【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

文字の大きさ
108 / 415

48.海辺のガラガラ②(怖さレベル:★★★)

しおりを挟む
しかし、一人きりの部屋でボーっとしてれば、
あの海辺での出来事がありありと脳内に再現されてきます。

暗い夜の海。
桟橋から現れた黒い影。
おもちゃのガラガラ。

上半身だけの人間――。

「やめ。ダメダメ……忘れろ」

無音の個室で、嫌な妄想は膨らむばかり。

私はにぎやかしの為にTVを点けて、
現実逃避とばかりに布団に潜り込みました。

目を閉じれば、
ふわふわと目の裏に例の映像がチラついて、
眠気は遠のいていくばかり。

(……ハァ)

ここまで眠れないのなら、
いっそ徹夜してしまおうか、
と寝台の上でモンモンと寝返りをくりかえしていた時。

…………

不意に、音がしました。

…………カラ

(……!?)

とたんに全身が硬直しました。

どこからか。

あの、
海辺でも聞いた、音。

カラ……カラ……

壁一枚を隔てているかのような、
近いようで遠い、微妙な距離感。

カラ……カラ……

恐怖に混乱する頭は、
しかし音源を探そうと無意識に聴覚を研ぎ澄まします。

明かりを落とした室内。

被った布団の隙間から、
そろそろと外の様子を伺った私の目が、
ほんの少しだけ開いたままの、
窓際のカーテンに向かって静止しました。

「あ……う……」

口の端からこぼれるのは無意味な呻き。

わずかばかりのカーテンの狭間。

そこには、暗闇の中でなお、不気味にうごめく
真っ白い目玉が映っていました。

カラカラ……

ギョロギョロとせわしなく動くそれが動くたび、
薄っすらと映り込むあのガラガラのおもちゃ。

この部屋は、ホテルの四階です。
それを、この化け物は腕だけで登り、
ここまでやってきた――?

うすら寒いその事実に思い至り、
全身の血液が冷たく凍り付きました。

「……う」

カラカラ……ガン!

と。

その異形の化け物は、何の前触れもなく、
突如、強く頭を窓に打ち付け始めたのです。

ガン! ガン!

「ひ、ぃっ……」

それはまるで、ガラスを無理やり割って、
中へ押し入ってこようとでもしているかのような。

ガン! ガンッ!

「だ……だめだ……」

もしアレが、入ってきたら。

そうなったら、私はきっと、
とり殺されてしまう――!

「う、うわっ……」

ガン! ガンッ!

叩きつけられる窓に、濡れた液体が滲んでいます。

汗、血、それとも、脳漿――?

ガンッ! ガンッ!

その振動が、部屋全体を揺らします。

緊張でカチコチに固まった身体は、
しかし、指一本すら動かすことができません。

(……もう、ダメだ)

絶望的な気分で、今にも破壊されてしまいそうな窓をただ見つめていた、
その時。

プルルルル……

不意に、ホテルの内線が鳴り響きました。

プルルルル……

「……あ?」

すると、まるで夢から覚めたかのように、
ハッと意識が覚醒したのです。

プルルルル……

「……あ、れ?」

布団から這い出すと、あの狂おしいまでの窓辺の振動は
止んでおり、開いたカーテンの隙間には何者の影もありません。

「え……寝ぼけ、た?」

まさかすべて、夢?
気づかぬうちに、眠りに落ちていたのでしょうか。

呆然と窓辺を見つめていた私の耳が、

プルルルル……

「あっ」

未だ鳴りやまぬ内線電話の音を拾いました。

「も、もしもし?」

こんな深夜帯に、いったい何の電話だろう、
と訝しみつつ受話器を取れば、

『あ、夜分遅くに申し訳ございません。フロントの者ですが』
「あ、は、はい……」
『ええと、あの、申し上げにくいのですが、
 ほかの部家の方より、騒音の苦情が入りまして』

騒音。

つい今しがた、夢かとホッと人心地ついていた気分が、
ぶわっと再び総毛立ちます。

『大変恐縮ですが……なるべく、お静かにお願い致します』
「あ……は、ハイ。すみません……」

緊張と夢見心地が混ざった奇妙な感覚のまま電話を切り、
一拍置いて、その内容を再度反芻して、
私はガタガタと震え始めました。

こんな真夜中に騒音。

私は布団に潜り込み、ただただ怯えていただけでした。

だというのに、それがフロントにまで苦情として連絡が入ったということは、

あの化け物が居たというのは、
夢でも幻でもなく、
間違いなく現実そのものということ。

「……う、っ」

私は湧き上がってきた吐き気を必死でこらえ、
再び布団をガバリと被って、
震えを抑え込もうと縮こまりました。

それから朝までは、
もう一睡もすることはできませんでした。



翌日、私は逃げるようにホテルを後にして、
そのまま都内へと帰りました。

あんな恐ろしい思いをしたせいか、
とても気ままな旅を続ける気にはなれなかったのです。

幸い、そのあと、
私の身の回りにアレが現れるコトは今のところありません。

今となっては、
アレは本当に経験したことなのか、
それすらひどくあいまいで、
自暴自棄の自分が作り出した偽りの記憶なのでは、
なんて思ってしまうときすらあります。

しかし、私は今でも夜の海を目にすると、
あのカラカラ……という、
切なくも物悲しい音が、聞こえてくるような気がするのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

最終死発電車

真霜ナオ
ホラー
バイト帰りの大学生・清瀬蒼真は、いつものように終電へと乗り込む。 直後、車体に大きな衝撃が走り、車内の様子は一変していた。 外に出ようとした乗客の一人は身体が溶け出し、おぞましい化け物まで現れる。 生き残るためには、先頭車両を目指すしかないと知る。 「第6回ホラー・ミステリー小説大賞」奨励賞をいただきました!

本当にあった不思議なストーリー

AA.A
ホラー
筆者の実体験をまとめた、本当にあった不思議な話しです。筆者は幼い頃から様々な科学では説明のつかない経験をしてきました。当時はこのような事をお話ししても気持ちが悪い、変な子、と信じてもらえなかった事が多かったので、全て自分の中に封印してきた事柄です。この場をおかりして皆様にシェア出来る事を嬉しく思います。

少し怖いホラー短編集(文字数500以下)

仙 岳美
ホラー
文字数500以下のショート集です、難しく無いので気楽にどうぞ。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

処理中です...