【完結】空白

蛇足

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heading4 those who gather

16話

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   **カイド視点**
「国が滅ぶというのが真であれば…儂も戦いに加担しよう。」
 そんな言葉を聞いた護衛共は無論彼を止めようとするが、王様だからと彼は言って聞かなかった。
 やがて護衛も諦めてしまい、俺は国王と共にハナさんの元へと戻った。
「えっと……どうしたんですか?」
 困惑する彼女。それもそのはず。国王を納得させることが俺の役目だった。それがどういう訳か国王を連れて来ているのだから困惑する他ないだろう。
「この国が滅ぶ姿を黙って見過ごせないそうだ。」
「国を統べる者として当然であろう。」
とその時、国内から凄まじい轟音が鳴り響いた。
 暫くの間その轟音は続いていて、一向に鳴り止む気配は無かった。そして俺が国王の方を向いた時、既に彼はそこに居なかった。

   **ヨウカ視点**
「ヨウカさん! 全力で来てくださいよ!」
 リョウの攻撃は一向に収まらない。化け物並みの体力だ。…やはり能力を使うしかないのか。
ならば​─────
刹那、私は彼の能力を反射させながら一瞬にして彼と距離を詰めた
​───── 一気に距離を詰める…!
「……悪く思わないでね。」
 その時、私たちに向けて放たれた、異常な程の質量を持ち合わせた魔力弾。互いを退け合うようにして私たちはそれを交わした。
視線を移す。そこには一人の男。着地し、尋ねる。
「誰ですか? あなた。」
すると、彼は怒鳴るようにして私の問いに答えた。
「小童共ォ!! 儂はこの国の王だ!この国を滅ぼすならば! 儂が相手をしよォ!!」
 先程の魔力弾…当たればマズかった。体内の何処かが破損するのは免れないだろうし、即死する可能性だってあった。
 …無視は出来ないな。あの老人。だが少し救われた。
 これでリョウの標準が少しでもあちらに向けば​…!そう思った矢先、弓手からリョウが私に向かって飛び出してきた。
まるであの老人なんて眼中に無いように。
「ぐっ……!」
 彼から放たれた一点に特化した魔力弾を反射的に避けたが、それに掠った程度で私の左腕は分断された。
 血が飛び散り、痛みが増していく。彼は私の前に背を向けて立ち、話し始めた。
「…ヨウカさん。僕があなたと戦う理由…実を言うところ矜恃ではないんです。」
「……?」
私は痛みに耐えながら、彼の言葉を振り返る。
『戦わずして救われるなど、俺のプライドが許さない。』
確かこう言っていた筈だ。声を振り絞って訊く。
「…じゃあ……何…?」
「この国の崩壊です。」
私が沈黙すると、彼は続けて話し出した。
「少し前、俺は友人の情報屋からとある情報を仕入れました。この国の王『ミラド』は世界を脅かす能力を所持しているんです。」
 私は地面に落ちた左腕を拾い上げ、断面同士を擦り、右手で魔力による接着を開始した。
 私は内的(病や風邪など)な治癒は出来ないが、外的(怪我や骨折)な治癒ならば出来る。
「どんな…能力?」
「『支配者(ルーラー)』。手で触れた相手のことを自分の思うままに操れる能力です。この能力の恐ろしいところは、操る相手がもう一人の相手に手で触れれば、支配が伝播することです。」
「…それってつまり…」
「ええ。僅か一週間もあれば、この世界の人間はみな彼の手中に堕ちてしまう。それを見据えた『空臨(くうりん)』から、プロディジーとなった俺は任務を与えられました。」
 …『空臨』……空から世界を臨眺する組織。世に存在するギフテッドを利用して世界の平和を維持する組織だ。
 久しぶりに聞いたな。まだ残っていたのか。
「“今まで行ってきた事の罪滅ぼしとしてミラドを殺せば、お前の罪は今後一切問わない”と。…なので……ごめんなさいヨウカさん。利用させてもらいました。」
腕が半分程治癒したところで私は訊く。
「…私の腕、切り離す必要あった?」
「…少しだけ。」
 ……少しだけ…か。…恐らく、ミラドに私たちが組んでいると悟らせないためだろう。
 実際、今私とリョウとの距離はおよそ二メートル。更に、リョウとミラドとの距離は百メートル程離れている。
故に会話で悟られることはない。
 現状、この硬直状態である限りは。故に、仲間ではないと主張するためにはこうするしかなかったのだろう。
 別に気にしてはいないから、許すべきだな。
…だが、裏を返せば、彼がそれ程の強敵。
もしくはリョウがただの慎重な男であるか。
「…まぁいいよ。その代わり、アイツ、倒してね。」
彼は鼻で笑う。
「大丈夫ですよ。腕には自信があるんで。」

   **カイド視点**
 国王がヨウカ達に魔力弾を放った後、直ぐに俺の元へとレインが駆けて来た。彼らの戦闘に巻き込まれないようにと、リョウの指示のようだ。
「…大丈夫か?」
 俺がそう尋ねると、彼女は息を激しく切らしながら頷く。俺はとりあえず、近くにあった切り株に俺の上着を乗せ、そこに彼女を座らせた。
「…すいません……ありがとう…ございます。」
「レイン。手短に現状を伝えてくれるか?分かる範囲で構わない。」
「はい…」
そして彼女は話し始める。息を整えながら。
「​─────なるほど。リョウは“空臨”から命令を受けていたのか。……取り敢えずありがとう。」
 その時、隣で話を聞いていたハナさんが俺に背を向け、国王達の元へと歩き出した。
「ハナさん?」
背を向けたまま、彼女は俺に言う。
「加戦します。」
「…駄目だ。」
「私は一度、大切な人を失いました。…もう二度と同じ過ちを犯さないと心に決めている。…今、ユウが……私の大切な人が腕を切断された。」
 そう言われ、視線を移す。確かにそこには腕を治癒するヨウカの姿があった。少しの沈黙を挟み、俺は言う。
「以前、約束したことを覚えてるか? “戦闘の際には俺の後ろに隠れていろ。俺が逃げろと言ったらその通りにしろ。”」
ハナさんと出会ったあの村で交わした約束だ。
「たとえ姿形声が変わろうと、それが同じ人間なのであれば私は失いたくない。そしてもう一度、話がしたい。」
 今まで背を向けていたハナさんは振り返り、硬く強い表情で俺に言った。
「だから、お願いします。カイドさん。」


16話:深化
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