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第三部 異世界建築士と思い出の家
第315話:初夜明けの宴
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もうそろそろ夜が明ける。
一度寝るけれど、初夜明けのダンスを踊るから、日が昇る前に起こしてほしい――マイセルに言われていた。そろそろ起こしてやらないといけないだろう。
そう思って、裏口の方から回っていこうとすると、なぜかリトリィと、もう二人、少女が一緒に、裏口の窓から中をのぞいているようなかっこうをしている。
内緒の話――を、しているようにも見えない。
何をしているのかと思いつつ歩いていくと、急にリトリィが振り返った。
「あ、ムラタさん、だめ……!」
「どうした?」
「いえ、あの……」
なぜか恥じらうように首を振る。
よく分からないが、マイセルを起こさないと。
そう思って進むと、リトリィが驚いたように手を振って、来るなという。
「どうした、なにかあるのか?」
そう言って踏み出そうとして、やっと分かった。
キッチンの天板に手を突き、腰を落として振り返り、なにかささやくようにしながら微笑んでいる青い晴れ着を着ている娘は、紋様の切り抜きで進行を務めた、あの女性だろう。
対して、目をつぶってのけぞるように、背伸びするようにして彼女の腰をつかみ、余裕の一つもなく必死な様子で腰をぶつけているのは、――エイホルだな。
ひとの家のキッチンでことを致すたぁ、なかなかの度胸じゃないか。しかもそこは俺がリトリィを可愛がる特等席、その価値を理解しているのも見どころがある点も褒めてやる。
だが、今回の急ごしらえのベンチにもあった、ひん曲がった釘ばかりのアレ、間違いなくエイホル、お前の仕業だろ。女の腹に杭打ちするまえに、まず釘をまともに打てるようになれ、まったく。
「何言ってるんですか。披露宴なんて、そのためにあるようなものですよ? これで子供でもできれば、あたらしい家庭が一つ増えて、おめでたいことが続くことになるんですから」
リトリィが、声を潜めながらも妙に力説する。呼応するように、二人の女性も、食い入るように窓の奥をのぞき込みながら訴える。
「そうですよ! エイホルくん、一生懸命でかわいいって人気なんですよ!」
「コルンさんなら、お世話好きだし年下好きだし、きっとお似合いですから」
だが、リビングで眠っているであろう花嫁たちを起こしに行かなきゃならないってのに。そうこうしているうちに、日が昇ってしまったらどうするんだ。
「だいじょうぶですよ! エイホルくん、初めてみたいだし、きっとすぐに終わりますよ。私のだんなさまも、最初のころはそうでしたし」
「第一、マイセルちゃんの声に当てられて、さっきまで独り身のみんな、けっこう、あんな感じだったんですよ?」
……待って?
マレットさんも言ってたけど、そんなに声、外に聞こえてたの?
「知りたいですか? 上手くいけば、一年後は赤ちゃん祭りを引き起こす、そんな勢いでしたよ?」
待ってそれ知りたいけど知りたくありません。
「とりあえず、ひとの家ではやめとこうな?」
さすがに二回戦は許容できないとして、リトリィたちが止めるのも聞かずに俺は突入した。
問答無用でドアノブを回した瞬間、ドアにもたれかかるように中をのぞいていた三人は家の中に転がり込み、その三人の屍を乗り越えるようにして家に入ると、硬直していた二人に一言だけ声をかけ、リビングに向かう。
「そこは俺の特等席だ」
マイセルを起こすと、何か夢を見ていたらしく、そのまま抱き着いてきた。が、すぐに周りの状況に気づいたらしく、恥ずかしそうにうつむいて離れようとしたので、あえて抱きしめてやる。
リトリィは重くて断念したが、マイセルなら、少しは鍛えたから――と思ったが、やはり無理だった。お姫様だっこへの道は険しい。ヒョロいヒョロいと言われるわけだ、くそう。
寝ぼけまなこの少女たちだったが、窓から見える景色から、日の出がすぐそこに迫っていることに気づいて慌てて身支度を始める。といっても、乱れた髪をなんとか手で整えるくらいが精いっぱいだ。
リトリィが気を利かせて手桶に水を汲んできてくれたため、少女たちは水を手に取り、髪をなでつける。
これから参加するダンスは、未婚の少女たちにとっては、気合を入れるべき最後の催しだからだろう。すこし滑稽に感じられるほど、妙に真剣に髪を整えていた。
少女たちと共に家を出ると、ツェーダ爺さんがペリシャさんから渡されたクノーブのパイをくわえて、アコーディオンの調子を確かめていた。これから最後の催し――初夜明けのダンスの伴奏のためだろう。ありがたいことだ。
瀧井夫妻も戻ってきている。妙に疲れたようにベンチに座っている瀧井さんに対して、ペリシャさんは元気に料理を配って回っている。彼女のほうが妙につやつやして見えるのは、――うん、きっと、まあ、そういうことだろう。なにせ獣人にとって特別な、藍月の夜だったしな。
親父殿――ジルンディール親方が手にしているのは麦酒だろうか、コップを手に座っていて、俺たちの姿を確認すると、コップごと右手を挙げてみせた。
少し離れたところでは、アイネとハマーが相変わらずなにかを語り合っているようだった。というか、お互いに会話になっているのかよく分からないが、愚痴を言い合っているようだということだけは分かる。
フラフィーはなぜか、あのふわふわロップイヤー風のウサギ耳の女性の隣にいる。その女性の腰に手を回して踊る準備を整えていて、その肩の上には、俺のことを「おやつのおにーさん」と呼ぶ少女を乗せている。
女性の方も、フラフィーの肩に身を寄せるようにして、腰に回された手に自分の手を重ねていて、まんざらでもなさそうだ。
いやちょっと待て。いくら藍月の夜だったからって、おい義兄、いつの間に。
その隣ではマレットさんが、両手に花とばかりにクラムさんとネイジェルさんを連れている。どうやら、三人で踊るつもりらしい。
ヒヨッコどもは、俺たちと一緒にやって来た晴れ着姿の女性たちの手を取る。
その手の取り方も、相手を探して再会を喜ぶような二人もいれば、とりあえずくっついた、という二人もあったりして、なるほどと思わせる。
エイホルは例の青い衣装の少女の手を、ひどくぎこちない様子で握っている。青い衣装の少女の方が頭半分ほど背が高いのもあってか、彼よりよほど堂々としているように見えるのが面白い。もしそのまま結婚なんかしたら、即、尻に敷かれるのではないだろうか。
そして奥では、ナリクァンさんとフィネスさん、ラディウミアさんとフォロニアさん――いつもの炊き出しのメンバーが、最後の料理を皆に振舞ってくれている。
なぜかそこに加わっているのが、ゴーティアスさんとシヴィーさん。特にゴーティアスさんは、ナリクァンさんと実に楽しそうにして。
なんだ、本当にただただ、仲のいい二人だったのか。二人が揃ったときにはどんな鞘当てが、と戦々恐々としていたのが、馬鹿みたいだ。
――さあ、最後の宴だ。
さっきまであんなに暗かった空の底が赤く燃えてきたかと思うと、太陽が顔を出し銀色の陽光が目を焼く。その瞬間から空の色が青く輝き始め、そしてたちまち見慣れた青く澄み渡った世界が生み出されてゆく。
時は今まさに第一刻―― 一日の始まり。
俺たちが夫婦として共に歩み出す、始まりの朝。
俺は、妻たちとの打ち合わせの通り、一歩、前に出る。
一息遅れて、リトリィとマイセルも踏み出し、俺に並ぶ。
三人でそろって、右手を挙げる。
「私たちの出発を、夜を徹して祝っていただけた皆さん。ありがとうございます。皆さんに祝っていただけたぶんだけ、私たちはともに愛し合い、ともに苦難を乗り越え、最期のときまで共に過ごすことを誓います。思い返せば――」
ここでヤジが入る。
入れてくれたのはフラフィーだ。奴の肩に乗せられた少女も「おはなしが、ながーい!」と一緒に言ってくれた。
これはもともと予定されているもので、「思い返せば」のところでヤジを入れることで、過去を過去として引きずらぬようにして、次の未来を生きる、という呪術的な意味があるらしい。
「――ではこれより、感謝と、そして皆さんの幸せを祈って。初夜明けの祝いを踊りましょう!」
基本的には、この初夜明けのダンス、参加は自由だ。もともと披露宴に明確な終わりはなく、それぞれ十分に祝い、楽しんだところで帰るものだからだ。
皆で一緒に徹夜をしてもいいし、もちろん、早々に帰るのもいい。だれもそれをとがめない。
だから、妻になる両家数人が残れば御の字、そう思っていた。
しかし、俺たちの神前宣誓式から参加してくれたひとたちは、ほとんどが、この最後の初夜明けのダンスまで居残ってくれた。瀧井夫妻のように、途中で一度帰った人たちもいたが、このダンスに合わせて戻ってきてくれた。
それだけ知人が少ないのだ――そう言ってしまえば、それまでだ。でも、その少ない知人たちが、最後のダンスまで、ずっと残ってくれている。
もちろん、その中には、俺たちの幸せにあやかって、自分たちの幸せを求めた人たちもいるだろう。それこそ、さっきキッチンで見つけたエイホルとコルン、あの二人のように。
しかし、それもまた、幸せの一つだ。俺たちの幸せが産んだ、もう一つの幸せの種なのだ。ついでに発芽してくれたら万々歳。
幸せを、みんなで共有し合う。こんなに素晴らしいことはない。
ツェーダ爺さんの奏でる、夜明けを象徴するような軽やかな調べに、皆が乗って、思い思いに踊る。
リトリィが、実に楽しそうに、回る、回る。
朝日を浴びて輝く金の髪が、しっぽが、豊かに巡る。スカートが、太もものガーターベルトが見えるまで舞い上がっていても、気にした様子もない。
俺と手を繋ぎ、離し、そして懐に飛び込んできては口づけを求め、そしてマイセルとくるくると回ると、今度はマイセルを俺のもとに放るように手を離す。
戸惑いながら飛び込んできたマイセルを抱き止め、今度はマイセルと踊る。
頬を染め、共に回り、巡り、そして、飛び込んできたリトリィと手をつなぎ直して、三人で、輪になって。
俺たちだけじゃない。
皆が共に幸せを祝い、求め、分かち合うように、踊る。
――ああ、なんと幸せなことだろうか!
一度寝るけれど、初夜明けのダンスを踊るから、日が昇る前に起こしてほしい――マイセルに言われていた。そろそろ起こしてやらないといけないだろう。
そう思って、裏口の方から回っていこうとすると、なぜかリトリィと、もう二人、少女が一緒に、裏口の窓から中をのぞいているようなかっこうをしている。
内緒の話――を、しているようにも見えない。
何をしているのかと思いつつ歩いていくと、急にリトリィが振り返った。
「あ、ムラタさん、だめ……!」
「どうした?」
「いえ、あの……」
なぜか恥じらうように首を振る。
よく分からないが、マイセルを起こさないと。
そう思って進むと、リトリィが驚いたように手を振って、来るなという。
「どうした、なにかあるのか?」
そう言って踏み出そうとして、やっと分かった。
キッチンの天板に手を突き、腰を落として振り返り、なにかささやくようにしながら微笑んでいる青い晴れ着を着ている娘は、紋様の切り抜きで進行を務めた、あの女性だろう。
対して、目をつぶってのけぞるように、背伸びするようにして彼女の腰をつかみ、余裕の一つもなく必死な様子で腰をぶつけているのは、――エイホルだな。
ひとの家のキッチンでことを致すたぁ、なかなかの度胸じゃないか。しかもそこは俺がリトリィを可愛がる特等席、その価値を理解しているのも見どころがある点も褒めてやる。
だが、今回の急ごしらえのベンチにもあった、ひん曲がった釘ばかりのアレ、間違いなくエイホル、お前の仕業だろ。女の腹に杭打ちするまえに、まず釘をまともに打てるようになれ、まったく。
「何言ってるんですか。披露宴なんて、そのためにあるようなものですよ? これで子供でもできれば、あたらしい家庭が一つ増えて、おめでたいことが続くことになるんですから」
リトリィが、声を潜めながらも妙に力説する。呼応するように、二人の女性も、食い入るように窓の奥をのぞき込みながら訴える。
「そうですよ! エイホルくん、一生懸命でかわいいって人気なんですよ!」
「コルンさんなら、お世話好きだし年下好きだし、きっとお似合いですから」
だが、リビングで眠っているであろう花嫁たちを起こしに行かなきゃならないってのに。そうこうしているうちに、日が昇ってしまったらどうするんだ。
「だいじょうぶですよ! エイホルくん、初めてみたいだし、きっとすぐに終わりますよ。私のだんなさまも、最初のころはそうでしたし」
「第一、マイセルちゃんの声に当てられて、さっきまで独り身のみんな、けっこう、あんな感じだったんですよ?」
……待って?
マレットさんも言ってたけど、そんなに声、外に聞こえてたの?
「知りたいですか? 上手くいけば、一年後は赤ちゃん祭りを引き起こす、そんな勢いでしたよ?」
待ってそれ知りたいけど知りたくありません。
「とりあえず、ひとの家ではやめとこうな?」
さすがに二回戦は許容できないとして、リトリィたちが止めるのも聞かずに俺は突入した。
問答無用でドアノブを回した瞬間、ドアにもたれかかるように中をのぞいていた三人は家の中に転がり込み、その三人の屍を乗り越えるようにして家に入ると、硬直していた二人に一言だけ声をかけ、リビングに向かう。
「そこは俺の特等席だ」
マイセルを起こすと、何か夢を見ていたらしく、そのまま抱き着いてきた。が、すぐに周りの状況に気づいたらしく、恥ずかしそうにうつむいて離れようとしたので、あえて抱きしめてやる。
リトリィは重くて断念したが、マイセルなら、少しは鍛えたから――と思ったが、やはり無理だった。お姫様だっこへの道は険しい。ヒョロいヒョロいと言われるわけだ、くそう。
寝ぼけまなこの少女たちだったが、窓から見える景色から、日の出がすぐそこに迫っていることに気づいて慌てて身支度を始める。といっても、乱れた髪をなんとか手で整えるくらいが精いっぱいだ。
リトリィが気を利かせて手桶に水を汲んできてくれたため、少女たちは水を手に取り、髪をなでつける。
これから参加するダンスは、未婚の少女たちにとっては、気合を入れるべき最後の催しだからだろう。すこし滑稽に感じられるほど、妙に真剣に髪を整えていた。
少女たちと共に家を出ると、ツェーダ爺さんがペリシャさんから渡されたクノーブのパイをくわえて、アコーディオンの調子を確かめていた。これから最後の催し――初夜明けのダンスの伴奏のためだろう。ありがたいことだ。
瀧井夫妻も戻ってきている。妙に疲れたようにベンチに座っている瀧井さんに対して、ペリシャさんは元気に料理を配って回っている。彼女のほうが妙につやつやして見えるのは、――うん、きっと、まあ、そういうことだろう。なにせ獣人にとって特別な、藍月の夜だったしな。
親父殿――ジルンディール親方が手にしているのは麦酒だろうか、コップを手に座っていて、俺たちの姿を確認すると、コップごと右手を挙げてみせた。
少し離れたところでは、アイネとハマーが相変わらずなにかを語り合っているようだった。というか、お互いに会話になっているのかよく分からないが、愚痴を言い合っているようだということだけは分かる。
フラフィーはなぜか、あのふわふわロップイヤー風のウサギ耳の女性の隣にいる。その女性の腰に手を回して踊る準備を整えていて、その肩の上には、俺のことを「おやつのおにーさん」と呼ぶ少女を乗せている。
女性の方も、フラフィーの肩に身を寄せるようにして、腰に回された手に自分の手を重ねていて、まんざらでもなさそうだ。
いやちょっと待て。いくら藍月の夜だったからって、おい義兄、いつの間に。
その隣ではマレットさんが、両手に花とばかりにクラムさんとネイジェルさんを連れている。どうやら、三人で踊るつもりらしい。
ヒヨッコどもは、俺たちと一緒にやって来た晴れ着姿の女性たちの手を取る。
その手の取り方も、相手を探して再会を喜ぶような二人もいれば、とりあえずくっついた、という二人もあったりして、なるほどと思わせる。
エイホルは例の青い衣装の少女の手を、ひどくぎこちない様子で握っている。青い衣装の少女の方が頭半分ほど背が高いのもあってか、彼よりよほど堂々としているように見えるのが面白い。もしそのまま結婚なんかしたら、即、尻に敷かれるのではないだろうか。
そして奥では、ナリクァンさんとフィネスさん、ラディウミアさんとフォロニアさん――いつもの炊き出しのメンバーが、最後の料理を皆に振舞ってくれている。
なぜかそこに加わっているのが、ゴーティアスさんとシヴィーさん。特にゴーティアスさんは、ナリクァンさんと実に楽しそうにして。
なんだ、本当にただただ、仲のいい二人だったのか。二人が揃ったときにはどんな鞘当てが、と戦々恐々としていたのが、馬鹿みたいだ。
――さあ、最後の宴だ。
さっきまであんなに暗かった空の底が赤く燃えてきたかと思うと、太陽が顔を出し銀色の陽光が目を焼く。その瞬間から空の色が青く輝き始め、そしてたちまち見慣れた青く澄み渡った世界が生み出されてゆく。
時は今まさに第一刻―― 一日の始まり。
俺たちが夫婦として共に歩み出す、始まりの朝。
俺は、妻たちとの打ち合わせの通り、一歩、前に出る。
一息遅れて、リトリィとマイセルも踏み出し、俺に並ぶ。
三人でそろって、右手を挙げる。
「私たちの出発を、夜を徹して祝っていただけた皆さん。ありがとうございます。皆さんに祝っていただけたぶんだけ、私たちはともに愛し合い、ともに苦難を乗り越え、最期のときまで共に過ごすことを誓います。思い返せば――」
ここでヤジが入る。
入れてくれたのはフラフィーだ。奴の肩に乗せられた少女も「おはなしが、ながーい!」と一緒に言ってくれた。
これはもともと予定されているもので、「思い返せば」のところでヤジを入れることで、過去を過去として引きずらぬようにして、次の未来を生きる、という呪術的な意味があるらしい。
「――ではこれより、感謝と、そして皆さんの幸せを祈って。初夜明けの祝いを踊りましょう!」
基本的には、この初夜明けのダンス、参加は自由だ。もともと披露宴に明確な終わりはなく、それぞれ十分に祝い、楽しんだところで帰るものだからだ。
皆で一緒に徹夜をしてもいいし、もちろん、早々に帰るのもいい。だれもそれをとがめない。
だから、妻になる両家数人が残れば御の字、そう思っていた。
しかし、俺たちの神前宣誓式から参加してくれたひとたちは、ほとんどが、この最後の初夜明けのダンスまで居残ってくれた。瀧井夫妻のように、途中で一度帰った人たちもいたが、このダンスに合わせて戻ってきてくれた。
それだけ知人が少ないのだ――そう言ってしまえば、それまでだ。でも、その少ない知人たちが、最後のダンスまで、ずっと残ってくれている。
もちろん、その中には、俺たちの幸せにあやかって、自分たちの幸せを求めた人たちもいるだろう。それこそ、さっきキッチンで見つけたエイホルとコルン、あの二人のように。
しかし、それもまた、幸せの一つだ。俺たちの幸せが産んだ、もう一つの幸せの種なのだ。ついでに発芽してくれたら万々歳。
幸せを、みんなで共有し合う。こんなに素晴らしいことはない。
ツェーダ爺さんの奏でる、夜明けを象徴するような軽やかな調べに、皆が乗って、思い思いに踊る。
リトリィが、実に楽しそうに、回る、回る。
朝日を浴びて輝く金の髪が、しっぽが、豊かに巡る。スカートが、太もものガーターベルトが見えるまで舞い上がっていても、気にした様子もない。
俺と手を繋ぎ、離し、そして懐に飛び込んできては口づけを求め、そしてマイセルとくるくると回ると、今度はマイセルを俺のもとに放るように手を離す。
戸惑いながら飛び込んできたマイセルを抱き止め、今度はマイセルと踊る。
頬を染め、共に回り、巡り、そして、飛び込んできたリトリィと手をつなぎ直して、三人で、輪になって。
俺たちだけじゃない。
皆が共に幸せを祝い、求め、分かち合うように、踊る。
――ああ、なんと幸せなことだろうか!
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