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昇格~敵の実力~
先輩現る2
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「なるほど、槍使いだったか。だが、その程度で勝てると思うなよ!」
眼鏡は右に左にステップを踏みながら、近づいてくる。
武器は変わらず剣。リーチの差を考えると、懐に飛び込もうとしてくるはずだ。
俺は目を閉じると、じっくり耳を傾ける。
影たちが教えてくれる情報に。
「そこだ!」
一気に近づいてくるのがわかって、迷わず槍を突いた。
その先端に向かって、眼鏡は突っ込んできている。
俺の勝ちだ。
その加速に対してのこのタイミング。体に刺さる以外の選択肢はない。
ガキンと予想外の音がして、やたら硬いものに当たった。
剣で受け止めたのかと思ったが、そんな感触でではない。
それにこいつは…下を向いて立っている?
目を開けるとそこには、魔術が展開されていた。
俺の攻撃を受け止めたのは、光で作られた盾だ。
その後ろでは、眼鏡は悔しそうな顔を浮かべながら、確かに下を向いていた。
「まさか盾を展開させられるとは…俺の負けだ」
状況が飲み込めない生徒たちは、ぼーっ俺達を見つめている。
やがて、担任がゆっくりと手を上げた。
「勝者、黒沢カケルっ」
「まじかよ…」
「あいつ、上級生に勝っちまった…」
歓声の中で、俺は槍を突きつけたままでその先端を見つめる。
どこからともなく現れた盾に発現の予兆は感じなかった。
どんな魔術なんだ?
「凄い凄い!さすが私の見込んだ相手ね!」
咲は飛び跳ねながら、舞踏場に上がると、俺の手を取ってくるくると回った。
まるで自分が勝ったかのように喜びながら。
おかしい。頬が緩みそうになる。
目立つつもりはなかったのに、変な気分だ。
「完敗だ」
眼鏡は近づいてくると、手を差し出した。
だが俺は、そいつを拒否した。
「俺は一方的に喧嘩を売られたんだが」
「そ、それはそうだが…」
こいつは驚いた。眼鏡が焦っている。
さっきはあんなに俺を見下していたのに、自分が悪いと思った途端にこの態度かよ。
しかも、変なプライドが邪魔をして謝れないと見える。
最高かよ。
「まあまあカケル。大志も悪気があったわけじゃないんだし、許してあげてよ」
「悪気しかなかったと思うぞ。こいつは俺を退学にしようとしたんだからな」
「あれは、その…言葉の綾というやつでな…」
「どう見ても本気だっただろ」
眼鏡はモゴモゴと言いながら、なんとか弁解しようとしている。
ちょっと面白くなってきた。
「というか咲。なんでこんな学園にいるんだ?」
「さ、咲っ!?」
眼鏡が驚きながら「咲」を連呼し始めた。
こいつは無視だな。
「特に理由はないのだけれど、しいて言うなら、私のシックスセンスがそうしろって言ったからかな」
それは立派な理由になる。
陽同院咲。ランクB。
彼女のスキルは天使の第六感(エンジェルセンス)。
勘が非常に優れていて、それはもう予言の域にも達している。
「それまたなんでだ」
「私が卒業するまでの間に事件が起きそうな気がした、から?」
顎に当てていた手を上に向けると、小首をかしげて見せる。
狙ったわけではないのだろうが、その姿はとても様になっていて、男ども視線を独り占めにする。
まさに天使ってわけだ。
「それはまた不穏だな。まさかBランクの手を借りなくてはいけないほどなんて」
「ちっちっち。その情報は古いわよ。私はこの前、Aランクになったわ」
Aランク。その一言に、場は騒然とする。
俺とて、内心冷や汗ものだ。
強くなる前に始末すべきとは思っていたが、その成長は俺の予想を越えていたようだ。
「そうだカケル。あなたを見込んでお願いがあるの」
「お願い?」
「ええ。明日、裏山の見回りに行くのだけれど、一緒に来てくれない?」
その顔は笑っていたけれど、目はすでに裏山の方角を向いている。
右手の指先は上を向き、左手は髪を弄る。
本当に分かりやすい。譲る気がない時の癖だ。
「分かったよ」
「ふふふ、物分かりのいいカケルは好きよ」
「そりゃどうも」
それから咲はまた何かを思いついたようで、にやっと笑った。
「せっかくだし、新入生を一人連れて行きましょう。この中で行きたい人はいる?先着一名よ!」
転々とする状況に、誰も事態を飲み込めない。
それとも、Aランク魔術師の誘いなんて恐れ多い。そう思ったのだろうか?
名乗り出る者はなかなかいない。
「はいはいはーい、私っ、私やりたいです!」
全身でアピールを始めたのは、エリカだった。
「元気がいい子は好きよ。さあこちらへ」
招きに応じて、エリカは舞台に上がった。
「アナタ、お名前は?」
「早乙女エリカです。あの有名な陽同院さんと一緒に行けるなんて光栄です!」
「大船に乗ったつもりでいてくれていいわ!あ、先生、明日この子達を借りますね」
「決まった風な空気を出されてから聞くのもどうかと思うが…まあ、構わんぞ。こき使ってくれ」
うちの担任のお小言を無視して、咲はスキップをして去っていった。
眼鏡はなぜか膝をついたままで、念仏のように何かを唱えていた。
そうそう今日のクエストの成果でも振り返ろうか。
メインクエスト:眼鏡と戦う…達成!
サブクエスト:眼鏡の能力を探る…達成!
悪くない成果だった。
眼鏡は右に左にステップを踏みながら、近づいてくる。
武器は変わらず剣。リーチの差を考えると、懐に飛び込もうとしてくるはずだ。
俺は目を閉じると、じっくり耳を傾ける。
影たちが教えてくれる情報に。
「そこだ!」
一気に近づいてくるのがわかって、迷わず槍を突いた。
その先端に向かって、眼鏡は突っ込んできている。
俺の勝ちだ。
その加速に対してのこのタイミング。体に刺さる以外の選択肢はない。
ガキンと予想外の音がして、やたら硬いものに当たった。
剣で受け止めたのかと思ったが、そんな感触でではない。
それにこいつは…下を向いて立っている?
目を開けるとそこには、魔術が展開されていた。
俺の攻撃を受け止めたのは、光で作られた盾だ。
その後ろでは、眼鏡は悔しそうな顔を浮かべながら、確かに下を向いていた。
「まさか盾を展開させられるとは…俺の負けだ」
状況が飲み込めない生徒たちは、ぼーっ俺達を見つめている。
やがて、担任がゆっくりと手を上げた。
「勝者、黒沢カケルっ」
「まじかよ…」
「あいつ、上級生に勝っちまった…」
歓声の中で、俺は槍を突きつけたままでその先端を見つめる。
どこからともなく現れた盾に発現の予兆は感じなかった。
どんな魔術なんだ?
「凄い凄い!さすが私の見込んだ相手ね!」
咲は飛び跳ねながら、舞踏場に上がると、俺の手を取ってくるくると回った。
まるで自分が勝ったかのように喜びながら。
おかしい。頬が緩みそうになる。
目立つつもりはなかったのに、変な気分だ。
「完敗だ」
眼鏡は近づいてくると、手を差し出した。
だが俺は、そいつを拒否した。
「俺は一方的に喧嘩を売られたんだが」
「そ、それはそうだが…」
こいつは驚いた。眼鏡が焦っている。
さっきはあんなに俺を見下していたのに、自分が悪いと思った途端にこの態度かよ。
しかも、変なプライドが邪魔をして謝れないと見える。
最高かよ。
「まあまあカケル。大志も悪気があったわけじゃないんだし、許してあげてよ」
「悪気しかなかったと思うぞ。こいつは俺を退学にしようとしたんだからな」
「あれは、その…言葉の綾というやつでな…」
「どう見ても本気だっただろ」
眼鏡はモゴモゴと言いながら、なんとか弁解しようとしている。
ちょっと面白くなってきた。
「というか咲。なんでこんな学園にいるんだ?」
「さ、咲っ!?」
眼鏡が驚きながら「咲」を連呼し始めた。
こいつは無視だな。
「特に理由はないのだけれど、しいて言うなら、私のシックスセンスがそうしろって言ったからかな」
それは立派な理由になる。
陽同院咲。ランクB。
彼女のスキルは天使の第六感(エンジェルセンス)。
勘が非常に優れていて、それはもう予言の域にも達している。
「それまたなんでだ」
「私が卒業するまでの間に事件が起きそうな気がした、から?」
顎に当てていた手を上に向けると、小首をかしげて見せる。
狙ったわけではないのだろうが、その姿はとても様になっていて、男ども視線を独り占めにする。
まさに天使ってわけだ。
「それはまた不穏だな。まさかBランクの手を借りなくてはいけないほどなんて」
「ちっちっち。その情報は古いわよ。私はこの前、Aランクになったわ」
Aランク。その一言に、場は騒然とする。
俺とて、内心冷や汗ものだ。
強くなる前に始末すべきとは思っていたが、その成長は俺の予想を越えていたようだ。
「そうだカケル。あなたを見込んでお願いがあるの」
「お願い?」
「ええ。明日、裏山の見回りに行くのだけれど、一緒に来てくれない?」
その顔は笑っていたけれど、目はすでに裏山の方角を向いている。
右手の指先は上を向き、左手は髪を弄る。
本当に分かりやすい。譲る気がない時の癖だ。
「分かったよ」
「ふふふ、物分かりのいいカケルは好きよ」
「そりゃどうも」
それから咲はまた何かを思いついたようで、にやっと笑った。
「せっかくだし、新入生を一人連れて行きましょう。この中で行きたい人はいる?先着一名よ!」
転々とする状況に、誰も事態を飲み込めない。
それとも、Aランク魔術師の誘いなんて恐れ多い。そう思ったのだろうか?
名乗り出る者はなかなかいない。
「はいはいはーい、私っ、私やりたいです!」
全身でアピールを始めたのは、エリカだった。
「元気がいい子は好きよ。さあこちらへ」
招きに応じて、エリカは舞台に上がった。
「アナタ、お名前は?」
「早乙女エリカです。あの有名な陽同院さんと一緒に行けるなんて光栄です!」
「大船に乗ったつもりでいてくれていいわ!あ、先生、明日この子達を借りますね」
「決まった風な空気を出されてから聞くのもどうかと思うが…まあ、構わんぞ。こき使ってくれ」
うちの担任のお小言を無視して、咲はスキップをして去っていった。
眼鏡はなぜか膝をついたままで、念仏のように何かを唱えていた。
そうそう今日のクエストの成果でも振り返ろうか。
メインクエスト:眼鏡と戦う…達成!
サブクエスト:眼鏡の能力を探る…達成!
悪くない成果だった。
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