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第五部 異世界建築士と子供たちの楽園
第494話:プラスマイナスの闇(2/3)
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「前も言ったけどな? オレんちだって兄貴が二人、子供のうちに死んでるんだぞ? そりゃ院長たちも頑張ってるんだろうけどさ、赤ん坊が死ぬことなんて、よくある話だろ?」
リファルが、屋根の上で除草作業をしている職人たちがいるあたりの天井を見上げながら、あきれたように言った。
赤ん坊の死が「よくある話」と返される――それがなんの感慨もなく、実に全くあっさりと言ってのけたリファルに、俺は、予想できてはいたが暗澹とした気持ちに陥ってしまった。
「……お前、ホントに世間知らずのお坊っちゃんだったんだな。それとも、お前の国はバカみたいに幸せな国だったってか?」
院長から聞いたこと、それはあまりにも衝撃的に過ぎたからだ。
『亡くなる赤子ですか? 残念ですが、よくあることです。力及ばず、悲しいことですが……』
ダムハイト院長は、冬の食べ物がないころ、雨の多い初夏、そして夏の盛りにはよくあることだと、淡々と語った。
冬の、食べ物のない時期の死――これはまあ、残念だが分かる。寄付に頼る孤児院だ、仕方のないときもあるのだろう。
だが、それ以外でも増えるというのはなぜなんだ?
その疑問を解決するために、俺は「赤ん坊のために何かできたらと思って」などと口からでまかせに様子を見たいと言ってみた。
すると院長は妙に感激した様子で、赤ん坊たちのための部屋に案内してくれた。
それを見たときの俺は、言葉が出なかった。
ああ、「無知の罪」とは、まさにあのようなものをいうのだろう。
もう少しで吐きそうだった。
もう少しでつかみかかるところだったんだ。
――あの、善意の塊に。
▲ △ ▲ △ ▲
案内された部屋。
ダムハイト院長が明けてくれた扉をくぐると、何とも言えぬ不快なにおいが鼻を突いた。
そこは、赤ん坊の世話をするための部屋なのだろう。
長いベッドが二つ、部屋の東側と西側の壁に沿うようにして伸びている。
くたびれた二つのベッドに挟まれているかのように感じる狭い部屋の、その奥の椅子に、コイシュナさんは少し、疲れた様子で腰掛けていた。
だが先に入ったリファルの姿を認めると、彼女は慌てて身なりを整え、そして立ち上がった。
「あ、リファルさん! それから、ええと……ムラ、タ? さん……? ようこそ!」
俺の名を微妙に忘れていたように見えるコイシュナさんの挨拶に、リファルが機嫌よく挨拶を返す。
「どうも、コイシュナさん。忙しいところすんません。コイシュナさんの頑張ってる顔がどうしても見たくって」
「まあ! ふふ、ありがとうございます」
コイシュナも、スカートの端をつまむようにして返礼してみせると、はにかむようにして微笑んでみせた。
だが、俺は部屋の様子に言葉も出ず、挨拶を返すのも忘れていた。
その部屋は、小さな窓のせいか、妙に薄暗かった。
そこは、確かに、赤ん坊の世話をするための部屋なのだろう。
東西両方の壁に沿うように、長く伸びるベッドが二つ。
そこに、十五、六人といったところだろうか、赤ん坊が寝かされていた。
間仕切りもない、簡素でくたびれた長いベッドにずらりと並べられた、十五、六人の赤ん坊たち。
……だが、コイシュナさんだけだ。そして、この部屋で十五、六人の赤ん坊を看ているのはコイシュナさん、ただ一人。
奇妙なのは、赤ん坊たちの姿だった。
肩から下を幅広の手ぬぐいでぐるぐる巻きにされた、その姿。
――そう。
赤ん坊たちが身にまとっているのは、手ぬぐいだ。マイセルやフェルミが、産まれてくる我が子のためにと、ひと針ひと針、心を込めて縫っている、あの柔らかなおくるみではない。
どう見ても、ただの薄い手ぬぐいだ。
肩から下を手ぬぐいで巻かれ、ミノムシだかサナギだかのようになっている赤ん坊たちが、そこに並べられていた。
何より異様だったのが、赤ん坊らしい「あー、うー」などという声も、泣き声も、あまり聞こえてこないということ!
赤ん坊といえば、泣くのが仕事。バスや電車、店の中など、ところ構わず泣くものだろう? 日本にいたときも、たまに見かけたぞ。母親らしき人が、泣く赤ん坊を抱えて、居心地悪そうにしていたのを。ましてこれだけ赤ん坊がいれば、誰かしら泣いていそうなものだ。
それなのに、ここにいる多くの赤ん坊は、泣きもせず、ただ天井を見上げているだけなのだ。身をよじることもなく、服の裾を、手ぬぐいの端をしゃぶるようなそぶりもみせることなく。
弱々しい、わずかな泣き声の合間にときおり聞こえるのは、どこかの赤ん坊が咳き込む音、くしゃみの音。
そして、そんな十五、六人の赤ん坊たちを見守っているのが、コイシュナさん、ただ一人。
そう、ただ一人なんだ。
なんでこんなにもたくさんの乳児を、素人が一人で看ているんだ?
「コイシュナさん、大変っすね。これだけたくさんいたら」
「いえ……! これも、修行ですから」
リファルが、コイシュナのそばのベッドの端に腰を下ろして笑う。
カビの黒いシミだらけの、ベッドに。
「いえいえ、コイシュナさんはよくやってくれています。日に三回もおむつを替えてくれるんですよ。洗濯も大変だというのに」
ダムハイト院長が、笑顔で部屋に入ってきた。
「いえ、先生。赤ちゃんも、その方が気持ちいいと思って……」
「いや、この人数の赤ん坊のおむつを洗うんすか? それはホントに大変だ、ずっとほったらかしだったウチのおふくろに聞かせてやりたいですよ」
「いえいえ、お母さまもお忙しかったのでしょう。現にあなたは立派な青年におなりだ、お母さまの愛の為せるわざです」
三人が談笑するその言葉が、どこか空虚に聞こえた。
分かったんだ。
この、何とも言えない不快なにおいの正体が。
……強いカビ臭、赤ん坊の排泄物、そして、吐瀉物。それらが混じった臭気だったんだ。
嫌な予感がして、手近な赤ん坊を抱き上げてみる。
その体を包む布は、じっとりと湿っていた。思わず顔を近づけると、尿の臭いが強く感じられた。
赤ん坊の下のベッドに手を這わせると、やはりじっとりと濡れていた。
「……なあ、コイシュナさん」
俺は、聞かずにはいられなかった。
「はい! なんでしょうか」
「ここの赤ん坊は、毎日三回、おむつを替えてるのか?」
俺の問いに、コイシュナさんは恥じらうようにして、答えた。
「……はい。前に一緒に働いていたエンジェベルさんには、笑われましたけど」
「笑われた……? それはどういう……」
「言葉も分からない赤ん坊に無駄なことをって」
コイシュナは、恥ずかしそうにもじもじしながら続けた。
「確かにおむつを洗うのは大変ですけど、でも、なんだか、赤ちゃんたちが少しでも濡れたままにしておくより、いいかなって……」
恥ずかしそうに微笑むコイシュナに、にこにこと笑ってねぎらうダムハイト院長。
だが、俺はもう、我慢の限界だった。
……濡れたままにしておくより、いいかな――だって?
変なものを食ったとか、そういうことではなく、純粋に心がねじれるような思いで吐き気を催したのは、これが人生で初めてだったかもしれない。
その無邪気な善意に包まれた、あまりにも深い無知の罪に対する、自分でもおぞましいほどの怒りと悲しみに。
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「自覚がなかったのか? お前、歯を剥き出しにして、今すぐに噛みつこうとするかのような顔だったんだぜ?」
俺をあの部屋から引きずり出したリファルに、また、頭をはたかれる。
あの時――俺はもう少しでコイシュナに飛び掛かるところだった。
リファルが止めていなかったら、間違いなく。
「お前、ホントにやっかいなヤツだな。奥さんのことを少しでも悪く言ったら、そこがどこだか関係なくつかみかかるしよぉ。今度は何が気に食わなかったんだ?」
「あんな……あんなにも悲惨な境遇の子供を、俺は初めて見た」
「悲惨? 悲惨って何がだよ」
リファルが、首をかしげる。
「そりゃ、親に捨てられたってのはかわいそうだと思うけどよ? ああやって養ってもらってんだ。ちゃんと粥も与えられてるみたいだし、第一死んだわけでもねえ。ムラタ、何が悲惨なんだ?」
リファルは、本当に、俺が何を指して悲惨だと言ったのか、その意味が全くつかめていないようだった。
自分でも、そこまで怒りを掻き立てる自分を、奇妙だと思う。
だが、あの時を思い出すのだ。
大学で知った、もはや還れぬあの世界の矛盾――東南アジアでストリートチルドレンを保護してまわっていたというNGOの方々がみせた、あの画像の数々。
売春宿で撮影されたという子供たちに突き立てられた、数々の性病の痕跡。
先進国の男たちの下衆な欲望のはけ口として生きる、東南アジアの幼い少女たち。
それを知った時に感じた世界の理不尽さを、何も知らなかった自分への慄きや怒り。今にして思えば、まだ大学二回生――十九歳だった自分は、本当に青臭かったと思う。
けれど、そのとき以上の怒り――あの瞬間、それが、腹の底から吹き上げようとしていた。
窓辺で、生まれてくる子供のためのおむつを縫うマイセルの微笑みが、
子を諦めていたからこそ、それを授かったことを喜ぶフェルミの涙が、
俺を父親にしてくれる二人の思いが、俺に怒りをもたらしたのだろう。
「……よく、分からねえけどよ。落ち着けって」
「ああ、落ち着いてるよ。お前がここまで引きずってきてくれたおかげでな」
「どこがだ。また噛みつきに行きそうな顔をしやがって」
「……痛いな、おい」
またしても頭をはたくリファルの頭を、俺もはたき返す。
だが、おかげで冷静になれた。
そして改めて現実を理解した。
そう、昨日、リトリィに抱かれながら、予想し、慄きつつも出した答え。
――拾われた子供たちと同じような数だけ、死んでゆく子供たちがいる……!
プラスマイナスの収支が、そこそこにつりあってしまっているからこそ、孤児院は運営できてしまっているのだと……‼
リファルが、屋根の上で除草作業をしている職人たちがいるあたりの天井を見上げながら、あきれたように言った。
赤ん坊の死が「よくある話」と返される――それがなんの感慨もなく、実に全くあっさりと言ってのけたリファルに、俺は、予想できてはいたが暗澹とした気持ちに陥ってしまった。
「……お前、ホントに世間知らずのお坊っちゃんだったんだな。それとも、お前の国はバカみたいに幸せな国だったってか?」
院長から聞いたこと、それはあまりにも衝撃的に過ぎたからだ。
『亡くなる赤子ですか? 残念ですが、よくあることです。力及ばず、悲しいことですが……』
ダムハイト院長は、冬の食べ物がないころ、雨の多い初夏、そして夏の盛りにはよくあることだと、淡々と語った。
冬の、食べ物のない時期の死――これはまあ、残念だが分かる。寄付に頼る孤児院だ、仕方のないときもあるのだろう。
だが、それ以外でも増えるというのはなぜなんだ?
その疑問を解決するために、俺は「赤ん坊のために何かできたらと思って」などと口からでまかせに様子を見たいと言ってみた。
すると院長は妙に感激した様子で、赤ん坊たちのための部屋に案内してくれた。
それを見たときの俺は、言葉が出なかった。
ああ、「無知の罪」とは、まさにあのようなものをいうのだろう。
もう少しで吐きそうだった。
もう少しでつかみかかるところだったんだ。
――あの、善意の塊に。
▲ △ ▲ △ ▲
案内された部屋。
ダムハイト院長が明けてくれた扉をくぐると、何とも言えぬ不快なにおいが鼻を突いた。
そこは、赤ん坊の世話をするための部屋なのだろう。
長いベッドが二つ、部屋の東側と西側の壁に沿うようにして伸びている。
くたびれた二つのベッドに挟まれているかのように感じる狭い部屋の、その奥の椅子に、コイシュナさんは少し、疲れた様子で腰掛けていた。
だが先に入ったリファルの姿を認めると、彼女は慌てて身なりを整え、そして立ち上がった。
「あ、リファルさん! それから、ええと……ムラ、タ? さん……? ようこそ!」
俺の名を微妙に忘れていたように見えるコイシュナさんの挨拶に、リファルが機嫌よく挨拶を返す。
「どうも、コイシュナさん。忙しいところすんません。コイシュナさんの頑張ってる顔がどうしても見たくって」
「まあ! ふふ、ありがとうございます」
コイシュナも、スカートの端をつまむようにして返礼してみせると、はにかむようにして微笑んでみせた。
だが、俺は部屋の様子に言葉も出ず、挨拶を返すのも忘れていた。
その部屋は、小さな窓のせいか、妙に薄暗かった。
そこは、確かに、赤ん坊の世話をするための部屋なのだろう。
東西両方の壁に沿うように、長く伸びるベッドが二つ。
そこに、十五、六人といったところだろうか、赤ん坊が寝かされていた。
間仕切りもない、簡素でくたびれた長いベッドにずらりと並べられた、十五、六人の赤ん坊たち。
……だが、コイシュナさんだけだ。そして、この部屋で十五、六人の赤ん坊を看ているのはコイシュナさん、ただ一人。
奇妙なのは、赤ん坊たちの姿だった。
肩から下を幅広の手ぬぐいでぐるぐる巻きにされた、その姿。
――そう。
赤ん坊たちが身にまとっているのは、手ぬぐいだ。マイセルやフェルミが、産まれてくる我が子のためにと、ひと針ひと針、心を込めて縫っている、あの柔らかなおくるみではない。
どう見ても、ただの薄い手ぬぐいだ。
肩から下を手ぬぐいで巻かれ、ミノムシだかサナギだかのようになっている赤ん坊たちが、そこに並べられていた。
何より異様だったのが、赤ん坊らしい「あー、うー」などという声も、泣き声も、あまり聞こえてこないということ!
赤ん坊といえば、泣くのが仕事。バスや電車、店の中など、ところ構わず泣くものだろう? 日本にいたときも、たまに見かけたぞ。母親らしき人が、泣く赤ん坊を抱えて、居心地悪そうにしていたのを。ましてこれだけ赤ん坊がいれば、誰かしら泣いていそうなものだ。
それなのに、ここにいる多くの赤ん坊は、泣きもせず、ただ天井を見上げているだけなのだ。身をよじることもなく、服の裾を、手ぬぐいの端をしゃぶるようなそぶりもみせることなく。
弱々しい、わずかな泣き声の合間にときおり聞こえるのは、どこかの赤ん坊が咳き込む音、くしゃみの音。
そして、そんな十五、六人の赤ん坊たちを見守っているのが、コイシュナさん、ただ一人。
そう、ただ一人なんだ。
なんでこんなにもたくさんの乳児を、素人が一人で看ているんだ?
「コイシュナさん、大変っすね。これだけたくさんいたら」
「いえ……! これも、修行ですから」
リファルが、コイシュナのそばのベッドの端に腰を下ろして笑う。
カビの黒いシミだらけの、ベッドに。
「いえいえ、コイシュナさんはよくやってくれています。日に三回もおむつを替えてくれるんですよ。洗濯も大変だというのに」
ダムハイト院長が、笑顔で部屋に入ってきた。
「いえ、先生。赤ちゃんも、その方が気持ちいいと思って……」
「いや、この人数の赤ん坊のおむつを洗うんすか? それはホントに大変だ、ずっとほったらかしだったウチのおふくろに聞かせてやりたいですよ」
「いえいえ、お母さまもお忙しかったのでしょう。現にあなたは立派な青年におなりだ、お母さまの愛の為せるわざです」
三人が談笑するその言葉が、どこか空虚に聞こえた。
分かったんだ。
この、何とも言えない不快なにおいの正体が。
……強いカビ臭、赤ん坊の排泄物、そして、吐瀉物。それらが混じった臭気だったんだ。
嫌な予感がして、手近な赤ん坊を抱き上げてみる。
その体を包む布は、じっとりと湿っていた。思わず顔を近づけると、尿の臭いが強く感じられた。
赤ん坊の下のベッドに手を這わせると、やはりじっとりと濡れていた。
「……なあ、コイシュナさん」
俺は、聞かずにはいられなかった。
「はい! なんでしょうか」
「ここの赤ん坊は、毎日三回、おむつを替えてるのか?」
俺の問いに、コイシュナさんは恥じらうようにして、答えた。
「……はい。前に一緒に働いていたエンジェベルさんには、笑われましたけど」
「笑われた……? それはどういう……」
「言葉も分からない赤ん坊に無駄なことをって」
コイシュナは、恥ずかしそうにもじもじしながら続けた。
「確かにおむつを洗うのは大変ですけど、でも、なんだか、赤ちゃんたちが少しでも濡れたままにしておくより、いいかなって……」
恥ずかしそうに微笑むコイシュナに、にこにこと笑ってねぎらうダムハイト院長。
だが、俺はもう、我慢の限界だった。
……濡れたままにしておくより、いいかな――だって?
変なものを食ったとか、そういうことではなく、純粋に心がねじれるような思いで吐き気を催したのは、これが人生で初めてだったかもしれない。
その無邪気な善意に包まれた、あまりにも深い無知の罪に対する、自分でもおぞましいほどの怒りと悲しみに。
▼ ▽ ▼ ▽ ▼
「自覚がなかったのか? お前、歯を剥き出しにして、今すぐに噛みつこうとするかのような顔だったんだぜ?」
俺をあの部屋から引きずり出したリファルに、また、頭をはたかれる。
あの時――俺はもう少しでコイシュナに飛び掛かるところだった。
リファルが止めていなかったら、間違いなく。
「お前、ホントにやっかいなヤツだな。奥さんのことを少しでも悪く言ったら、そこがどこだか関係なくつかみかかるしよぉ。今度は何が気に食わなかったんだ?」
「あんな……あんなにも悲惨な境遇の子供を、俺は初めて見た」
「悲惨? 悲惨って何がだよ」
リファルが、首をかしげる。
「そりゃ、親に捨てられたってのはかわいそうだと思うけどよ? ああやって養ってもらってんだ。ちゃんと粥も与えられてるみたいだし、第一死んだわけでもねえ。ムラタ、何が悲惨なんだ?」
リファルは、本当に、俺が何を指して悲惨だと言ったのか、その意味が全くつかめていないようだった。
自分でも、そこまで怒りを掻き立てる自分を、奇妙だと思う。
だが、あの時を思い出すのだ。
大学で知った、もはや還れぬあの世界の矛盾――東南アジアでストリートチルドレンを保護してまわっていたというNGOの方々がみせた、あの画像の数々。
売春宿で撮影されたという子供たちに突き立てられた、数々の性病の痕跡。
先進国の男たちの下衆な欲望のはけ口として生きる、東南アジアの幼い少女たち。
それを知った時に感じた世界の理不尽さを、何も知らなかった自分への慄きや怒り。今にして思えば、まだ大学二回生――十九歳だった自分は、本当に青臭かったと思う。
けれど、そのとき以上の怒り――あの瞬間、それが、腹の底から吹き上げようとしていた。
窓辺で、生まれてくる子供のためのおむつを縫うマイセルの微笑みが、
子を諦めていたからこそ、それを授かったことを喜ぶフェルミの涙が、
俺を父親にしてくれる二人の思いが、俺に怒りをもたらしたのだろう。
「……よく、分からねえけどよ。落ち着けって」
「ああ、落ち着いてるよ。お前がここまで引きずってきてくれたおかげでな」
「どこがだ。また噛みつきに行きそうな顔をしやがって」
「……痛いな、おい」
またしても頭をはたくリファルの頭を、俺もはたき返す。
だが、おかげで冷静になれた。
そして改めて現実を理解した。
そう、昨日、リトリィに抱かれながら、予想し、慄きつつも出した答え。
――拾われた子供たちと同じような数だけ、死んでゆく子供たちがいる……!
プラスマイナスの収支が、そこそこにつりあってしまっているからこそ、孤児院は運営できてしまっているのだと……‼
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