ムラタのむねあげっ!~君の居場所は俺が作る!異世界建築士の奮闘録~

狐月 耀藍

文字の大きさ
286 / 785
第三部 異世界建築士と思い出の家

第265話:なんでこんなに強いんだ

しおりを挟む
 濡れネズミならぬ、濡れ狼が玄関に出来上がる。

「おととい来てください」

 水もしたたるいい男――どころじゃない、じつに渋い顔をしている狼男に対して、マイセルの、じつに朗らかな笑顔が対照的だ。

「オレは、あのメスに、ドアから入ってくれば話を聞くと言われたんだ」
「お姉さまを寄こせって話でしょう? ええ聞いてますとも。だから何度でも言ってやりますわ、『おととい来てください』」
「おとといに来れるわけないだろう」
「ええ、だから言ってるんですよ?」

 まさか江戸っ子の口上「一昨日来やがれ」を、マイセルの口から聞くことになるとは!

「お前は頭が弱いのか?」
「狼さんよりは賢いと思ってますよ?」
「……お前はつまり、オレをバカにしているんだな?」
「そんなことしてません。お姉さまは渡しませんって言ってるだけです」
「殺すぞ」

 苦虫を百匹ほどまとめてかみつぶしたかのように顔をしかめつつ脅すガルフに、マイセルがにこにこと宣言する。

「じゃあ、お姉さまは永遠に手に入りませんね」
「……おい、そこのお前。お前が囲うメスは、なんでこんなに強いヤツばかりなんだ」
「知るか。マイセルに言わせれば、俺のような男と付き合うと覚悟を決めたなら、強気にならないといけないらしいぞ」

 腹の痛みも気にならないほどになり、やっと歩けるようになったかと思ったら、歓迎せざる客の来襲。うんざりしながら答えると、マイセルがこれまた、にこにこと返す。

「だってムラタさんは優しすぎて、自分ではなかなか決められない人なんですもん。それに、私たちが自分で決めたことは、ちゃんと尊重してくれる人ですし」

 褒められているのかおだてられているのか。ぱっと聞くぶんには、悪い気はしない。
 しかし、頼りないから強くならざるを得ない、とも言われているような気がする。多分、間違ってない。

「メスは黙って仔を産んで育てていればいいんだ。強くなる必要はない」
「あら、女は子供を守るために、どこまでも強く必要があるのですよ?」

 マイセルの隣に、ゴーティアスさんが立つ。

「そうね……さながら、子育て中にはたとえ熊を相手にしても噛みつく、狼のように」
「ババァはすっこんでろ。俺はあの狼のメスに用があるんだ」
「うちには狼のメス、などというひとはいませんよ」
「うるさい。さっさと出さねえとまとめて殺すぞ」

 ガルフがそう言って、両手の爪を伸ばしかけた、その時だった。

「だれが、だれを、殺すのですか?」

 リトリィが、マイセルとゴーティアスさんの間を割るようにして、家から出てきたのだった。



「わたしがあなたの仔を産むことなんて、これから先、絶対にありません」
「そうか。だったら、こいつらをみんな殺してさらうだけだ」

 ガルフは、予想していたように無感動な目で、爪をちらつかせる。
 以前、俺に見せたときのように、長く伸ばした、凶悪な爪を。
 だが、リトリィはまったくおびえた様子を見せず、笑顔で聞いてみせた。

「それで、その後はどうするんですか?」
「知れたこと。お前に仔を産ませる」
「残念です。だったらわたしは、みんなといっしょにいのちを絶ちます」

 それを聞いて、ガルフは顔をしかめた。

「……そんなにあっさりと言うな。それじゃ意味がない。どうして逆らう。どうしてオレの仔を産まないんだ」
「わたしは、あなたのものではないからです」

 笑顔で、それでいて凛とした彼女の言葉に、ガルフは苛立たしげに、テラスに続く手すりを殴る。

「強いオスの血をつなぐ、それがメスの仕事だろう」
「わたしは、あなたの血をつなぐために生まれてきたわけではないですから」
「でもお前はライカン――」

 言いかけたガルフに、リトリィは毅然と言い放った。

「わたしはジルンディールが娘にしてムラタが妻となる女、リトラエイティルです。それ以上でもそれ以下でも、それ以外でもありません!」

 リトリィの剣幕にガルフはやや仰け反ってみせると、忌々しそうに吐き捨てる。

「……だから、 そんなに弱い男のどこがいいんだ」
「では教えて差し上げますから、 まずは一緒にお茶をしませんか」
「そんなもの、俺はいらない。渋いだけの色水など、俺には不要だ」
「あなたがムラタさんに勝てないのは、そういうところ、ですよ?」
「……なんだと?」
「あなたがムラタさんに勝てないのは、そういうところだと申し上げたんです」

 リトリィが澄まして言ってみせた言葉に、ガルフが牙を剥いた。

「おい――オレが、そこのヒョロっちいオスに負けるとでもいうのか?」
「現に負けているじゃないですか。情けない声を上げて、失神までして」

 り、リトリィ! あんまり煽らないでくれ! さすがにこれ以上煽ったら、マジで暴力に訴えかねないだろ……!
 ハラハラして見守っていると、リトリィは一瞬だけこちらを見て、微笑んでみせた。
 ガルフがつられて、こちらを睨みつける。

「おい、あれはたまたま卑怯なニオイ袋か何かをヤツが仕込んでいたせいだ。一対一なら絶対に負けるものか」
「いいえ? そうでなくても、いまも負けていますよ?」
「ふざけるな。言え。オレのどこが、こんなヒョロ人間に負けるというんだ」

 ガルフが前に一歩、踏み出す。
 俺よりも小柄のリトリィだ、ガルフを前にすると、頭二つ分以上の身長差になる。だが、リトリィは全く恐れる様子を見せず、ガルフを見上げた。

「だって、ただのしぶい色水を、飲もうとしないんですもの」

 お子様ですね、と微笑んですらみせる。

「……そんな安い挑発に、オレが乗ると思うのか?」
「ではお帰りになられるんですね。さようなら、お元気で」

 にこにことしながら、スカートの裾をつまんで礼をしてみせる。

「どうされましたか? 道に迷われましたか? お帰りはあちらですよ? 門まで、ご案内いたしましょうか?」
「……オレは、帰るなんて……」
「道に迷われたのですね。門までご案内いたします」

 あくまでにこにことして見上げるリトリィに、ガルフは長いため息をつく。

「……分かった。飲んでやろう。オレがそこのヒョロ人間より強いところを見せてやる」
「そうですか。それではこちらへどうぞ。お席までご案内いたします。いま、お茶を淹れてまいりますね」

 声を震わせながら、それでも、ガルフは、リトリィに従って歩き出した。

 ……冗談だろ?
 リトリィ、君は、なんてひとなんだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

処理中です...