ムラタのむねあげっ!~君の居場所は俺が作る!異世界建築士の奮闘録~

狐月 耀藍

文字の大きさ
222 / 785
第三部 異世界建築士と思い出の家

第203話:マイセルの特別な日(4/5)

しおりを挟む
 なんだかものすごい目で見つめられている。
 そう、俺の皿を。

 なぜか、俺の皿に山のように盛られたもの。
 リトリィとマイセルの皿には、半分に切られたそれが一つずつ盛られている。
 俺の皿には、半分に切られたものが二つ、さらにその下に、切られる前のそのままの形――チューリップの球根のようなものが、まるごと、いくつか。

 これは、リトリィと二人暮らしを始めてから、彼女が必ず夕食に付けるようになったおかずだ。ちょっと刺激のある辛みの強い野菜で、なにかの球根のようだ。二人暮らしを始めたその日の市場で、「とってもお安かったので!」と、鼻息荒く大量に購入してきたものである。

「日持ちもしますし、栄養がいっぱいなので!」

 盛んに耳をぱたぱたさせ、めずらしく俺の目を見ないで言っていた。ただ、いつ食品庫パントリーを見ても、減っている気がしない。というか、増えている気すらする。きっと、いつのまにか買い足しているんだろう。

 栄養価が高いというのは本当のようで、寝床に入る頃になると体がぽかぽかしてくる。朝の寝覚めもすこぶる快調だ。元気になりすぎているくらいだ、その、イロイロと。

 とにかくその日の夕食以来、かならず食べている。個体差はあるが丸ごと一個がピンポン玉よりやや大きいくらいだ。それを、かならず丸ごと一個、食卓にならべ、それをリトリィが切って、二つに分けるのだ。

 最初から切って調理すれば火の通りも早いだろうに、リトリィは頑なに丸ごと調理して、そのうえでテーブルで切って渡してくる。
 飽きもせず毎日やっているのだから、夫婦円満かなにかに関わる儀式みたいなものなのだろうと思って聞いてみたら、「そ、そんなようなものです!」と、これまた耳を忙しくぱたぱたさせて答えた。

 リトリィが耳をせわしなく動かすときは、警戒しているか、恥じらっているか、それとも嘘をついているかだ。まあ、彼女が俺に嘘をつくとは考えにくいから、恥じらっているんだろう。可愛い。

 ……で、それを、なぜか、リトリィとで半分こ。さらにマイセルとも半分こ。
 でもって、さらにもともと俺の皿に盛られていた、三つ分。

 俺だけ、なぜか、四つ分食べることになっている。
 なぜだろう?

「え、ええと……いただきます」

 食い入るように皿を見つめられ、とりあえず、半欠けの一つに楊枝を刺す。
 リトリィの顔が、あからさまに輝くのが分かる。マイセルはマイセルで、リトリィのほうを嬉しそうに見ているのだが、まて、なんだその反応。

 なんともやりにくい思いをしながら、口に運ぶ。
 ――うん、いつも通りの味だ。ピリピリとした刺激ある、塩味とも唐辛子とも胡椒違う、不思議な辛み。ご飯があればいいのに。

 もぐもぐやると、リトリィがマイセルと抱き合って喜ぶ。

「お姉さまの方から食べました! やっぱりムラタさんはお姉さまを愛してるんですね!」

 ――どういう意味だ。まさか、リトリィと半分こしたほうとマイセルと半分こしたほう、そのどちらを先に食べるかを確かめようとしていたっていうのか。

「はい! ムラタさんが、ちゃんとお姉さまを一番に愛してるか、それでわかりますから!」

 ――あぶねぇぇっ!! そんなつもり、全くなかったぞ! リトリィなんか感極まってか、泣き出しちゃってるよ!!
 そうか、夫婦円満の儀式っていうのは、あながち間違いじゃなかったんだな。もっと別のことを想像していた自分を恥じる。

 リトリィがすんすんと鼻を鳴らしながら、それでもパンを取り分け、そして、マイセルが持ってきてくれたケーキも切り分ける。
 もともとはマイセルが、彼女の家族とともに食べることを想定した大きさだったから、俺たち三人で食べきるには、やや大きい。昼前のお茶で少し頂いておいて、ちょうどいいくらいだった。

「マイセルちゃんは、家で食事の準備を手伝ってるんだよな?」
「はい! 普段はネイお母さんと二人で作ってます」

 元気に返事をする。ただし、口の中いっぱいに詰めて。
 翻訳首輪のおかげで、言葉の意味はクリアに伝わってくるけど、実際の発音はかなりモゴモゴしているのがおかしい。

「んぐ……えっと! 基本はネイお母さんが献立を決めて、それを一緒に作る感じです」
「じゃあ、今日みたいに、一品お任せ、ということもあるんですか?」
「はいお姉さま! うちで食べるものは、たいてい作れますから。ネイお母さんと二人で、手分けして作る感じです」

 なるほど。手伝いという言い方は失礼だった。
 その気になれば、彼女は家の食事のほとんどをまかなう腕は持っているわけだ。
 ただ、母親と手分けして効率よく作業している、というだけなのだろう。

「ウチとそっちで、調理器具が足りないとか、味付けとか調理方法とか、なにか違いがあって困ったとかいうのは無かったか?」

 いずれ俺の元に来るというマイセルだ。おそらく、今日の食事作りは、そのすり合わせのいい機会になっただろう。ウチはこれからいろいろ調理器具などをそろえていく段階だ。マイセルが普段使っているもので、こちらに足りないものがあれば、買い足しておくのも悪くない。
 ……そう、思ったのだが。

「いいえ。器具は最低限、揃っていますし。味付けも、お姉さまが教えてくれましたし。これからもお姉さまに教えてもらって、お姉さまのお味を覚えます!」

 なんでそんなにリトリィに心酔してるの君は。

「……そうか。まあ、こういうのは文化交流っていうか、それぞれの家の良さを生かして、新しいものになっていけばいいと思っているから。
 リトリィのやり方で、驚いたこととか、意外に思ったこととかはないか? それとマイセルのやり方を組み合わせていけば、新しい味を生むかもしれないし」
「驚いたこと、ですか?」

 マイセルがきょとんとする。
 午前中、リトリィのことを憧れで目標と言っていたマイセルだ、リトリィのことは何でも真似して取り入れたいと思っているのだろう。だが、それではマイセルの良さを失わせてしまうことにもなる。

「ああ。リトリィのやり方で、自分の家と違う、と思ったことはないか? それをすり合わせて、リトリィと相談して、それで、よりいい方法を二人で考えたらいい」

 マイセルは俺の言葉を聞いて、じっと、俺の方を見つめた。
 俺の方、というか、俺の――前に置いてある、皿を。

 そして、なぜかリトリィの顔を見る。
 次いで、俺を見る。

 徐々に、顔が赤くなってくる。
 ……なぜ?

「えっと……ムラタさんがクノーブをいっぱい食べるのは、びっくりでした!」
「クノーブ?」

 俺の、目の前の皿に盛りつけられた、アレのことだろうか。もう、残りは丸ごとのものが二つになっている。
 そう言えば、今までアレのことは「球根」としか認識してこなかった。当たり前だけれど、アレにもちゃんと名前があったんだな。クノーブ、覚えておこう。

「はい! 二人で分けるだけじゃなくて、その……そんなにいっぱい食べるなんて、って思って」

 マイセルが、頬を染めたまま、うつむき加減に続ける。

「その……お姉さま、そんなにも、ムラタさんと、その……こづ――」

 その瞬間、それまで静かに笑みをたたえてマイセルを見守っていたリトリィが、雷光の如くマイセルをさらい、キッチンのほうに引きずっていった。
 人間が横になびくように、足を地面につけずに引きずられてゆくというありさまを、俺は生まれて初めて見たのだと思う。

 ……リトリィすげえ。
 というか、逆らっちゃいけない相手だって、本当によく分かった気がする。
 結局、そのあと戻って来たマイセルは不自然にクノーブの話題を避けるようになったし、ずばり質問しても必死に話をそらそうとするので、聞くのはあきらめた。

 ……一番あきらめる要因になったのは、しつこく聞こうとした俺を制してきたリトリィの顔を見たからだったけどな!

「ムラタさん? 無理に聞くのはマイセルちゃんが可哀想ですよ?」

 口元に笑みを張り付けて、全然笑っていない目で
 まあ、あとでリトリィに聞こう。二人きりになってからたっぷり可愛がってやれば、おそらく答えてくれるだろう。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...