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118.恋の呪い①(怖さレベル:★☆☆)
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(怖さレベル:★☆☆:微ホラー・ほんのり程度)
『20代女性 春川様(仮)』
恋は盲目。……よく、聞く言葉ですよね。
かくいう私は、二十代に入るまで、恋愛らしい恋愛なんて、いっさいしてこなくて。
学生時代、仲の良かった友だちがひどい恋ばかりしていて、
恋愛に夢が見られなかった、っていうのもありますね。
そのうえ両親も不仲で、結婚を考えても「幸せにはなれないもの」っていう
先入観……いえ、深層心理があったのも原因のひとつかもしれません。
でも、私が新卒で入った会社で、教育を担当してくれた先輩。
仮に久坂さんと呼びますが、この人が……その、とてもステキな人で。
私がどんなミスをしても怒らず諭し、
なんでも丁寧に教えてくれる、人間的に尊敬できる人で。
物腰もやわらかくて、いつもニコニコしているし、
感情の起伏もおだやかで落ち着いていて、カッコよくて。
生まれて初めての恋らしい恋に、
私はすっかり舞い上がってしまいました。
とはいえ、そんな人ですから当然お付き合い中の彼女がいまして。
なにげない会話のなかでそれを知ったときには、
もちろんショックではありましたが、まぁ当然だよね……という気持ちでした。
しかし、恋愛感情っていうのはままならないモノで。
届かないとわかっていても、なかなか諦められないモノですよね……。
私は久坂先輩への恋心を胸に秘めつつも、
表に出さないように、必死でいい後輩を演じていました。
そして、そんなある日のこと。
実は、と久坂先輩が暗い顔で打ち明けてきたんです。
「彼女と別れた」と。
話を聞いているかぎり、まったくなんの問題もないラブラブっぷりだったのに、
とは思いましたが、彼に惚れていた私は、内心ものすごく浮かれてしまって。
もしかしたら、先輩と付き合えるかもしれない!
そう、考えてしまったんですよね。
私のそんな好意が伝わったのか、はたまた彼女と別れてヒマができたためか、
彼から食事を誘われることが、ちょくちょく増えてきました。
私はすっかり嬉しくなって、先輩に誘われるがまま、
食事をともにしたり、ときには買い物へ行ったりするようになったのです。
そして――その頃から、でしょうか。
不思議な現象が、私の周りで起き始めたのは。
始めは、ほんの小さなコトだったんです。
先輩との食事が終わり、帰りの電車に揺られていた時。
満員電車で押される不快感に耐えながらも、
直前までの幸せな気持ちをかみしめていると、
スーッ……
(……ん?)
電車の窓。
車内が鏡のように反射しているそのガラス板に、
白っぽいモノが横切りました。
(照明……?)
外の街灯の明かりでも映りこんだのでしょうか。
しかし、それにしては、ずいぶんと動きがゆっくりです。
気になって視線で追いかけたものの、
それはあっという間に姿を消してしまいました。
「今の……」
ユラユラと、上下に揺れながら移動していたそれは、
まるで――そう、人魂のように見えたのです。
(いや……まさかね。見間違いだって)
脳裏にうかんだ不穏な思考をすぐさまふり払い、
忘れてしまおう、と私は目を閉じました。
見間違いか、かん違い。もしくは幻覚。
そう。きっと、ただそれだけだと――そう、思っていたんです。
次にそれを見たのは、先輩と映画を見た帰りでした。
映画終わりにカフェに入り、途中、先輩が手洗いに行って、
私がひとりでボーッと幸せにひたっていた時です。
――キィン
「……痛ッ」
右耳に、耳鳴りのような甲高い音が突然とびこんできて、
私は思わず、手で耳を覆いました。
しばらくそうしていれば、耳のなかは反響をくり返しつつも、
だんだんと痛みと音がやわらいできます。
せっかくいい気分だったのになんなんだろう、と私は不審に思いつつ、
かるくリンパの辺りを揉みながら顔を上げました。
スーッ……
「……え」
目の前。
先輩がついさっきまで座っていた席のうえに、
白くてうすい煙のようなモノが、ゆらりと飛んでいったのです。
「え……エッ!?」
まばたきする、ほんの数秒の間。
それは、蜃気楼のようにスッと消え去っていました。
パチパチと目を開け閉めすれば、
目の前の景色は、なんらさきほどと変わらないカフェの風景に戻っています。
(い、今の……)
ふわっと空気に溶けるように消えた、白いもや。
ふと私は、以前満員電車でみかけた同じような物体のことを思い出しました。
(まさか……同じもの?)
私がそう考え込んでいると、
「お待たせ」
と先輩が戻ってきて、さきほどの席に腰かけました。
「あれ、どうしたの? 浮かない顔してるけど」
「あっ……い、いえ、なんでも……」
見間違い、と言いきるには、
あまりにもハッキリと目に見えた映像。
私がボンヤリしているのを気遣ってか、
「疲れちゃった? 今日はもう帰ろうか」
と先輩は声をかけてくれて、その日はそのまま解散となったのでした。
それから――私は頻繁に、あの白いもやを見かけるようになりました。
視界の端にフッと一瞬映ったり、鏡や窓ガラスに反射したり。
必ず、ほんの一瞬だけ。
まばたきする間には、消えてしまうのです。
正直私は――かなり参りました。
今まで、幽霊らしきモノなどろくに見たことすらなかったのに、
突然、頻繁に謎の物体を目撃するようになってしまって。
もしかしたら自分の頭がおかしくなったのかと、
眼科に行ったり、脳外科医に行っても異常なし、という診断。
もはや、どう対処すればいいのかさっぱりわからず、
日に日に目撃階数が増えてくるそれに、すっかり辟易していました。
>>
『20代女性 春川様(仮)』
恋は盲目。……よく、聞く言葉ですよね。
かくいう私は、二十代に入るまで、恋愛らしい恋愛なんて、いっさいしてこなくて。
学生時代、仲の良かった友だちがひどい恋ばかりしていて、
恋愛に夢が見られなかった、っていうのもありますね。
そのうえ両親も不仲で、結婚を考えても「幸せにはなれないもの」っていう
先入観……いえ、深層心理があったのも原因のひとつかもしれません。
でも、私が新卒で入った会社で、教育を担当してくれた先輩。
仮に久坂さんと呼びますが、この人が……その、とてもステキな人で。
私がどんなミスをしても怒らず諭し、
なんでも丁寧に教えてくれる、人間的に尊敬できる人で。
物腰もやわらかくて、いつもニコニコしているし、
感情の起伏もおだやかで落ち着いていて、カッコよくて。
生まれて初めての恋らしい恋に、
私はすっかり舞い上がってしまいました。
とはいえ、そんな人ですから当然お付き合い中の彼女がいまして。
なにげない会話のなかでそれを知ったときには、
もちろんショックではありましたが、まぁ当然だよね……という気持ちでした。
しかし、恋愛感情っていうのはままならないモノで。
届かないとわかっていても、なかなか諦められないモノですよね……。
私は久坂先輩への恋心を胸に秘めつつも、
表に出さないように、必死でいい後輩を演じていました。
そして、そんなある日のこと。
実は、と久坂先輩が暗い顔で打ち明けてきたんです。
「彼女と別れた」と。
話を聞いているかぎり、まったくなんの問題もないラブラブっぷりだったのに、
とは思いましたが、彼に惚れていた私は、内心ものすごく浮かれてしまって。
もしかしたら、先輩と付き合えるかもしれない!
そう、考えてしまったんですよね。
私のそんな好意が伝わったのか、はたまた彼女と別れてヒマができたためか、
彼から食事を誘われることが、ちょくちょく増えてきました。
私はすっかり嬉しくなって、先輩に誘われるがまま、
食事をともにしたり、ときには買い物へ行ったりするようになったのです。
そして――その頃から、でしょうか。
不思議な現象が、私の周りで起き始めたのは。
始めは、ほんの小さなコトだったんです。
先輩との食事が終わり、帰りの電車に揺られていた時。
満員電車で押される不快感に耐えながらも、
直前までの幸せな気持ちをかみしめていると、
スーッ……
(……ん?)
電車の窓。
車内が鏡のように反射しているそのガラス板に、
白っぽいモノが横切りました。
(照明……?)
外の街灯の明かりでも映りこんだのでしょうか。
しかし、それにしては、ずいぶんと動きがゆっくりです。
気になって視線で追いかけたものの、
それはあっという間に姿を消してしまいました。
「今の……」
ユラユラと、上下に揺れながら移動していたそれは、
まるで――そう、人魂のように見えたのです。
(いや……まさかね。見間違いだって)
脳裏にうかんだ不穏な思考をすぐさまふり払い、
忘れてしまおう、と私は目を閉じました。
見間違いか、かん違い。もしくは幻覚。
そう。きっと、ただそれだけだと――そう、思っていたんです。
次にそれを見たのは、先輩と映画を見た帰りでした。
映画終わりにカフェに入り、途中、先輩が手洗いに行って、
私がひとりでボーッと幸せにひたっていた時です。
――キィン
「……痛ッ」
右耳に、耳鳴りのような甲高い音が突然とびこんできて、
私は思わず、手で耳を覆いました。
しばらくそうしていれば、耳のなかは反響をくり返しつつも、
だんだんと痛みと音がやわらいできます。
せっかくいい気分だったのになんなんだろう、と私は不審に思いつつ、
かるくリンパの辺りを揉みながら顔を上げました。
スーッ……
「……え」
目の前。
先輩がついさっきまで座っていた席のうえに、
白くてうすい煙のようなモノが、ゆらりと飛んでいったのです。
「え……エッ!?」
まばたきする、ほんの数秒の間。
それは、蜃気楼のようにスッと消え去っていました。
パチパチと目を開け閉めすれば、
目の前の景色は、なんらさきほどと変わらないカフェの風景に戻っています。
(い、今の……)
ふわっと空気に溶けるように消えた、白いもや。
ふと私は、以前満員電車でみかけた同じような物体のことを思い出しました。
(まさか……同じもの?)
私がそう考え込んでいると、
「お待たせ」
と先輩が戻ってきて、さきほどの席に腰かけました。
「あれ、どうしたの? 浮かない顔してるけど」
「あっ……い、いえ、なんでも……」
見間違い、と言いきるには、
あまりにもハッキリと目に見えた映像。
私がボンヤリしているのを気遣ってか、
「疲れちゃった? 今日はもう帰ろうか」
と先輩は声をかけてくれて、その日はそのまま解散となったのでした。
それから――私は頻繁に、あの白いもやを見かけるようになりました。
視界の端にフッと一瞬映ったり、鏡や窓ガラスに反射したり。
必ず、ほんの一瞬だけ。
まばたきする間には、消えてしまうのです。
正直私は――かなり参りました。
今まで、幽霊らしきモノなどろくに見たことすらなかったのに、
突然、頻繁に謎の物体を目撃するようになってしまって。
もしかしたら自分の頭がおかしくなったのかと、
眼科に行ったり、脳外科医に行っても異常なし、という診断。
もはや、どう対処すればいいのかさっぱりわからず、
日に日に目撃階数が増えてくるそれに、すっかり辟易していました。
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