エマをもつむすめ

ぴょん

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重荷になってしまった恋なのに

その日からクフベツさまは高熱にうなされた。エマが膿んで、鎖骨の下から足のつま先までパンパンに腫れあがった。あんな無茶をしたのだから無理はない。クフベツさまが死んでしまうのではないかと、ヨンジンは目を真っ赤に泣きはらして寝ずに看病した。けれどヨンジンは、いっそこのままクフベツさまが死んでくれたらとさえ思った。クフベツさまの本当の心がもうわからなくなって、無邪気な恋の喜びは苦しい重荷に変わってしまった。愛が永遠ではないと思い知るくらいなら、クフベツさまが死んでくれたほうがマシだったんだ。
苦しい嫉妬でヨンジンの心はもうズタズタだった。二人のきずなを取り戻すことは、とても無理だと思った。恋は終わった。離れ離れになっている間に、いつの間にか終わっていたんだ。それはエマをもつ者ラ・エマにとっては死にも等しい苦しみだった。

容体は重かったが、クフベツさまは回復した。エマを持つ娘の生命力だ。そうでなければ卵を産めないからね。けれど思わぬ足止めを食っているうちに困ったことが起きた。

雨季が来たんだ。
お前も知っているように、ラ・ズーが何より苦手なものは雨だ。エマニの原を目の前にして、二人は一歩も動けなくなってしまったんだ。
木の上に泊まれば大事な翼が濡れてしまうから、二人は洞窟に宿りをとった。ほら、今私たちがいるこの洞窟さ。本当に大地の裂け目の目と鼻の先だろう? クフベツさま一人だったら、ちょっと歩けば着く距離さ。ここに座って、雨が止むのを待ちながら、二人は何を考えただろうね。早く雨がやんでくれればと……? それとも、永久にやまなければいいと……?

足止めをくらって何日目だったか、洞穴の入り口にもたれて雨を見ていたクフベツさまが、
「ヨンジン」
と声をかけた。ヨンジンは怯えた目でクフベツさまを見た。
「俺、やっぱりエマニの原には行かない」ヨンジンは顔を歪めてうつむいた。
ヨンジンは言った。
「そんなにイヤなら、結婚しなくてもいいよ。お前にエマがあるなんて知らない頃から、俺にはお前しかいなかったんだから」
抱えて生きていくには重荷になってしまった恋なのに、いざ手放そうとしたら、自分のすべてが崩れ落ちるような気がした。重い荷物を載せた荷車が急に止まらないように、長年の思いをあっさり手放すことはできなかったんだ。

クフベツさまは、目の前にそびえているイトリの木の葉から、雨粒が落ちるのをぼんやり数えていた。すぐに数が分からなくなってしまっては、また一から数え直すことを、もう何度も繰り返していた。
「だからずっと俺のそばにいてよ。エマニの原には行かなくてもいいから」
違う、と、クフベツさまは、躍起になって雨粒を数えながら思った。
結婚したくてたまらないのはクフベツさまのほうだった。このままずっと一緒にいたら、頭がおかしくなりそうなくらいに。
発情した姿を見られてしまったと思うと、恥ずかしくてヨンジンの顔をまともに見られなかった。
「お前はやっぱりおかしいよ。いくらなんでも頭おかしい……」
あの夜、薄れていく意識の中で、ヨンジンがつぶやいた言葉をクフベツさまは聞いてしまった。他にも何かつぶやいていたけど、はっきり聞き取れたのはそれだけだった。
(もう愛してなんかいないくせに、なんで引き止めるんだよ……)
この頃はふと視線を感じて振り向くと、氷のように冷たいヨンジンのまなざしにぶつかることもあった。
(俺のこと、どうせ気持ち悪いと思ってるんだろ。お城の連中みたいに……)
クフベツさまはどんどん卑屈になっていった。そんなふうに考え始めると何もかも悪く思えてくるものなんだ。

なんで、どこから、こんなにすれ違っちゃったんだろう。できることなら、ヨンジンが無邪気に愛を信じてくれていた頃まで時を巻き戻したかった。けれどクフベツさまはあの時、ヨンジンの無邪気さに苛立ってしまったんだ。現実はそれほど単純じゃないんだってことを、わからせたかった。本当は言葉で言うべきだったのかもしれないけど、クフベツさま自身の気持ちが揺れ動いているもんだから、はっきりした言葉にできなかったんだ。「愛してるから結婚しよう」なのか、「愛してるけど別れよう」なのか、「お前が決めてくれ」なのか。

まつげに雨のしずくが落ちてきたのか、急に目の前が曇った。
クフベツさまは目をぐいとこすると、黙って雨を見つめ続けた。

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