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第五章
始まらない物語
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その日、僕達はレオンハルト王子に招かれて王城へと赴いた。
そもそもうっかり手に入れてしまった聖剣グランバルトの所在ははっきりさせておかなければいけなかったし、召喚されてすぐに失踪していた召喚勇者である小太郎を父親である王様の前に連れて行かなければと王子に言われてしまっては断る訳にもいかない。
いや、本当は断ってもよかったのだろうが、そうすると余計にややこしい事になりそうな気もしたので、敢えて僕達は王城へと赴いたのだ。
小太郎は不安そうな表情を見せていたがエリシア様もちゃんと話し合ったら分かってくれた。だからきっと王様だって話せばきっと分かってくれる。はず。
小太郎はこの世界に勇者として召喚されてはいるが、バトル物の少年漫画の主人公のような熱血タイプではない。
根拠のない自信を持って、自分はやれる、戦って世界を救ってやるんだ! というタイプでもない。
どちらかと言えばそういう気質を持っているのは聖女である茉莉の方で、小太郎はそれに無理やり付き合わされる幼馴染の立ち位置だ。
茉莉が少年主人公で小太郎が美少女ヒロインの立ち位置に居たら少しは王道の少年漫画っぽくなるのかもしれない。その場合、異世界で攫われたヒロインを探す所から物語は始まるのだろうけど、さすがにそうはならなかったしな……
茉莉は小太郎を探していたが、それはあくまで聖剣グランバルトを探す為、そして己のレベルアップの為だ。どう頑張っても王道の少年漫画は始まらないし、ヒロインの立ち位置にいる小太郎の扱いはおざなりだ、これでは物語にもなりはしない。
僕の傍らで常時不安そうにしている小太郎を盗み見て、僕がどうにかしてあげないとと思ってしまうのは僕の驕りだろうか?
「小太郎君、そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だよ」
「え……あ、すみません……」
謝る事なんてひとつもないのに、小太郎はおどおどと僕に謝罪の言葉を述べてくる。
こういうのも庇護欲っていうのかな、皆が僕を構いたがるのもきっとこれと同じ感情なのだろう。僕なんかより小太郎の方がよっぽど護ってあげたくなるタイプだと思うけど。
そういえば、小太郎は当初この場所に召喚されてきたはずだけど、結局時を越えて転移した件も謎のままだ。召喚したのはルーファウスの父親のアルバートだった事は分かっているけど、転移に関して自分は無関係だと言っていた。
それが嘘なのか本当なのかは本人の証言のみだから本当の所は分からないし、それが真実だとしても結局のところ誰がどうして小太郎を王城から放り出したのかは分からないままなのだ。
僕達が彼と出会ったのは偶然だったのか、必然だったのか。そして誰かが僕達の前へ彼を導いて来たのだとしたら、それは一体何のために?
僕達には分からない事ばかりだ。
「タケル、難しい顔をしてどうかしましたか?」
「え?」
「私はこの城に良い思い出がひとつもない、ここは良い事など起こりようのない場所なのです。タケルの気が乗らないのであれば国王への謁見は取りやめましょう」
「さすがにここまで来てそれは無いよ、ルーファウス」
僕はルーファウスの言葉に苦笑する。たぶん彼の言っている事は彼自身にとっては本当の事で、彼はこの城に居るのが嫌で嫌で仕方がないのだろう。
「嫌な思い出は良い思い出で塗り替えるが吉だよ」
そう言って僕はルーファウスの手を取った。
「なっ……!」
瞬間驚いたような表情のルーファウスの顔を覗き込み「僕と手を繋ぐのは嫌な事?」と問いかけたら、ルーファウスは全力で首を横に振った。
ロイドとはよく手を繋いで歩いていた僕だけど、ルーファウスと手を繋いで歩くのはこれが初めてだ。恥ずかしくないと言えば嘘になるけど、僕の見た目年齢はまだ子供だし、別にいいよね、このくらい。
「でも、なんで……」
ルーファウスの困惑がありありと僕に伝わってくる。それもそうだ、僕は今まで彼にこんな事をした事は一度もない。
だけどこれは僕にとって明確な打算でもあるのだ。
僕はルーファウスが好きだ。
誰かの身代わりなんてごめんだとルーファウスの想いを拒んできた僕だけど、タロウさんがまだ生きていると分かった今、ルーファウスをタロウさんに取られるのはもっと嫌だと僕は気が付いてしまった。
40過ぎのどこまでいっても平凡なおじさんが、こんな美人相手に手を出したって相手にされる訳がないと頭の片隅で理解していても、今の僕は何処に出しても恥ずかしくない美少年なのだ。
自分のこの容姿はどこかアバターめいて、未だに自分の物だという自覚は薄いままだが、それでも僕はこの無駄に可愛らしくなった容姿を十二分に利用する事に決めた。
幸いにもルーファウスはどこまでいっても平凡なおじさんである僕の本当の姿を知らないのだ、そしてこの愛らしい姿の僕は彼に愛されている。
「理由は僕がルーファウスとこうして歩いてみたかったからだよ。ダメ……だった?」
上目遣いにそんな事を言えばルーファウスの顔は一気に朱に染まる。元々色白だからその反応はとても分かりやすい。
自分でも我ながらあざとい言動しているなと思いはしたが、今の僕はそんな言動も似合ってしまうくらいの美少年なのだから自分に自信を持とう。
いや、でも、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいな……
手を握っただけでこんなに恥ずかしがるとか、中学生かよ! と、自分で自分に突っ込みつつ、そういえば今の自分の年齢は間違いようもなく中学生だったなと思い直した。
こういう甘酸っぱい感じの中学生時代なんて一切なかった人生なので、これはこれで人生のやり直しとしてはアリなのではないだろうか。
ルーファウスが恥ずかしそうに僕からふいっと視線を逸らした。けれど、握った手にはきゅっと力が入っていて、それだけで彼も満更ではないのは分かってしまう。
「本当に、本気で大嫌いな場所だったのに……」
「良い思い出で塗り替えられた?」
「タケルには敵いません……」
そんな事を言いつつも手を放す気はなさそうなルーファウスが愛おしい。
だけど、僕はこの時自分の事ばかりに一生懸命で、そんな僕達をずっと黙って見ている人がいる事を完全に失念していたんだよね……
そもそもうっかり手に入れてしまった聖剣グランバルトの所在ははっきりさせておかなければいけなかったし、召喚されてすぐに失踪していた召喚勇者である小太郎を父親である王様の前に連れて行かなければと王子に言われてしまっては断る訳にもいかない。
いや、本当は断ってもよかったのだろうが、そうすると余計にややこしい事になりそうな気もしたので、敢えて僕達は王城へと赴いたのだ。
小太郎は不安そうな表情を見せていたがエリシア様もちゃんと話し合ったら分かってくれた。だからきっと王様だって話せばきっと分かってくれる。はず。
小太郎はこの世界に勇者として召喚されてはいるが、バトル物の少年漫画の主人公のような熱血タイプではない。
根拠のない自信を持って、自分はやれる、戦って世界を救ってやるんだ! というタイプでもない。
どちらかと言えばそういう気質を持っているのは聖女である茉莉の方で、小太郎はそれに無理やり付き合わされる幼馴染の立ち位置だ。
茉莉が少年主人公で小太郎が美少女ヒロインの立ち位置に居たら少しは王道の少年漫画っぽくなるのかもしれない。その場合、異世界で攫われたヒロインを探す所から物語は始まるのだろうけど、さすがにそうはならなかったしな……
茉莉は小太郎を探していたが、それはあくまで聖剣グランバルトを探す為、そして己のレベルアップの為だ。どう頑張っても王道の少年漫画は始まらないし、ヒロインの立ち位置にいる小太郎の扱いはおざなりだ、これでは物語にもなりはしない。
僕の傍らで常時不安そうにしている小太郎を盗み見て、僕がどうにかしてあげないとと思ってしまうのは僕の驕りだろうか?
「小太郎君、そんな不安そうな顔しなくても大丈夫だよ」
「え……あ、すみません……」
謝る事なんてひとつもないのに、小太郎はおどおどと僕に謝罪の言葉を述べてくる。
こういうのも庇護欲っていうのかな、皆が僕を構いたがるのもきっとこれと同じ感情なのだろう。僕なんかより小太郎の方がよっぽど護ってあげたくなるタイプだと思うけど。
そういえば、小太郎は当初この場所に召喚されてきたはずだけど、結局時を越えて転移した件も謎のままだ。召喚したのはルーファウスの父親のアルバートだった事は分かっているけど、転移に関して自分は無関係だと言っていた。
それが嘘なのか本当なのかは本人の証言のみだから本当の所は分からないし、それが真実だとしても結局のところ誰がどうして小太郎を王城から放り出したのかは分からないままなのだ。
僕達が彼と出会ったのは偶然だったのか、必然だったのか。そして誰かが僕達の前へ彼を導いて来たのだとしたら、それは一体何のために?
僕達には分からない事ばかりだ。
「タケル、難しい顔をしてどうかしましたか?」
「え?」
「私はこの城に良い思い出がひとつもない、ここは良い事など起こりようのない場所なのです。タケルの気が乗らないのであれば国王への謁見は取りやめましょう」
「さすがにここまで来てそれは無いよ、ルーファウス」
僕はルーファウスの言葉に苦笑する。たぶん彼の言っている事は彼自身にとっては本当の事で、彼はこの城に居るのが嫌で嫌で仕方がないのだろう。
「嫌な思い出は良い思い出で塗り替えるが吉だよ」
そう言って僕はルーファウスの手を取った。
「なっ……!」
瞬間驚いたような表情のルーファウスの顔を覗き込み「僕と手を繋ぐのは嫌な事?」と問いかけたら、ルーファウスは全力で首を横に振った。
ロイドとはよく手を繋いで歩いていた僕だけど、ルーファウスと手を繋いで歩くのはこれが初めてだ。恥ずかしくないと言えば嘘になるけど、僕の見た目年齢はまだ子供だし、別にいいよね、このくらい。
「でも、なんで……」
ルーファウスの困惑がありありと僕に伝わってくる。それもそうだ、僕は今まで彼にこんな事をした事は一度もない。
だけどこれは僕にとって明確な打算でもあるのだ。
僕はルーファウスが好きだ。
誰かの身代わりなんてごめんだとルーファウスの想いを拒んできた僕だけど、タロウさんがまだ生きていると分かった今、ルーファウスをタロウさんに取られるのはもっと嫌だと僕は気が付いてしまった。
40過ぎのどこまでいっても平凡なおじさんが、こんな美人相手に手を出したって相手にされる訳がないと頭の片隅で理解していても、今の僕は何処に出しても恥ずかしくない美少年なのだ。
自分のこの容姿はどこかアバターめいて、未だに自分の物だという自覚は薄いままだが、それでも僕はこの無駄に可愛らしくなった容姿を十二分に利用する事に決めた。
幸いにもルーファウスはどこまでいっても平凡なおじさんである僕の本当の姿を知らないのだ、そしてこの愛らしい姿の僕は彼に愛されている。
「理由は僕がルーファウスとこうして歩いてみたかったからだよ。ダメ……だった?」
上目遣いにそんな事を言えばルーファウスの顔は一気に朱に染まる。元々色白だからその反応はとても分かりやすい。
自分でも我ながらあざとい言動しているなと思いはしたが、今の僕はそんな言動も似合ってしまうくらいの美少年なのだから自分に自信を持とう。
いや、でも、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいな……
手を握っただけでこんなに恥ずかしがるとか、中学生かよ! と、自分で自分に突っ込みつつ、そういえば今の自分の年齢は間違いようもなく中学生だったなと思い直した。
こういう甘酸っぱい感じの中学生時代なんて一切なかった人生なので、これはこれで人生のやり直しとしてはアリなのではないだろうか。
ルーファウスが恥ずかしそうに僕からふいっと視線を逸らした。けれど、握った手にはきゅっと力が入っていて、それだけで彼も満更ではないのは分かってしまう。
「本当に、本気で大嫌いな場所だったのに……」
「良い思い出で塗り替えられた?」
「タケルには敵いません……」
そんな事を言いつつも手を放す気はなさそうなルーファウスが愛おしい。
だけど、僕はこの時自分の事ばかりに一生懸命で、そんな僕達をずっと黙って見ている人がいる事を完全に失念していたんだよね……
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