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第六部 異世界建築士とよろこびのうた
第623話:日本ではよくあること
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妙に鳥の騒ぐ朝、抜けるような快晴の空。
さんさんと降り注ぐ陽光の中、浴室小屋の工事は順調に進んでいた。
「監督! いきますよ!」
「ああ、持ち上げてくれ!」
「せー、のッ!」
マレットさんから借りてきたヒヨッコチームと声を合わせて、床の上で作った一枚壁の外壁を、外に向けて一気に立てる!
個人的に、木造枠組壁構法──いわゆるツーバイフォーと呼ばれる建て方の、一番の醍醐味だと思っている瞬間だ。
日本の主流は、木造軸組構法とよばれる、垂直の柱、水平の梁を先に組み上げて屋根をつけてから壁を取り付ける建て方だ。在来工法とも呼ばれていて、現在の日本の家の建て方のうち、約八〇パーセントがこの方法である。
家の骨組みを作ってから壁をこしらえていくこの方法は、現在、家の規模や投入する重機・人材にもよるけれど、一日で屋根まで組み上げてしまうこともできる。
屋根の一番高いところを支える横木を「棟木」というが、これを組み上げることを「棟上げ」と呼ぶ。一般的な家屋建築のハイライトだ。
「監督! 今回は上棟式、さすがに無しですよねえ」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって、ここ、お風呂専用の小屋なんでしょ?」
「上棟式」──棟上げの際に、これまでの作業の無事を感謝し、今後の作業の無事を祈る会が開かれる、神事の一種だ。
日本の場合、伝統や格式を重んじる施主さんは、ちゃんと神主さんを呼んで、酒や餅、山の幸や海の幸などのお供え物をして清めの儀式をする。
最近はそういうのを面倒がる施主さんが増えて、本格的な上棟式を行う施主さんはずいぶんと減ったものだけれど。
「……え? 監督、こんな小さな小屋でも上棟式、やるんですか?」
「施主が俺だから、特別に誰かを呼ぶわけじゃないが、やるぞ。建築関係者が、建築関係の神事をおろそかにするわけがないだろう」
ヒヨッコたちは顔を見合わせ、そしてきらっきらに目を輝かせ始める。
「じゃあ、そのときは僕たちも呼んでくださいよ! ごちそう、出るんでしょ?」
「馬鹿、お前らは作業員として俺と一緒に棟上げをやるんだよ! こき使ってやるから覚悟しとけ」
「ええーっ! ごちそうは⁉」
「たっぷり食わせてやるから、そっちも覚悟しとけ」
「やったあっ!」
ヒヨッコたちの一人が、飛び上がるほど喜んでみせる。エイホルだ。
「監督の奥さんたち、すごいんだよ! ごはん、すっごく美味しいんだ!」
エイホルは、今の家を建てる時にも参加していたチビで、成功した釘よりひん曲げた釘のほうが多いくらいのとんでもないド新人だった。あれからずいぶんと成長したようで、道具の使い方もさまになっている。
今回、マレットさんが寄こした新人たちの引率の真似事みたいなことをしているようだ。人は成長するもんだな。
エイホルのことはともかく、じつは上棟式のような儀式は、日本固有のものではない。例えば欧米にも「トッピングアウト」というものがある。日本とは当然作法は違うものの、やはり家のてっぺんになる棟上げの際に、お供え物をして、神への感謝や祈りを捧げるものだ。
で、この世界にも似たような儀式はあったから、今住んでいる家を建てる時には、もちろんやった。人が神を天に抱く以上、こうした儀式は、どこでも、どんな世界でも、自然発生的に生まれるんだろう。
だから、「無料飯が食える会」なんて認識で参加されてはたまらない。少し釘を刺しておくことにしよう。
「お前ら、言っとくが、あくまでも神事をおろそかにしないってだけで、派手に昼食会をするのはあくまでも上棟式の一部であってだな……」
「ムラタさんの棟《むね》上げっつったら、結構チカラ入ってたからな。みんな、エイホルじゃねえけど美味いもんが食えるぞ、楽しみにしてようぜ!」
レルフェン、お前、話聞けよ! ていうかせめて俺のことは監督って呼べよ!
それはともかく、棟上げは、一つの区切りだ。そこまでいけば、家のシルエットが明らかになる。施主さんによっては、感慨深さのあまり涙がこぼれるという人もいるくらいだ。
だから「棟上げ」は、建築に携わる人間──俺にとっても特別なものだ。これまでの準備が実った瞬間であり、家の完成に向けて決意を新たにする瞬間だ。
今回の小屋は入浴に使うだけの小さなものだが、それでもおろそかにはしたくない。
木造枠組壁構法は土台、床、壁、最後に屋根と組み上げていくので、本来の意味の棟上げとは工程もあり方も違う。それでも、これまでの無事への感謝と今後の安全への祈りを捧げる場は設けたいと思う。
「よし、この調子だ。次の壁、行くぞ! 棟上げのときに美味いものが食いたいんなら、魂こめろよ!」
「はいっ!」
そうやって、最後の壁を立てていた時だった。
「……え?」
「な、なんだ、これ……?」
ヒヨッコたちが、ひどくうろたえ始める。
俺も、懐かしさすら覚えるこの感覚をとらえていた。
「全員、すぐに持ち場を離れろっ! ここは幸い外だ、広場のほうに走れ!」
「え? で、でも、立てた壁は……」
「ほっとけ! 家は後で何とでもなるが命はなんともならないっ! 走れ! コラ、走れっつってんだろうがっ!」
蹴り飛ばす勢いでヒヨッコどもを広場に走らせる!
広場の人々の反応はばらばらだった。
気づいて不安そうにあたりを見回している人もいれば、まったく気づいていない人もいる。
気づいてから、時間にして十秒も経っていないころだったろうか。
震える地面、かたかたと鳴る窓。
ヒヨッコたちの最後の一人が家の庭を出ようとした、まさにその瞬間だった。
ドンッ!
「……来た!」
俺はヒヨッコたちに、姿勢を低くするように言う。
「ひいっ!」
「な、なに、なんだこれっ⁉」
「地面が……地面が揺れてるっ!」
恐怖に満ちた声で、てんでに叫ぶヒヨッコたち。
広場の方はもっと悲惨だった。
「こ、この世の終わりが来たのか⁉」
「かっ、神よ!」
声にならない悲鳴に混じって、何が起きているのか理解できず、神に助けを求める叫び声が広場に満ちる。
「か、監督っ! 助けてくださいっ!」
「お、オレたち、死んじゃうんすか⁉」
「大丈夫だ。ここは周りに何もない。こんなもので俺たちは死なない。驚いた騎鳥や馬が暴れて轢かれるようなことにならなきゃ大丈夫」
すでに涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔のレルフェンの背中をぽんぽんと撫でてやりながら、冗談まじりの言葉で安心させるよう努力する。
地面の揺れはまだ続いている。最初の大きな揺れだけは、震度にして三~四あるかないか、といったところだったろうか。あとは震度三、といったところだ。日本ではよくあることだ。
「大丈夫だ。もうすぐ終わる。この程度なら、家に被害なんてないさ。少なくとも俺の建てる家は絶対にびくともしない。絶対にだ。見てみろ」
そう言って、我が家を指差す。
瓦も含め、家はまったくの無事だった。
そりゃそうだ。この世界で手に入る素材で作らざるを得なかったとはいえ、耐震基準なら世界一ともいえる日本で家を建ててきた俺だ。震度三程度でどうにかなってしまうような、やわな家づくりなんてしていない。二級建築士をナメるなよ!
地震はすぐに揺れが小さくなっていった。体感時間で二十秒もない、といったところだっただろう。
「ま、こんなもんだろうな」
俺はまだかすかに揺れるなか、立ち上がって周りを見回した。
広場はカオスのようなありさまで、泣き叫び、天を仰いで神々に許しを請う人々であふれている。
頭を抱えてうずくまっているヒヨッコたちも、立とうともしない。
「お前たち、もう大丈夫だ」
そう言ったら、少しだけまた揺れて、ヒヨッコたちがさらに悲鳴を上げる。
「な、なにが大丈夫なんですかあっ!」
「か、神様、許してくださいっ! もう釘をちょろまかしたりしません!」
いま、少し揺れたといっても震度二程度だろうに、なぜそこまで恐れるのかが分からない。
「か、監督はどうしてそんな平気なんですかっ!」
「地震なんてただの自然現象だ。一度大きく揺れたら、あとはもう大丈夫」
「そ、そんなの分からないじゃないですかあっ!」
「大丈夫だ。さっきみたいな揺れは、もうしばらくは起こらない」
「なんでそんなことが……!」
「大丈夫だ。俺を信じろ」
震度三程度の地震なんて、俺のような日本人にとっては慣れたものだ。
それに対して、このヒヨッコたちや、今も大騒ぎをしている広場の人々の、大袈裟な反応ぶり。この世界の住人にとっては、世界の終わりを想起させるくらいの天変地異なのかもしれない。
「やれやれ、震度三くらいで……」
ぼやきかけた俺は、「……お前ら、耳をふさげ」と、絶望しながらつぶやいた。
エイホルが「……えっ?」とつぶやいたのと、せっかく立てた最後の壁が、花がしぼむように元の床に倒れる派手な音が響くのとが、同時だった。
壁を立てただけで、固定する間もなく逃げてきたのだ。しょうがないと言えばしょうがない。まあ、綺麗に倒れてくれたから、板材のゆがみなどがなければ、そのまま立て直すことができそうなのが救いだが。
改めてぐるりと周りを見渡すと、さすがに震度三程度でどうにかなっている家はない様子だったが、市場の方は大混乱が続いている。ひっくり返っている屋台もあるようだ。
「……か、監督?」
「もう大丈夫だと言っただろう? こういう時は落ち着くのが一番だ。あれを見ろ」
「……うわぁ」
ヒヨッコどもは、大パニックが続いている広場を見て、ため息を漏らした。
震度三程度で屋台がひっくり返るなんてまず考えられない。逃げ惑う人々がぶつかったかなにかしたせいだろう。震災というより、自身の経験も、防災訓練の経験もない人々のパニックによる人災だな。お気の毒なことだ。
「落ち着かないと、ああなる」
「ああ、なる……」
「お前たちは怖がりこそしたが、暴れたりせずちゃんと落ち着いていられた。よくやった。さあ、仕事だ仕事。今日はあとで晩飯を食わせてやるからな」
そう言って手を叩いてみせると、率先して現場に戻る。
背後から、レルフェンの声が聞こえてきた。
「……監督、実はすげえ人だったんだな」
さんさんと降り注ぐ陽光の中、浴室小屋の工事は順調に進んでいた。
「監督! いきますよ!」
「ああ、持ち上げてくれ!」
「せー、のッ!」
マレットさんから借りてきたヒヨッコチームと声を合わせて、床の上で作った一枚壁の外壁を、外に向けて一気に立てる!
個人的に、木造枠組壁構法──いわゆるツーバイフォーと呼ばれる建て方の、一番の醍醐味だと思っている瞬間だ。
日本の主流は、木造軸組構法とよばれる、垂直の柱、水平の梁を先に組み上げて屋根をつけてから壁を取り付ける建て方だ。在来工法とも呼ばれていて、現在の日本の家の建て方のうち、約八〇パーセントがこの方法である。
家の骨組みを作ってから壁をこしらえていくこの方法は、現在、家の規模や投入する重機・人材にもよるけれど、一日で屋根まで組み上げてしまうこともできる。
屋根の一番高いところを支える横木を「棟木」というが、これを組み上げることを「棟上げ」と呼ぶ。一般的な家屋建築のハイライトだ。
「監督! 今回は上棟式、さすがに無しですよねえ」
「どうしてそう思うんだ?」
「だって、ここ、お風呂専用の小屋なんでしょ?」
「上棟式」──棟上げの際に、これまでの作業の無事を感謝し、今後の作業の無事を祈る会が開かれる、神事の一種だ。
日本の場合、伝統や格式を重んじる施主さんは、ちゃんと神主さんを呼んで、酒や餅、山の幸や海の幸などのお供え物をして清めの儀式をする。
最近はそういうのを面倒がる施主さんが増えて、本格的な上棟式を行う施主さんはずいぶんと減ったものだけれど。
「……え? 監督、こんな小さな小屋でも上棟式、やるんですか?」
「施主が俺だから、特別に誰かを呼ぶわけじゃないが、やるぞ。建築関係者が、建築関係の神事をおろそかにするわけがないだろう」
ヒヨッコたちは顔を見合わせ、そしてきらっきらに目を輝かせ始める。
「じゃあ、そのときは僕たちも呼んでくださいよ! ごちそう、出るんでしょ?」
「馬鹿、お前らは作業員として俺と一緒に棟上げをやるんだよ! こき使ってやるから覚悟しとけ」
「ええーっ! ごちそうは⁉」
「たっぷり食わせてやるから、そっちも覚悟しとけ」
「やったあっ!」
ヒヨッコたちの一人が、飛び上がるほど喜んでみせる。エイホルだ。
「監督の奥さんたち、すごいんだよ! ごはん、すっごく美味しいんだ!」
エイホルは、今の家を建てる時にも参加していたチビで、成功した釘よりひん曲げた釘のほうが多いくらいのとんでもないド新人だった。あれからずいぶんと成長したようで、道具の使い方もさまになっている。
今回、マレットさんが寄こした新人たちの引率の真似事みたいなことをしているようだ。人は成長するもんだな。
エイホルのことはともかく、じつは上棟式のような儀式は、日本固有のものではない。例えば欧米にも「トッピングアウト」というものがある。日本とは当然作法は違うものの、やはり家のてっぺんになる棟上げの際に、お供え物をして、神への感謝や祈りを捧げるものだ。
で、この世界にも似たような儀式はあったから、今住んでいる家を建てる時には、もちろんやった。人が神を天に抱く以上、こうした儀式は、どこでも、どんな世界でも、自然発生的に生まれるんだろう。
だから、「無料飯が食える会」なんて認識で参加されてはたまらない。少し釘を刺しておくことにしよう。
「お前ら、言っとくが、あくまでも神事をおろそかにしないってだけで、派手に昼食会をするのはあくまでも上棟式の一部であってだな……」
「ムラタさんの棟《むね》上げっつったら、結構チカラ入ってたからな。みんな、エイホルじゃねえけど美味いもんが食えるぞ、楽しみにしてようぜ!」
レルフェン、お前、話聞けよ! ていうかせめて俺のことは監督って呼べよ!
それはともかく、棟上げは、一つの区切りだ。そこまでいけば、家のシルエットが明らかになる。施主さんによっては、感慨深さのあまり涙がこぼれるという人もいるくらいだ。
だから「棟上げ」は、建築に携わる人間──俺にとっても特別なものだ。これまでの準備が実った瞬間であり、家の完成に向けて決意を新たにする瞬間だ。
今回の小屋は入浴に使うだけの小さなものだが、それでもおろそかにはしたくない。
木造枠組壁構法は土台、床、壁、最後に屋根と組み上げていくので、本来の意味の棟上げとは工程もあり方も違う。それでも、これまでの無事への感謝と今後の安全への祈りを捧げる場は設けたいと思う。
「よし、この調子だ。次の壁、行くぞ! 棟上げのときに美味いものが食いたいんなら、魂こめろよ!」
「はいっ!」
そうやって、最後の壁を立てていた時だった。
「……え?」
「な、なんだ、これ……?」
ヒヨッコたちが、ひどくうろたえ始める。
俺も、懐かしさすら覚えるこの感覚をとらえていた。
「全員、すぐに持ち場を離れろっ! ここは幸い外だ、広場のほうに走れ!」
「え? で、でも、立てた壁は……」
「ほっとけ! 家は後で何とでもなるが命はなんともならないっ! 走れ! コラ、走れっつってんだろうがっ!」
蹴り飛ばす勢いでヒヨッコどもを広場に走らせる!
広場の人々の反応はばらばらだった。
気づいて不安そうにあたりを見回している人もいれば、まったく気づいていない人もいる。
気づいてから、時間にして十秒も経っていないころだったろうか。
震える地面、かたかたと鳴る窓。
ヒヨッコたちの最後の一人が家の庭を出ようとした、まさにその瞬間だった。
ドンッ!
「……来た!」
俺はヒヨッコたちに、姿勢を低くするように言う。
「ひいっ!」
「な、なに、なんだこれっ⁉」
「地面が……地面が揺れてるっ!」
恐怖に満ちた声で、てんでに叫ぶヒヨッコたち。
広場の方はもっと悲惨だった。
「こ、この世の終わりが来たのか⁉」
「かっ、神よ!」
声にならない悲鳴に混じって、何が起きているのか理解できず、神に助けを求める叫び声が広場に満ちる。
「か、監督っ! 助けてくださいっ!」
「お、オレたち、死んじゃうんすか⁉」
「大丈夫だ。ここは周りに何もない。こんなもので俺たちは死なない。驚いた騎鳥や馬が暴れて轢かれるようなことにならなきゃ大丈夫」
すでに涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔のレルフェンの背中をぽんぽんと撫でてやりながら、冗談まじりの言葉で安心させるよう努力する。
地面の揺れはまだ続いている。最初の大きな揺れだけは、震度にして三~四あるかないか、といったところだったろうか。あとは震度三、といったところだ。日本ではよくあることだ。
「大丈夫だ。もうすぐ終わる。この程度なら、家に被害なんてないさ。少なくとも俺の建てる家は絶対にびくともしない。絶対にだ。見てみろ」
そう言って、我が家を指差す。
瓦も含め、家はまったくの無事だった。
そりゃそうだ。この世界で手に入る素材で作らざるを得なかったとはいえ、耐震基準なら世界一ともいえる日本で家を建ててきた俺だ。震度三程度でどうにかなってしまうような、やわな家づくりなんてしていない。二級建築士をナメるなよ!
地震はすぐに揺れが小さくなっていった。体感時間で二十秒もない、といったところだっただろう。
「ま、こんなもんだろうな」
俺はまだかすかに揺れるなか、立ち上がって周りを見回した。
広場はカオスのようなありさまで、泣き叫び、天を仰いで神々に許しを請う人々であふれている。
頭を抱えてうずくまっているヒヨッコたちも、立とうともしない。
「お前たち、もう大丈夫だ」
そう言ったら、少しだけまた揺れて、ヒヨッコたちがさらに悲鳴を上げる。
「な、なにが大丈夫なんですかあっ!」
「か、神様、許してくださいっ! もう釘をちょろまかしたりしません!」
いま、少し揺れたといっても震度二程度だろうに、なぜそこまで恐れるのかが分からない。
「か、監督はどうしてそんな平気なんですかっ!」
「地震なんてただの自然現象だ。一度大きく揺れたら、あとはもう大丈夫」
「そ、そんなの分からないじゃないですかあっ!」
「大丈夫だ。さっきみたいな揺れは、もうしばらくは起こらない」
「なんでそんなことが……!」
「大丈夫だ。俺を信じろ」
震度三程度の地震なんて、俺のような日本人にとっては慣れたものだ。
それに対して、このヒヨッコたちや、今も大騒ぎをしている広場の人々の、大袈裟な反応ぶり。この世界の住人にとっては、世界の終わりを想起させるくらいの天変地異なのかもしれない。
「やれやれ、震度三くらいで……」
ぼやきかけた俺は、「……お前ら、耳をふさげ」と、絶望しながらつぶやいた。
エイホルが「……えっ?」とつぶやいたのと、せっかく立てた最後の壁が、花がしぼむように元の床に倒れる派手な音が響くのとが、同時だった。
壁を立てただけで、固定する間もなく逃げてきたのだ。しょうがないと言えばしょうがない。まあ、綺麗に倒れてくれたから、板材のゆがみなどがなければ、そのまま立て直すことができそうなのが救いだが。
改めてぐるりと周りを見渡すと、さすがに震度三程度でどうにかなっている家はない様子だったが、市場の方は大混乱が続いている。ひっくり返っている屋台もあるようだ。
「……か、監督?」
「もう大丈夫だと言っただろう? こういう時は落ち着くのが一番だ。あれを見ろ」
「……うわぁ」
ヒヨッコどもは、大パニックが続いている広場を見て、ため息を漏らした。
震度三程度で屋台がひっくり返るなんてまず考えられない。逃げ惑う人々がぶつかったかなにかしたせいだろう。震災というより、自身の経験も、防災訓練の経験もない人々のパニックによる人災だな。お気の毒なことだ。
「落ち着かないと、ああなる」
「ああ、なる……」
「お前たちは怖がりこそしたが、暴れたりせずちゃんと落ち着いていられた。よくやった。さあ、仕事だ仕事。今日はあとで晩飯を食わせてやるからな」
そう言って手を叩いてみせると、率先して現場に戻る。
背後から、レルフェンの声が聞こえてきた。
「……監督、実はすげえ人だったんだな」
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