【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ

文字の大きさ
381 / 415

150.アパートの隣人②(怖さレベル:★★☆)

しおりを挟む
そして、休み明けの月曜日。

実家から会社に出勤し、アパートへ帰ってきた夕方のことです。

おれが202号室へ帰ってくる途中、
となりの201号室のプレートが外されていることに気が付きました。

(あれ……? アイツ、引っ越したのか……?)

きっと、他の部屋から苦情が入って、いたたまれなくなったんでしょう。

正直、連日悩まされていた身としては、
いい気味だ、なんて思いつつ、自分の部屋の扉を開けました。

すると、

キィ……

同じタイミングで、201号室のドアが開きました。

(え……? 引っ越したんじゃ……あ、部屋のクリーニングかな?)

空き部屋の清掃業者かな、と、
おれはなんとなく、開いたドアをぼんやりと見つめました。

しかし、

「……え?」

少しだけ、ほんの少しだけ開いた扉のすき間から、
ドアノブをつかむ手だけが見えています。

蛍光灯に照らされた、その、白い指先。

なんだか――つい先日も、見た、ような。

「……っ……!?」

おれは、とっさに自分の部屋の中に飛び込み、
即座にカギを閉め、玄関先にしゃがみ込みました。

今、見たもの。

あれは、203号室の、あの、女性の手じゃなかっただろうか。

(なんで……201号室から出てきた……?)

おれは、荒くなる呼吸を必死に抑えようと、
急いでリビングに移動して、テレビをつけました。

ちょうど番組はお笑いをやっていて、
おれの恐怖まみれの心を、ちょっとは紛らわせてくれます。

テレビの笑い声でようやく落ち着いたおれは、
ビジネスバッグを置きつつ、再び考えを巡らせました。

(一番ありえそうなのは、203号室の人は管理人の知り合いで、中をチェックしてた……とか?)

いや、もしそうだったとしても、ちょっと変です。

女性一人に任せるってこともないでしょうし、
そもそも、201号室が引っ越した理由自体が、まだ謎ですし。

(……まぁ、いいや。あんまり深く考えない方がいいかも)

触らぬ神にたたりなし。

それ以上首をつっこむまいと、おれはサッサと忘れることしました。



それから、数か月後。
おれがだいぶ、仕事に慣れてきた頃のことです。
会社の飲み会の後、同僚二人をうちに泊めることになったのは。

おれは下戸で、いっさい酒が飲めないんですが、
かえって、それで酒飲み連中の面倒を頼まれることがありまして。

あの日も、同僚二人を介護するような形で、
うちのアパートへ放り込んだんです。

まぁ、大の男二人が酔っ払ってグデングデン状態ですから、
ギャアギャアうるさいのなんのって。

おれが叱ったって、ちょっとの間は静かにするものの、
気付けばまーた大声でしゃべってる。

普段はそんなにおしゃべりなヤツらじゃなかったから、
酒の力ってのは恐ろしいもんですね。

正直、コイツらを家に入れてやったことを後悔し始めた頃ですよ。
ピンポーン、とインターホンが鳴ったのは。

瞬間、脳裏に先日のことがフラッシュバックしました。

もしかして――203号室の、人?

騒いでいる奴らを引っぱたいた後、
おれはおそるおそるインターホンに応答しました。

「え、と……もしもし?」
『あ、すいませーん。下の102号室の者ですが』

と、映ったのは真下の大学生です。
おれは心底ほっとしつつ、玄関まで出ていきました。

「ご、ごめん。もしかして、下まで響いちゃってた?」

慌てて平謝りすると、大学生は別に怒った様子もなく、
むしろ申し訳なさそうな顔で、

「ああ、まぁ……オレんとこは平気なんですけど。えぇと、ここのアパートってけっこう音響くんですよね……その、知ってるかわかりませんけど、ちょっとそういうのに敏感な人がいるから」

と、彼はそれとなく203号室の方へ視線を向けました。
あ、やっぱり周知の事実なのか、とおれは納得しつつ、

「そうだよねぇ、ごめん。ちょっと騒いでる同僚たちによく言っておくわ。迷惑かけて悪かったね」
「いいえ、すいません。それじゃあ……」

と、彼は丁寧に頭を下げて階段を下っていきました。

アイツらに、もっとキツく言って黙らせないと。
おれが改めて誓ってドアを閉めようとした時でした。

キィー……

すぐ近くで、扉がきしむ音がしました。

おれの視線が、自然と音の方向――
隣の203号室に、吸い寄せられます。

案の定。その扉が、薄く開いていました。
ほの白い手が、ドアノブを握っているのが、よく見えます。

おれの喉は一瞬でカラカラに渇き、体が硬直しました。

「……オマエ、か?」

いつぞやと同じ、男と間違うほど低い声が、
うらめしそうに、夜の空気に響きました。

「あ……え、えっと……」
「騒いでいるのは……オマエ、か?」

違う。おれじゃない。同僚たちが。
そう言いたいのに、喉が張り付いて声がでません。

それに、否定したところで、うるさいのはおれの部屋。
言い訳したところで、なんの弁明にもなりません。

白い手は、まるで老婆のようにガリガリにやせ細っており、
そこだけやたらに長い爪が、するどく光を反射しています。

「あ……そ、その……っ」

と、おれがどうにか誤魔化そうとした瞬間、
部屋の中から「ギャハハハハ!」という、激しい笑い声が聞こえてきました。

「……オマエの部屋、か」

瞬間、声がさらに地を這って、

――バタンッ!!

激しい音を立てて、203号室の扉が閉まりました。

「あ……え……?」

てっきり、怒鳴られるか罵られると思っていたのに。
拍子抜けしたおれは、少しの間ドアノブを握ったままボーっとしていました。

>>

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

少し怖いホラー短編集(文字数500以下)

仙 岳美
ホラー
文字数500以下のショート集です、難しく無いので気楽にどうぞ。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/2:『そうしき』の章を追加。2026/1/9の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

百の話を語り終えたなら

コテット
ホラー
「百の怪談を語り終えると、なにが起こるか——ご存じですか?」 これは、ある町に住む“記録係”が集め続けた百の怪談をめぐる物語。 誰もが語りたがらない話。語った者が姿を消した話。語られていないはずの話。 日常の隙間に、確かに存在した恐怖が静かに記録されていく。 そして百話目の夜、最後の“語り手”の正体が暴かれるとき—— あなたは、もう後戻りできない。 ■1話完結の百物語形式 ■じわじわ滲む怪異と、ラストで背筋が凍るオチ ■後半から“語られていない怪談”が増えはじめる違和感 最後の一話を読んだとき、

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

処理中です...