契約師としてクランに尽くしましたが追い出されたので復讐をしようと思います

夜納木ナヤ

文字の大きさ
17 / 56
第2章~ヴァルキリーを連れ出せ~

簡単にはヴァルキリーを渡してはもらえません

しおりを挟む
 ラガナの部屋は独特だ。入り口は土で隠れていて、場所を知っているものはごくわずか。入った先には鉄の柵で覆われた牢屋がある。
 勘違いしないでほしい。彼女は投獄されているわけではない。望んでそこにいるのだ。臆病な彼女は、侵入者を恐れ、外敵に襲われにくい(と本人は思っている)牢屋を所望したのだ。
 臆病さが反映されているのは牢屋だけではない。全身には常に真っ黒な鎧をまとい、整った顔も、すらっとした体も拝むことは出来ない。今日も変わらず鎧をまとい、牢屋の中で体育座りをしている。

「ラガナー、げ元気ー?」

 合言葉を叫ぶと、鎧はゆっくりと顔を上げて立ち上がった。常に下を向いたまま内股で歩くと、普通には外側にあるはずの鍵を、内側から開けた。

「今日は相談があってきたんだ」
「イエス」
「庭園をまとめて移動しろって言われたんだけど、いい案はないか」
「ノー」

 再び体育座りに戻ったラガナと1メートルほど距離をあけ、俺も体育座りをする。ほら、話すときは目線を合わせろっていうだろ?子供相手にって注釈付きだった気がするが、気が付かなかったことにしておく。

「そっかー、そいつは困ったな」

 と言いつつ、実は気にしてはいない。
 気づいてしまったことがある。依頼主はユミネだ。もしかしてクエストそのものが冗談だったりしないか?別れ際に何か言おうとしていた気がしなくもない。

「ノー。困っていますか?」
「いいや、そこまで」 
「イエス。よかったです」

 鎧のせいで見た目はごついが、話し声は小さいながらもまっすぐに気持ちを表現してくる。
 もしかしたら、ユミネの次ぐらいに気を遣わなくてもいい相手かもしれない。

「それじゃあ次の相談。一緒にここを出ないか?」
「イエス、オア、ノー。どうしてですか?」
「実はさ、俺はこの場所から追い出されたんだ」
「ノー。許せません」

 ゴゴゴゴゴと音がして、地面が揺れる。まずい!このままじゃ穴が崩れる!

「落ち着け!今は別の場所にいるから」
「…イエス。失礼しました」

 揺れがおさまり、元の静寂を取り戻す。
 今頃外では、地震だ!とかって大騒ぎになっているはずだ。

「その場所は俺にとって大切になりつつあってさ、ユミネにも来てほしいんだ」
「イエス。行きます」

 素直で助かるよ。セイラと話しているときの癖で手を伸ばしかけて、慌ててひっこめた。変に動揺させてはいけない。それこそ、大地震が起こりかねないからな。

「それじゃあ行こうか…」

 立ち上がった瞬間、ゴゴゴゴゴと音がしだした。
 なんだ?ラガナは落ち着いているはずだ。

 塞いだはずの入り口の土が砕け、警備が大量になだれ込んできた。牢屋越しに俺達を取り囲み、武器を向けてくる。その中心にいたのは、休憩に行ったはずのグリンだった。

「随分と短い休憩だったんだな」

 冗談めかして言ってみるが、相手は本気だ。

「お戯れを。まさかあなたが侵入者だったとは。我々と同行してもらいますよ」
「断る、と言ったら?」
「力ずくでも」

 振りかざされるのは純粋な正義感だ。彼は迷うことなく、俺を悪だと思っている。
 
「やってみろよ…第4の契約者ラガナ、我に鉄壁の力を与え給え。ガイアシールド!」

 地面の土が動き出し、鉄の柵を覆っていく。残った隙間からは警備の連中が睨みつけてくるのが見える。

「そんなもので我らの攻撃を防げると思うな!」

 剣や槍が突き立てられる。普通の柵ならば傷がつき、折れることもあろうが、表面の土には傷一つ付かない。

「ならば魔法だ!土の剣を!」

 数人の魔術師が同時に前に出た。凄いな。完璧なまでの連携だ。

「「「土よ、刃となりて阻む壁を打ち払え。ガイアランス!」」

 地面から土が浮き上がり、魔術師と同じ数の槍が作られる。盾さえも突き破る、凶悪な槍だ。

「発射!」

 ガイアランスは動き出し、柵の一点だけを狙って打ち付けられる。城壁を突破することに特化した攻撃だ。見ていて感心する。だが、柵どころか、覆っている土には傷一つ付かない。

「なぜだ!?」

 なぜだって?そりゃあ純粋な加護の差だ。俺は直接契約をしていて、クランの連中は加護、それも魔法陣を中継しているので本来の力からはかなり弱まっている。

「まだやるか?」
「舐めるな…土よ、我に力を…悪しきものを突き破る力を、ガイアソード!!」

 地面が揺れ、グリンの前には一塊の土が浮き上がる。これは他の奴らとは違う。何倍にも濃縮された魔力を感じる。土は形を変え、手の中で剣になっていく。

「ほう、加護を持っているのか」
「そうだ!土魔法、剣、そして勇気。闇に負けぬために、自己の鍛錬を怠ってはいない!」

 土の魔法を帯びた剣が、柵に向かって切り付けられた。だが、土の壁はそれすらも受け止めた。わずかに表面が削れたが、破壊するには至らない。

「満足したか?」
「なぜだ!!なぜ正義が破れるのだ!?」

 叫びながら、何度も、何度も剣を振るう。その度に細かいかけらが落ち、足元を転がっていく。これでは何年かかっても壁を壊すことは出来ない。

「グリン、お前には教えてやるよ。俺もヴァルキリーから加護を受けているんだ。それはお前なんかよりもよっぽど濃厚な奴をな」
「そ、そんなバカな!?」
「クランの加護は、俺が彼女たちに頼んだものだ。この意味、分かるよな?そうそう、知らないかもしれないから言っておくと、俺は既にクランメンバーではない」

 ヒントは与えた。あとは気づくかどうかだけだ。

「そんな…では加護はどうなる…もしや、貴方は悪ではない?…いやいや、では正義はどこにあるんだ?」

 効いているようだ。もう戦意もないし、ここが引き時か。

「ノー。怖いです」
「そうだな、帰ろうか」

 立ち上がると、上空に向かって手を向ける。

「第4の契約者ラガナ、汝の力にて、空への道を切り開け」
「イエス」

 天井に穴が開き、詰まっていた土が降ってくる。すぐに牢屋は土の中に埋まるだろう。

「ラガナ、触るぞ」
「…イエス。その、優しくお願いします」

 鎧越しで優しくも何もない気がするけどな。硬い感触を腕に抱き、土の隙間から差し込む光に目を細める。

「第5の契約者メルロス、我に飛翔の力を与え給え。フライ!」

 今度は足ではなく、背中に羽根を生やす。鎧の少女を腕に、降り注ぐ土を避けながら外を目指す。
 空は青く澄んでいて、眼下にある第4支社のある巨大な崖には、上からぽっかり穴が開いていた。

「怖くないか?」
「イエス。ヤマトと一緒なら大丈夫です」
「そいつはよかった」

 時間もあるので、ゆっくりと空を飛ぶ。カリンの時のような失敗はもうしたくはないからな。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

処理中です...