【完結】空白

蛇足

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heading2 Ryo

7話

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「美味いか? レイン。」
「…ええ。とても。」
 フードを被っていないレインの姿を久しぶりに見た気がする。こうまじまじと見ていると改めて実感する。

……レインは本当に似ている。“彼女”に。

     **

「リョウ様。ありがとうございました。」
 再びフードを被り、俺の後ろを歩くレイン。少しばかり思考した後、俺は前を向いたまま彼女に尋ねた。
「…少し聞いてもいいか?」
「…? なんでしょう。」
意を決して口から言葉を出す。
「俺がギフテッドを殺すことについてどう思ってる?」
「そう…ですね。正直、私はリョウ様のすること全てが正しいと思っています。ギフテッドを殺すことも、肉片となったギフテッドの体から“魂を吸収する”ことも。…だから、これからもリョウ様について行きます。」
「…そうか。ありがとう。」

…そうだ。…そうだったな。

 世界は輪廻の理で顕現し続けるんだ。だからレインのようになることも多々あることだ。
 だが、それを目の当たりにするのは、俺たちギフテッドにとっては少し残酷なことなのかもしれない。


7話:能力開花


 世界にある十六国の中でも巨大な土地を所有する国、『イヨウザ』。俺がこの国に訪れたということは、ギフテッドが居るということだ。
 彼の名は『カイド』、そして能力は『開示(デア)』。炎、水、風、それらを自由自在に操る能力だ。
 ニルからの情報によると、現在“イムンド”という国に滞在している“ヨウカ”という別のギフテッドの、何百年か前の幼なじみだそうだ。

彼が終わったらヨウカを殺しに行こう。

「お前がカイドか?」
 街中、俺は情報から得た彼の特徴と一致する者に後ろから声をかけた。
 灰緑色をした頭髪でラフな格好の男。本当にコイツが…ギフテッドの中で“一番強い”のか?
「…ああ、俺がカイドだ。…何か用か?」
「お前を殺しに来た。」
 俺は街中であるにも関わらず、彼に能力を放った。国内で衛兵に追われるよりも、正々堂々彼と戦うことの方がリスクが大きいと判断したからだ。
しかしながら、彼は俺の能力を弾いた。
「フッ……何かしたか?」
 弾かれた理由は不明瞭。その時、レインは独断で俺を彼から魔法で離れさせた。
恐らく国外。まずは一安心だ。
「大丈夫ですか!? リョウ様!」
「ああ…」
 アイツは間違いなく強い。そんな事実を押し付けられ、俺は手が震えだした。
 その震えを、拳を作って消し飛ばす。これが武者震いであると信じたいものだ。
「レイン。…あいつはヤバい。正面から戦ったら俺でも多分負ける。だからお前は逃げろ。」
 そう彼女に促した。下を俯く彼女。やがて口を開く。
「…私、言いましたよね。“これからもリョウ様について行く”と。墓場まで御一緒させてください…!」
そう言う彼女の表情は、決意に満ちていた。
「…そうか。」
と言う他なく、俺は呆気なく彼女の決意に負かされた。
 脳裏に“彼女”の姿が現れた。そんな中、俺はとある策を考え、それをレインに伝えようとしたその時​─────
「​─────自分から勝負を挑んどいて逃げんなよ。」
 背後から声がした。慌てて後ろを振り向き、その姿を目視する。彼だ。そこにはカイドが立っていた。
「カイド…!」
驚くのもつかの間、彼は俺に炎を放った。
「…安心しろ。直ぐには殺さない。」
…能力自体は破壊出来ない…!
 そんな俺にレインは横から魔力で防壁作った。炎はその防壁に弾かれ、枝分かれして空へと飛んでいく。
「ありがとう、レイン。助かった。」
「いいえ。」
 レインは俺の隣にやって来た。そこで俺は、先程考えた策を彼女に伝える。
「…分かりました。死力を尽くします。」
「ああ、頼む。」
 俺は動き出す。まずは俺が正面から彼に能力を振るう。
「さっき理解しなかったか? それは効かない。」
「承知の上だ。」
 そして俺が注意を引いている間に、レインが魔法で彼の背後へと移動。そして魔法を放つ。
「リョウ様のため、死んでください。」
 魔力の塊のようなものをレインは放った。彼は無動作。背後からの魔法に反応は出来ていない。

…なのにも関わらず弾いたんだ。

 決してレインの魔力が弱かった訳ではない。決してレインがコントロールを誤った訳でもない。

では何故?刹那、俺の思考が加速する。

仮説1:能力に限らず魔法をも反発する何か(能力または魔法)を使用している。

仮説2:彼の能力『開示(デア)』の応用(手段は不明)。

仮説3:能力を持つ人間からの“能力の譲渡”により、彼が複数の能力持ちである。

 そして最後の仮説、稀にあるとされる人間の異常。宇宙で起こりうる事柄の一部が説明出来ないように、人間に起こるこの事象も説明出来る者はいない。

発現する人間も極わずかだ。
…だがギフテッドならば?
 
 一度神から能力を授けられた身、能力が授けられる回数に上限が無ければ?
ごく稀に起こる人間の異常。
その名も『能力開花』。
 新たな能力を神から授けられる事象とされている。もし……もしもそれが今彼に起こっていたとしたら…?
 恐ろしく考えたくないが…彼はギフテッド。有り得なくはない話だ。
 能力開花……だがこんなタイミングで有り得るのか?
 そこで俺はもう一つの仮説が浮かんだ。彼が能力開花を自由自在に行えるのだとしたら…!
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