契約師としてクランに尽くしましたが追い出されたので復讐をしようと思います

夜納木ナヤ

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第2章~ヴァルキリーを連れ出せ~

ギルドの刺客にも負けません

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 ラフテルが距離を取ったのを確認すると、メルロは俺を庇うように緑の翼を動かした。

「主よ、大丈夫か?」
「ああ…フライ」

 消えていた羽を再生すると、俺の動きを邪魔していた崖も砕け、自由が戻ってくる。
 メルロは安心した顔をして浮かべながらも、ラフテルの動きを気にしている。

 さて、メルロがここに来たことによって、目的は果たされたと言っていい。彼女ならば、俺の言葉ひとつで着いてきてくれる。問題はすんなり逃げられるかどうかだ。

「ここは通さない」

 ラフテルは剣先を俺に向けると、宣戦布告してくる。この様子では、逃げたとしてもどこまでも追ってくるだろう。ここで倒さなければ厄介だ。

「主よ、私が戦おうか?」

 ヴァルキリーが人と剣を交えることは本来ない。試練として課すことはあっても、それは戯れに過ぎない。だがメルロは本気だし、手加減なんて出来るほど器用ではない。ここで任せてしまえば、殺せと言ったのと同義だ。

「いいや、俺がやるよ」

 建前は死人がでないように。だが本音を言えば、このまま引き下がるのは悔しい。俺はラフテル相手に何も出来ていない。
 異世界転生してきた勇者のように圧倒的な勝利を!!…とは言わないまでも、ほどほどに善戦してほどほどに勝つぐらいはしたい。実現できそうなビジョンも浮かんでいるのだ。逃げるにしても試してからだ。

「彼女は強いぞ。油断するな」

 心配ない。さっきは一度殺されかけた。油断も満身もない。

「今度は負けないさ」

 心を燃やせ。勝ちたいと思えば、必ず答えてくれる。契約しているヴァルキリーにはそんな奴がいるじゃないか。
 よし…感じる。熱く、燃え盛る力を。

「第3の契約者アンナ、敵を焼き尽くす強大な力を、フレイムソード!」

 右手から巨大な炎が生まれ、剣を形作る。実体はないが、本当にそこにあるような感覚ははっきりある。
 炎は激しく燃え盛り、花火のようにチリチリと火花が舞う。

「行くぞ!」

 もう逃げない。真っ直ぐに、天使に向かって飛びかかる。

「そんなもので私に勝てると思ってるのか!切り裂いてやる、炎もろとも貴様の心を」

 拙いながら振りかざした炎の剣を、光の剣が切り裂いた。炎はあっさり消え、ラフテルの剣が顔をかすめた。額に小さな傷が出来、血が垂れてくる。危ない、あと数秒止まるのが遅れていたら顔面がぱっくりだった。
 だがこの瞬間、俺の勝利は確定した。

「なんだこれはっ!?」

 汚れのない真っ白な光の剣に、シミのように黒いものが混じり、徐々に大きくなっていく。ラフテルは剣を左右に振ったり、手で触れて払い落そうとするが、光の中に溶け込んだ黒は消えることはない。むしろ広がっていき、全体が黒く覆われ、深い深い闇、漆黒へと変わっていく。

「悪いな、火の中に闇を仕込ませてもらった」

 大げさに炎を燃やしたのには理由があった。フレイムソードに全力を注いだと思わせ、そのあとに発動した闇魔法に気づかせないようにしたのだ。

「第2の契約者セイラ、闇の力にて光を沈め給え、ディープスリープ」

 魔法の威力を弱め、属性の加護を無力化する闇魔法だ。特に光魔法に対しては抜群の効果を持つ。一度闇に消えた光が再生することはまずない。

「闇よ、全身を包み込め」

 漆黒は剣から腕を伝い、ラフテルの体までも包み込む。逃れようと必死に抵抗するが、剥がれることはない。背中の羽は輝きを失い、透明になり、そして…消えた。

「うわああああああああああああああ」

 飛行手段を失った体は叫び声を上げながら、地面に向かって落ちていく…って、やばくないかこれ?
 高度はかなりある。加護が発動していない状態では平気で死ねる。

「加速!!」

 地面に向かって急加速すると、落ちていく天使を追い抜き、腕で受け止めた。重力の加速を受けていた体は、見た目よりもずっと重く、ようやく静止したのは俺の足が地上に着いてからだった。
 閉じていた目がゆっくり開かれた。さっきまでの凛々しい姿はそこにはない。目には涙を浮かべ、恐怖に怯え、体を縮ませる一人の女の子がいるだけだった。それでもプライドからか、言葉だけは気丈に振る舞う。

「なぜ助けた」
「特に理由はないけど…そうだな、強いて言うなら恨みはないから、かな?」
「私は本気で貴様を殺そうとしていたのだぞ?」

 それはそうなんだけど…うーん、本気と言ってもギルドのクエストだろ?だとすればやはり彼女に非はない。

「主は優しいお方だ。歯向かったことを一生後悔するといい」

 メルロは地上に降り立つと、腕の中の少女を睨みつける。少女は体をすくめながらも、俺の見つめてくる。

「貴様とヴァルキリーとの関係を見るに反逆者とは思えない。どうなっているのだ」

 敵意はもうない。これなら話し合いも出来そうだ。
 ☆
「ギルドにどう知らされているのか知らないけど、俺はクランに追い出されたんだよ。クランに加護を与えているヴァルキリーは全員俺と契約している」

 ラフテルは信じられないとばかりに目を見開いた。だがすぐに納得したようで、うんうんと頷いている。

「疑わないんだな」
「私とてヴァルキリーと契約している身だ。2人の関係を見れば疑う余地はなかろう」
「そらじゃあ俺は次を急ぐから、ここに降ろしてもいいか?」

 今更ながら、ラフテルは俺の腕の中にいることに気がついて、顔を赤くした。そのまま腕の力を緩めると、自ら地面に足をついたが、歩こうとしてふらついた。慌てて手を出すと、抱き寄せるような態勢になってしまった。
 意志の強そうなキリッとした目は、不安で揺れ、わずかに潤んだ。とりあえず言えることは、とても気まずい。

「主よ、私に用事があったのではないのか」
「おーっと、そうだったーー」

 大げさにリアクションをすると、ラフテルを木の下まで抱えて走った。

「メルロ、迎えに来た。理由は…」
「風の噂で分かっている。次の行動を聞かせてくれ」
「あーそうか」
 
 だったらさっきの言葉は何だったのかとも思ったが、考えるのは後回しだ。

「レティじゃなかったブリュンヒルデのところに向かうぞ」

 俺たちはラフテルに見守られながら、空に飛び立った。今度は邪魔されることもなかった。
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