ムラタのむねあげっ!~君の居場所は俺が作る!異世界建築士の奮闘録~

狐月 耀藍

文字の大きさ
248 / 785
第三部 異世界建築士と思い出の家

第227話:突破(2/4)

しおりを挟む
「張り切ってるところ申し訳ないんだけどね?」

 防壁から階段を駆け下り、近くの茂みに身を隠したときだった。ヴェフタールが、『申し訳ない』の言葉と裏腹に、全く悪びれずに言った。

「君、恋人を連れ戻しに来たんだよね?」
「もちろん」
「今だから言うんだけどね? 君の恋人は、さっきの馬車でとっくに運ばれたんじゃないかな?」

 …………あっ……!?
 あぁぁあああああ!?

 とんでもないことに気付いて頭をかきむしる。
 そうだよ、そういえばさっき、誘拐された人たちを乗せた馬車が出て行ったんじゃないか!

「まあ、言うと迷うと思ったから黙ってたけどね」
「迷うよ当たり前だよ馬車のほうに行きたいよ!」
「じゃあ、さっきの壁を、飛び降りてくるかい?」
「あんたほんとにいい性格してるな!?」

 思わず革の帽子――ナリクァンさんから支給された簡易防具、のはず――をつかんで地面に叩きつける。
 そういやそうだよ、なんで俺、こんな敵しかいないだろう砦に、よりにもよって飛び込んじまったんだよ!
 うわぁちくしょう! 今すぐあの門開けて、リトリィを探しに出たいよ、くそったれ!!

 そんな俺の葛藤を間違いなく察しつつだろう、ヴェフタールは帽子を拾うと俺に差し出してくる。笑顔で。

「ま、だから無理に命を張れとは言えないけどさ。君、もう手遅れだから、立派に働いてくれよ?」
「いやだよふざけんなよ死にたくないよ! 俺はリトリィに謝りたくて命を張ることにしたんだよ! いないんなら今すぐ帰りたいよ!!」
「別動隊はあと二つ動いてる。冒険者の戦闘部隊と、ナリクァン夫人が組織した商会の自警団だ。自警団のほうが街道を押さえに走ってるはずだから、いずれ確保できるはずだよ。恋人の方は、安心して任せればいいんじゃないかな?」

 余計安心できないじゃないか!
 こっちの三人を加えた先遣隊がやられたかもしれないんだぞ!?
 商人の自警団が追い付いたって、犠牲者が増えるだけじゃないか!

「ナリクァン夫人が組織してる自警団を知らないのかい? はっきり言って、一般的な冒険者より、よっぽど強いんだよ? なんたって、ナリクァン商会が給料を払っている精鋭部隊だから」

 かの商会の旗を掲げるキャラバンにケンカを売る山賊なんて、よほど食うに困って切羽詰まった連中か、山賊になりたての連中くらいだよ――ヴェフタールの、気味が悪いくらいの笑顔の返答に、底知れぬ恐ろしさを感じる。

 そうだ――俺を拷問にかけようとした、ナリクァン夫人だ。必要ならばきっちりカネをかけて精鋭の護衛を揃えるだろう。
 なんなら、襲ってきた山賊を皆殺しにしたうえに、死体から金品や武装をはぎとって、収穫物としてかっさらいそうなイメージすら瞬時に浮かんでくる。

「だから安心して『投げナイフ』になってよ」
「偵察だな!? それだけでいいんだな!? 戦闘はしないしできないぞ!?」
「ははは、冗談が上手いね、君。戦闘になんてなるはずないじゃないか」

 ヴェフタールは声を潜めつつ、笑ってみせた。

「どうせ、戦闘以前の問題だよ。何が起こったかも理解できずに即死だよ?」
「余計イヤだよ!!」



 とりあえず、四人という少数で、相手が未知数ということもあって壁をよじ登って来た俺たちだが、ギルドの戦闘部隊を砦に突入させるのに壁のぼりは現実的じゃない。

 よって、なんとかしてあの門扉を兼ねた跳ね橋を下ろさせたいが、あれは砦の中まで伸びている鎖につながっている。まさかボタン一つでモーターが回って動く、なんてことはないだろう。つまりあの跳ね橋を下ろしたければ、中まで侵入して駆動装置を動かさなければなければならないということだ。

「じゃ、お互い、腹をくくってやるしかないよねェ。ヴェフ、アンタ、アタシと来るんでしょォ?」
「今夜も子猫ちゃんのおもりかい? やれやれだね」
「え? ちょ、ちょっとまてよ! オレ、実質一人で潜入ってことか!?」

 インテレークが顔をしかめて、二人に抗議する。
 おい、そりゃどういう意味だよ。

「バッカてめぇ……おっさん! てめえが数に入ると思ってんのか? いやむしろ入るどころか足引っ張る分、足枷みてえなもんじゃねえか!」

 おっさんおっさんうるせえよお前は。
 いや確かにアラサーだけどさ、二十七だよ俺はまだ!

「二十七だったら十分おっさんだろ! そんなことよりアム、オレは基本、後衛だぞ? その俺に荷物を押し付けるなんてどんな罰だよ!」
「いいじゃないか、ムラタ君は『投げナイフ』を進んでやってくれるそうだから、ができたと思えばいいだろう?」
「ヴェフ! てめえ、ほんとにえげつねえな!」
「冒険者なら、誰もがそうやって生き延びてるだろう? 君もそうだし、僕もだ」

 よく分からないが、少なくともここにいる三人からは、戦力としては全く期待されていないことがあらためて確認できた。
 ……うん、オトコとして、ちょっと悲しい。でも、しょうがないよな。武道経験なしのヒョロい(といつも評されるほどの)現代っ子だしな、俺。

「とにかく、この砦がと分かった以上、潰しておかないとね」

 ヴェフタールはにっこりと笑ったのだった。



 インテレークの兄が命がけで寄こした情報によれば、出発した馬車には相当の護衛が付いていたようだから、こっちにはあまり戦力となる連中はいない、と思いたい。
 やはり商品をできるだけ傷つけず減らさず、かつ迅速に運ぶことのほうが、おそらくこの人身売買をする組織にとっても、重要なことだろうからな。

 今残っている奴らは、おそらく次の「商品」搬入の準備とか、あるいは証拠隠滅の作業中とか、そんなものではなかろうか。

「そういう、楽観的な見方しかできない頭で生きてこれたおっさんのヌルい生き方が、心底うらやましいぜ」

 俺のつぶやきに、インテレークが冷笑を浮かべて答えた。

「いいか、こういうときは、いつも最悪を考えるんだよ。そうしなきゃ、冒険者は生きていけねえぜ」

 俺を見上げながら見下すものの言い方に、思わず『それができなかったのがお前の兄貴だな』と言いそうになり、すんでのところで口をつぐむ。
 死者をわらうような、酷薄な人間にだけはなりたくない。

 このムカつく小僧だって、兄貴を失った不安を、素人の俺を嗤うことで紛らわせているかもしれないのだ。腹は立つが、ぐっとこらえる。

「そうだな。分かった。そうすると、この場合考えられるのは、どんな状態だ?」
「知るかよ。オレは奴隷商人なんかじゃねえんだからさ」

 前言撤回ッ……!



 砦というものは防御のための施設だから、基本的には出入口がほとんどない。
 ただ、この砦は百年前の戦いのせいか、あちこちが崩れていて、侵入する場所には事欠かない。

 しかし、何の気なしに侵入してみたところに警備の兵がいたりしたらたまったもんじゃない。だから、俺の命を預けるインテレークが入念に確かめた、壁が崩れた部分から侵入することにした。

 内部に入ると、さっき防壁の上から見た時のように、たしかに壁の内側は木骨によって支えられていた。砦という軍事施設に木の構造物というのはふさわしくないように感じたが、考えてみれば日本の城はみんな木造だったか。

 足音を立てないように、瓦礫を蹴飛ばしたりしないように、慎重に歩く。こんなこともあろうかと、スニーカーを履いてきてよかった。
 俺が異世界人であることを端的に示す持ち物といったら、しまい込んでしまったスーツのほかには、これと某社の保温機能シャツくらいしかないんじゃなかろうか。

 厚手の靴底はクッション性能が高くて、結果として足音がしにくくなる――そう踏んだ俺の勘は当たったようで、内部に侵入する前はインテレークがうるさいほど「足音を立てるなよ」と言っていたのに、俺が意外に足音を立てなかったせいか、内部に入ってからは特に何も言ってこない。

 暗い通路を、インテレークがするように身を隠すようにしながら少しずつ前進していくと、俺は、ある事に気が付いた。

「……なあ、声、聞こえないか?」
「聞こえている。黙ってろ」
「で、でも、この声……」
「いいから黙ってろ」

 外までは聞こえてこなかった音――なにやらダミ声のようなものがかすかに聞こえてくるのだ。
 翻訳首輪の効果範囲外だからだろうか、言葉の意味は分からない。だが、なにやら怒鳴るような、あるいは笑い声のような。

 ――そして、悲痛な、叫び声のような。

「この声――」
「分かってるって言ってんだろ、黙ってろおっさん」

 忌々しげに、インテレークが吐き捨てた。

「女がなぶられてる声だ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

異世界カフェ食堂で皿洗いをしますと思ったら日本料理を創造する力が与えられていた!(もふもふ聖獣猫のモフにゃーと楽しく日本料理を創造します)

なかじまあゆこ
ファンタジー
可愛いもふもふ達とアリナは異世界でスローライフをします。 異世界召喚された安莉奈は幼女の姿になっていた。神様に与えられた能力を使い眷属聖獣猫モフにゃーや魔獣のライオン魔獣鳥に魔獣の日焼けとお料理を創造します! 熊元安莉奈(くまもとありな)は黄色のバスに乗せられ異世界召喚された。 そして、なぜだか幼女の姿になっていた。しかも、日本の地球人だったことを忘れていたのだ。 優しいモリーナ夫妻に養子として引き取れた安莉奈はアリナになった。 モリーナ夫妻はカフェ食堂を経営していたが繁盛しておらず貧乏だった。料理が出来ないアリナはお皿洗いなどのお手伝いを小さな体ながらしていたのだけど。 神様から日本料理を創造する力が与えられていた! その力を使うと。 地球では辛い生活を送っていた安莉奈が異世界ではアリナとしてお父さんに激愛され幸せに生きている。 エブリスタ、小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...