周りが何も見えない状態の僕は、これは良くないと判断し、逆にルーファウスに抱きつき抑えると「小太郎君、一旦外に出てて!」と小太郎を部屋の外へと逃がした。
 扉の向こう側からは慌てたようなロイドとアランの声も微かに聞こえるから、たぶん小太郎は大丈夫だろう。

「タケル! 何故あいつを庇うのですか! 貴方は攻撃されたのですよ!!」
「だからされてないって言ってるだろ! ルーファウスのその早とちり、本当にどうにかした方がいいよ! 前だってそれで自分が死にかけた事だってあっただろう!!」

 それはまだシュルクに暮らしていた頃、ライムのスライム結界を初めて知った日、スライム結界に閉じ込められた僕を助けようとして自分の魔術を自分で食らい、ルーファウス自身が死にかけたのを忘れたなんて言わさないからな!

「それ、は……」
「今の僕の姿を見てみてよ! 僕、どこか怪我でもしてる!? してないだろう!?」

 少しだけルーファウスの腕が緩んだので、僕は腕を突っ張るようにしてルーファウスの身体から身を離す。そうやって見上げたルーファウスの表情は戸惑い混乱したような険しい表情で、僕は大きく溜息を吐いた。

「よく見て、どこか僕の身体に傷でもついてる? ルーファウスは大袈裟過ぎるんだよ!」
「戦場では一瞬の判断ミスが死を招く、これは大袈裟な話なんかではない」
「ここは戦場じゃない」
「同じですよ! 昨日まで平穏の中で普通に暮らしていた人間が突然に命を落とす、それは酷く簡単で零れ落ちた命は戻らない! 私はそんな光景を今まで何度も見てきました! 大袈裟なんかじゃない、これは大袈裟な話なんかじゃない!」

 どうもルーファウスの様子がおかしい。元々神経質な所があるルーファウスだけど、これはちょっと度を超えている。

「ルーファウスは何にそんなに怯えているの? それに万に一つ本当に僕が小太郎君に襲われたんだとして、僕が彼を退けられないと本気で思うの? 僕はルーファウスにとって未だにそんなに頼りない存在なのかな?」
「それは……」
「言っては何だけど、僕はもうルーファウスと出会ったばかりの頃の僕とは違うよ、まだ学ぶべき事はたくさんあるけど、右も左も分からなかった何も知らない子供じゃない」

 ルーファウスの僕を抱き込む力が急激に弱まって、絶望したようにルーファウスはその場に立ち尽くした。
 一体これはどうしたものか、僕は彼にそんなに酷いことを言ったつもりはないし、事実だけを理性的に述べたつもりなのに、こんな風に傷付きましたと言わんばかりの顔をされると、まるで僕が悪人みたいだ。
 ルーファウスが僕の身を案じてくれるのはとても嬉しいのだけど、それによって周りの人達が嫌な思いをするのは僕の本意ではない。

「私は確かにあの瞬間、闇の魔力を感じました。それは絶対に間違いじゃない」
「ルーファウス、いい加減に……」

 言いかけた僕の言葉を遮るようにルーファウスが僕の腕を掴む。

「私は間違った事は言っていない」

 ルーファウスの瞳は僕を見ているようでいて、まるで遠くを見ているようだ。それはルーファウスの過去の景色か、それとも僕に重なるあの人の……

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...