ムラタのむねあげっ!~君の居場所は俺が作る!異世界建築士の奮闘録~

狐月 耀藍

文字の大きさ
302 / 785
第三部 異世界建築士と思い出の家

第281話:親族へのご挨拶…?(2/2)

しおりを挟む
「ムラタ、おめぇもまずはこの地で一仕事、終えたんだろう? 以前と目つきが違う。以前とは違う、自信のある目だ。オトコになったってことだな。つまり、嫁の一人や二人、自分の腕で食わせていく覚悟を決めたということだろう?
 だったらもう、オレの出番など、ねえ。おめぇらで、好きにやれ」
「しかし――」

 言いかけた俺を押しのけるように、アイネが叫んだ。

「親父! オレは納得なんかできねえ! リトリィを嫁にくれてやるのはこの際もう何も言わねえにしても、リトリィを嫁に取る前からほかの女に手を出すようなクソ野郎だぞ!」

 可哀想に、マイセルがひどく居心地悪そうにしていることに、アイネこのバカは気づいているのだろうか。

「お兄さま。それは、マイセルちゃんからだんなさまを奪うという意味ですか?」
「何言ってんだ、おめぇはムラタの嫁になるんだろうが!」
「マイセルちゃんも、ムラタさんのお嫁さんになるんですよ?」
「違う! ムラタの嫁になるのはおめぇなんだ!」
「違いませんよ? わたしも、ムラタさんのお嫁さんになるんです」
「おめぇ、じゃねえっての! おめぇムラタの嫁になるんだ!」

 どちらも変に譲らない。
 ただ、なんとも感慨深いやりとりだ。俺をヒョロガリと呼んで、リトリィの伴侶と認めようとしてこなかったアイネが、リトリィこそが俺の嫁になるんだと訴えている。
 もちろん、リトリィのためにそう言ってるってのは分かってるんだが、不思議な気分だ。

「お兄さまは、マイセルちゃんに不幸になれとおっしゃるんですか!」
「そうは言わねえが、リトリィ! おめぇの旦那になる男だぞ! 他の女に分け与えちまっていいのかよ!」
「いいと思っているから――それをちゃんと隠さずに知ってもらいたかったから、こうしてわざわざ一緒に来てもらったんじゃないですか!」

 胸を張るリトリィに、マイセルがしがみつくように寄り添う。

「あ、あの、……お姉さま、いいですから……。私、お姉さまに認められているだけで、十分ですから……」
「いいはずがないでしょう? どうせ反対するのはアイネ兄さまだけです。だったらもう、わたしの兄はもともとひとりだったことにすればいいんです。ええ、そうですとも! ごきげんよう、アイネさま!」
「お、おいリトリィ、オレはおめぇが、妹が幸せになれるようにってだな……!」
「どちらさまでしょうか、わたしには兄がひとりしかおりませんが!」

 アイネがすがるように訴えるのに対して、リトリィはぴしゃりと言ってのける。
 その、実に対照的な二人の様子に、フラフィーが机を殴りつつ笑い転げている。

「……もともと気の強いところはあったが、えらくまあ、モノをはっきり言うようになりやがって」

 親方も、あきれ顔だ。ただ、フラフィー同様、面白がっている節はある。
 フラフィーが、怒っているのか泣いているのか、訳の分からないくしゃくしゃの顔で叫んだ。

「おいムラタ! おめぇ一体何をしやがった! 純情で可愛らしかった妹が、なにをどうしたらこんなに反抗的になっちまいやがるんだ!」
「ムラタさんのせいにしないでください! 街に下りて、わたしにもいろいろあったんです! だんなさまとしあわせになるためだったら、なにがあっても絶対にへこたれない強さが大事なんだって、分かったんです!」
「つまりムラタ、おめぇがヘタレすぎるからリトリィが強くならざるを得なくなったってことじゃねえか! やっぱりおめぇのせいかぁぁあああ!!」

 おい! やっぱり俺のせいかよ! 
 ……と突っ込みたいところだが、ものすごく心当たりがあるので突っ込みづらいところが辛い。
 だがリトリィは、真っ当すぎるアイネの主張を、臆することなく切り捨てる。

「ほら! そうやってすぐに人のせいにする! そういうところがお兄さまの悪いところです!」
「いや、ムラタがヘタレなのは事実だろ! ムラタのせいでおめぇは苦労したんだろうが!」
「だからどうだというんですか? ムラタさんは、わたしのすべてを愛してくださる、この世で一番のだんなさまです!
 さっきも言いましたけれど、そんなすてきなかたを侮辱するようなひとは、わたしの兄でもなんでもありませんから!」

 ……リトリィの言葉がいちいち胸を打つ。アイネの言葉に、俺自身はぐうの音も出なかったというのに。

「だからって、そんな頼りねぇ奴のくせに、まだリトリィを嫁にもしねぇうちから二人目の女に手を出すなんて、誠実さのかけらもねぇ最低野郎じゃねえか!」

 それもまた、ぐさりと胸に突き刺さる。たしかにそうなのだろう。
 リトリィを正式に妻に迎える前から、ある意味押し負けた結果とはいえ、マイセルを妻に迎えることになってしまった。リトリィにもマイセルにも、誠実とは言い難い。

「だから俺はおめぇみたいなヒョロガリと一緒になることに反対したんだ! 職人としての誇りも、男としての誠意もないような奴なんざ――」

 ……けれど、二人はそれでも俺を選んでくれたのだ。それなのに俺のほうが手も足も出ないなんて、そんなみっともない真似ができるか!

、あまりを貶めるようなことをおっしゃらないでくださいませんか?」

 ゆっくり、一語一語、かみしめるように言ってみせる。
 俺のことはいくら言われても構わない――そう思っていたけれど、俺を貶めるということは、そのまま、俺のことを認め、好いてくれる二人を貶め、辱めることにつながるのだ。

「俺自身はたしかに義兄にいさんのおっしゃる通りのクズ野郎なのかもしれません。ですが、そうするとその俺を好いてくれている女性の、男を見る目はどうなっているのかという話になってしまうのでね。
 いえ、妹など知ったことかとおっしゃられるなら、それも良いでしょう。幸い、リトリィも縁を切りたがっているようですので」
「ちょっと待ておめぇ、なんてことぬかしやがる!」
「それだけ怒っているということですよ、俺たちはね?」

 ついにフラフィーが椅子から転げ落ちた。腹いてぇ、と、息も絶え絶えに床を殴っている。

「あ、兄貴! 笑ってる場合じゃ……!」
「おめぇの負けだ、アイネ。人の恋路を邪魔することなんかできねぇってことだ、諦めろ」

 親父殿ジルンディールが、抜いた鼻毛を吹き飛ばしながら言った。



 フラフィーもアイネも、ものすごい勢いで飯をかきこんでいる。
 彼ら曰く、久しぶりのまともな飯らしい。

 さっきまであれほど俺のことを人でなし扱いしたうえに、マイセルのことを認めない発言を連発していたアイネだったが、今はもう、何も言う気はないようだ。
 リトリィと並んで厨房に立ち、リトリィを立てながらくるくると忙しく立ち回るマイセルを目にして、認めざるを得なくなったということだろう。

「アイネにいさま、おかわりはいかがですか?」

 絶妙なタイミングで声をかけてくるマイセルに、そちらを見ずに無言で皿を突き出すアイネ。さっきまでの自身の発言のせいで、まともに目を見られないということなのかもしれない。

「いや、ホントにうめぇ! なんかこう、久々に飯らしい飯を食ってる気がするぜ」

 フラフィーの言葉に、リトリィがため息をつきながら聞く。

「じゃあ、わたしがいない間、どんなものを食べてらっしゃったんですか?」
「そりゃおめぇ、野菜のごった煮とかごった煮とかごった煮とか…… ?」
「 干し肉 とか魚の干物とか、まだいくらかあったでしょう?」
「そんなもん、真っ先に食っちまったよ」

 即答するフラフィーに、リトリィが絶句する。
 ただ、男所帯ってこんなもんだよなと、俺は実感を伴った苦笑いをするしかない。母を亡くして数カ月は、洗濯もまともに回らない、飯はコンビニ弁当オンリー。たまに食う弁当屋の弁当が美味い――そんな時期が、俺の家にもあった。

「 ……もう。わたしがいないと、まともなお食事を食べていくことすらできないのですか?」
「そうだな。俺も早く嫁が欲しいぜ。なあ、アイネ!」
「俺は別に、嫁なんか……」

 フラフィーに嫁の話を振られて、しどろもどろになるアイネに、親父殿がパンをむしりながら言った。

「おめぇも嫁を持ったら、ムラタの気持ちが少しはわかるだろうよ」
「親父まで……!」 
「まあとにかくだ。これ以上、ムラタに突っかかるのはやめろ」
「 オレは妹のことが 大事なんだ、 オレが言わなきゃ誰が言うって言うんだ」

 親父殿は、むしったパンに芋を挟みながら、静かに、だが有無を言わさぬ様子で続けた。

「前にも言ったが、ムラタは俺達とは方向性が違うだけの、いっぱしの職人だ。俺はリトリィをくれてやることに反対はしない。おめえも、いつまでもグダグダ言ってるんじゃねぇ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

#密売じゃありません!ミツバイギフトで最高に美味しい果物作ったら、領主令息が夫になった件について

国府知里
ファンタジー
「がんばっても報われなかったあなたに」“スローライフ成り上がりファンタジー”  人生に疲れ果てた北村めぐみは、目覚めると異世界の農村で少女グレイスとして転生していた。この世界では6歳で神から“ギフト”を授かるという。グレイスが得た謎の力「ミツバイ」は、果物を蜜のように甘くするという奇跡の力だった!村を、領地を、やがて王国までも変えていく果樹栽培の物語がいま始まる――。美味しさが未来を育てる、異世界農業×スローライフ・ファンタジー!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...