ブレイブブレード!~俺は一振りの木刀で世界を変える!もふケモ娘と挑む異世界革命~

狐月 耀藍

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第三部 異世界剣士と血塗れの聖女

第82話:彼女は甘えるように、腰を

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「ご主人さま、ごめんなさい……」

 宿への帰り道、シェリィがうつむきながらつぶやいた。

「またか。俺は怒ってないってば」
「……でも、ボク、ご主人さまじゃないヒトのところに……」
「いいんだって。シェリィがそう判断してくれたから、いい感じのところで話が終わったんだからさ」

 シェリィの青紫の瞳から、じわっと大粒の涙があふれてくる。

「で、でも……でも、ボク……ご主人さまのおそばに、いなかった……」
「シェリィの判断は正しかった。むしろ感謝してるんだ」
「でも……」

 でも、を言い続けるシェリィ。違う、そうじゃない。俺の行動が間違っていたつもりはないけれど、でもシェリィのことを考えず──後先を考えずに飛び出したことは、よくなかった。俺の突然の行動に、シェリィだってびっくりしたはずだ。

 しばらく無言で歩いていると、公衆浴場の店の前までやってきた。昨日入ったところとは違って、小さく古びていて、こぢんまりとした感じだった。だいぶ遅い時刻だから、まだ営業中なんだ、と意外に思う。

「……遅くなっちゃったけど、風呂、どうする?」

 デュクスたちの酒盛りに付き合っているうちに、随分と夜が更けてしまった。今日はもう、宿に戻ってさっさと寝た方がいいかもしれない──そう思ったけれど、シェリィが手をきゅっと握ってきた。

「……ご主人さまが入りたいなら、ボク、ごいっしょしたいの」

 そう言って、身を寄せてくる。

「そうか。じゃあ、行くか」
「……うん!」

 うれしそうに微笑んだ彼女に、俺の方こそ、ほっとした。



 営業時間終了まで一時間あまり──店の受付でそう言われた。なるほど、そんな時間帯だからだろうか、利用客の姿はほとんどなく、貸切に近い様子だった。
 店の人に「あと一刻ほどだけど、いいのかい」と聞かれてしまったけれど、つまりこの街の人たちは一時間以上かけて風呂を楽しむのかもしれない。

 俺が拠点にしているバージスの街にはそもそもこんな「湯に入る」形の大衆浴場自体がなく、あるのはサウナか、一日の汗を流すために湯を浴びる程度。日本のような風呂を楽しむのは、寒い地方ならではということなんだろうか。

「えへへ、ご主人さまとおふろ、おふろ……わっふう!」

 俺の世話をする大義名分これにあり、とばかりに、胸を張って従属者セルブの首輪を誇示するシェリィ。形のいい張りのある胸が、つんとタオルを上向き加減に押し上げている。おまけにうれしそうにしっぽをぶんぶん振っているものだから、布で隠しているはずのおしりも丸見えなんだ。頼むから、俺の精神の安定のためにだな……!

「あ、ご主人さまのお顔、赤くなってるー」

 誰のせいだよっ!



 俺の体の洗い方で一悶着あったりもしたけれど、まずは無事に体を洗って湯船に浸かる。まったく、「ご主人さまのおせわ、ボクのおしごとだもん!」じゃないよ。まして、「ご主人さま、おっきくなった!」なんて言われて、どれだけ恥ずかしかったか……!
 いや、もういい、何も言うまい。これで「どこをどうすればいいか」が分かってくれただろうから次からは……。

「あー……いい湯だな……」
「はふぅ……ご主人さま……あったかーい」

 二人で湯に浸かっていると、今日一日の間にあった嫌だったことも、一緒に溶けて流れていきそうな気分だ。

「シェリィ、熱ければ言ってくれよ? 無理に入っている必要はないからさ」
「だいじょうぶだもん。ボク、ご主人さまといっしょ」

 そう言って、体を左隣にぴったりと寄せて、肩に頭を預けるようにしてくる。

「でも、昨日はのぼせちゃって大変だっただろ? お互いのためだ、遠慮はしなくていいんだ」
「だいじょうぶだもん」

 シェリィはほっぺたを膨らませる。これは、こっちがちゃんと気を配ってあげないといけないかもしれない──そう思って苦笑した。



 シェリィの湯上り肌が、青白い月の光の中でも分かるほど、薄紅色に染まっている。

「えへへぇ……ご主人さまぁ、気持ちよかったねぇ……」

 やっぱり入りすぎてしまったと思う。本人はすごく幸せそうだけど、ずっとふわふわした感じだ。受付のお婆さんが、「お連れさん、だいじょうぶかい?」なんて声をかけてくれた程度には。

「なあ、シェリィ」
「んう? なぁに?」

 足取りもどこかふわふわしている。可愛いけれど、ちょっと危なっかしい。

「……今日は、ありがとうな」
「えへへぇ、ご主人さまに、お礼、いわれちゃったぁ……」

 そう言って、とろんと目を細めて俺を見上げた彼女は、俺の腕を胸の谷間に挟んでようにして腕にしがみついてくる。

 ……なんか、本当に、変だ。
 地に足がついていない様子に、こんなところを酔っぱらいとか暴漢とかに目をつけられたらたまったもんじゃないと考えて、帰り道を急ぐ。

 相変わらず古めかしい(お世辞)宿に帰ってくると、宿主のお婆さんが俺たちを見るなり、「あらあら、なにかあったのかい?」と微笑みながら聞いてきた。

「いえ、お風呂に入ってきただけなんですけど」
「この子もかい?」

 うなずくと、お婆さんは少し首をかしげつつも「毛布、干しておいたから、あったかくして寝るんだよ」と教えてくれた。「ありがとうございます」と返事をすると、自分の部屋に向かう。

 狭い部屋の狭いベッドに二人で寝転がると、シェリィは「わふう……ふわふわ」と毛布に顔をうずめ、そしておもむろに、服を脱ぎだす。

「お、おい……!」

 慌てて止めようとしたけれど、もう遅かった。その時には彼女の体は青い光に包まれ始めて、そして、あのもふもふの犬のような姿に戻ってしまった。

「えへへ、ご主人さまぁ! ボク、ケモノのほうが、あったかいんでしょ? ご主人さま、あっためてあげる!」
「そ、それはたしかに、そう、なんだけれど……って、下までぬぐなっ!」
「だって、きついもん。それに、ご主人さまにだきつくなら、服、ないほうがボク、すき」

 とろんとした目で俺の言うことを全く聞かず、彼女は結局、下着もすべて脱いでしまった。

「わふ……ご主人さま……。えへへ、やっぱり服、ないほうが楽……」
「……シェリィ、お前、ひょっとして酔っぱらってるか何かしてる?」

 口には出してみるが、夕食でもシェリィはお酒の類なんて一切口にしてないし、お風呂から上がったあとに一緒に飲んだ果汁入りのミルクだって、もちろんお酒なんて入ってなかった。

「ん~……? よくわかんない。……わふ、ご主人さま、はやくきて……」

 苦笑いしながらベッドに入ると、予想通り全身を絡めるようにしがみついてくる。たしかにもふもふで、手触りもよくて、すごく温かい。

「ご主人さま……ご主人さまぁ……」

 ふんふんと、耳の後ろあたりに鼻をこすりつけるようににおいをかいでくる。

「ご主人さまのにおい……んー、いいにおい……」
「……くすぐったいから、ほどほどにしてくれよ」

 そう言ったけれど、彼女がうっとりと目を細め、幸せそうにしているのを見ると、強く言うこともできなかった。結局、彼女が可愛らしい寝息を立て始めるまで、俺はくすぐったくって眠るどころの話じゃなかった。



「……ごめんなさい」

 起きたばかりの彼女は、ひどく恥ずかしそうにしていた。耳も伏せてしっぽも力がない。

「謝ることないって。可愛かったし」
「だ、だって、ご主人さまに、あんな……あんな……」

 昨日の湯上り肌とはまた違った具合に、首筋まで顔を真っ赤に染めている。

 今朝起きたとき、シェリィはやっぱり俺のことを抱き枕にでもするようにだきついていた。そっと声をかけたけれど、「んみゅう……」とだけ声を上げた彼女は甘えるように、腰を擦りつけるようにしてさらに絡みつくように抱きついてきた。つまり、なかなか起きようとしない。温かいのはよかったんだけれど。

 彼女を起こすのではなく自分が起きようとして毛布を持ち上げると、ひやりとした冷気が入り込んできて、だから彼女の体の温かさが余計に身に染みる。ところがそれで目を覚ましたシェリィが、最初はよくわかっていない様子で身を起こそうとし、そして俺に絡みつくようにしていたことに気づき……。
 で、今に至る。

「でも、昨夜は別に酒に酔っていたとかじゃないんだろ?」
「ち、違うもん……。わかんない、なんであんな、ボク、ご主人さまに……」
「嫌だったのか?」
「ち、ちがうの! いやなんてそんなの、あるわけないの! だって……!」
「だって……?」

 で、シェリィがハッとしたような顔をする。

「だって、なんだ?」
「う、うう〰︎〰︎……。言わなきゃ、だめ?」

 恥ずかしそうにもじもじしているシェリィに、教えてほしいと言うと、さらに顔を赤く染めて、か細い声で、答えてくれた。

「ぼ、ボク、いつも、ほんとは、ああしたくて……。でも、ご主人さま、寝るとき、ぎゅってしてくれないから……だから、がまん、してて……」

 ……毎晩、俺の懐に潜り込むようにして丸くなってたのは、本当は昨日みたいな寝方を我慢していた結果だったってことか?

「……シェリィのための抱き枕、買おうか?」
「そうじゃないのっ!」

 シェリィに枕を叩きつけられた俺はそのままベッドから落っこちて、で、俺を叩き落した張本人が驚いて泣きながら飛びついてきて、しばらくもみくちゃにされた。

 結局、どうして昨夜のシェリィがああも「ほにゃほにゃ」だったのか、分からずじまいだった。
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