童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

矢の字

文字の大きさ
141 / 222
第四章

確かめたい大事なこと

しおりを挟む
 小太郎が熱を出してぶっ倒れた。
 朝、少し顔色が悪いと指摘したロイドの前でボロボロと泣き出してしまった小太郎。慌てたロイドが小太郎の様子がおかしいと言うので額に手を当てたらビックリするような高熱で、そのまま彼は寝込んでしまった。
 僕には聖魔法の素質がある、聖魔法の中には回復魔法もあるのだが、意外な事に聖魔法の中には病気に効く魔法がない。
 いや、ないと言うと語弊があるな、病気治癒に関してのスキルは聖魔法の中でも高レベルのスキルになっていて僕はまだそれを習得していないのだ。そしてそれは茉莉も同じでどうしてやる事も出来なかった。
 回復魔法というのは基本的に怪我や状態異常を治すスキルがほとんどで、それは健康な人を元の状態に戻すという効果になる。
 病気治癒に関しては高位回復術エクストラ・ヒールが有効らしいのだが、その魔術を使って元々病弱な人の病気を治したとしても病弱なのには変わりなく、それ以上に健康になる事はない。
 基礎体力と言うのは個々人のものであり、それをどうこうする事は魔法でもできないというのがこの世界のことわりであり、魔法は全てにおいて万能という訳ではないのである。
 今回小太郎が熱を出したのは、言ってしまえば知恵熱だった。急激に変わってしまった生活環境と過度なストレス、そして昨日風呂上がりにバタバタして湯冷めしたのも影響して身体が限界を超えてしまったらしい。早くに気付いてあげられなくて申し訳ない事をしたよ。
 ライムの小さな分裂体が小太郎の額の上にちょこんと乗って、小太郎の熱を吸収している。幾つかに分かれたライムの分裂体達は小太郎の脇の下や首の下など熱のこもりそうな場所に潜り込み一生懸命に熱を冷まそうとしてくれているのだが、そう簡単に小太郎の熱は下がりそうにない。

「僕、熱さましの薬を買ってきます!」
「医者は知恵熱だと言っていたのですよ、放っておいても熱はいずれ下がります」
「それでも! 少しでも早く小太郎君に楽になって欲しいから、僕、行ってきます!」
「待ってください、それなら私も行きます。タケルはこの街にはまだ不案内でしょう?」

 そう言って立ち上がったルーファウス、それに「じゃあ俺も付いてくわ」とアランも立ち上がる。

「俺だけここに残されても、どうにも居心地が悪いからな。もしかしたらお邪魔虫かもしれないし?」
「アランさん! これ、そういうんじゃないですからね!」

 慌てたように声をあげたのはロイド。小太郎が熱を出し倒れた際に一番近くに居たのはロイドだった。そのままロイドは抱えるように小太郎を支え、ベッドに運んだ所までは、まぁ、誰でも同じようにしたと思うからいいのだけど、運ばれた小太郎がうなされながらもロイドの服をぎゅっと握って放さないのだ。
 何度か放してくれとロイドは言ったのだが、熱に浮かされているせいもあるのだろう、夢うつつのような状態の小太郎は首を振り、決してその手を放そうとしない。

「分かってるって、そいつは心細いんだよ。小さい子供と同じだ。うちの子も熱を出した時には俺やかみさんに同じような事をしていた。俺だったら添い寝でも何でもしてやる所だが、どうやらコタローはお前がいいみたいだから仕方ない。ちゃんと看病してやれ。たぶん完全に寝入れば手も離れる」

 添い寝……
 アランの口から出てきた単語に少し驚く。いや、でもこれはアランの子育て経験から出てきた言葉で、疚しい気持ちは何もないと分かってるけど、それをロイドと小太郎で想像してしまうと少しこう複雑な気持ちになるのは何故なのか。
 やっぱり何事も経験の差って大きいよな。アランにとって添い寝は誰としても何でもない事なのだろう。実際僕も何度もアランには抱き枕代わりにされた事がある。それを変な風に受け止めてしまう僕の気持ちの方が変なのだ。「これだから童貞は」って笑われそうだから何も言うまい。


「アランって、凄く良いパパって感じしますよね」
「はは、んな訳あるかよ。俺は妻子を置き去りに自分勝手して、結局妻子に捨てられた男だぞ。良い父親なんかである訳がない」

 薬屋までの道行、アランを褒めたら苦笑いされてしまった。

「でも、それには理由が……」
「理由がどうあれ、俺は自分のこの手で大事な家庭を壊したんだ。間違っても良い父親だなんて言える立場じゃねぇよ」

 自虐的なアランの言葉。いつも聞かせてくれる家族の話は幸せな記憶ばかりだからうっかり失念しかけていたけど、そうだよな。それだってもう、きっと遥か昔の過去の記憶だ。
 アランの職業は格闘家、そして戦闘スタイルは狂戦士バーサーカーだ。それを聞いたのはもうずいぶん前だけど、僕はアランが狂戦士化した姿をまだ見た事がない。
 アランは格闘家として普通に強いし、僕達のパーティーはルーファウスを筆頭に皆そこそこ戦えるのでアランが狂戦士化しなくても手強い魔物を倒す事ができている。もしかしたらルーファウスと二人でダンジョンに潜っていた時などはアランも狂戦士化する事があったのかもしれないけれど、少なくとも彼は僕やロイドの前ではそんな捨て身の戦い方をする事はなかった。
 自分と一緒に戦うと仲間まで巻き込んでしまうからと、アランはルーファウス以外と組む事をしなかった、そして何故かルーファウスもアラン以外と組む事をしない。

「そういえば、今まで聞いた事なかったですけど、アランとルーファウスってなんで二人で組むようになったんですか?」
「あ? なんかルーファウスがぼっちで寂しそうだったから組んでやったら、意外と戦いやすかったから、かな?」
「は!? ぼっちはお互い様でしょう! それに貴方に組んでもらわずとも私は一人で充分戦えます!」
「ははは、だろうな~」

 そんな事を言いながらもアランは「それでも、一人くらい背中を守る奴が居た方が戦いやすかろう?」とにっと笑みを零した。

「まぁ、確かにアランは戦闘力が高いので、魔物の討伐依頼は格段に楽になりましたよ」

 ルーファウスって意外とツンデレな所があるから、これでも最上級にアランの事を認めてるんだよな。それはロイドや小太郎、果てはオロチまで排除しようとしていたルーファウスが最後までアランの事には言及しなかった事からも窺い知れる事だ。
 ルーファウスはアランの無神経な所が嫌いと言ってた事はあるけど、排除しようとまでしないのは恐らく二人の間には僕の知らない信頼関係が確立しているからなのだろう。
 まぁ、それでも僕が『ルーファウスと二人きりがいい♡』なんて言った日には簡単に切り捨てそうだけど。
 僕は絶対にそんな事言わないけどね!

「実際のところは俺がルーファウス以外の奴と組めないから一緒に組んでもらってるってのが正解だな。お陰さんで、最近は無闇に暴れて後ろ指指される事がなくなったのは本当に有難い」
「後ろ指って……そんなにですか? 普段のアランを知ってるから余計に全く想像できないんですけど」
「ははは、王都行ったら顔馴染みもいるからヤバいかもなぁ……タケルに幻滅されたら俺は泣くかもしれん」
「僕は幻滅なんてしませんよ!」

 アランはにこにこと何事もなさそうな顔で軽口を叩いてくるけど、王都はやはりアランにとって良い思い出ばかりの場所じゃないって事なんだろう。

「それでも王都に行こうと思うなんて、貴方、被虐趣味でもあるんですか? 戻りたくもない場所に赴いても楽しい事なんて何ひとつありませんよ」
「ああ~……これは俺のけじめなんだよ! それに、俺には確かめたい事があるんだ」
「確かめたい事?」
「ああ、とても大事な事なんだ」

 そう言ってアランが見つめる先には一体何があるのだろうか?
 王都、か……一体どんな街なんだろうな。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...