7 / 26
火夫の煙草が目に染みる
しおりを挟む
潔い程に清々しい寒さに、息が凍る島の朝。
本来なら葬儀の日に『骨上げ』をするのが、
セオリーだけれど、
何故か
朝一番に『骨上げ』をしている。
というのも
伯母の遺体を焼いたのが朝一番だからだ。
新年明けての幕の内も過ぎて、
焼き場の火夫も正月休みを
交代にとっているとかで、人が手薄。
しかも
焼き釜を新年度で新調するからと、
昨日遺体を
焼き場に置いたままに一旦帰って、
朝、
焼き釜がサラピンに変えられたと
同時に伯母は焼かれた次第。
火夫いわく、
「いやあ、どない徳をつんだらぇ、サラの釜で1番に焼いてもらえるかのう。なげぇことやっとるだども、わーも、サラで逝きたいもんなぁ。」
だとか言う。
どんな話なんだと、引きつつ思う。
まっさらな釜かあ。
確かに、
早朝の火葬場で見る、
真新しい艶光りの蓋とかは、
本当にピカピカで、
どこか無駄な程に爽やかに感じた。
ピーヨロロロ。
トンビの声も良く響いて、
火夫の人体説明も、どこか呑気だ。
島の火葬場は、
空気も澄んで眩しい太陽の光が
照らす、緑山の端が海沿い。
目の前の海のお陰で、
ありがたいことに死臭など全くなくて、
潮の香りさえする。
ピーヒョロロロ。
朝と昼にとトンビが鳴く。
島のご近所の世間話は
最初が
「今日の海の色、綺麗なあ。」
から始まる。
都会では決して
聞くことないトンビの声と、
こんな台詞が
島独特の平和さを波のように打ち寄せて
感じさせる。
そんな
伯母も、島民らしくというか、
海で亡くなったわけで
骨壺の蓋をコチンと開けた。
昔から島では海で亡くなると、
決まって此の火葬場のある
波打ち際に打ち寄せてくると聞いた。
昔は大型船で亡くなると、
水葬とかしたらしいが、
今は海上自衛隊でも凍らせて丘に連れ帰る。
水葬とは別に船葬などもあって
浜で船が打ち上がると、
疫病対策の為に、海に船ごと返したとも聞く。
ともあれ、
島でも水葬は殆んどしない。
ましてや現代では違法だ。
だからなのか、
死して律儀にも
島のご意見番が揶揄するように
火葬場近くの海には、
焼いてほしくて土左衛門が集まるのだろうか。
ピーヒョロロロ。
火夫の人体説明が止んで、骨を拾い終わった。
親戚達は自家用車で、
初七日法要をする菩提寺に向かう算段。
あいにく
定員に溢れた
私と父はタクシーを待つ間、
緑の額縁に切り取られた海を眺めつつ、
火葬場で一息付いていた。
徐に、
「先生、体しっかりしとんど。」
さっきまで
伯母の真っ白な骨で
人体説明をしていた火夫が、
くゆる煙草を片手に近づき
私たちに呟く。
「伯母を知ってましたか?」
「わー、教え子らあよぉ。」
そうかと納得する。
やはり伯母は島の有名人なのだ。
そして少し思う。
かつての恩師を焼く教え子と、
かつての教え子に焼かれる気分は
どんなものだろうか?
「骨、しっかりしとんだぁ。ケガひとつしとらんだぁ?」
焼けた骨を見れば薬を常用していたことや、
食が細くなっていたことも解るという。
「そうですね、100まで生きると思ってました。」
火夫の持つ煙草から煙が
一本たなびくのを認めると、
それが火夫自身の
弔い火なのだと腑に落ちる。
なら
サラピンの釜で1番に焼く姿を
教え子に見せられて良かった。と、
どこか安堵した。
狭い島の中で、
死に様でさえ先生であり続けた
伯母の最後までの矜持。
ピーヒョロロロ
トンビの声と火夫が吐く煙が
幕の内明けの空に登っていく。
本来なら葬儀の日に『骨上げ』をするのが、
セオリーだけれど、
何故か
朝一番に『骨上げ』をしている。
というのも
伯母の遺体を焼いたのが朝一番だからだ。
新年明けての幕の内も過ぎて、
焼き場の火夫も正月休みを
交代にとっているとかで、人が手薄。
しかも
焼き釜を新年度で新調するからと、
昨日遺体を
焼き場に置いたままに一旦帰って、
朝、
焼き釜がサラピンに変えられたと
同時に伯母は焼かれた次第。
火夫いわく、
「いやあ、どない徳をつんだらぇ、サラの釜で1番に焼いてもらえるかのう。なげぇことやっとるだども、わーも、サラで逝きたいもんなぁ。」
だとか言う。
どんな話なんだと、引きつつ思う。
まっさらな釜かあ。
確かに、
早朝の火葬場で見る、
真新しい艶光りの蓋とかは、
本当にピカピカで、
どこか無駄な程に爽やかに感じた。
ピーヨロロロ。
トンビの声も良く響いて、
火夫の人体説明も、どこか呑気だ。
島の火葬場は、
空気も澄んで眩しい太陽の光が
照らす、緑山の端が海沿い。
目の前の海のお陰で、
ありがたいことに死臭など全くなくて、
潮の香りさえする。
ピーヒョロロロ。
朝と昼にとトンビが鳴く。
島のご近所の世間話は
最初が
「今日の海の色、綺麗なあ。」
から始まる。
都会では決して
聞くことないトンビの声と、
こんな台詞が
島独特の平和さを波のように打ち寄せて
感じさせる。
そんな
伯母も、島民らしくというか、
海で亡くなったわけで
骨壺の蓋をコチンと開けた。
昔から島では海で亡くなると、
決まって此の火葬場のある
波打ち際に打ち寄せてくると聞いた。
昔は大型船で亡くなると、
水葬とかしたらしいが、
今は海上自衛隊でも凍らせて丘に連れ帰る。
水葬とは別に船葬などもあって
浜で船が打ち上がると、
疫病対策の為に、海に船ごと返したとも聞く。
ともあれ、
島でも水葬は殆んどしない。
ましてや現代では違法だ。
だからなのか、
死して律儀にも
島のご意見番が揶揄するように
火葬場近くの海には、
焼いてほしくて土左衛門が集まるのだろうか。
ピーヒョロロロ。
火夫の人体説明が止んで、骨を拾い終わった。
親戚達は自家用車で、
初七日法要をする菩提寺に向かう算段。
あいにく
定員に溢れた
私と父はタクシーを待つ間、
緑の額縁に切り取られた海を眺めつつ、
火葬場で一息付いていた。
徐に、
「先生、体しっかりしとんど。」
さっきまで
伯母の真っ白な骨で
人体説明をしていた火夫が、
くゆる煙草を片手に近づき
私たちに呟く。
「伯母を知ってましたか?」
「わー、教え子らあよぉ。」
そうかと納得する。
やはり伯母は島の有名人なのだ。
そして少し思う。
かつての恩師を焼く教え子と、
かつての教え子に焼かれる気分は
どんなものだろうか?
「骨、しっかりしとんだぁ。ケガひとつしとらんだぁ?」
焼けた骨を見れば薬を常用していたことや、
食が細くなっていたことも解るという。
「そうですね、100まで生きると思ってました。」
火夫の持つ煙草から煙が
一本たなびくのを認めると、
それが火夫自身の
弔い火なのだと腑に落ちる。
なら
サラピンの釜で1番に焼く姿を
教え子に見せられて良かった。と、
どこか安堵した。
狭い島の中で、
死に様でさえ先生であり続けた
伯母の最後までの矜持。
ピーヒョロロロ
トンビの声と火夫が吐く煙が
幕の内明けの空に登っていく。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」
歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。
「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは
泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析
能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り
続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。
婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる