ムラタのむねあげっ!~君の居場所は俺が作る!異世界建築士の奮闘録~

狐月 耀藍

文字の大きさ
49 / 785
第一部 異世界建築士と獣人の少女

第48話:くさび(7/7)

しおりを挟む
 そろそろリトリィを呼んで一緒に食事をと、タイミングを計りながら横目で見ていると、アイネが顔を寄せてきた。
 傷だらけの顔面が近寄ってくる。こわい。

「おい、ムラタ。……その、なんだ。リトリィに、オレの分もつけてやれって、言ってくれ」

 いかつい体格に似合わず、背中を丸めて小声で要求してくる姿が、なんだか笑える。顔は怖いが。

「本人に直接言えばいいだろ」

 俺も小声で返すと、アイネの顔が歪んだ。怒り――ではない。強いて言うなら、おそれ、だろうか。

「おめぇ、さっきのやり取り見ててそれを言うかよ?」
「……なんで俺なんだ?」
「馬鹿野郎、今のリトリィが言うこと聞くの、お前以外に誰がいる」

 なぜか落ち着きなくきょろきょろと目を泳がせながら、アイネが苛立たしげに言う。

「俺の言うことも聞かないかもよ? お前、昨日あれだけ嫌われてたしな」
「おめぇ絞め殺――なんでもない。とにかく、アイツはおめぇの言うことだけは絶対に聞くはずだ、それだけは間違いない。だから頼む」

 さらに顔を寄せてくる。もう、目の焦点が合わない。なんでこんな怖い顔の男に顔を寄せられていなければならないのだろう。

「なんでそんなことが言えるんだ? お前は家族、俺は他人だぞ」
「おめぇ……分かってて言ってんだろ、ぶち殺すぞ?」

 ぶち殺す、などと物騒なことを言っているわりに、手も伸びない。面白い奴だ。

「とにかくだ。食わなきゃ仕事にならねぇんだよ……昨日のことは見逃せ、オレもちったぁ、おめぇらのことは見逃してやるから」
「あら、アイネ兄さま。何をお見逃しになられるんですか?」
「ヒッ――!?」

 背中から降ってきた声に、アイネが弾かれたように姿勢を正す。

「い、いやリトリィ、オレもだな、ちったぁおめぇらの仲をだな、その、見守ってやるというか……」
「アイネ兄さまのがいただけるんですか?」

 リトリィは、微笑みを浮かべたまま、小鳥のように、小首をかしげるようなしぐさをして見せた。

「あ……あ、ああ、まあ、その……だ」
「ありがとうございます。でもご心配なく。わたし、たとえアイネ兄さまのお許しがなくても、もう心に決めましたから」

 微笑みながら、だがつんとしてリトリィは胸を張る。

「……あ?」
「では、今日のおしごとがんばってくださいな」
 そう言って、カップに入れたスープを、アイネの前に置く。

「……これは?」
「食後のお茶も兼ねさせていただきました。お時間もございません。どうぞ召し上がれ」



 結局、俺がアイネにも飯を、と声をかけるまで、彼女はアイネに対して、カップ一杯分以外の給仕を一切しなかった。奴の言った通りだった。
 でも、ちゃんとアイネの分が、お代わり分も含めてすぐに用意されたところを見ると、彼女に必要だったのは、給仕をする大義名分だけだったのだろう。

『おめぇの言うことだけは絶対に聞くはずだ』

 なぜアイネに断言できたのかは分からない。だが、まあ、家族というのは付き合いも長いぶん、振り上げた意地の拳をなかなか下ろしにくいのかもしれない。
 そういえば中学生ごろの俺も、そういう時期があった気がする。そういう意味で、部外者の俺になら、言われた方も従いやすいということなのだろうか。

 そう思って聞いてみると、アイネはぐったりと疲れたような顔で言い放った。

「……おめぇ、オレなんかよりずっと頭いいと思ってたけどよ、実は馬鹿だろ?」
「馬鹿とはなんだ、一応リトリィに飯を出すように言ってやっただろ」

 俺の言葉に、アイネは大げさにため息をついてみせた。リトリィの方に目を向けながら、長々と息を吐き続ける。

「……リトリィがおめぇの言うこと聞く理由なんて、一つしかねぇだろうが。なんでアイツはこんな、うすらトンカチなんか選びやがっ――」
「リトリィ、アイネがもう、お腹いっぱいだってさ」
「わかりました。アイネ兄さま、すぐお下げしますね」
「おい! まだ食い始めたばっかだって! あ、まだそれ一口も……! わーったわーった! すまん! 謝る!!」

 皆が食堂から出て行き、あとは俺とリトリィだけが残った食堂。
 食後の茶を飲んでいると、リトリィがビスケットを出してくれた。
 あの、ジャムをたっぷり練り込んだ、特製品。
 これのプレーンタイプを、ジャムもつけずにもそもそと食っていた姿から、リトリィが、俺のためにわざわざ工夫した逸品。

 ジャムが練り込まれている以外は、「素朴」その一言に尽きるビスケットだ。
 だがこれは、俺が拗ねてリトリィとの関わりを避けていたとき、そんな俺のために考えてくれた品。
 そう、世界広しといえど、ただ俺だけのために作られたもの。

「ありがとう」

 右手を上げると、彼女は左手を上げ、重ねてくる。

「――どういたしまして」

 ふふ、と微笑む彼女が、どこまでも愛おしい。

 だからこそ、俺はやらなければならない。
 差し込む朝日の中で微笑みを浮かべる、金色に輝く彼女のために。
 リトリィの暮らしを、少しでも、楽にできるように。
 俺が、いずれ日本に帰るときがきて、この家を去ったあとも。



 ――俺は、リトリィを置いて、この家を去れるのだろうか?
 彼女は、俺と日本との間に深々と刺さり、そして割り裂く、くさびになってやしないだろうか。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

処理中です...