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④「リフトアップ」

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コケコッコー

見慣れない天井。

どうやら異世界のまま朝を迎えたらしい。
ここは昨日、何故か倒れていた俺が、
アルに助けられ辿り着いた「ダンチヒ村」だ。
そしてご厚意によってタダで泊まらせてもらえた
宿屋「ドナウブルー」の一室で、
アトウ オクラのお目覚めだ!

はぁ・・・。

名前と一緒に全てを思い出したはず・・・
なんだけど、何故異世界に来てしまったのか、
それだけが思い出せない。
いつも通りの日常、代わり映えのない、でもまぁ全然嫌いじゃない下校中、
突如後頭部に激痛が走って気づいたら異世界。

今異世界にいる以上、いわゆる俺が思っていたリアルはリアルじゃないみたいなので、
なんか隕石にでも当たったんだろうか。
それで、何か、変な量子だか粒子だかに当てられたのか。
生きてる実感がある以上、死んでしまったってのも考えられなくて、
これは壮大すぎる夢、なのかなぁ。脳に何かあったのかなぁ。

ただ、いざ放り出されると、長々とは考えていられないことに気づく。
今はご厚意でパンと水をいただいて朝食にしてるけど、
こんな生活をずっとはしていられない。

元の世界に帰る方法を考えるにも、考えるためにこの世界で生きなくてはいけないので、
ボーっともしていられない。
うん。行くか。

「ありがとうございました!パンめっっちゃ美味しかったです!」

小麦粉と塩の味で甘くないしふわふわでもない「THE パン!」って感じのパンだったけど、
何か凄く心に届いて。食べたなー、いただいたなーって気持ちになった。
それを総じて「美味かった」と言いたい。

「また来いよ!」
宿屋のご主人は、こう、「THE ご主人」って感じで、
一見気難しそうだけど凄く気前が良い方だった。

「絶対に来ます!次来た時は絶対に宿泊料も払うので!」

「気にするこたねぇって!
 皿洗ったじゃねぇか。あれでチャラだろ」
タダで、好意で泊めていただいたら、皿洗いをする。
道徳の授業で習った当たり前のこと。

「皿洗いだけじゃ何分の一も感謝の気持ちが返せてないです!
 絶対来ます。」

そんな俺とご主人の声が聞こえたのか、裏から奥さんが出てきた。

「あらぁ、本当に行っちゃうのね・・・
 何泊でも泊まっていいのよ?だって身寄りが無いんでしょ?」

心底心配そうな顔で声をかけてくれる。

「ほんっとうに!ありがとうございます!
 でも、行く場所の目星は少しつけていて・・・
 なんとか、頑張って暮らせるようにしたいと思います。」

「村を出るんだとよ!頑張ってこい!」

「そうなのね・・・身体にだけは気をつけてね。」

「お世話になりました!それでは、また!」

俺はドナウブルーを後にした。

昨日は疲れたので、すぐ寝れるかと思ったけど、
妙に頭が冴えて眠れなかった。
そんな中で考えたのは、まずここダンチヒ村は俺の持つ「村」のイメージ
そのままで、田舎の方なんだろうってこと。
昨日アルやエルベさんは都市があるって言ってた。
もし俺の持つイメージそのままの都市なら、
図書館のようなものがあるはず。
俺が今絶望的に足りないのは「情報」
なぜこの世界に来ているのかっていう一番の疑問を解きたい。
まず都市を目指してみよう。行くなら明日すぐに。
そんなことを思いながら、いつの間にか寝ていたんだ。

朝は弱いタイプなので、朝起きてボーッとしていたけど、
パンを食べてエネルギーをもらったら、
昨晩の熱が戻ってきた。
多分朝起きたままの感じだったら、
ご厚意に甘えてドナウブルーにもう何泊かしてたと思うけど。

「都市を目指そう」そう思ってドナウブルーを一歩出た今の俺は、
少しハツラツとしている。
カラッとしてて天気も良い。
何ていうか、異世界もそんなに「異世界」じゃないのかもしれない。
俺が俺だから。俺のフィルターを通して世界を見てるから、
どんな世界でも、意外とそう変わらないのかなぁなんて思ったりもした。
ちょっと哲学っぽいよね、
だって俺名前の由来ソクラテスですから。

・・・なんて考え事をしてたのはあまり人に知られたくないけど、
個人的にはそれぐらい気分が良かったんだ。

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