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70.曰くトンネルの過去③(怖さレベル:★★☆)
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彼――イツキ君が、自殺した、というのです。
そう、彼は呪い殺されるのならば、と小学生のつたない遺書を残し、
自ら川へ飛び込み、亡くなってしまったんです。
「う……うぁ……」
どんどんと芋づる式に思い出される当時の記憶。
そんな出来事があったから、私たち家族はこの地を離れたんです。
決して、親の転勤が理由ではなかった。
それは、衝撃的な事実にショックを受けていた私をごまかすための、
きっとウソであったのでしょう。
呆然と過去の幻影を見つめる私の前で、
彼はボソボソ、とあの口調でさらに続けました。
「……三人。もう、とり殺した」
「え……」
三人、という数字には心当たりがあります。
私たちをイジメていた、同級生。
その主犯格であった者たちの数です。
遠いウワサで若くして亡くなった、と確かに耳にはしていました。
自殺したらしい、というのは聞いていたのですが、
例の記憶は忘却されていた上に、当然ながらその後付き合いもなく、
深く理由まで考えていませんでしたが――。
「……あとは、君だけ」
ニィ、と。
トンネルの影と同化する少年が、こちらを見て笑います。
「わ……う、わあ……」
足がすくみ、身体は無意識下で震え始めます。
二十年前の亡霊。
あのラクガキをした彼は死に、同じ行いをした私は助かった。
しかも、その時の記憶をすっかりと忘れ去り、
のうのうと今日まで生き延びてきました。
今、目の前に立つ彼は、決してあの絵の呪いなどではなく、
救うことのできなかった、唯一の友人の魂。
「ごめん……ごめん……っ」
バン、とアスファルトに両手をついて、私はただただ、
ボロボロと涙を流しました。
なにもできなかったこと。
自分だけが、平穏無事に助かってしまったこと。
彼のことを、微塵も思い返さなかったこと。
全てが申し訳なくて悲しくて、そんな私の懺悔に、
目前のイツキ君はひるんだように後ずさりました。
「…………」
……ボソボソ
ボソボソ……
彼は、小さく何ごとかを呟きます。
私が、濡れた両目でハッと顔を上げると、
彼は――イツキ君は、スーッとトンネルの影となって揺らぎ始めました。
「い、イツキ君……?」
「……あいつら、謝らなかった。ボクのこと、思い出しもしかなった」
とり殺した、という例の三人。
あのラクガキを強制させたイジメっ子たち。
「…………」
ボソ、と。
彼は私のことをジィっと見つめ、フッと小さく息を吐きました。
「忘れないで」
ゆら、と彼の姿がどんどんと存在感を薄れされていきます。
真夏の陽炎のように、実体がぼやけて、そして。
「忘れないで……寺田君」
「い、イツキ君……!」
冷え切ったその声ににじむ、一つの確かな思い。
その言葉と共に、完全に消え去ってしまったかつての友人の姿に、
私はしばらく立ち直れもしないまま、その場で声を上げて泣いていました。
それから。
私は地元の人たちに聞きまわり、彼の家を探しました。
残念ながら、かつての場所に彼の一家はおらず、
また、亡くなったイツキ君の墓も、この地には存在していないようでした。
せめてもの償いにと、私は月に一度ほどの頻度で、
あのトンネルに花を供えに行っています。
ラクガキだらけのトンネルの内部、暗くよどんだ空気のそこは、
確かに少々不気味で、イヤな気配を宿しています。
でも、ここに。彼がいるのなら。
今まで忘却していまっていた懺悔に、訪れた時には少しだけ掃除をしたり、
二十歳になれなかった彼の為に、お酒を撒いたりしています。
イツキ君は、あの邂逅以来、姿を見せることはありません。
怒っているのか、悲しんでいるのか、
それとも、満足してくれているのか。
……まぁ、そんな考えは、私のエゴでしかないかもしれません。
それに、もしかしたら、私はすでに憑りつかれていて、
明日にでも命を落とすのかも知れません。
でも、少なくとも、その命が尽きるまではせめて、
彼へのお参りを続けたい。そう、思っています。
そう、彼は呪い殺されるのならば、と小学生のつたない遺書を残し、
自ら川へ飛び込み、亡くなってしまったんです。
「う……うぁ……」
どんどんと芋づる式に思い出される当時の記憶。
そんな出来事があったから、私たち家族はこの地を離れたんです。
決して、親の転勤が理由ではなかった。
それは、衝撃的な事実にショックを受けていた私をごまかすための、
きっとウソであったのでしょう。
呆然と過去の幻影を見つめる私の前で、
彼はボソボソ、とあの口調でさらに続けました。
「……三人。もう、とり殺した」
「え……」
三人、という数字には心当たりがあります。
私たちをイジメていた、同級生。
その主犯格であった者たちの数です。
遠いウワサで若くして亡くなった、と確かに耳にはしていました。
自殺したらしい、というのは聞いていたのですが、
例の記憶は忘却されていた上に、当然ながらその後付き合いもなく、
深く理由まで考えていませんでしたが――。
「……あとは、君だけ」
ニィ、と。
トンネルの影と同化する少年が、こちらを見て笑います。
「わ……う、わあ……」
足がすくみ、身体は無意識下で震え始めます。
二十年前の亡霊。
あのラクガキをした彼は死に、同じ行いをした私は助かった。
しかも、その時の記憶をすっかりと忘れ去り、
のうのうと今日まで生き延びてきました。
今、目の前に立つ彼は、決してあの絵の呪いなどではなく、
救うことのできなかった、唯一の友人の魂。
「ごめん……ごめん……っ」
バン、とアスファルトに両手をついて、私はただただ、
ボロボロと涙を流しました。
なにもできなかったこと。
自分だけが、平穏無事に助かってしまったこと。
彼のことを、微塵も思い返さなかったこと。
全てが申し訳なくて悲しくて、そんな私の懺悔に、
目前のイツキ君はひるんだように後ずさりました。
「…………」
……ボソボソ
ボソボソ……
彼は、小さく何ごとかを呟きます。
私が、濡れた両目でハッと顔を上げると、
彼は――イツキ君は、スーッとトンネルの影となって揺らぎ始めました。
「い、イツキ君……?」
「……あいつら、謝らなかった。ボクのこと、思い出しもしかなった」
とり殺した、という例の三人。
あのラクガキを強制させたイジメっ子たち。
「…………」
ボソ、と。
彼は私のことをジィっと見つめ、フッと小さく息を吐きました。
「忘れないで」
ゆら、と彼の姿がどんどんと存在感を薄れされていきます。
真夏の陽炎のように、実体がぼやけて、そして。
「忘れないで……寺田君」
「い、イツキ君……!」
冷え切ったその声ににじむ、一つの確かな思い。
その言葉と共に、完全に消え去ってしまったかつての友人の姿に、
私はしばらく立ち直れもしないまま、その場で声を上げて泣いていました。
それから。
私は地元の人たちに聞きまわり、彼の家を探しました。
残念ながら、かつての場所に彼の一家はおらず、
また、亡くなったイツキ君の墓も、この地には存在していないようでした。
せめてもの償いにと、私は月に一度ほどの頻度で、
あのトンネルに花を供えに行っています。
ラクガキだらけのトンネルの内部、暗くよどんだ空気のそこは、
確かに少々不気味で、イヤな気配を宿しています。
でも、ここに。彼がいるのなら。
今まで忘却していまっていた懺悔に、訪れた時には少しだけ掃除をしたり、
二十歳になれなかった彼の為に、お酒を撒いたりしています。
イツキ君は、あの邂逅以来、姿を見せることはありません。
怒っているのか、悲しんでいるのか、
それとも、満足してくれているのか。
……まぁ、そんな考えは、私のエゴでしかないかもしれません。
それに、もしかしたら、私はすでに憑りつかれていて、
明日にでも命を落とすのかも知れません。
でも、少なくとも、その命が尽きるまではせめて、
彼へのお参りを続けたい。そう、思っています。
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