【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

文字の大きさ
1 / 415

1.豹変した妹①(怖さレベル:★★☆)

しおりを挟む
(怖さレベル:★★☆:ふつうに怖い話)



ええと、これは、すごい昔の話なんですけど。

私の妹、絵描きなんです。
といっても、たいそうなものではなくて。

ただ、自分の好きな絵――特に風景画を好んで描いていました。

しかし、うちの両親はとても厳しい人で、
夢を追うためだけに美大など、とても行かせてはくれませんでした。

更にそれだけで生活なんてできないので、
妹は中小企業に就職し、休日に道具を持って絵を描く、
という日々を送っていました。

それは、半ば趣味といって差し支えないくらいの状態で。

とはいっても、やっぱりプロになりたいという夢はあったようで、
いろいろなコンクールなどに応募はしていたようです。

そんな妹は、一人暮らしで生活をしていたので、
親と同居していた私は、
よく生活用品などを差し入れしに遊びにいくことが多かったのです。

彼女は1LDKのあまり広くない部屋に住んでいたのですが、
そのリビングには、いつも絵描き道具が置かれ、
ちょっとしたアトリエの風体となっていました。

私は、そこで妹が描いたいろいろな絵画を眺めるのが、
遊びに行く時の楽しみになっていたのです。

そして、それは冬のある寒い日だったでしょうか。

いつものように、妹の暮らすアパートのワンルームへと、
トイレットペーパーとご飯パックをお土産に、ふらりと遊びにいった日でした。

妹は、ほとんど出来上がっている風景画に、
最後の色付けをしているところでした。

「お姉ちゃん、いらっしゃい。
 あ、いろいろまた買ってきてくれたんだ、ありがとね」
「ん、気にしないでよ。これ、置いておくからね……って、あれ?」

目の端に映った彼女の絵に違和感を覚えて、思わず足が止まったのです。

妹の絵は風景画がメインなので、だいたいが緑や青、
茶色などの色合いで描かれることが多いのですが、

一瞬見えた彼女の絵には、
奇抜ともいえるほどの鮮やかなムラサキ色が見えたのです。

「……花?」

そう、最初は花の色かと思ったんです。

冬に入ったとはいえ、まだパンジーなどの冬の花も見かけましたし、
自然が好きな妹ですから、きっとそういう場面を描いたのだろうと。

荷物を置いてリビングに戻れば、
妹は絵筆を片付けて、描いた絵に上から布をかぶせていました。

「あれ、どうしたの?」
「んー……なんかあんまり納得いかなくて」

普段であれば、描き終えた絵は乾燥の為さらしておくのに、
珍しいことをするなぁ、と思ったのを覚えています。

そして、またしばらくしてから、妹の家に行った時です。

妹は、リビングでまた絵をかいていました。

「……あれ?」

しかし、いつもであれば緑にあふれている絵画は、妙に薄暗い色彩です。

「あ、お姉ちゃん、いらっしゃい」
「う、うん。……ねぇ、今日は風景画じゃないのね」

そう、その絵は、どこか抽象的な……
妹のいつもの作風とは明らかに異なった画風でした。

濃い灰色の背景に、黒と白の濃淡。

渦巻のように盛り上がった油絵の具の中央に、
いつか見たあの鮮やかなムラサキが、ぽつん、と置かれているのです。

「んー……ちょっと、気分転換」

妹は、少しだけ疲れたように笑って、
またいつかのように絵筆を片付け始めました。

そしてまた、描いた絵の上にひらり、と布をかぶせて隠してしまうのです。

「え、ちょっと、よく見せてよ」
「あんまりうまく描けなかったからさ。……また今度ね」

困ったように笑う妹に、あまり強く出ることも出来ず、
仕方ないとその時は引き下がったのです。



そしてまた、妹の家に行った時のことです。

その日は本当は仕事休みで、昼くらいに妹の家に行く予定だったのですが、
ぐうぜん臨時の出勤が入ってしまい、
予定よりも大幅に遅れて彼女の家についたのです。

「ごめんねー遅れて……あれ?」

連絡はしてあったものの、
扉を開けて声を掛けても反応がありません。

不用心なことに、鍵を開けたまま、
コンビニにでも出かけて行ってしまったようでした。

仕方がないので部屋に入って、持ち込んだお土産を置いていると、
またもやリビングの中央に置かれた絵に目が行きました。

それは、やはり布でひらりと覆われていて、見ることができません。

「……ちょっとだけなら、いいよね」

僅かに湧いたいたずら心のまま、
かぶせられた布をちらり、とめくったのです。

「――ッ?!」

ムラサキ、ムラサキ、ムラサキ――。

油絵具を幾重にも重ね、
まるで山の表面をボコボコと描いてでもいるかのように、
執拗に塗り重ねられたムラサキの絵画がそこにはありました。

「なに、これ……」

思わず手からはなれた布が、バサリと床に落ちます。
その行方に目をやって、ビクリ、と身体がこわばりました。

いつもであれば、失敗作や、
途中の絵画がばらばらと置かれている部屋の隅。

その絵画の数々も――みな、すべからくムラサキ色に彩られていたのです。

「う、わ……」
「お姉ちゃん」

引いた身体の背面に、ぽん、と手のひらが乗りました。

>>
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

少し怖いホラー短編集(文字数500以下)

仙 岳美
ホラー
文字数500以下のショート集です、難しく無いので気楽にどうぞ。

霊和怪異譚 野花と野薔薇

野花マリオ
ホラー
その“語り”が始まったとき、世界に異変が芽吹く。 静かな町、ふとした日常、どこにでもあるはずの風景に咲きはじめる、奇妙な花々――。 『霊和怪異譚 野花と野薔薇』は、不思議な力を持つ語り部・八木楓と鐘技友紀以下彼女達が語る怪異を描く、短編連作形式の怪異譚シリーズ。 一話ごとに異なる舞台、異なる登場人物、異なる恐怖。それでも、語りが始まるたび、必ず“何か”が咲く――。 語られる怪談はただの物語ではない。 それを「聞いた者」に忍び寄る異変、染みわたる不安。 やがて読者自身の身にも、“あの花”が咲くかもしれない。 日常にひっそりと紛れ込む、静かで妖しいホラー。 あなたも一席、語りを聞いてみませんか? 完結いたしました。 タイトル変更しました。 旧 彼女の怪異談は不思議な野花を咲かせる ※この物語はフィクションです。実在する人物、企業、団体、名称などは一切関係ありません。 エブリスタにも公開してますがアルファポリス の方がボリュームあります。 表紙イラストは生成AI

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

処理中です...