【完結】空白

蛇足

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heading3 Kaido

12話

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 彼女はハナの弟子だ。俺がそう判断したのには、大きくわけて二つ理由がある。
 まず一つ目、杖の形だ。今使う瞬間を直に見て気付いたが、持ち手の部分が持ちやすいように手を施してある。
これは、以前俺が見た、ハナの杖と類似している。
 そして二つ目、魔法使いは炎や水など多くのものを扱えるのに、まず一番に魔力弾を放ったこと。
これは魔法使いであった頃のハナの戦い方だ。
 そして最後の決め手、これも今気付いた。彼女は、ハナと同じペンダントをしている。
 あのペンダントは、確か母親から譲り受けたと言っていたはずだ。俺は遠目で確認する。…本当にハナの物であれば、裏側に小さく文字が刻まれているはずだ。『Gifted』と。
 目を凝らしてペンダントを見る。魔力弾を打った爆風でそれは揺れていた。そして瞳に映る、“Gifted”の文字。
 吃驚と共に確信、彼女はハナの弟子で間違いなさそうだ。彼女はくるりと振り返って俺を見る。
「…で、あなたはどんな用で私を訪ねたんですか?」
 …そうだったな。ハナの弟子という奇跡的な巡り合わせのせいで忘れていたが、俺が彼女を訪ねたのには理由がある。
「実はですね​────」
 それから俺は、ギフテッドのことやギフテッドが記憶を持って転生すること、恐らくあなたが見たのは師匠だということ。
 それら全てを語り終えると、彼女は唖然としていた。…無理もない。一度にこれだけの情報を与えたら混乱してしまうだろう。…そのうえ、これから彼女には頼み事をしなくてはならない。
「そして頼み事です。僕と一緒に、ハナ…あなたの師匠を探してほしいのです。」
 俺一人じゃ、出来ないことが多々ある。なにより、リョウが連れているレインという女性を見て思った。
世界で最強職とされる魔法使い。
 その強さはギフテッドを手助けできる程だ。それに、これからハナに会いに行くのだから、もしも“彼女と戦闘になった時”、手数は多い方が良いだろう。
 現状、ハナと戦闘になることが最悪の事態だ。だから、強い魔法使いでハナの弟子である彼女と共にハナを探しに行こうという魂胆な訳だ。
 …しかしながら彼女が言うには、彼女はここの村の魔物退治役。簡単に来てくれるとは思えない。
そんな俺の考えとは裏腹に​────
「わかりました!」
​────何故か快諾してくれた。
家に戻り、その家中で俺は尋ねた。
「どうして快諾したんです?」
「実はですね。魔物退治役というのは私以外にも四人いて、日毎に担当分けしてたんですが、私がいなくなっても人手は足りるだろうなと思いまして。」
「…なるほど。」
「それに……“後悔”を晴らしたいんです。」
「“後悔”?」
 俺が訊くと、彼女は支度をしていた手を止め、俯いてしまった。俺は空気を読み、沈黙に言葉を挟んだ。
「…いえ、すいません。なんでもないです。」
「というか敬語やめてくださいよ。カイドさんもギフテッドなら、私が敬語を使うべきです。」
「……そうか。」

     **

 彼女が村の者たちに別れを告げる中、俺は背筋が凍るような感覚を覚えた。
 …間違いない。この気配、リョウのものだ。となれば半径百キロ以内に彼がいるはずだ。

目を閉じ、集中する。

 そして判明した。彼は今、『デダラジー』という国にいる。
「どうかしました?」
 村の者たちへの別れの挨拶を終えた彼女がこちらへと駆けて来て、俺に尋ねた。
 少しの沈黙を挟む。デダラジーはここから比較的近い距離だ。ハナがそこにいても何ら不思議ではない。
 それにその国にハナがいるならば、リョウとの接触を防がなければならない。もし戦闘にでもなれば、ハナとリョウの魔力が衝突し、災害級の爆発が起こる。
 それ程の魔力をプロディジーは持ち合わせている。だから、俺たちが今目指すべきはデダラジーだ。
「ハナさん。アイツの今の名前って何?」
「えと…私の師匠だった頃の名前は“ユウ”でしたが……」
「“ユウ”…か。分かった。じゃあまずはデダラジーに向かおうか。」
「わかりました。」
「…ああ、それと。」
無表情を浮かべる彼女に、俺は警告をした。
「これから起こる戦闘の際には、俺の後ろに隠れて。そのうえで、もしも、俺が倒れたなら、すぐさま逃げると約束をしてくれ。」
 リョウとレインとの関係を見て学んだ。大切な人を持つ者ならば、その人を自分よりも優先させる。
当たり前のようで、難しいこと。
 ハナさんはユウにとって大切な存在。俺は思う。仲間の大切な人を含めて守れる者が真に強い者であると。
 実際問題、俺自身が強い存在であると世界に誇示したい訳ではないし、そういった存在でありたい訳でもない。
 俺はただ、人を殺したくも見殺しにしたくもないんだ。それといった理由は無いんだが、ハナが…ユウが寿命で亡くなった時の死に顔を見て、俺は怖くなったんだ。

自分の死よりも他人の死が。

だから人が死ぬところを見たくない。
…ただそれだけだ。
「…わかりました。」
 彼女の言葉を確認し、俺は微笑む。だがまだ短い付き合い、どうやっても俺と彼女の間には信用というものがなかった。
 それでも、彼女が今放った言葉は本当であると信じたいものだ。


12話:邂逅
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