ムラタのむねあげっ!~君の居場所は俺が作る!異世界建築士の奮闘録~

狐月 耀藍

文字の大きさ
153 / 785
第二部 異世界建築士と大工の娘

第141話:外壁

しおりを挟む
 ――というわけで、貴重な犠牲いけにえを出したおかげか、誰かをわらったり責めたりすれば、即わが身に跳ね返ってくることが骨身に沁みた見習いどもは、だから一人一人が必死だった。

 ミスが、もたつきがない見習いなどいない。誰かを嗤ったり責めたりするようなヒヨッコには、熟練のかばね持ち大工がに制裁を加えるのだ。

 それに、厳しいことは厳しいし、怒声も怖いのだが、決して罵声ではないし、手も上げないことを、見習いたちはすぐに理解したのだろう。互いに不十分さを助言し合いながら、材を並べ、釘を打ってゆく。そうすると、この棟梁は、静かに指示を出すだけで、あとは腕を組んでじっと見つめているだけなのだ。

「……おい、そこ。マイセル、よく見ろ。そこは窓だ。用の、短い材があっただろう。用の一寸×五寸イチゴ材と、窓台用の一寸×三寸イチサン材と合わせて、一緒に持ってこい」

 繰り返しではないミスならば、こんな程度で、声を荒げたりしないのだ。

「……あの、って――なんですか?」
「そんなことも分からず大工をやろうってのか!」

 ……さすがに、大工として必須の知識がないと怒られる。
 だが。

「まぐさは、窓をはめ込むための、上の枠に使う横板だ! 今回の工法ではいつもと違って、一寸×五寸の板を二枚、重ねて使うから二枚持ってこい! あと、まぐさを両端で支えるための材をまぐさ受けというんだ、ちゃんと最初にムラタさんが、いつもと違う点として説明していたぞ!
 よりにもよってお前、ムラタさんの話を聞いていなかったのか!」

 ……ああ、これは、マイセルには刺さりそうな言葉だ。

「ついでに、窓台ってのは、下の枠に使う横板だ! 今言った材は、もう長さを合わせて切ってある! そこにそれぞれまとめて積んであるからさっさと取ってこい!」

 叱ることは叱るけれど、ちゃんと教えてくれるし、やはり罵声は飛ばない。マレットさん、ひょっとして学校の先生にでもなったらいいんじゃないだろうか。

 こうして、壁の元となる骨組みが出来上がる。半間はんげん(四五・五センチメートル)ずつ並んだ間柱が美しい。
 この上に、この前製材屋に急遽頼んだ一寸×六寸イチロク材を、横向きに、下から順に釘で打ち付けてゆくのだ。

 本当は壁一枚分の長さの材が欲しかったのだが、元となる木材の長さの関係で、短い材と長い材を組み合わせて外壁を作っていくことになる。そこはまあ、仕方がない。長い材と短い材を、互い違いになるように下から順に打ち付けていく。

 昨日の釘打ちはトットッ……カンカンカンの五回ほどで、誰もが釘を打ち込んでいた。一本の釘に対して十回以上殴りつけていたのは、俺くらいのものだった。

 ところがこいつら、一本の釘を十回くらい打っている。俺と大して変わらない。やはり釘を打つだけでも、熟練かそうでないかの違いというのは出るものらしい。

 意外にマイセルが上手い。ハマーのほうが現場経験が長いはずなのに、ハマーと同じか、それより少ない回数で打ち込んでしまう。
 力があるというより、「てこの原理」を感覚として掴んでいるようだ。やっぱりマレットさんの娘だ、才能はあるらしい。

 一番へたくそなのはエイホル、まだこの業界に入って半年という、十二歳の少年だ。ツェーダじいさんたちのところで働いているそうだが、まだ下働きで、まともに釘を打たせてもらったこともないらしい。

 ……そんな、見習い以前のヤツを組み込むなよ、とも思ってしまうが、それを言うなら、昨日数十本の釘をへしゃげさせた俺は何なんだ、ということになってしまう。
 だめだ、ツッコみたいがツッコんだらブーメランとなって帰ってくるのは間違いない。

 だれでも駆け出しの時代はある。いずれ「初めての現場は、尊敬するムラタさんが初めて建てた小屋です!」なんて喧伝してくれたら、広告費が浮くというものだ。
 ああ、広告費。未来への投資。コイツが、釘のすぐ隣に丸いへこみをいくつ開けようとも……

「ムラタさん、釘がなくなりました。どこにありますか?」

 ――エイホルお前! いくら未来への投資っつったって、程度ってものがあるんだぞ! 他の奴らの倍、釘を消費して、できた仕事が半分以下って、失敗しすぎだ!!



 外壁を作っていくうちにぶち当たる問題なのが、窓に当たる開口部分だ。
 構造用合板こうぞうようごうはんを使う場合はくりぬかねばならないが、今回の場合は一寸×六寸イチロク材を切断するだけで済む。日本と違って規格化がされていない分、手元にある材に合わせてフレキシブルにできるのがいい。そんなわけで俺は、必要に応じて木材をのこぎりで切っているのだが……

 この押しノコギリというのが、どうも性分に合わない。

 やはりノコギリは引いて使うのがいい。どうしても押して使うノコギリは、力がいる。引きノコギリは、それほど力を入れなくても綺麗に切れるのがいいのだ。
 アメリカンな大雑把人間にはいいかもしれないが、日本人的きっちり気質かたぎには、引きノコギリがいい。ああリトリィ、早く逢いたい。

「……なに、手をにぎにぎしてボーっとしてんですか。さっさと作業、続けてくださいよ」

 ハマーの冷ややかな声にハッとなる。やばいやばい、リトリィを思い浮かべてエア揉みやってる場合じゃない。



 こうして、多少の計算違いはあったが、無事、一枚目の壁が出来上がった。床に広がるこの一枚を、皆で協力して、ゆっくりと起こす。
 それまで床にへばりつくようにして釘を打っていたのが、一気に壁として立ち上がるのだ。

 これぞこの工法の面白み。ああ、この感触! 立ち上がらせた壁の出来栄えに、見習いたちも歓声を上げる。
 マレットさんも、そのあたりの感慨は分かるらしく、しばらくの間、ワイワイと騒ぐ見習いたちの様子を見守っていた。自分たちが作ったものが、こうして形となって表れる喜びは、マレットさん自身もよく分かるからだろう。

 しかし、それでは作業が進まない。パンパンと手を叩きながら、マレットさんが次の指示を飛ばす。

「いつまでも騒いでいるんじゃない、とっとと固定させるぞ」

 マレットさんの言葉に、見習いたちは一様に背筋を伸ばしたあと、それぞれの持ち場につく。

 本来なら、土台の木と壁はボルトで接合するのだが、こればっかりは無いものだから仕方がない。
 では、どうするか。

「よーし、ゆっくり振り下ろせ! ――おい、気をつけろ! 木槌を壁にぶつけるな! せっかく作った外壁の板が緩むだろう!」
 マレットさんが土台と下枠の材に開けた「ほぞ穴」に、一寸×三寸イチサン材を差し込む。その材を木槌で叩き込み、貫通させることで、ボルトの代わりとした。

 こういうとき、熟練の大工さんのもつ技術の凄みを感じる。土台と下枠、それぞれに開けた穴は寸毫すんごうの狂いもなく一寸×三寸材を貫通させ、しかし、気持ち狭めに作られたほぞ穴は、見事がっちりと一寸×三寸材に食い込んだ。素晴らしい!
 マイセルも、そしてハマーも、父親の仕事が実に誇らしいようだ。二人で抱き合って喜んでいる。

「よーし、次だ! 次の壁を作るぞ!」

 マレットさんの言葉に、見習いたちは生き生きとして散る。もはや、彼らにもやるべきことは理解できた。あとは、先の作業を繰り返していくだけだ。



「ムラタさん!」

 マイセルが、水筒を差し出してくる。

「壁が一度に出来上がるなんて――こんな建て方、初めて見ました! どうやって思いついたんですか?」

 俺が思いついたわけじゃない。あくまでも先人が積み重ね、研究してきた方法を、俺が実践しているだけである。
 そう言うと、マイセルは目を丸くし、しかし、微笑んだ。

「俺が考えた――って、言わないんですね」

 当たり前だ、俺の功績じゃない。

「でも、誰も知らない建て方ですよ? ムラタさんが自分で考えたって言っても、だれも気付かないですよ?」

 マイセルはそう言って、隣に座って笑った。そんなことで偉そうにするつもりはない。俺はアメリカ発、日本アレンジの技術を、劣化させて伝えているだけに過ぎないのだから。

「――でも、そうやって自分の手柄にしないところが、すごいなあって思います」
「別に俺がすごいわけじゃない、先人がすごいんだからな。当たり前だろう?」
「だからすごいんですよ?」

 マイセルが、嬉しそうに俺を見て笑う。

「ほら、男の人って、俺が俺が、っていうでしょ? ムラタさんは、違うんだなあって」

 ……つまり、自信のないヘタレだということだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...