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アリスとクリスティーナと攻守逆転
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それはゲーム内もあまり見られない表情だった。
自分が信じるもののために、まっすぐ突き進むアリスのいたずらっぽい笑顔。
それは愛しい人にしか向けられないはずの眼差しで、少なくともアリスがクリスティーナに向けていいものではない。いや……向けられるものではないはずだ。
あっけにとられていると、アリスはクリスティーナの頬に触れた。
「最初は怖い人なのかなって思ったんですよ。だって取り巻きの方が、いかにもいじめっ子ぽかったので」
そういえば、取り巻きの子たちを見なくなった。
朝は遠目で見た気がするが、少なくともお昼以降はどこにもいなかった。
「だけど……お話させていただいて気づいたんです。クリスティーナ様はとてもお優しい方だと。それにとっても可愛らしいです」
「か、可愛らしい!?」
クリスティーナはとても美しい。どんな服を着ても似合うし、黙って歩いていれば人目を引く。それは、クリスティーナになった私が一番実感していることだ。
だがそれは、可愛らしいとは対極だ。可愛らしいという言葉は、主人公であるアリスにこそ向けられる言葉で、クリスティーナには合っていない。
「はい、とっても可愛らしいです」
「それは間違いね。可愛らしいのはアリスさんの方よ」
なんとか抵抗を試みるものの、アリスは首を横に振って否定する。
「いえいえ、クリスティーナ様には及びません」
そして、謙遜した様子もなく、まっすぐに私の顔を見つめてくる。
あー本当に可愛らしい……私のほうが照れてしまうほどだ。
女の子からの真っ直ぐな好意なんて、前世では向けられたことなんてなかった。
私に向けられていたのは、侮蔑ばかり。
可愛いなんて言われたこともなかったし、優しい言葉をかけてもらったこともない。
「クリスティーナ様は無理していますよね?」
「無理とは?」
「本当はお優しいのに無理に悪役になろうとしていませんか?」
「な」
見透かされている!?優しいかどうかは別として、無理に悪役になろうとしているのは否定できない。
それでも……ここで受け入れてしまっては全てが終わってしまう。
「ふざけたことを仰っしゃらないで。これが私の素よ!」
「ふふふ……クリスティーナ様って、本当に可愛らしい」
「なっ、なんでそうなるの!?」
「だって、本当に素の人が、自分で素なんて言いませんよ……あははは」
終いにはアリスは、お腹を抱えて笑いだしてしまった。
それからしばらく笑い続けると、急に真剣な目を向けてきた。
「いいですよ……いいでしょう。そんなに否定なさるなら私にも考えがあります」
「か、考えとは……?」
「私がクリスティーナ様に……いえ、あなたに……自分が可愛いと実感させて差し上げます」
「は?一体何を仰って……!?」
アリスの目は本気だ。本気だし、なんだか楽しそうだ。
「教えてください、クリスティーナ様」
「な、なにを!?」
「あなたが悪役を演じる理由はなんですか?」
「はっ!?」
答えないでいると、アリスはどんどん迫ってくる。
そして、ベンチの上で押し倒されてしまった。
顔が近い……吐息が聞こえる……心臓の音まで聞こえてきそうだ……。
「わ、私の目的は……バッドエンドを迎えることです!」
言ってしまった……すべてが終わってしまった。
目を閉じ、ため息をついていると、ようやくアリスがどいてくれた。
顔を見られない。だが、無言で私を見つめているのはなんとなく分かった。
もう何を言われても仕方がない……言われるがままを受け入れるしかない。
目を閉じたままで、アリスの言葉をじっと待つ。
「あの、クリスティーナ様……バッドエンドとは何ですか?」
驚いてアリスを見ると、不思議そうに首をかしげていた。
あーほんとうに……動きのひとつひとつが可愛らしい……って、そうじゃない。
「バッドエンドとは、どういう意味でしょうか」
「そ、そうね……」
改めて私が目指すものを思い浮かべる。
ゲームのラストのハッピーエンド……アリスが王子と結ばれたルートで、クリスティーナがどうなったのかを思い出す。
「婚約を破棄されて、遠く離れた離島に飛ばされたり、監獄に閉じ込められたり……それから……」
「そんなのは駄目です!」
アリスは私の手を握ると、目に涙を浮かべながら声を上げた。
「クリスティーナ様はヴァリーン王子のことが嫌いなのですか?」
「え?それは……えっと……」
別に嫌いではない。というか、顔はイケメンだし性格もいい。言い寄られて嫌な女性なんていないだろう。
「ではなぜ、そんなにまで王子を嫌おうとするのですかっ」
「そう言われると……確かにそうですが……」
死のうとしていたからなんて言えるはずがない。
それに今の私は、本当に死にたいのだろうか?
思えばこの世界に来てから、一度も死のうと思っていない。
バッドエンドを目指す。
最初に決めたことを達成するのが目的になっているだけの気もする。
「クリスティーナ様、私に全てお任せください」
「お任せとは……一体に何を?」
「あなたに幸せを教えてさしあげます!」
このセリフには聞き覚えがある。
それは……ゲームのハッピーエンドのひとつ。
絶望する王子を救おうとするシーンの冒頭。
アリスが自分の全てを捧げてでも、王子を守ると決めた時の一言。
この言葉をきっかけに、王子は前向きになり、絶望を振り払っていく。
その時の王子も、今の私と同じ気持ちだったのだろうか。
絶望しなくていいと全身を包み込んでくれるような包容感。
心がぽかぽかと温かくなり、頑張ろうと思えてきている。
「私なんかにできるのかな……」
「やりましょう!」
アリスの言葉は力強く、私は思わず頷いていた。
自分が信じるもののために、まっすぐ突き進むアリスのいたずらっぽい笑顔。
それは愛しい人にしか向けられないはずの眼差しで、少なくともアリスがクリスティーナに向けていいものではない。いや……向けられるものではないはずだ。
あっけにとられていると、アリスはクリスティーナの頬に触れた。
「最初は怖い人なのかなって思ったんですよ。だって取り巻きの方が、いかにもいじめっ子ぽかったので」
そういえば、取り巻きの子たちを見なくなった。
朝は遠目で見た気がするが、少なくともお昼以降はどこにもいなかった。
「だけど……お話させていただいて気づいたんです。クリスティーナ様はとてもお優しい方だと。それにとっても可愛らしいです」
「か、可愛らしい!?」
クリスティーナはとても美しい。どんな服を着ても似合うし、黙って歩いていれば人目を引く。それは、クリスティーナになった私が一番実感していることだ。
だがそれは、可愛らしいとは対極だ。可愛らしいという言葉は、主人公であるアリスにこそ向けられる言葉で、クリスティーナには合っていない。
「はい、とっても可愛らしいです」
「それは間違いね。可愛らしいのはアリスさんの方よ」
なんとか抵抗を試みるものの、アリスは首を横に振って否定する。
「いえいえ、クリスティーナ様には及びません」
そして、謙遜した様子もなく、まっすぐに私の顔を見つめてくる。
あー本当に可愛らしい……私のほうが照れてしまうほどだ。
女の子からの真っ直ぐな好意なんて、前世では向けられたことなんてなかった。
私に向けられていたのは、侮蔑ばかり。
可愛いなんて言われたこともなかったし、優しい言葉をかけてもらったこともない。
「クリスティーナ様は無理していますよね?」
「無理とは?」
「本当はお優しいのに無理に悪役になろうとしていませんか?」
「な」
見透かされている!?優しいかどうかは別として、無理に悪役になろうとしているのは否定できない。
それでも……ここで受け入れてしまっては全てが終わってしまう。
「ふざけたことを仰っしゃらないで。これが私の素よ!」
「ふふふ……クリスティーナ様って、本当に可愛らしい」
「なっ、なんでそうなるの!?」
「だって、本当に素の人が、自分で素なんて言いませんよ……あははは」
終いにはアリスは、お腹を抱えて笑いだしてしまった。
それからしばらく笑い続けると、急に真剣な目を向けてきた。
「いいですよ……いいでしょう。そんなに否定なさるなら私にも考えがあります」
「か、考えとは……?」
「私がクリスティーナ様に……いえ、あなたに……自分が可愛いと実感させて差し上げます」
「は?一体何を仰って……!?」
アリスの目は本気だ。本気だし、なんだか楽しそうだ。
「教えてください、クリスティーナ様」
「な、なにを!?」
「あなたが悪役を演じる理由はなんですか?」
「はっ!?」
答えないでいると、アリスはどんどん迫ってくる。
そして、ベンチの上で押し倒されてしまった。
顔が近い……吐息が聞こえる……心臓の音まで聞こえてきそうだ……。
「わ、私の目的は……バッドエンドを迎えることです!」
言ってしまった……すべてが終わってしまった。
目を閉じ、ため息をついていると、ようやくアリスがどいてくれた。
顔を見られない。だが、無言で私を見つめているのはなんとなく分かった。
もう何を言われても仕方がない……言われるがままを受け入れるしかない。
目を閉じたままで、アリスの言葉をじっと待つ。
「あの、クリスティーナ様……バッドエンドとは何ですか?」
驚いてアリスを見ると、不思議そうに首をかしげていた。
あーほんとうに……動きのひとつひとつが可愛らしい……って、そうじゃない。
「バッドエンドとは、どういう意味でしょうか」
「そ、そうね……」
改めて私が目指すものを思い浮かべる。
ゲームのラストのハッピーエンド……アリスが王子と結ばれたルートで、クリスティーナがどうなったのかを思い出す。
「婚約を破棄されて、遠く離れた離島に飛ばされたり、監獄に閉じ込められたり……それから……」
「そんなのは駄目です!」
アリスは私の手を握ると、目に涙を浮かべながら声を上げた。
「クリスティーナ様はヴァリーン王子のことが嫌いなのですか?」
「え?それは……えっと……」
別に嫌いではない。というか、顔はイケメンだし性格もいい。言い寄られて嫌な女性なんていないだろう。
「ではなぜ、そんなにまで王子を嫌おうとするのですかっ」
「そう言われると……確かにそうですが……」
死のうとしていたからなんて言えるはずがない。
それに今の私は、本当に死にたいのだろうか?
思えばこの世界に来てから、一度も死のうと思っていない。
バッドエンドを目指す。
最初に決めたことを達成するのが目的になっているだけの気もする。
「クリスティーナ様、私に全てお任せください」
「お任せとは……一体に何を?」
「あなたに幸せを教えてさしあげます!」
このセリフには聞き覚えがある。
それは……ゲームのハッピーエンドのひとつ。
絶望する王子を救おうとするシーンの冒頭。
アリスが自分の全てを捧げてでも、王子を守ると決めた時の一言。
この言葉をきっかけに、王子は前向きになり、絶望を振り払っていく。
その時の王子も、今の私と同じ気持ちだったのだろうか。
絶望しなくていいと全身を包み込んでくれるような包容感。
心がぽかぽかと温かくなり、頑張ろうと思えてきている。
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「やりましょう!」
アリスの言葉は力強く、私は思わず頷いていた。
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