ムラタのむねあげっ!~君の居場所は俺が作る!異世界建築士の奮闘録~

狐月 耀藍

文字の大きさ
125 / 785
第二部 異世界建築士と大工の娘

第115話:子犬のような

しおりを挟む
「ムラタさん、ほんとにその、……すごいって、思ってくれるんですか?」

 ……さっきのような、真剣な目だ。
 なにか、俺、気に障るようなことを言ったのだろうか?

「もちろんだよ。あれだけ街の歴史や建築について知識を持っていて、ちゃんと自分の考えをもっている。すごいじゃないか」
「……女の子が、大工さんのような話をしているのに?」

 マイセルは、上目遣いのまま、不思議なことを聞く。
 まるで、女性が建築の話をするのはおかしいのではないか、と問うように。

「それがどうしたんだ? 女の子だって職人になりたければなるだろうし、好きなものは好きだと言えばいいだろう?」

 なにせ、リトリィが鍛冶師――職人なのだ。大工の娘が大工を志す、そこには何も問題などないだろうに。

 俺が首をかしげると、マイセルはすこしうつむいて、そして、やや駆け足にこちらにやってくると、また隣に並んだ。

「……ムラタさんって、変わっていますね?」
「……自覚は無いけど、マイセルから見ると、変わってるのか?」

 少し傷ついた俺の言葉に、マイセルは、はにかみながら、しかし少し、嬉しそうな声で答えた。

「はい。――とっても」

 なんだかすこし、嬉しそうな声で俺の言葉を肯定してみせたマイセル。……人を変人扱いしてくれるなよ。
 俺の周りをちょこちょこと小さく飛び跳ねるように歩く。何かの小動物がじゃれるように。
 ……正直、歩きづらい。

 こうしてぴょこぴょこと元気な様子を見せる彼女は、一見、ただの可愛らしい女の子に見える。
 だが、兄貴の方はなんだか妙に突っかかるやつだったし、マイセルも、おとなしく見えるだけで、本当は結構、大人を挑発するタイプだったりするのだろうか。



「どうだい、キレイなもんだろ」

 案内してくれた少年は、切りそろえられた材木を前に胸を張る。
 話によると、この材木、少年も一部製材に関わっているらしい。実に誇らしげだ。

「家のどこに使うのか知らないけど、注文通り、ちゃんと厚み一寸いっすん三寸さんずんのものと、厚み一寸幅五寸ごすんのもの、そろえといたぜ!」

 何に使うか――それぞれ壁の柱と床を支える材なんだが、ただ、ここに来るまでに見た木骨造建築の家に使うような太さではないから、柱という発想は浮かばないのかもしれない。ただ、実は今困っているのが、壁材なのだ。

「ところで聞きたいんだが、合板ごうはん、とか、集成材しゅうせいざい、とかいうのは、この製材屋では作れるのか?」
「合板? もちろん作ってるぜ?」

 …………!?

 こともなげに言い放つ少年に、驚きのあまり息が詰まる。

「ええと、……見せてもらえるか?」
「いいぜ、こっちに来なよ」

 おもわず隣のマイセルの手を取り、「これで心配がなくなった!」と小躍りしてしまい、顔を真っ赤にしたマイセルに「い、いたいです」と言われて慌てて手を離す。
 しかし、合板の技術がちゃんと存在していたとは!



 ――小屋の心配がなくなった、そう小躍りした自分を殴り倒してやりたい。
 そりゃそうだ、合板の技術だけなら、元の世界にだってずいぶん昔からあったんだ。なにせ古代エジプト人だって合板を作ってたんだから。

「これが、ウチが誇る合板さ。家具でも楽器でも、どっちでも使える。こいつは、家具の表面に張り付ける突板つきいただ。どう、この薄さ! ウチだからできるんだぜ!」

 実に得意げに、合板の山を見せる。

「……ええと、水濡れに関しては――」
「なに言ってんだおっさん! 家具も楽器も、濡らすなんてとんでもないに決まってんだろ! 台無しになっちまうじゃないか」

 ――だよなあ。

 案内され、見せられた合板は、で薄い板を貼り合わせたものだった。
 機械の方も、水車の回転力を活かした、大規模な木のかつらむき機ロータリーレースがあるのかと思ってワクワクしていたら、それはそれは小さなもので、幅二尺――およそ六十センチメートルほどのものだった。

 ……うん、まあ、たしかに家具や楽器を作るなら、この程度でいいのかもしれない。

「ムラタさん、ムラタさん! ほら見てください、すごいです! まるで大根をめくるみたいにくるくるって! 木がこんな風にめくれるなんて!!」

 ロータリーレースで木をかつらむきにする実演を見せられて、マイセルがぴょんこぴょんこ跳ねながら、すごい勢いではしゃいでいる。ああ、服の裾に木の削りカスが……。家に帰ったら叱られるぞ。さすが大工の娘、喜ぶポイントが普通の女の子とちょっと違う気がする。

 だが俺は、我ながらひきつりそうになる笑顔で、加工の過程を見せてくれた礼を言うしかなかった。



「あの……大丈夫ですか? なんだかとても、残念そうなお顔に見えます」

 製材屋から出てきたあと、マイセルが俺の顔を覗き込むようにしてきた。
 不意打ちだったからおもわず変な声が出てしまったが、そんなに顔に出ていたのだろうか。

「い、いや。思っていたものと違うものだったから……」
「思っていたもの、ですか?」

 思っていたもの――そう、合板だ。
 合板は、かつらむきにした薄い板に接着剤を塗り、木目が直角に交わるように貼り合わせ、それをプレス機で圧着あっちゃくさせて作る。こうすることで丈夫で割れにくく、しかも大きな板を、狂いなく作れるのだ。

「――だから、家具なんかを作るには最適なんだ」

 それから、木をかつらむきにするこの製法は、突板つきいた――いわゆる「ベニヤ」と呼ばれる利用の仕方もある。

 世の中には、希少ゆえに価値の高い木、というのがある。有名どころは、ウォールナット、チーク、マホガニーだろうか。黒檀こくたんなども高級木材として有名だが、これらの木は貴重だ。では、どうすればたくさんの人に売ることができるのか。

「……ええと、がんばって……木を育てるとか?」
「はは、それじゃあ欲しい家具が手に入るまでに何十年とかかってしまうよ」
「でも、珍しい材料ですから、簡単には買えないんでしょう?」
「そこで、突板つきいたの出番だ」

 合板にもう一枚、高級木材を無駄なくかつらむきにした突板を貼りつけることで、見た目を高級木材風にすることができ、しかも製品を量産できるのだ。
 この、装飾のために張り付ける薄い板のことを、突板ベニヤと呼ぶ。だから装飾目的で突板を張り付けた板――特に合板――のことを、俗に「ベニヤ板」と呼ぶ。

 もっとも、最近の日本は、プリント合板と言って、紙やプラスチックに印刷した木目を貼り付けることがほとんどだが。

「え? 家にも黒檀の食器棚がありますけど、そうやってできてるんですか?」
「分からない。無垢むく――つまり、黒檀そのものの板を使っているのなら、かなりの高級品だろうね。黒檀の突板仕上げなら、それほどでもないかもしれない」

 マイセルの目が、ちょっと険しくなる。

「……もし、うちの食器棚が突板仕上げだったとしたら、私たち、だまされてるってことですか?」
「おいおい、大工の娘がそんなこと言っちゃいけないよ? これは、合理的な『技術』なんだ」

 実際のところ、「無垢材」の家具と「合板+突板」の家具のどちらがいいかと問われたら、そりゃあ無垢材の方がいいに決まっている。長持ちするのも無垢材だし、選べるなら無垢材を選びたい。
 だが、希少な木材をより多くの人が利用できるようにする「突板」という方法は、優れた「技術」なのだ。

「うー……なんだか、納得がいきません。だって、その木の皮の下は、別の木なんでしょう?」
「女の子も、化粧くらいはするだろう? それと同じだと思えばいい。それに、手に入りにくい木材を、みんなで分け合える素晴らしい技術だ。よりたくさんの人にとって、役に立つんだぞ」
 
 俺の言葉に、マイセルは目を丸くした。
「それじゃ、まるで女の子がお化粧で人をだますみたいに聞こえます!」

 口をとがらせる様子が可愛らしい。ますます記憶にある姪っ子そっくりだ。

「そうか? 化粧前と後じゃ、びっくりするほど別人になるっていうのを、俺はよく見たことがあるんだけど」
「わ、私、そこまでお化粧、上手じゃないですから!」

 背伸びをするように顔を突き出してくる。
 いや、化粧の技術が低いことをそんなアピールされても。そういう一つ一つの仕草から、どこか小動物っぽさが感じられる。例えるなら、そう……子犬のような印象だ、落ち着いたリトリィとは違って。

 俺は苦笑しながら立ち止まると、両手を挙げて降参のポーズをとり、謝ってみせた。

「分かったよ、ごめん。化粧に例えたのは悪かった。謝る。でも、たくさんの人が憧れの木材を楽しむ、いい方法なんだ。それは分かってくれると嬉しいな」

 これで収まってくれるとありがたいが、と思ったら、マイセルは急にうろたえ始めた。スカートの裾をつまんで腰を落とし、なにかおびえたように謝罪の言葉を述べる。

「あ……。ご、ごめんなさい……! えっと、その……そんなつもりじゃなくて……!」

 どうも、俺を――男性を、ようなつもりまではなかったらしい。こんなに簡単に謝罪するとは思っていなかったようだ。

 そういえば先日、リトリィに責められた時も、彼女の方から責め立ててきたのに、彼女自身がひどく取り乱していたっけ。相手のメンツを潰すことは、どうも、俺の想像以上に問題ある行動と受け止められるようだ。

 街で生きるっていうのは、なかなか大変らしい。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...