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第五部 異世界建築士と子供たちの楽園
第588話:楽園の虚像(5/8)
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走り出したハフナンを止めようとした時には、もう遅かった。
ドアの鍵は壊れていたのか、それとも彼の体当たりで壊れてしまうほど傷んでいたのか。
ハフナンはドアノブに手をかけることすらなく腐ったドアに体当たりを敢行。ドアはあっさりと開いてしまい、彼の体は建物の中に消えてしまったのだ。
「ばっ……! あの野郎、ファルツヴァイよりよっぽど気が短いじゃねえか!」
リヒテルが慌てて駆け出す。
俺もリヒテルの後を追いかけた。今日は情報収集だけって決めていたのに!
「なんだてめえら!」
部屋に飛び込むと、筋骨たくましい半裸の男が、腰に飛びついているハフナンの頭に拳を振り下ろしているところだった。
たまらずハフナンの体が崩れ落ちる。
「てめぇ!」
リファルがいつの間に、どこに持っていたのか、木槌を構えてそのままフルスイング!
木槌は狙ったのかそれとも偶然だったのか、マッチョ男の右腕のひじに見事命中!
男は奇妙な悲鳴を上げると、右ひじを抱え込むようにして背中を丸めた。ナイスだリファル!
俺はそれを横目で見ながら、いまだに少女の頭をつかんで股間に押し付けている背の曲がった男に向けて走る!
「な、なんだニお前らは! この前の赤髪のガキといい、お前らといい……!」
すべてを言わせる時間も惜しい。俺は、リトリィが俺だけのために鍛えてくれたナイフを鞘ごと腰から外し、そのまま柄でぶん殴る!
金槌代わりに使えるように鉄心を入れた柄だ。そいつを肩に食らった背曲がり男は、これまた情けない悲鳴を上げて仰向けに転倒する。
にもかかわらず、奴は股間を抑えてうめいた。どうやら俺がぶん殴った際の衝撃で、少女の歯に当たってしまったようだ。肩よりもそっちかよ。
……まあ、そいつが痛いのは、俺も身をもって理解してるよ。歯が当たると痛いよな。リトリィなんか歯が尖ってるから、何かあったときにはホント痛いんだよ。うん、同じ男として、よく分かるぞ?
「だが、もう使う必要ないからな? そんな傷み、二度と味わうことなんてないぞ。よかった──なぁッ!」
ぼぐ。
俺の、最堅と名高い樫の木で作った保護材で補強された、マイセルお手製の安全靴の一撃だ。打撃力は保証するぞ!
案の定、股間を抑えていた指ごと男の尊厳を粉砕された背曲がりクソ野郎は、白目をむいてびくんびくんと痙攣したまま、動きを止めた。男の沈黙を確認した俺は、リファルの方を振り返る。
するとリファルも、マッチョ男の股間を蹴り飛ばすところだった。奴の靴も、俺の安全靴の真似をして、足の甲からつま先まで、木製の保護具を入れてあるんだよな。
安全靴って、落下物からつま先を保護するための靴だぞ? 暴力を振るう時に自分だけ安全を確保するための靴、なんて意味じゃないんだからな?
「お前が言うな!」
「で、ムラタ。どうすんだ、こいつら」
彼らの腕を、彼ら自身の服で縛り上げた俺は、正直言うと、この先の展開に困っていた。
今日はあくまでも情報収集の日、直接ぶちのめすことは計画外だったからだ。
「そうだな。リヒテルは酷い怪我を負わされた上に、そこの排水路のところに捨てられて、それでああなっちまったからな……」
俺の言葉に、背曲がり男がびくりと体をすくませた。
「リヒテルがあんな酷い目に遭わされたんです! だったら同じ目に遭わしてやりましょうよ!」
ハフナンが叫んだ。
「僕らの仲間をあんな目に遭わせたうえに、女の子にもこんなに酷いことをしたんです! 自分たちがどんなことをしたのか、少しは理解させてやればいいんだ!」
恨みのこもった彼の言葉に、さらに身をすくませる背曲がり男。
「なんだと、このクソガキが! てめえら、こんなことしてタダで済むと思うなよ!」
マッチョ男のほうが、唾を吐き、目を向いて威嚇してくる。だが、後ろ手に縛られ足も縛られ、ついでにその縛られた手と足を繋いで縛られているマッチョ男がいかにえびぞりになって叫ぼうとも、怖くもない。こんな奴に比べたら、ナリクァン夫人の淡々とした「体を小さく切り刻む」発言のほうが何倍も背筋が凍った。
「てめえらの顔は覚えたからな! 次に会ったら、体中切り刻んで『今すぐ殺してください』って言いたくなるような目に遭わせてやるからな!」
「ふうん? お前、そんなこと言っていいのか?」
戦慄の夜を思い出す。
「お前、『遠耳のインテレーク』って冒険者、知ってるか?」
「あ? 知るかバカ!」
「今お前が言った、体中切り刻まれて、細切れになって死んでいった冒険者だよ」
奴隷商人に雇われた連中によって殺された冒険者、インテレーク。
俺はその最期を知っている。最後の最後まで情報を吐くことなく死んでいった、彼の最期を。
「その冒険者、なんでそうなったか、お前、分かるか?」
俺は、すらりとナイフを抜いた。
「俺も死にたくないからさ」
えびぞり男の目の前にしゃがみ込む。
えびぞり男の動きが止まった。
目を皿のように見開いて、俺を見つめる。
その額に、脂汗が滲み始めた。
「……て、てめえ、まさか……」
インテレークは、対峙した賊の喉笛を一瞬で掻っ切って倒した。
天井まで血を吹き上げて、賊は助けを呼ぶ間もなく、事切れた。
「人間って、案外、簡単に死ぬんだよな」
あの恐ろしい瞬間。
冒険者とはつまり、そういう職業なんだと思い知らされた一瞬。
「お前が俺たちに報復するって言うなら、報復できないようにしないとな。そうしないと、俺たちが安心して生活できない」
トン──
腐りかけの床に、リトリィが丹精込めて鍛えてくれたナイフは簡単に突き刺さった。
倒れることなく、そのナイフは床に屹立する。
「いいナイフだろう? とてもよく切れるんだ。鍛冶師の妻が、俺のためにって鍛えてくれた品でさ。そのインテレークって冒険者も、俺から奪い取ろうとしたくらいの銘品なんだ」
あの時は、今と立場が逆だった。押さえ込まれた俺と、俺から奪い取ったナイフを弄ぶインテレーク。
冒険者たちとの出会いは本当に酷いものだった。
「て、てめえ! だからそいつを殺したってのか……ぼ、冒険者を……!」
「……そう、だな。俺が殺したようなものだな」
俺と二人で組んで奴隷商人の本拠地に乗り込んだインテレーク。
今考えれば非常に怪しかったあの少女の誘いに乗った彼は、ただの一般人である俺を後方確保としてその場に待機させ、あえて死地に飛び込んだ。
そして、切り刻まれて死んだ。
もし、素直に俺のことを含めた情報を吐いていれば、少なくともあんな死に様を晒すことはなかったかもしれない。
……インテレークは、俺が殺したようなものだ。
「ほ、本当に冒険者をやりやがったのか⁉ ぎ、ギルドの報復が──!」
「報復? 俺が? そんなものをちらつかせて、俺が怖がると思うのか?」
報復なんてあるものか。むしろ凱旋パレードの主役のひとりとして、二階建て馬車に乗せられて恥辱のひとときを強要されたくらいだ。ギルドの宣伝になるからと言って。リトリィは、俺の隣でずっと嬉しそうにしていたけどな。
仲間の死は、酒で乗り越える。いつの日か自分もそうなる覚悟のもとで、酒に流して忘れる。それが、俺の目撃した冒険者の在り方だった。
ところが、マッチョ男は顔じゅうから脂汗を流しながら、震える声で叫んだ。
「な、なんてヤツなんだ……狂ってやがる!」
「人生の歯車が狂った奴に言われたくないな」
「お、オレを殺すのか⁉」
「何を言っているんだ。それはお前のセリフだったろう? 今度会ったら俺たちを細切れにするとかなんとか……。俺は平和に暮らしたいんだ」
そう言って、自分が突き立てたナイフを引き抜いた。
錆止め加工のための漆黒の刀身は、リトリィがくれたときからずっと、変わらない美しさを保っている。
このナイフは、抜いてはみせたけれどあくまでも日用品。リトリィが鍛えてくれたナイフを、それ以外の使い方なんて本当はしたくないんだ。
「ひいっ⁉」
マッチョ男は、ガタイに似合わぬ情けない悲鳴を上げる。なぜそこで悲鳴なんだ、俺は平和に暮らしたいと言っただけだぞ?
「……ま、目には目を、歯には歯を、なんて言葉もある。やられたらやり返す、お前の言葉にも一分の理はあるだろう。でもそれは──」
刃の先端、その数ミリメートルだけが銀色に輝くその漆黒の刀身に、錆や曇りがないかを確認しながら言うと、男はびくんびくんとえびぞりに踊りながら必死に訴えてきた。
「ま、待て! 分かった、取引しよう!」
「……取引だと?」
「お、オレは二度とお前に関わらねえ! 街で会っても、お前はもちろん、お前の仲間にも、まして家族にも、絶対に手を出さねえ!」
何を言い出すんだこいつは。
どうして急に、そういう話になるんだ?
「何を言っているかさっぱり分からないな。俺が望むのは──」
「ま、待ってくれ! この通りだ! アンタのことは黙ってる! 絶対に誰にも言わねえ! ほかのヤツに襲わせたりもしねえよ! ほ、ホントだ! 神に誓ったっていい!」
めいっぱい体を反らせるようにして、男は訴え続けた。
「オレは今日、ひさしぶりにそこの女とヤッただけで、アンタの仲間なんて知らねえんだ! ウソじゃねえ! 前の歌唱隊の時は、シューヴァンのブタ野郎だった! もし、アンタの仲間をヤッたっていうならそいつだ!」
「シューヴァン?」
「用心棒仲間の、一番のデブ野郎だ!」
デブ野郎……さっき、ウカートが『お話』した奴か?
「そ、そいつはしょっちゅう、いろんなガキに手を出すんだ! でもオレは、ちゃんとそこのヤツにしか手を出してねえ! ホントだ! ソイツはダンナがオレたちがいつでも使えるようにって当てがった共用便所で──」
──男は沈黙した。
「……ムラタ、お前、突然キレるのいい加減にやめろよ」
ドアの鍵は壊れていたのか、それとも彼の体当たりで壊れてしまうほど傷んでいたのか。
ハフナンはドアノブに手をかけることすらなく腐ったドアに体当たりを敢行。ドアはあっさりと開いてしまい、彼の体は建物の中に消えてしまったのだ。
「ばっ……! あの野郎、ファルツヴァイよりよっぽど気が短いじゃねえか!」
リヒテルが慌てて駆け出す。
俺もリヒテルの後を追いかけた。今日は情報収集だけって決めていたのに!
「なんだてめえら!」
部屋に飛び込むと、筋骨たくましい半裸の男が、腰に飛びついているハフナンの頭に拳を振り下ろしているところだった。
たまらずハフナンの体が崩れ落ちる。
「てめぇ!」
リファルがいつの間に、どこに持っていたのか、木槌を構えてそのままフルスイング!
木槌は狙ったのかそれとも偶然だったのか、マッチョ男の右腕のひじに見事命中!
男は奇妙な悲鳴を上げると、右ひじを抱え込むようにして背中を丸めた。ナイスだリファル!
俺はそれを横目で見ながら、いまだに少女の頭をつかんで股間に押し付けている背の曲がった男に向けて走る!
「な、なんだニお前らは! この前の赤髪のガキといい、お前らといい……!」
すべてを言わせる時間も惜しい。俺は、リトリィが俺だけのために鍛えてくれたナイフを鞘ごと腰から外し、そのまま柄でぶん殴る!
金槌代わりに使えるように鉄心を入れた柄だ。そいつを肩に食らった背曲がり男は、これまた情けない悲鳴を上げて仰向けに転倒する。
にもかかわらず、奴は股間を抑えてうめいた。どうやら俺がぶん殴った際の衝撃で、少女の歯に当たってしまったようだ。肩よりもそっちかよ。
……まあ、そいつが痛いのは、俺も身をもって理解してるよ。歯が当たると痛いよな。リトリィなんか歯が尖ってるから、何かあったときにはホント痛いんだよ。うん、同じ男として、よく分かるぞ?
「だが、もう使う必要ないからな? そんな傷み、二度と味わうことなんてないぞ。よかった──なぁッ!」
ぼぐ。
俺の、最堅と名高い樫の木で作った保護材で補強された、マイセルお手製の安全靴の一撃だ。打撃力は保証するぞ!
案の定、股間を抑えていた指ごと男の尊厳を粉砕された背曲がりクソ野郎は、白目をむいてびくんびくんと痙攣したまま、動きを止めた。男の沈黙を確認した俺は、リファルの方を振り返る。
するとリファルも、マッチョ男の股間を蹴り飛ばすところだった。奴の靴も、俺の安全靴の真似をして、足の甲からつま先まで、木製の保護具を入れてあるんだよな。
安全靴って、落下物からつま先を保護するための靴だぞ? 暴力を振るう時に自分だけ安全を確保するための靴、なんて意味じゃないんだからな?
「お前が言うな!」
「で、ムラタ。どうすんだ、こいつら」
彼らの腕を、彼ら自身の服で縛り上げた俺は、正直言うと、この先の展開に困っていた。
今日はあくまでも情報収集の日、直接ぶちのめすことは計画外だったからだ。
「そうだな。リヒテルは酷い怪我を負わされた上に、そこの排水路のところに捨てられて、それでああなっちまったからな……」
俺の言葉に、背曲がり男がびくりと体をすくませた。
「リヒテルがあんな酷い目に遭わされたんです! だったら同じ目に遭わしてやりましょうよ!」
ハフナンが叫んだ。
「僕らの仲間をあんな目に遭わせたうえに、女の子にもこんなに酷いことをしたんです! 自分たちがどんなことをしたのか、少しは理解させてやればいいんだ!」
恨みのこもった彼の言葉に、さらに身をすくませる背曲がり男。
「なんだと、このクソガキが! てめえら、こんなことしてタダで済むと思うなよ!」
マッチョ男のほうが、唾を吐き、目を向いて威嚇してくる。だが、後ろ手に縛られ足も縛られ、ついでにその縛られた手と足を繋いで縛られているマッチョ男がいかにえびぞりになって叫ぼうとも、怖くもない。こんな奴に比べたら、ナリクァン夫人の淡々とした「体を小さく切り刻む」発言のほうが何倍も背筋が凍った。
「てめえらの顔は覚えたからな! 次に会ったら、体中切り刻んで『今すぐ殺してください』って言いたくなるような目に遭わせてやるからな!」
「ふうん? お前、そんなこと言っていいのか?」
戦慄の夜を思い出す。
「お前、『遠耳のインテレーク』って冒険者、知ってるか?」
「あ? 知るかバカ!」
「今お前が言った、体中切り刻まれて、細切れになって死んでいった冒険者だよ」
奴隷商人に雇われた連中によって殺された冒険者、インテレーク。
俺はその最期を知っている。最後の最後まで情報を吐くことなく死んでいった、彼の最期を。
「その冒険者、なんでそうなったか、お前、分かるか?」
俺は、すらりとナイフを抜いた。
「俺も死にたくないからさ」
えびぞり男の目の前にしゃがみ込む。
えびぞり男の動きが止まった。
目を皿のように見開いて、俺を見つめる。
その額に、脂汗が滲み始めた。
「……て、てめえ、まさか……」
インテレークは、対峙した賊の喉笛を一瞬で掻っ切って倒した。
天井まで血を吹き上げて、賊は助けを呼ぶ間もなく、事切れた。
「人間って、案外、簡単に死ぬんだよな」
あの恐ろしい瞬間。
冒険者とはつまり、そういう職業なんだと思い知らされた一瞬。
「お前が俺たちに報復するって言うなら、報復できないようにしないとな。そうしないと、俺たちが安心して生活できない」
トン──
腐りかけの床に、リトリィが丹精込めて鍛えてくれたナイフは簡単に突き刺さった。
倒れることなく、そのナイフは床に屹立する。
「いいナイフだろう? とてもよく切れるんだ。鍛冶師の妻が、俺のためにって鍛えてくれた品でさ。そのインテレークって冒険者も、俺から奪い取ろうとしたくらいの銘品なんだ」
あの時は、今と立場が逆だった。押さえ込まれた俺と、俺から奪い取ったナイフを弄ぶインテレーク。
冒険者たちとの出会いは本当に酷いものだった。
「て、てめえ! だからそいつを殺したってのか……ぼ、冒険者を……!」
「……そう、だな。俺が殺したようなものだな」
俺と二人で組んで奴隷商人の本拠地に乗り込んだインテレーク。
今考えれば非常に怪しかったあの少女の誘いに乗った彼は、ただの一般人である俺を後方確保としてその場に待機させ、あえて死地に飛び込んだ。
そして、切り刻まれて死んだ。
もし、素直に俺のことを含めた情報を吐いていれば、少なくともあんな死に様を晒すことはなかったかもしれない。
……インテレークは、俺が殺したようなものだ。
「ほ、本当に冒険者をやりやがったのか⁉ ぎ、ギルドの報復が──!」
「報復? 俺が? そんなものをちらつかせて、俺が怖がると思うのか?」
報復なんてあるものか。むしろ凱旋パレードの主役のひとりとして、二階建て馬車に乗せられて恥辱のひとときを強要されたくらいだ。ギルドの宣伝になるからと言って。リトリィは、俺の隣でずっと嬉しそうにしていたけどな。
仲間の死は、酒で乗り越える。いつの日か自分もそうなる覚悟のもとで、酒に流して忘れる。それが、俺の目撃した冒険者の在り方だった。
ところが、マッチョ男は顔じゅうから脂汗を流しながら、震える声で叫んだ。
「な、なんてヤツなんだ……狂ってやがる!」
「人生の歯車が狂った奴に言われたくないな」
「お、オレを殺すのか⁉」
「何を言っているんだ。それはお前のセリフだったろう? 今度会ったら俺たちを細切れにするとかなんとか……。俺は平和に暮らしたいんだ」
そう言って、自分が突き立てたナイフを引き抜いた。
錆止め加工のための漆黒の刀身は、リトリィがくれたときからずっと、変わらない美しさを保っている。
このナイフは、抜いてはみせたけれどあくまでも日用品。リトリィが鍛えてくれたナイフを、それ以外の使い方なんて本当はしたくないんだ。
「ひいっ⁉」
マッチョ男は、ガタイに似合わぬ情けない悲鳴を上げる。なぜそこで悲鳴なんだ、俺は平和に暮らしたいと言っただけだぞ?
「……ま、目には目を、歯には歯を、なんて言葉もある。やられたらやり返す、お前の言葉にも一分の理はあるだろう。でもそれは──」
刃の先端、その数ミリメートルだけが銀色に輝くその漆黒の刀身に、錆や曇りがないかを確認しながら言うと、男はびくんびくんとえびぞりに踊りながら必死に訴えてきた。
「ま、待て! 分かった、取引しよう!」
「……取引だと?」
「お、オレは二度とお前に関わらねえ! 街で会っても、お前はもちろん、お前の仲間にも、まして家族にも、絶対に手を出さねえ!」
何を言い出すんだこいつは。
どうして急に、そういう話になるんだ?
「何を言っているかさっぱり分からないな。俺が望むのは──」
「ま、待ってくれ! この通りだ! アンタのことは黙ってる! 絶対に誰にも言わねえ! ほかのヤツに襲わせたりもしねえよ! ほ、ホントだ! 神に誓ったっていい!」
めいっぱい体を反らせるようにして、男は訴え続けた。
「オレは今日、ひさしぶりにそこの女とヤッただけで、アンタの仲間なんて知らねえんだ! ウソじゃねえ! 前の歌唱隊の時は、シューヴァンのブタ野郎だった! もし、アンタの仲間をヤッたっていうならそいつだ!」
「シューヴァン?」
「用心棒仲間の、一番のデブ野郎だ!」
デブ野郎……さっき、ウカートが『お話』した奴か?
「そ、そいつはしょっちゅう、いろんなガキに手を出すんだ! でもオレは、ちゃんとそこのヤツにしか手を出してねえ! ホントだ! ソイツはダンナがオレたちがいつでも使えるようにって当てがった共用便所で──」
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