童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第五章

前言撤回

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 僕のことをずっと好きだと言ってくれていた人に僕も好きだと伝えてみた。
 今までずっと関係を曖昧なままにしていた僕だけど、あまりにも彼が僕のためと言わんばかりに全方向に喧嘩を売るので、僕を信じろ、僕は裏切らない、あなたが好きで他の誰のものにもなるつもりはないと声を大にして告白してみたのだ。
 彼はそんな僕の言葉を受け入れて「僕を信じる」と言ってくれたし、これで少しは落ち着いてくれるかと思いきや、結果は……

「タケルはそもそも誰に対しても優しすぎるのですよ! そうやって四方八方に気をもたせてどんどん周りを誑し込んで、私が今までどれだけ心中穏やかでなかったか分かりますか!? あなたの身体は未だ幼く大人の腕力には敵いません、ましてや体力的に屈強な冒険者や亜人になんて勝てる訳もない、なのにあなたは平気な顔でそんな彼らに無防備な態度、私がそれにどれだけ気を揉んでいたか分かりますか!? 今までは私はあなたの師匠としてあなたを見守る事に徹していましたが、恋人となったからにはもう遠慮はしません。ええ、しませんとも、私はあなたの『恋人』としてもう二度と他の何者にもあなたを触れさせるつもりはありません! これは『恋人』として行使できる権利のはずです!」

 ああ、もう! うるさい、うるさい、うるさ~い!! さっきから恋人恋人うるさいよ! 確かに僕はルーファウスの事を好きだと言ったし、ルーファウスと恋人関係になるのはやぶさかではないけれど、その関係を盾に我が儘を通そうとするのは違うだろ!?
 僕が言いたかったのは僕はちゃんとルーファウスの事が好きだから誰かれ構わずに喧嘩を売るな、安心して見守って欲しいという事のはずだったのに全然全く通じてない。むしろ束縛が強くなってる。
 もうこれ完全に本末転倒だ……

「前言撤回」
「え?」
「そんな我が儘ばかりを言うルーファウスは嫌いです」
「これは我が儘では……」
「そんな事ばかりを言うのなら、僕はルーファウスの恋人にはなりません」

 そもそも今までだって僕はルーファウスの束縛を相当飲み込んできたと思うのだ、部屋の中をこっそり覗かれていても黙っていたし、背中に守護印を入れる事にも同意した、コレクションしていた僕そっくりの人形だって一体は残してあげたのだ、それは全部を取り上げるのさすがに不憫かと思った僕の優しさからだ。
 僕がここまで譲歩しているというのに、ルーファウスは一体何が不満だと言うのか。
 はっきり言ってこれまでのルーファウスの行動だって充分ストーカーの要件を満たしているというのに恋人になったからと更なる要求を飲ませようとするなんて、そんなの対等な関係だなんて到底言えない。
 これはそう、言ってしまえば「モラハラ」であると僕は考える。

「ルーファウスがみんなと対等な人間関係を構築できるまで、僕とのお付き合いは保留です! その条件が飲めないのであれば、金輪際僕とのお付き合いの可能性はゼロだと認識するように!」
「な……」
「まずはロイド君に今までの非礼を詫びる所からだよ」
「なんで私が!?」
「できないの? だったら僕は他に恋人を作るだけだよ。そうだなぁ、それこそロイド君とお付き合いした方が……」
「やめてください!」

 僕の方だって一応真面目に告白したつもりだし、こっちが駄目ならすぐそっちみたいないい加減な気持ちなんかではもちろんない。だからそんな無責任な事をするつもりはさらさらないけど、ルーファウスにはもう少し大人の対応を身に着けてもらわなければこれからも対人関係で問題ばかり起こしそうで、僕は心を鬼にする。

「だったらちゃんと今までの非礼を詫びて! 名前が嫌いだからって今まで一度も名前を呼ばないなんて仲間に対して失礼過ぎる態度だよ!」
「別に彼とは好き好んでパーティを組んだ訳では……」
「ルーファウス?」

 にっこり笑顔で詰め寄ったらルーファウスは脅えたように「ぜ、善処します」と頷いた。
 ただの友達関係ならば少しくらい言動に難があったとしても適当に付き合っていく事は可能だけれど、恋人関係はそうはいかない。
 長く関係を継続させたいと思うのであればお互いの価値観の共有とすり合わせは必須で大事だ。どちらか一方の我慢の上に成り立つ関係に先なんてない。そんな関係はどちらかの我慢が限界に達した瞬間に簡単に破綻してしまうと僕は思う。
 そうなってしまったらもう元の友人関係にすら戻れなくなってしまうと思ったら、僕はここで彼の要求を飲み込んだら駄目なのだ。
 好きだからという理由だけで自分の悪い所を含めて何もかもを受け入れてくれる人物キャラクターなんて物語の中にしか存在しない。そしてそれを僕に求められても困るのだ。
 僕にだって意志もあれば感情だってある。彼以外の交友関係だって僕には大事で、そんな何もかもを捨てて色恋に夢中になれる程恋愛脳ではないから今の僕(40独身童貞)が存在する訳で、そこは僕の存在意義として譲れない。
 自分が面倒くさい人間だという事は重々分かっている、だけどそれが僕だ。そしてそんな僕を受け入れられないのなら、ルーファウスはそもそもそんな僕と付き合うべきではないのだ。
 幸いにもエルフであるルーファウスは長命で、そして現在の僕の身体年齢はまだ十代、そんな価値観のすり合わせをする時間はまだまだたっぷり残されている。

「もう一度言っておくけど、僕はタロウさんとは違う。それに僕と本気で付き合いたいと思うならルーファウスは覚悟して、僕はルーファウスが思っているより相当重いよ」
「重い……?」
「撃っていいのは撃たれる覚悟がある奴だけだ……だったかな、他人に何かを強いるなら自分もそれ相応に相手から強いられる事は覚悟して、すべての話はそれからだ」

 もう一度にっこり笑ってそう言ってやるとやはり少し表情を強ばらせたルーファウスは無言でこくこくと頷いた。よしよし、これでルーファウスの暴走が少しは収まる事を切に願うよ。

『タケル~タケルぅ~』

 なんとかルーファウスを尻に敷き、言う事を聞かせた僕の視線の先でライムがぴょこぴょこと僕の名前を呼ぶ。

「ん? ライム、何かあった?」
『コタローが呼んでるってヒビキがいってる~』
「え? なに? 小太郎君に何かあったの?」
『えっとね、なんか絡まれて大変で、たすけて?』

 ライムの言葉を聞くだけではどうにも要領を得ないのだが、どうやら小太郎は誰かに絡まれているらしいというのは伝わった。
 僕がライムに彼等の居場所を尋ねるとライムはいつも通り「こっち~」とぴょんぴょん跳ねて案内をしてくれようとするので、僕は慌ててライムの後を追いかける。

「タケル、小太郎に何かあったんですか?」
「よく分からないけど、助けを呼んでるようなので行きます!」
「よく分からないって、あなたはまた余計な事に首を突っ込むつもりじゃないでしょうね?」

 ルーファウスには呆れたように言われてしまったけれど、僕は助けてと言われて黙って見過ごす事なんて出来ない性分なんだから仕方ないだろう?
 そしてそんな性分を把握しているルーファウスは渋々でも僕に付き合ってくれるって信じてるよ。

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