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おひめさまって、みんなこんな感じなのかしら?
「なぜ椅子にくくりつけておかなかったんだ」
オルさまがほとほと愛想が尽きたというようにクフベツさまの世話係の一人であるワメールを叱った。
「申し訳ありません」
ワメールは大きな体を縮こませるようにして言った。ワメールはまだクフベツさまの世話係になったばかりだった。
「腕だけ縛ってちょっとお召し物を取りに行ったんです。お召し替えのついでに体をお清めするつもりだったものですから……」
ぎしぎしと垂木がきしんでいる。天井から下がっている荒縄で両の手首を戒められたクフベツさまは、両の太ももで荒縄を挟み込むようにして逆さにぶら下がり、宙づりになった不自由な体勢のままエマをめちゃくちゃに指で掻きまわしていた。
腕を高い位置で縛られていたのでエマに指が届かず、逆上がりの要領でこんなあられもないポーズをとったらしい。顔は真っ赤に上気し、唇の端からはよだれの糸が垂れている。とぎれとぎれに何か呟いているのが喘ぎ声の合間に聞こえた。
「何と言っているんだ?」
あきれたように眉をひそめて牢の外から眺めていたオルさまが聞く。
「ヨンジン……と言っているようでした。誰かの名前でしょうか……」
「城の者以外、クフベツさまに知り合いがいるとでも?」
首をかしげたオルさまだったが、あり得ないことではない。クフベツさまは7才まで城の外にいたのだから、知り合いがいても不思議ではない。
もっともクフベツさま自身は城に来る前のことをほとんど覚えていないようだった。よほどショックな出来事があったらしく、ところどころ記憶を失っていたのだ。
それにしても突然のこの興奮状態はどうしたことだろう。
「卵祭りで何かを思い出したのだろうか……確かにあの時、様子がおかしかったが」
卵祭りの最中に、クフベツさまが突然立ち上がったことを思い出してオルさまはつぶやいた。
その時クフベツさまの脳裏には、失われていた記憶が断片的に蘇りかけていた。
砂色の髪と淡い灰色の瞳をもつ美しいラ・ズー。
ヨンジン。
ヨンジンと二人で初めて見る珍しい実を口にした。
ヨンジンの触れたところから体がとろけていくみたいに甘くしびれて、エマが燃えるように熱かった。
ヨンジンは低い唸り声をあげて力任せにエマをねじ込んできた。
頭が真っ白になって、思わずアーッと叫び声をあげた……
クフベツさまがあまりに激しくもだえるせいで、体重を支えている手首が荒縄でこすれて血が幾筋も伝い落ちている。
「大事なエマに傷がついたら事だ。とにかく一度眠らせるのだ」
「眠らせるって、どうやって……」
ワメールは初めて見るおひめさまの痴態におろおろするばかりだ。
「ソダリグサの実を煮出した汁を布に染み込ませて持ってこい」
「はい」
ワメールが答えるのと、クフベツさまがアーッと叫びをあげたのとは同時だった。
振り向くと、クフベツさまは荒縄に絡みつかせた両足をぴんと真上に伸ばして、腰をビクンビクンと大きく何度か震わせていた。そのまま数秒間、目を見開き口を半開きにしたまま、クフベツさまの体は荒縄のねじれがほどけていくのに合わせてゆっくりと弧を描いて回っていた。やがて腰からぐにゃりと力が抜けて、クフベツさまは縛られた両手を上にあげたまま床にどたりと尻もちをついた。全身がぴくぴくと痙攣し、意識を失っていた。
「……やれやれ、薬は必要なくなったようだな。今のうちに傷の手当てをして、今度は後ろ手に縛っておけ」
オルさまはため息をつきながらそう言って歩き去った。
「オルさまはいないようだね」
ハルマヤさまが突然物陰から姿を現したのでワメールは肝をつぶした。
「ハルマヤさま? 今頃ご結婚の準備をなさっているはずでは?」
「エマニの実が手に入るまで結婚は延期らしい。まあ俺にとっては都合がいいけどね」
後ろから、ハルマヤさまのお世話係のアーユーラがぴょこんと顔を出して、
「ごめんなさいね、お邪魔しちゃって。ハルマヤさまがどうしてもって言うもんだから」
と申し訳なさそうに笑った。
「ちょっとクフベツと話がしたいんだ。いいかい」
芝居がかった仕草でハルマヤさまがワメールにウインクをした。
「はい。あの、私、傷の手当てをしようと……」
「ああ、いてくれて構わないよ。ここでの会話も最終的には本にまとめるつもりだしね」
ハルマヤさまは後れ毛を掻き揚げながらキザにほほえんで言った。
「クフベツがどんなことを話そうとできるだけ忠実に記述するつもりさ。俺は自分の理論をこじつけるために事実を捻じ曲げたりはしない主義だ。科学者として真実を愛してるんでね。クフベツからどんな意外な事実を聞かされても、それを傍証としてそこから真実にたどり着きたい。クフベツのような症例はレアケースで貴重な科学の傍証人なのさ」
「はあ……」
何の話かさっぱり分からず、ワメールはクフベツさまの手首に傷薬を塗りながら上の空で相槌を打った。クフベツさまもたいがい変わってるけど、ハルマヤさまも噂にたがわず変人だなと思いながら。おひめさまって、みんなこんな感じなのかしら? 手首を後ろ手に縛り上げ、手足を椅子にくくりつけていると、クフベツさまがかすかなうめき声をあげて意識を取り戻した。
「ハルマヤおねえさま……?」
「やあ、クフベツ」
ハルマヤさまは相変わらず格好をつけながら椅子にくくりつけられているクフベツさまの方を振り向いた。
「何か用か」
クフベツさまは警戒心丸出しでハルマヤさまをぎろりとにらんだ。機嫌が悪いのも無理はない。クフベツさまはここではみんなからキチガイ扱いされているんだ。結婚前に大事なエマを傷つけるなんて信じられない非常識な奴というわけだ。
「お前、ここに来た時から発情してるそうじゃないか」
ハルマヤさまはクフベツさまの気分などお構いなしに続けた。
アーユーラが目配せすると、ワメールは早口で
「私はあちらで控えています」
と言ってついてきた。
オルさまがほとほと愛想が尽きたというようにクフベツさまの世話係の一人であるワメールを叱った。
「申し訳ありません」
ワメールは大きな体を縮こませるようにして言った。ワメールはまだクフベツさまの世話係になったばかりだった。
「腕だけ縛ってちょっとお召し物を取りに行ったんです。お召し替えのついでに体をお清めするつもりだったものですから……」
ぎしぎしと垂木がきしんでいる。天井から下がっている荒縄で両の手首を戒められたクフベツさまは、両の太ももで荒縄を挟み込むようにして逆さにぶら下がり、宙づりになった不自由な体勢のままエマをめちゃくちゃに指で掻きまわしていた。
腕を高い位置で縛られていたのでエマに指が届かず、逆上がりの要領でこんなあられもないポーズをとったらしい。顔は真っ赤に上気し、唇の端からはよだれの糸が垂れている。とぎれとぎれに何か呟いているのが喘ぎ声の合間に聞こえた。
「何と言っているんだ?」
あきれたように眉をひそめて牢の外から眺めていたオルさまが聞く。
「ヨンジン……と言っているようでした。誰かの名前でしょうか……」
「城の者以外、クフベツさまに知り合いがいるとでも?」
首をかしげたオルさまだったが、あり得ないことではない。クフベツさまは7才まで城の外にいたのだから、知り合いがいても不思議ではない。
もっともクフベツさま自身は城に来る前のことをほとんど覚えていないようだった。よほどショックな出来事があったらしく、ところどころ記憶を失っていたのだ。
それにしても突然のこの興奮状態はどうしたことだろう。
「卵祭りで何かを思い出したのだろうか……確かにあの時、様子がおかしかったが」
卵祭りの最中に、クフベツさまが突然立ち上がったことを思い出してオルさまはつぶやいた。
その時クフベツさまの脳裏には、失われていた記憶が断片的に蘇りかけていた。
砂色の髪と淡い灰色の瞳をもつ美しいラ・ズー。
ヨンジン。
ヨンジンと二人で初めて見る珍しい実を口にした。
ヨンジンの触れたところから体がとろけていくみたいに甘くしびれて、エマが燃えるように熱かった。
ヨンジンは低い唸り声をあげて力任せにエマをねじ込んできた。
頭が真っ白になって、思わずアーッと叫び声をあげた……
クフベツさまがあまりに激しくもだえるせいで、体重を支えている手首が荒縄でこすれて血が幾筋も伝い落ちている。
「大事なエマに傷がついたら事だ。とにかく一度眠らせるのだ」
「眠らせるって、どうやって……」
ワメールは初めて見るおひめさまの痴態におろおろするばかりだ。
「ソダリグサの実を煮出した汁を布に染み込ませて持ってこい」
「はい」
ワメールが答えるのと、クフベツさまがアーッと叫びをあげたのとは同時だった。
振り向くと、クフベツさまは荒縄に絡みつかせた両足をぴんと真上に伸ばして、腰をビクンビクンと大きく何度か震わせていた。そのまま数秒間、目を見開き口を半開きにしたまま、クフベツさまの体は荒縄のねじれがほどけていくのに合わせてゆっくりと弧を描いて回っていた。やがて腰からぐにゃりと力が抜けて、クフベツさまは縛られた両手を上にあげたまま床にどたりと尻もちをついた。全身がぴくぴくと痙攣し、意識を失っていた。
「……やれやれ、薬は必要なくなったようだな。今のうちに傷の手当てをして、今度は後ろ手に縛っておけ」
オルさまはため息をつきながらそう言って歩き去った。
「オルさまはいないようだね」
ハルマヤさまが突然物陰から姿を現したのでワメールは肝をつぶした。
「ハルマヤさま? 今頃ご結婚の準備をなさっているはずでは?」
「エマニの実が手に入るまで結婚は延期らしい。まあ俺にとっては都合がいいけどね」
後ろから、ハルマヤさまのお世話係のアーユーラがぴょこんと顔を出して、
「ごめんなさいね、お邪魔しちゃって。ハルマヤさまがどうしてもって言うもんだから」
と申し訳なさそうに笑った。
「ちょっとクフベツと話がしたいんだ。いいかい」
芝居がかった仕草でハルマヤさまがワメールにウインクをした。
「はい。あの、私、傷の手当てをしようと……」
「ああ、いてくれて構わないよ。ここでの会話も最終的には本にまとめるつもりだしね」
ハルマヤさまは後れ毛を掻き揚げながらキザにほほえんで言った。
「クフベツがどんなことを話そうとできるだけ忠実に記述するつもりさ。俺は自分の理論をこじつけるために事実を捻じ曲げたりはしない主義だ。科学者として真実を愛してるんでね。クフベツからどんな意外な事実を聞かされても、それを傍証としてそこから真実にたどり着きたい。クフベツのような症例はレアケースで貴重な科学の傍証人なのさ」
「はあ……」
何の話かさっぱり分からず、ワメールはクフベツさまの手首に傷薬を塗りながら上の空で相槌を打った。クフベツさまもたいがい変わってるけど、ハルマヤさまも噂にたがわず変人だなと思いながら。おひめさまって、みんなこんな感じなのかしら? 手首を後ろ手に縛り上げ、手足を椅子にくくりつけていると、クフベツさまがかすかなうめき声をあげて意識を取り戻した。
「ハルマヤおねえさま……?」
「やあ、クフベツ」
ハルマヤさまは相変わらず格好をつけながら椅子にくくりつけられているクフベツさまの方を振り向いた。
「何か用か」
クフベツさまは警戒心丸出しでハルマヤさまをぎろりとにらんだ。機嫌が悪いのも無理はない。クフベツさまはここではみんなからキチガイ扱いされているんだ。結婚前に大事なエマを傷つけるなんて信じられない非常識な奴というわけだ。
「お前、ここに来た時から発情してるそうじゃないか」
ハルマヤさまはクフベツさまの気分などお構いなしに続けた。
アーユーラが目配せすると、ワメールは早口で
「私はあちらで控えています」
と言ってついてきた。
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