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何でもない、塔の掃除に行った帰りだ
「私もオルさまがいなくてよかったわ。アーユーラさんとおしゃべりできるし」
ワメールは甘えるように言った。
「オルさまって、とっても厳しいんですもの。私、もう心が折れそうです」
「やだ、何言ってるの。オルさまはあなたのことはかわいがってるわ。気にくわない子にはもっと容赦ないわよ。私なんて来たばかりの時は大変だったんだから」
アーユーラはいたずらっぽく言ってニヤッと笑った。
「そんな! なんでですか? オルさまだってアーユーラさんのことは一目置いてるじゃありませんか」
「そうねえ、目障りだと思われてるんじゃない? 私ってあちこちに首を突っ込むから」
アーユーラはおどけた顔で首をかしげた。
「だって、それはアーユーラさんがみんなから頼りにされてるからじゃないですか。私もそうだけど、困ったことがあるとついアーユーラさんを頼っちゃうんですよね」
「私がみんなに頼られてるってこと自体が気にくわないのよ」
「それはあるかもしれませんね」
ワメールは傍らに置いてあったツグリ酒の樽に腰を掛けた。
「大体オルさまは何でも一人で抱え込むようなところがあるから……もっと部下を信頼してくれてもいいんじゃないですかね」
「そう思う?」
「そうですよ、だって塔のお掃除も絶対に人任せにしないでしょ。しかもこっそり夜中に出かけるんです。怪しくないですか?」
「何が怪しいの?」
「おとうさまに個人的な頼み事でもしてるんじゃないかって噂ですよ。例えばお金をもらっているとか」
「それはないと思うけど。私、オルさまが夜明けにお城に戻ってきたところにでくわしたことがあるけど、傷だらけで服もボロボロだったのよ。塔のお掃除って、相当危険な仕事なんじゃないかしら」
「それならなおさら、若い者にやらせればいいじゃないですか。オルさまは確かに勇敢だけど、もうけっこうな年だし、若くて強い翼をもたぬ者は他にもいるじゃないですか」
「まあ、そうよね」
「これは友達が見たって言ったことなんですけど、オルさまが塔から出てくる時って、大きな台車を押して出てくるんですって。干し草を積んでるけど、やけに量が多いって。干し草の下に何か隠してるみたいだったって。何か運んでいるのかしら」
「台車?」
アーユーラが見た時は、オルさまは手ぶらだった。ボロボロの姿に驚いて
「どうなさったんですか」
と声をかけたら、
「何でもない、塔の掃除に行った帰りだ」
とオルさまらしくない慌てた様子で答えた。そしてことさら威厳を取り繕うように
「お前こそなぜこんな時間にうろうろしている? あまり城の中を嗅ぎまわるんじゃないぞ」
とアーユーラをにらんだ。
本当は別の用で出かけていたのだろうか? それとも荷物はどこかで処分したあとだったのか?
とにかくその後同じ時刻にその場所でオルさまに出くわしたことはなかった。
「ところでハルマヤさまはなんでここに?」
ワメールは話を変えた。
「ハルマヤさまが言語について研究しているのは知ってるでしょう?」
「はい、聞いたことがあります」
「特に古エマニ語については造詣が深いの。それに関連してエマニの原の風俗にも興味があるんですって」
「はあ」
ワメールにはまったく興味のない話題だ。
「それがクフベツさまと何の関係が?」
「クフベツさまはエマニの原で生まれたんじゃないかって噂があるのよ」
「ええ? なんでですか?」
「あなたは新人だから知らないかもしれないわね。クフベツさまは生まれてから7年間行方が分からなかったの。ある翼をもつ者に連れられて旅をしているところを発見されたんだけど、それがお城にエマニの実を届けに来たラ・ズーだったの」
「それ、聞いたことあります」
ワメールが俄然話題に食いついてきた。
「デグーって奴ですよね。北の森でそいつの亡霊を見たって話、聞いたことがありますよ」
「やだ、そんな噂があるの?」
アーユーラは眉をひそめた。
「ええ。オルさまに射落とされたのを恨んで夜な夜な化けて出るんですって」
クデカの都は、おとうさまの巣の周りにあった森を切り開いて作られた。もともとは西部の山岳地帯を背にして南北に長く延びる森林で、分断された北半分は北の森、南半分は南の森と呼ばれている。
「北の森に住んでる翼をもつ者と見間違えたんじゃない? 大勢住んでるらしいわよ。エマニの実をお城に持ってきたラ・ズーは、お金をもらうと故郷に戻るのが面倒くさくなって、近くの森に住みつくことが多いみたい」
「あのひとたち、子供の頃いた群れの翼をもたぬ者と付き合わないから、住む場所はどこでもいいんでしょうね」
とワメールもうなずく。
「北の方が南よりお店が多くて便利だからね。卵祭りの時、塔のてっぺんに群がって卵を投げてくれるのは大体北の森に住んでる翼をもつ者らしいわ」
「でも北の森で消息を絶った翼をもたぬ者は実際に多いらしいですよ。翼をもつ者に襲われたのか、イザリ虫にやられたのか、それとも本当にデグーの幽霊に……」
ワメールはアーユーラの反応を楽しむようにわざと声をひそめた。
「怖いこと言わないで。北の森を通れなくなっちゃうじゃない」
とアーユーラは言った。
ワメールは甘えるように言った。
「オルさまって、とっても厳しいんですもの。私、もう心が折れそうです」
「やだ、何言ってるの。オルさまはあなたのことはかわいがってるわ。気にくわない子にはもっと容赦ないわよ。私なんて来たばかりの時は大変だったんだから」
アーユーラはいたずらっぽく言ってニヤッと笑った。
「そんな! なんでですか? オルさまだってアーユーラさんのことは一目置いてるじゃありませんか」
「そうねえ、目障りだと思われてるんじゃない? 私ってあちこちに首を突っ込むから」
アーユーラはおどけた顔で首をかしげた。
「だって、それはアーユーラさんがみんなから頼りにされてるからじゃないですか。私もそうだけど、困ったことがあるとついアーユーラさんを頼っちゃうんですよね」
「私がみんなに頼られてるってこと自体が気にくわないのよ」
「それはあるかもしれませんね」
ワメールは傍らに置いてあったツグリ酒の樽に腰を掛けた。
「大体オルさまは何でも一人で抱え込むようなところがあるから……もっと部下を信頼してくれてもいいんじゃないですかね」
「そう思う?」
「そうですよ、だって塔のお掃除も絶対に人任せにしないでしょ。しかもこっそり夜中に出かけるんです。怪しくないですか?」
「何が怪しいの?」
「おとうさまに個人的な頼み事でもしてるんじゃないかって噂ですよ。例えばお金をもらっているとか」
「それはないと思うけど。私、オルさまが夜明けにお城に戻ってきたところにでくわしたことがあるけど、傷だらけで服もボロボロだったのよ。塔のお掃除って、相当危険な仕事なんじゃないかしら」
「それならなおさら、若い者にやらせればいいじゃないですか。オルさまは確かに勇敢だけど、もうけっこうな年だし、若くて強い翼をもたぬ者は他にもいるじゃないですか」
「まあ、そうよね」
「これは友達が見たって言ったことなんですけど、オルさまが塔から出てくる時って、大きな台車を押して出てくるんですって。干し草を積んでるけど、やけに量が多いって。干し草の下に何か隠してるみたいだったって。何か運んでいるのかしら」
「台車?」
アーユーラが見た時は、オルさまは手ぶらだった。ボロボロの姿に驚いて
「どうなさったんですか」
と声をかけたら、
「何でもない、塔の掃除に行った帰りだ」
とオルさまらしくない慌てた様子で答えた。そしてことさら威厳を取り繕うように
「お前こそなぜこんな時間にうろうろしている? あまり城の中を嗅ぎまわるんじゃないぞ」
とアーユーラをにらんだ。
本当は別の用で出かけていたのだろうか? それとも荷物はどこかで処分したあとだったのか?
とにかくその後同じ時刻にその場所でオルさまに出くわしたことはなかった。
「ところでハルマヤさまはなんでここに?」
ワメールは話を変えた。
「ハルマヤさまが言語について研究しているのは知ってるでしょう?」
「はい、聞いたことがあります」
「特に古エマニ語については造詣が深いの。それに関連してエマニの原の風俗にも興味があるんですって」
「はあ」
ワメールにはまったく興味のない話題だ。
「それがクフベツさまと何の関係が?」
「クフベツさまはエマニの原で生まれたんじゃないかって噂があるのよ」
「ええ? なんでですか?」
「あなたは新人だから知らないかもしれないわね。クフベツさまは生まれてから7年間行方が分からなかったの。ある翼をもつ者に連れられて旅をしているところを発見されたんだけど、それがお城にエマニの実を届けに来たラ・ズーだったの」
「それ、聞いたことあります」
ワメールが俄然話題に食いついてきた。
「デグーって奴ですよね。北の森でそいつの亡霊を見たって話、聞いたことがありますよ」
「やだ、そんな噂があるの?」
アーユーラは眉をひそめた。
「ええ。オルさまに射落とされたのを恨んで夜な夜な化けて出るんですって」
クデカの都は、おとうさまの巣の周りにあった森を切り開いて作られた。もともとは西部の山岳地帯を背にして南北に長く延びる森林で、分断された北半分は北の森、南半分は南の森と呼ばれている。
「北の森に住んでる翼をもつ者と見間違えたんじゃない? 大勢住んでるらしいわよ。エマニの実をお城に持ってきたラ・ズーは、お金をもらうと故郷に戻るのが面倒くさくなって、近くの森に住みつくことが多いみたい」
「あのひとたち、子供の頃いた群れの翼をもたぬ者と付き合わないから、住む場所はどこでもいいんでしょうね」
とワメールもうなずく。
「北の方が南よりお店が多くて便利だからね。卵祭りの時、塔のてっぺんに群がって卵を投げてくれるのは大体北の森に住んでる翼をもつ者らしいわ」
「でも北の森で消息を絶った翼をもたぬ者は実際に多いらしいですよ。翼をもつ者に襲われたのか、イザリ虫にやられたのか、それとも本当にデグーの幽霊に……」
ワメールはアーユーラの反応を楽しむようにわざと声をひそめた。
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とアーユーラは言った。
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