童貞のまま40を超えた僕が魔法使いから○○になった話

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第五章

卵のくせに扱いに困る

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 オロチと茉莉の間に卵が産まれた(うん、これはめでたい事だ)
 だけど、卵を孵す為には良質な魔力が必要(まぁ、卵の中身ドラゴンだしね、これも納得と言えば納得)
 その為に魔力の源泉でもある魔力溜まりに卵を浸けに行こう!(いや、さすがにそれは正気の沙汰じゃないからね!?)
 魔物達の暴走を引き起こしている魔力溜まり、そこに我が子を連れて行こうとしている我が従魔オロチをどう説得すればいいのか僕は頭を抱える。
 いや、そもそも説得も何もオロチの言う通り魔力溜まりに浸けたら本当に格の高いドラゴンが産まれるのだったらそれでもいいけど、だけど場所が場所だけに、はい、そうですかと素直に頷けない。

「ねえ、オロチ。本気で魔力溜まりにその子を連れて行くつもり? もし失敗したら取り返しがつかないんだよ?」
『ふむ、だが卵自体は番相手と共に聖樹に祈れば恐らくまた授かるだろうし、やるだけやってみるのも悪くはないと俺様は思うのだが』

 ええぇ……オロチは意外と子煩悩だと思った僕が間違いだった? オロチにとって格の高いドラゴンの父親になる事が主目的で、子供自体には興味がないのだとしたらそれはそれで問題大ありなのだけど。

「オロチはもし失敗してこの子が死んでしまってもいいって言うのか!?」
『この卵はまだ孵化してないから生きてない』

 嘘だろ、この卵には既に命が宿っている。それを産まれてないから生きてないなんて暴論もいい所だ。

「オロチはさ、卵の時にお爺さんに保護されてお爺さんに大事に守られて孵化したんだろう! それは卵にだって既に命が宿っているとお爺さんは分かっていたからオロチを大事に大事に何年もかけて魔力を注ぎ続けて孵化させてくれたんだ! そんな風に大事に育てられたオロチが我が子を蔑ろにするの僕はどうかと思うよ!」
『む……俺様は蔑ろにしている訳ではない、我が子に俺様のような苦労をさせないためにより良い力を求めているだけで――』
「その為に我が子たまごを危険に晒したら本末転倒だって言ってんの!」

 『むう……』と言葉に詰まるオロチだったのだが、それでも『だがな……』とより強い我が子誕生への執着は捨てきれない様子。僕は「これだけ言ってもこの子を危険に晒す気なんだったら僕がこの子を預かります!」と僕は卵に手を伸ばした。

『な、やめんか!』

 オロチが慌てたように僕を止めようとするより僕が卵に触れる方が僅かに速く、僕がその卵に触れた瞬間、卵が虹色に輝いた。

「え……」

 卵が七色に輝きだしたと同時に僕の中から何かが奪われていく感覚、それは僕の中から無理やりに引きずり出され強引に奪われていく。

『卵から手を放せ!』

 オロチに腕を掴まれて無理やり卵から手を引き剥がされたのと同時に体中の力が抜けて僕は腰が抜けたようにすとんとその場に崩れ落ちた。

「タケル!?」

 慌てたように僕に駆け寄ってくるルーファウス、オロチが僕から取り上げた卵を隅々まで確認して『良かった』とその殻を撫でると、七色に輝いていた卵は収束するように光が収まっていく。

「びっ……くりした……」
「タケル、怪我は? 何処か具合の悪い所など――」
「平気平気、驚いただけ」

 安心させるようにそう言って立ち上がろうとした僕だったのだけど、立ち上がろうとして立ち上がれない。あれ?

「タケル……?」
「なんか、急に身体に力が入らない」

 どうにか立ち上がろうとするのに、完全に膝が笑っているような感じで立ち上がれない僕をルーファウスが支えてくれて、どうにか僕は体裁を整える。

「一体これは……」
「魔力をごっそり持ってかれたんでしょ、あたしもなった。今まで魔力切れなんて起こした事なかったから魔力が切れると動けなくなるなんてあたしも初めて知ったよ」

 困惑するルーファウスをよそに茉莉が教えてくれた事実。魔力切れ。
 僕の魔力量は多分一般的なこの世界の人より多い。自分のステータス画面を見て現れる数字はごく一般的な数値を表しているけれど、僕のステータスにはちょっと変な所も多い。
 僕の魔力量の数字の後ろには括弧で括られた普通ではあり得ないような数字が記載されていて、恐らくそれが僕の隠蔽されていない魔力量なのだと思うのだ。
 そのあり得ない数字の魔力量のお陰で僕は今まで魔力切れなんて一度も起こした事がなく、魔力が切れるとこんな風になってしまうのかと驚いてしまった。
 恐らく茉莉も今まで魔力切れを起こす事などなかったのだろう「ビックリよね~」と魔力回復薬を僕に手渡してくれる。今まで持ってはいたけどほとんど使った事がない魔力回復薬はスタミナドリンクのような味がした。

「あの卵は危険です、タケルはもう二度とあの卵には触らないように! 魔術師にとって魔力は生命線、魔力も奪われ過ぎれば最悪死にます」

 僕と茉莉の会話から事態を察したらしいルーファウスに厳しい顔で釘を刺された。それにしてもドラゴンの卵ってあんな風に魔力を吸収するのか……ドラゴンの卵って意外と厄介。
 ドラゴンの生態はよく分かっていないと聞くけれど、こんな風に魔力を奪われ最悪命も奪われかねないドラゴンの卵の研究なんてそりゃ進む訳がないよな、納得だよ。

「ちなみに奪われると言えば、あたしはこの状態の時に聖属性魔法をスキルごと持ってかれたんだけど、大丈夫?」
「え……」

 僕が慌てて自分のステータス画面を確認すると四属性魔法、そのうちの火魔法の属性スキルが消えている。

「ああああ! 火属性魔法が消えたぁ!!」

 せっかく四属性魔法スキル全部10まで上げてあったのに、しかも火属性魔法は文字通り火力が強くて重宝して使ってたのにあんまりだ……

「タケル、あなた鑑定スキルを持っていたんですか?」

 あんまり慌てていたものだから、思わず皆の前でステータスチェックしてしまい、ついでに鑑定スキル持ちな事までバレてしまった。だけど今はそれどころじゃない。

「オロチ、これどういう事!?」
『どういう事と言われても、俺様にも分かる事と分からん事がある。ただひとつ分かる事は我がドラゴン族は生まれるまで卵の中で己の力を蓄え続けるという事だけだ』
「それは周りの魔力やスキルを奪ってってこと?」
『元来ドラゴンはこんな人目につく場所に卵を置かない。奪われ殺されてしまうからな。これはある種我が一族の自己防衛本能であり、不可抗力だ。ドラゴンの卵は大地に漂う魔素を蓄え親の魔力で育つ、本来であればそういうものだ』

 なるほど、そう言われてしまえばその卵の有りようには納得がいくけれど、やはり危険な事に変わりはない。
 卵自体も僕達人族にとって危険な代物だという事は分かったが、だからと言ってその卵を魔力溜まりに浸けるというその考えも危険だし、手を出そうにも出す事すら出来ず僕は途方にくれる。
 というか、卵時代魔力不足で苦労したと言っているオロチでさえリヴァイアサンを一撃で倒していたというのに、魔力溜まりの潤沢な魔力を取り込んでしまったら、その卵からどれだけ最強のドラゴンが生まれてしまうか分からない。
 それはそれでとても困った事なのではないだろうか?

「オロチはそんな風に卵を抱いていても大丈夫なのか?」
『我が子が保護者である親を危険に晒す訳がないだろう、魔力は奪われ続けているがきちんと加減はされている』

 平気そうな顔をしているオロチだけど、それでも魔力は奪われているのか……ドラゴンの魔力量がどのくらいあるか知らないけれど、魔物の王様のように言われるドラゴンだ、多少我が子に魔力を奪われた所でどうという事もないのだろう。
 オロチは我が子である卵をまたそっと台座に戻した。
 そんなオロチの態度を見ていれば少なくとも卵を蔑ろにしている訳ではないのは分かるのだよな……

「オロチはその子を魔力溜まりに連れて行ってちゃんとその子を護れるの? 魔力溜まりの魔力は強力で魔物の自我を奪うって言われてるんだよ?」

 僕の問いかけにオロチは『ふむ』とひとつ頷き『俺様は思い出した』と言葉を続ける。

「思い出したって、何を?」
『豊富に魔力の溢れる土地の事を龍脈というのだが、その起点となる場所の事を龍穴と呼ぶ。大昔ドラゴン族はその龍脈に群れで居住していたらしいのだが、いつしかその地を人族に奪われ追い出されてしまった。ドラゴン族の寿命は長い、だがその龍脈の土地を追われてから生まれた子供は爺さんの時代の同胞より貧弱で短命だと爺さんは言っていた。もしかしたら魔力溜まりというのはその龍穴を指すのではないのか?』

 !?

『もし、俺様のその仮説が正しければ俺様のやろうとしている事は正しい行いだという事になる』
「それは……」

 こじつけもいい所だ! と言っていいものか僕は判断に悩む。だって、もしかしたらオロチの言っている事が正解で魔力溜まりに卵を浸けるのは危険だと思っているのは僕の間違いの可能性だってある。これはあくまでも僕の主観であって、断定的に否定はできない。

『それにこの子は俺様の子供であって主には関係がない。主が過度に心配するのは筋違いだ』

 えええ、そういうこと言う!? 確かに今の僕はよそのお宅のお子さんを過剰に心配する近所のおじさん的立ち位置だけど、子供っていうのは宝だよ。誰の子供だろうと子供だったら心配するの当たり前だろ!?
 だって子供は親を選べない、子供が危険に晒されているのなら実の親にだって意見しないと!

「分かった、その子に関して僕はもう何も言わない。だけど期間限定の僕達の従魔契約は解消しないし、魔力溜まりには僕達と一緒に行く事。そんでもって僕が危険だと判断したらオロチはちゃんと僕の言う事を聞く事!」
『俺様は主の従魔になってはいるが下僕ではない』
「我が儘ばっかり言ってると、もう今後一切オロチにお酒あげないから!」

 それは困ると慌てるオロチ。この酒好きドラゴンめ。

『分かった分かった、だから酒は寄越せ。なんならまた鱗をくれてやるから』

 どれだけ説得しても首を縦に振らなかったくせに「酒」の一言で陥落したオロチはある意味扱いやすいが心配にもなってくるな。

「鱗は安売りしなくていい、今はその卵の安全が第一。オロチはお父さんになるんだから、しっかりその子を護るんだよ」

 そんな事は当たり前だとオロチは言うけれど、見てて心配になってしまうのだから仕方がない。

「母親としてのあたしの存在も忘れてもらっちゃ困るんですけど」

 そんな所に拗ねたように口を挟んでくる茉莉。
 これがパパで、あれがママ……いや、これでいて二人ともしっかりしてるの分かってるよ! 分かってるけど、なんだかこの子たまごの先行きが少々不安になるのはもう仕方がないと思わない?
 
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