童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

矢の字

文字の大きさ
171 / 222
第五章

ヨルムンガンド

しおりを挟む
 悲劇が繰り返される? それは一体何なのかと考えて僕は思い至る。
 アランが王都から出奔した事件、アランにとっての悲劇とは仲間を失い家族と引き裂かれたその事件に間違いない。

「10年前、俺は最高潮に調子に乗っていた。可愛い嫁さんを捕まえて結婚し、冒険者としてもBランクに昇進したばかりだった。自分は何でも出来る男なんだって全能感に支配されていて、家族を養っていくためにと積極的にギルドの依頼を受けて働いていた。冒険者として金を稼ぐ為には当然魔物の討伐や危険地帯への採取依頼なんかを受ける事になるんだが、調子に乗っていた俺はBランクに昇進したばかりだっていうのにAランクの危険を伴う依頼ばかりを精力的にこなしていた」

 そんな生活を続ける事数年、子供も生まれて順風満帆だった頃その事件は起こったのだとアランは続けた。
 王国の外れにある山間部に謎のダンジョンが発生。そこから魔物が湧いて出るようになり危険なため速やかにダンジョン核を破壊し、ダンジョンを消滅をさせる事、そんな依頼が冒険者ギルドから出たのだそうだ。
 そのダンジョンはまだ確認されたばかりの物でお宝ダンジョンアイテムも手付かずの可能性が高く、仲間達は色めき立った。
 当然アランもそんな仲間たち同様ダンジョンには興味津々だった。
 そもそも王都近くにはダンジョンがほぼない。あったとしても極々小規模なものか手垢のついた管理されたダンジョンのみだ。
 お宝発掘なんて夢のまた夢で、アランはちゃんとしたダンジョンというのにそれまで挑んだ事はなかったのだそうだ。

「そうは言ってもダンジョンの中でも外でもやる事は一緒だと俺は思っていた。魔物を狩り、素材を集めて金に換える。ダンジョン内ではこの辺には出ない魔物も出るらしいって事で金になる魔物も多いと聞いていたしな。だが俺はその頃まだダンジョンの恐ろしさなんて一ミリも理解していなかったんだ」

 アランはダンジョン城の中でも何処か楽し気で、どちらかと言えばルーファウスの方が神経質にピリピリしていたように思うのに、それでもやっぱりダンジョンは恐ろしいものなんだって事は分かっていたんだな。
 でもよく考えるとアランはダンジョンに潜る際にはこれでもかと言わんばかりに準備を整えていたし、事前の情報収集にぬかりはなく僕も学ばせてもらった事が幾つもあった。
 それが高ランク冒険者というものなのだと思っていたけれど、それは経験からくる危険回避行動で、アランは僕達にそれを実地で教えてくれていたのかもしれないな。

「そのダンジョンのボスはヨルムンガンド、俺達は見た事もないような大蛇に手も足も出せずに大敗した。前にも話した事があると思うがどうにか命だけは助かったものの仲間は四肢に障害が残って冒険者は続けられなくなった。そしてそんな傷を仲間に負わせたのは他ならぬ俺自身だった」

 確かにアランは以前にそんな話を僕にしてくれた事がある。その怪我の責任を感じてアランは家族を置いて王都を出たのだ。
 そんなアランの思い出話を僕が反芻していると「ちょっと待ってください……ヨルムンガンド?」とルーファウスが首を傾げた。

「ああそうだ、ヨルムンガンドだ。俺がお前と出会った当初連れて行ったあそこだよ」
「では……」
「その通り、俺はその依頼が出る前に先回りして王都を出た。そしてお前を見付けだしてヨルムンガンド討伐を持ち掛けたんだ。あの時は本当に大変だったな、何が大変って討伐よりもお前をどうやってあそこに連れて行くかって、そっちの方が余程難題だった」
「それであんな事を……」
「あんな事?」

 僕がルーファウスの言葉に首を傾げるとハッとしたような表情のルーファウスは「何でもない」と首を横に振る。
 そんな慌てた様子のルーファウスの態度に「疚しい事は何もないが、ちいっとこいつの酒癖の悪さを利用させてもらった」とアランは笑った。
 酒癖か、酒癖悪いもんなルーファウス。
 酔って絡み酒になるルーファウスはその場にいる誰彼構わず甘え倒して老若男女問わずに誘惑する。いや、本人は誘惑しているつもりはないのだろうが、この綺麗な顔で「愛して欲しい、傍に居て」なんて潤んだ瞳で言われたら大概の人間はころりといくだろう。
 それで厄介事に巻き込まれる事もあったとかなかったとか、ルーファウスはその事に対して言葉を濁していたけれどアランとつるむようになってからはそれが減ったという話は僕も聞いて知っていた。
 そんなルーファウスの酒癖の悪さを利用してダンジョンへと連れて行ったと言うからには何があったかなんて何となく予想がつくな。

「それでヨルムンガンドは倒せたの?」
「ああ、事前にヨルムンガンドの情報をしっかり集めて準備万端で挑んだからな。しかも相棒が天下無敵の魔術師さまだ、余裕で討伐とまではいかなかったが怪我をする事もなく無事討伐できた」
「そうですね、アレはなかなかの強敵でしたが二人がかりでしたので比較的楽な戦闘だったと記憶しております」
「お前、それまで完全ソロだったもんな」

 完全ソロ……という事はルーファウスはその頃一人で冒険者をやっていたという事か。でもアランは他に仲間が居たのでは?

「アランの当時のパーティーメンバーはどうしたんですか?」
「ああ……王都に置いてった。自分は10年前の未来から過去に戻って来た、だから人生色々やり直したいんだなんてそんな荒唐無稽な話、当時の仲間には打ち明けられなくてな。ちなみにシュルクからメイズへ向かう途中に声かけてきた奴がいただろう? あいつが元々俺が殺しかけた男だ。俺達がヨルムンガンドを倒していなければあいつは片腕片足を失くしていた」

 ああ! 名前思い出せないけど確かに居た! 大剣を担いだ体格のいい獣人で、まだ自分は現役冒険者だと笑っていた人だ。あの人がアランの王都出奔の理由になった人か……って、あれ? でもあの人が元気でピンピンしてるんだったらアランが王都に帰らない理由なくないか?

「? あの、ひとつ疑問なんですけど、アランはなんでヨルムンガンドを倒してからも王都へ帰らなかったんですか? 王都を出る原因になったヨルムンガンドを無事討伐できたのなら普通に家族の元へ戻ったら良かったのでは?」
「そうだな、そうなんだよな……はぁ~」

 アランは机に肘をつき指を組んでその組んだ指に額を押し付けるようにして大きく溜息を吐き出し、一言「欲が出たんだよ」とぽつりと零した。

「仲間に事情は伝えられなかったが、俺はイライザには一通りの説明をして王都を立った。イライザは待っていてくれると言っていたし、実際ヨルムンガンド討伐までは待っていてくれたんだと思う。だけど俺はヨルムンガンド討伐が終わっても王都に帰らなかった」
「それは何で?」
「俺は欲張りにも考えちまったんだよ、このままルーファウスと一緒に居れば、あのドラゴンだって倒せるんじゃないか……ってな。ドラゴンを倒せば俺はただの冒険者じゃなく英雄になれる。それは実績として残るし、冒険者を引退した後も職には困らないだろう。一生遊んで暮らせるくらいの金は確約されたも同然で……要は俺は欲に目が眩んだんだ」

 まさかの! アランはそんな欲とは無縁な所で生きている人間だと思っていた僕は驚いた。

「それに俺自身楽しくもなっちまってたんだよな、この冒険者稼業が。お前達をダンジョンに誘ったのも、そうやってダンジョンでパーティーの戦闘経験を積んでおけばいずれ役に立つと思ったからだった、だが俺がそんな事を考えている間にイライザはあいつと……」

 嗚呼……無情。
 でも、そんな欲をかかずに家族と共に過ごしていたら今のアレンの立場はアランの物だったかもしれないと思うとやりきれないよな。

「人生二回目、後悔した事は全部やり直しができると思っていたんだが、私利私欲に走った結果、後悔が増えただけだった。それでもこの二回目の人生は有意義なものではあったけどな。俺は当時知らなかった、この国がこんな切迫した状態で危機に瀕していたなんてな……」
「スタンピードの事?」
「ああ、確かにあの時の魔物の暴走は尋常じゃなかった。魔力溜まりの存在、それを封じている存在、そして100年単位でその封印が弱まるなんて前回の俺は何も知らなかった。あの時俺は訳も分からず依頼が出ていたから戦っていた」

 あの時の自分は何を守るべきだったのか、そんな目的すらも見失っていた気がするとアランは零した。

「だけど今回は違う。俺は現在この国が危機に瀕している事を分かっているし、何処に何があって何が起ころうとしているのかも分かっている。だから俺はもう一度……」
「先程あなたはアレンは自分ではないと仰っていたじゃないですか。もう一度同じ状況を作り出したとしてまた過去に戻れるとは限りませんよ」
「分かってる! それでも俺は何もせずにはいられないんだ!」
「そこまでの事を話して、それでも私があなたに協力するとお思いですか? これまで私は長年に渡ってあなたに利用されていただけなのかと思ったら正直気分が悪い。これでも私はあなたの事を信頼していたのですよ」
「すまなかった、それに関して俺は何の申し開きもできない」

 机の上に手をついてアランは潔く頭を下げる。そんなアランを眺めながらルーファウスは呆れたように息を吐き「もういいです。どのみちあなたが居なかったら私はタケルに出会えてすらいなかった可能性の方が高い。そう考えたらあなたの行動ひとつで私の生き方も大きく変わったのですから、私はむしろあなたに感謝すべきなのかもしれませんしね」と苦笑した。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

穏やかに生きたい(隠れ)夢魔の俺が、癖強イケメンたちに執着されてます。〜平穏な学園生活はどこにありますか?〜

春凪アラシ
BL
「平穏に生きたい」だけなのに、 癖強イケメンたちが俺を狙ってくるのは、なぜ!? トラブルを避ける為、夢魔の血を隠して学園生活を送るフレン(2年)。 彼は見た目は天使、でも本人はごく平凡に過ごしたい穏健派。
なのに、登校初日から出会ったのは最凶の邪竜後輩(1年)!? 
他にも幼馴染で完璧すぎる優等生騎士(3年)に、不良だけど面倒見のいい悪友ワーウルフ(同級生)まで……なぜか異種族イケメンたちが次々と接近してきて―― 運命の2人を繋ぐ「刻印制度」なんて知らない! 恋愛感情もまだわからない! 
それでも、騒がしい日々の中で、少しずつ何かが変わっていく。 個性バラバラな異種族イケメンたちに囲まれて、フレンの学園生活は今日も波乱の予感!? 
甘くて可笑しい、そして時々執着も見え隠れする 愛され体質な主人公の青春ファンタジー学園BLラブコメディ! 月、水、金、日曜日更新予定!(番外編は更新とは別枠で不定期更新) 基本的にフレン視点、他キャラ視点の話はside〇〇って表記にしてます!

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

処理中です...