ワケアリな後輩達しかいないクランを押し付けられました

夜納木ナヤ

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小さな結界師

小さな結界師5

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 パーティに招待されているのは名家ばかりだった。名と金額を、次々に叫んでいく。

 伯爵令嬢のみならず、伯爵と伯爵夫人は頷きながら見定める。
 どの相手が、今後の自分たちにとって得になる相手であるのか。

 俺が近づこうとすると、伯爵令嬢は命令してくる。

「動くんじゃないわ」

 どうやら、俺が魅了に掛かっていると勘違いしてくれているようだ。
 
「そんなことを言われたら、もっと近づきたくなってしまいますよ」

 出来る限りのゲスな顔を浮かべると、フラフラと近づいていく。

「な、何よっあんたっ、変態だったの!?」

 余裕ぶっていた顔に、薄汚いものを見つめるような下卑たものがこもる。
 なるほどな。そうやってミキも迫害していたんだな。

 なぜミキがこのクエストを受けたのか俺なりに考えた。
 きっと、少しばかりの期待があったのだろう。

 生まれた家に受け入れてもらえるのだと。
 そして俺も、そうであったら良いと思った。

 けれどそんなのは、甘えだった。

 この家に優しさなんてものは存在しない。
 もう終わりだ。この場に用はない。

「ちょ、ちょっと止まりなさい!止まりなさいってば!ああ、もう、護衛達っ、何をしているのっ、アイツを止めてっ」

 伯爵令嬢は涙目になりながら叫ぶ。
 もう無理だと思ったのか、護衛にも助けを求めるが反応がない。

「無駄だよ。俺たちの間には結界がある。中から声が漏れることがなければ、外の声が入ってくることもない」
「そんなばかなっ、だって、普通に外は見えるじゃない!」

 どうやら伯爵令嬢は、ミキの力をご存じないようだ。

「てかあんたっ、なんで魅了にかかってないのよ!?わざわざかかりやすくなるように薬も仕込んだのにっ」
「ああ、やっぱりそうだったか」

 伯爵令嬢はしまったとばかりに口を抑える。

「それなら俺は摂取してないぞ」
「嘘よっ、確かに飲んだはず!」
「ああ、飲んださ。小さな結界に包んでカプセル風にしてな。1時間ぐらいで結界は溶ける予定だから、そうしたら効いてくるんじゃないか?」
「そんなばかなっ」

 わめき、ミキを拘束している腕に力がこもる。

「そろそろミキを返してもらおうか」
「待ちなさい、それ以上近づいたらこいつはっ、嘘っ」
「こいつはっ、なんだって?」

 俺の手の指先が、伯爵令嬢の首筋に触れた。
 一切力を込めていないが、脅すだけならこれで十分だ。

 伯爵令嬢はその場にへたり込み、死んだような目で俺を見上げた。

 俺はミキ引き寄せると、腕の中に抱きかかえた。

「こ、こんなことをしてただで済むと思わないでよ!外で見ていた連中が証人となって、あんたたちには罰が下されるわ!」
「あーそれだけど、外からはこっちのことは見えていないぞ」
「嘘っ!?」
「マジックミラーって言うんだっけ?見えるようにも出来たけど、今回は不都合だったからな。それとも一部始終を見てもらったほうが良かったか?首筋に触れられただけで涙目になる姿を」

 俺の問いかけに伯爵令嬢は答えない。下を向いたまま、ぷるぷると手を震わせている。

「もうこれ以上はミキに関わるな。約束するなら結界は解く」
「分かったわ。約束する。私はもう手を出さないわ」
「よし、解除」

 結界を解くと、外と中を遮断していた場所には人が群がっていた。
 見慣れない現象がおこると人が集まるのは、どの場所でも変わらないらしい。

 その場でへたり込む伯爵令嬢の元には、数人の警備員がかけよった。

「大丈夫ですかお嬢様?なにか酷いことをされたのですね」
「うるさい……」
「お、お嬢様……?」
「うるさいっ!ええ、手を出さないわよ、私はね!来い、ゴーレム!」

 ホテルの壁が砕け、土地で作られた巨体が入ってくる。

 ゴーレム。伯爵令嬢が幼い頃に才を見出し、今も成長し続ける異能の力。
 土さえあれば、どんな場所でも強力な戦力を呼び出せるのだ。

「きゃーーーー」

 悲鳴が上がり、会場は騒然となる。
 だが、伯爵令嬢は気にも留めない。

 俺たちしか見えていないのだ。

「死になさい!」

 問答無用で振り下ろされた拳を、空中にタイル状の結界を作って受け止める。
 こいつを倒すのは簡単だ。そのやりかたはミキに伝えてある。

「ミキ、終わりにしよう。この家との関係をっ」
「先輩……」

 ミキはまだ躊躇っているようだ。
 これだけひどい目に合わされているのに、まだ決断できていない。

 その手をにぎると、びくっと肩を震わせた。それから俺を見上げると、ようやく頷いた。

「壁よ、我らを守れ!迫る敵を包み込め、結界!」

 巨大な結界がゴーレムを包み込む。

「結界?そんなものゴーレムが叩き潰して……うそっ、なんでっ」

 伯爵令嬢の目の前で、ゴーレムは崩れていく。結界は力を遮断する。

 操られていた土は制御を失われ、ただの土に戻ったのだ。

「さて、ご令嬢の作り出したゴーレムでパーティも会場も滅茶苦茶になったわけだが、どう思う?伯爵、それとご婦人」
「あ、貴方がなにかしたのでしょうっ」
「そ、そうだ!でなければ娘がこんなことをするはずがない!」

 ミキも二人の娘のはずなんだけどな。さて、どう落とし前をつけようか。

「先輩、私が行きます」
「おいおい大丈夫かよ」
「はい、先輩が私のために怒ってくれているところを見ていたら、決心がつきました」

 ツインテールとドレスのスカートを揺らしながら、ミキは歩き出す。
 伯爵令嬢のところへ。

「な、なによっ」

 さっきまでとは違うミキの様子に、伯爵令嬢は狼狽える。
 ミキは視線を合わせると、そっと抱きしめ、頭を撫でた。

「心配しないで、私は二度と貴方の前には現れない。だから気兼ねなく、好きなように生きて」

 ミキは立ち上がると、両親を見つめた。

「今までお世話になりました。それからさようなら。私はあなた達の娘ではありませんし、伯爵家の関係者でもありません」
「何を言って……」
「今回私を売ろうとしたようですが、買い手は決まりました。いいえ、私が決めました」
「そんな勝手なことは許さぬぞ」

 叫んだのは伯爵だった。なんだか分からないが、本気で焦っているようだ。

「売り込み先は、先輩です!」
「俺かよ!?」

 やばい、伯爵と同じノリで突っ込んじまった。

「はいっ、引き取ってくれるまでずっと側にいますからねっ」

 ミキは笑顔を向けると、抱きついてきた。
 小さな体は見た目通りに軽くて、今までにないぐらいに眩しい笑顔をしていた。

「わ、私は認めないわよ!こんなどこの出身かわからない男がお姉様の婚約相手なんて!!」

 俺を指差し睨みつけてきたのは伯爵令嬢だった。まったく、その意見には同意だよ。
 ミキは引っ込み思案だけど、真っすぐでとてもいい子だ。

 ひねくれた性格の俺とは釣り合わない。だけどまあ、今ぐらいは受け入れておくか。
 せっかくミキが自分の意志で、家から離れる決意をしたんだから。
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